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クッキングタイム

 ティタと別れた私たちは少し進んでから、特に異常がないことを確認して森側へと戻る。あと四時間ほどでレディトへ着くんだけど、今日は野営をすることになってるので残念ながらゆっくりかつ、しっかり調査をしながら進んでいく。まあ、私の目的のサナイト草を探すためにはちょうど良いけどね。


「あ~、さっきの戦いは疲れたな。やっぱり見えないってのは面倒だぜ」


「あたしらは相手の居場所がわからない限り攻撃できないんだから、ああいうのは本当に困るね」


「居場所がわからないと戦えないのはみんな一緒では?」


 ノヴァとジャネットさんの会話に疑問を呈してみる。


「アスカとかは違うだろ? 風の魔法で自分中心に風を起こせば戦えるわけだし、リュートだって魔槍を使えば何とかなるかもしれないだろ? けど、あたしたちは完全に視界に入るか、気配がつかめないと駄目だからね」


「あと、地中は無しにしてほしいぜ! 剣だって刺さらないしな」


「やっぱり、Cランクの魔物っていうのはこれまでとは違うんだね。僕もオーガはDランクで強いって思ったけど、結構動きは単調だし」


「そうだよな~。なんか使い捨ての魔道具でも持とうかな」


「おっ、ノヴァもちゃんと冒険者の自覚が出てきたね。そうやって、不測の事態に対処できるように準備するようになれば半人前だね」


「何だよ。一人前じゃないのかよ!」


 ノヴァは半人前扱いに抗議する。でも、二人とも強くなってるし、もう一人前じゃ駄目なのかな?


「一人前というにゃ、今日のあれはねぇ。まあ、あと半年かCランクになるまではそう思っときな」


「へいへい」


「僕らも強くなったと思うけど、アスカやジャネットさんの動きにはまだついていけてないのも確かだよね」


「そこなんだよな。やっぱ、先は長いぜ」


「よく言うよ。あたしが同じ年のころはもっと弱かったからね。アスカに助けてもらわなかったし、師匠もいなかったしね」


「そう思えば、僕らは恵まれてますね。資金も順調に貯まってるし……」


「そういえば、アスカは旅のために金を貯めてるんだろ。順調なのかい?」


「はい。だけど、最近はマジックバッグをもう一つ買おうか迷ってるんです」


「なんでだよ。アスカはもう持ってるじゃん」


「そうなんだけど、私って細工とかもしてるし、それの完成品を入れるところも必要だから、今のマジックバッグはそういうのでいっぱいになりそうなの。他にも服とかを考えれば入りきらないかも。そうなったら魔物の死体と一緒に服が入ってるのも嫌だし、貯めたお金で一回り大きいのを買おうかなって……」


 実際にはマジックバッグバッグの中で汚れがつくことはないけど、こういうのは気分も大事なのだ。


「いい考えだよ。今回も野営道具はあたしが出すけど、今後はそれを踏まえると自分の荷物とかは自分で持って欲しいし、大きい鞄を持ち歩くなら魔物に襲われた時のリスクが大きいからねぇ」


「それじゃあ、僕らもゆくゆくは買わないとですね」


「ノヴァもリュートも武器を新調した時、思ったより金を使わなかっただろ? 小さいのでも持っておくといいよ。使い方も色々考えられるし」


「確かにそうですね。金貨十枚はきついですけど、それ以上に後々必需品になりますよね」


「リュートは魔槍だから替えがなかなか見つからないだろうけど、剣を使うノヴァだと何本か使うことになるから必需品だね」


「まあ、俺はもうちょっと貯まってからだな」


「そういうこと言ってるときっと買わなくなると思うよノヴァ」


「アスカは思い切り良いよな」


「思い切りがいいっていうか、レンタルしてて本当に便利だったから。それに、冒険だけじゃなくて買い物する時もいっぱい買えるし無駄がないよ?」


「う~ん。分かった! 帰ったら買うことにする」


「それじゃあ、一緒に行こうかノヴァ」


「おう!」


 ノヴァもマジックバッグの価値がわかったのか買うことにしたみたいだ。それにしても、ノヴァの方こそ思い切りが良いなぁ。だって、お金の確認もしてなかったから、生活費とかの勘定してないよね?


「冒険者ショップでしょ。いつもお世話になってるから一言よろしくね」


「言っておくよ」


「おっと、次の採取ポイントだね。この周辺は確か……ベル草があったところだね」


 期待に胸を膨らませ周囲を観察する。じーっ。


「あったぁ!」


 ベル草残ってたんだ。周囲も荒らされた様子が無いし、品質も良さそう。この薬草は薬の効果を高めるんだったよね。ちょっと高くつくけどちょうどかもしれない。私はそーっと慎重に品質が下がらないようにベル草を取っていく。


「アスカの奴珍しいな。いつもだったら俺たちと一緒に採ろうっていうのに」


「今日はサナイト草を探しに来たんだろ? きっと、なにか目的があるんだろうさ」


「確かに今まで特定の薬草に対して興味を持たなかったですもんね」


 みんなが口々に何か言っていることにも気づかず私は一所懸命に採り続けた。


「ふぅ~、全部で十七本か。良い品質のがあるといいなぁ」


 大丈夫だとは思うけど、Aランク品質のを取れることを願っておこう。後はサナイト草だね。あまり近くにあっても他の人の目に留まりやすくなるから微妙だけど……。キョロキョロと辺りを見回すとみんなが私の方を見ている。


「ど、どうしたの?」


「やけにアスカが一生懸命だからみんな驚いてるんだよ」


「そうですか? いつもと一緒に見えませんか?」


「全く見えないぜ」


「うん」


 そうなんだ。まあ、やる気の表れってことで続きだね。サナイト草は……ない。代わりにキノコみーっけ、これはキキノコだね。ありがたくいただきます。二十本ぐらいの群生地から十二本ほどを取って立ち上がる。見たところこの辺にはもうなさそうだし。


「さて、次に出発~」


「はいはい」


 あきれ顔のジャネットさんたちと再び進む。そこからしばらく進んだけど、特に何も見当たらなかった。薬草とかの採れ高から考えると、思ったより冒険者の人も入り込んではなさそうだった。それがわかっただけでも収穫だね。


「日も落ちてくるようだし、この辺で野営にしようか」


 ジャネットさんの一言で今夜の宿泊場所が決まった。あまりにも何もない場所だったので、ちょっとだけ木を切って簡単に積み上げ、一方向だけ壁を作る。こうしておけば見張りもしやすいだろう。後は水集めだね。ちょっと飛び上がると水辺が見えたのでさくっと水を取ってくる。こういう時は水魔法を使える人がすごいと思う。


「さあ、火を起こして料理だね。アスカ今日のメニューはどうする?」


「まあ、メインは肉ですよね。オークの肉は用意してましたけど、サンドリザードの肉も使います?」


「あの潰れた奴なら良さそうだね。それじゃあ、あたしとノヴァは見張りをしてるからよろしく」


「はい」


 ジャネットさんと話して分担を決めると、私は簡易の調理台をつくって食材を切る。短い往復の旅なので傷まないから野菜もちょっと持ってきているのだ。後は鍋もあるしスープかな?


「リュート、スープも作りたいんだけど、どっちの肉を使う?」


「潰れてるサンドリザードの方にするよ。オークは手間も考えてステーキだね」


「了解。う~ん、でもそれならロールキャベツにしようかな?」


 肉のみじん切りぐらいなら私でもできるし、ここは挑戦してみよう。でも、肝心の紐になる植物がない。仕方ないから糸で代用しよう。食べる時に注意してもらわないといけないけどね。そうと決まればキャベツっぽい野菜を大きく切って軽く熱を入れて肉を詰めて巻いていく。サイズは……私も食べやすいように気持ち小さめで。


「リュート、肉を使うって言っても、これじゃかなり余っちゃうね」


「そうだね。どっちも大きい魔物だし。残りは日持ちする干し肉にするよ」


「お願いね。そうだ! ちょっと先に浸けておいて」


「うん、別にいいけど……」


「よろしく。私はスープの方で忙しいから!」


「今日のアスカは張り切ってるねぇ」


「そうですね。あっ、ジャネットさん。夜の見張りはどうするんですか?」


「見張りはアスカが一番手で次はあたしだね。あんたたちは二人で一組だよ」


「良いんですか?」


「良いって言うよりその方が安心だね。リュートは気配は多少探れるけど近接の経験が少ないし、ノヴァは気配を探ることになれてないから心配だよ。もうちょっと強くなれば一人で入ってもらうけどね」


「そういうことならお願いします」


「あと、交代の時にやり方を教えるからきちんとやるんだよ。話しをする時は他の奴を起こさないようにと真剣にならないことだ。注意がそれちまうからね」


「へぇ~、ただ見てればいいってもんじゃないんだな」


「当り前さ。目は二つしかないんだ。見るところが足りないからね」


「ほら、もうちょっとでこっちは出来そうだよ! リュートはどう?」


「こっちもそろそろ焼けるかな?」


「じゃあ、食器の用意だね」


 食器はスープ用のお皿とナイフとフォークとスプーンだけは持ってきている。普通のお皿ぐらい簡単に魔法で作れるからね。さすがに作るのに手間のかかるものだけは持ってきてる。


「さて食器も並んだし頂きま~す」


「「「いただきます」」」


 焚火を囲みながらみんなで食べ始める。こんな生活をするなんて本当に人生何があるかわからないなぁ。そう思いながらぱくっとオークのステーキを食べる。ちなみにリュートに先に浸けてもらった肉は乾かして、焚火の上につるしている。こうやって燻製に近いものができないかなって試しているんだ。


「ん~、美味しい。リュートがたれを持ってきてくれてありがたいよ」


「本当は干し肉に使うためだったんだけど、口にあって良かった」


「俺はこっちのスープをもらうぜ。あん? この丸いのなんだ」


「それはロールキャベツって言う料理なの。本来は糸じゃなくて植物で巻くんだけど、見当たらなかったから代用してるんだ。食べないように気を付けてね」


「俺だって糸なんて食べないぜ。それじゃ……何だこれ! 中から肉汁があふれてくるぞ」


「よかった。ちゃんとできてたんだね。あんまり料理してこなかったから不安だったんだ」


「へぇ~、ならあたしももらうとするか……ふ~ん、これはいいね。あそこの店でも出せそうだ」


「この前行ったところですか?」


「ああ、あいつに教えてやってくれないか?」


「うまくいかないかもしれませんけど、それでいいなら」


「じゃあ、頼むよ。ちゃんと礼金出すように言っておくから」


「それなら頑張って作ります!」


 次に買うマジックバッグは今のよりも高いし、美味しい料理が増えるのは嬉しい。


「にしても、これもちょっと変わってるよな。アスカの住んでたところって外国だったりするのか?」


「どうなんだろう? お母さんに連れてもらってただけだから、そこがどことか思ったことないし」


「まあ、僕らもアルバって町の名前を意識したことなんてここ最近だしね」


「そう言われればそうだな。だけどうまいなぁ~、街でも広まらないかな」


 食事をしながらしみじみというノヴァ。やっぱりごはんは大事だよね。


「でも、手間もかかるしどうだろう。わざわざ肉をつぶしたりする必要もあるし……」


「そりゃ、難しいかもね。買い叩いたような肉ならともかく、いいところをわざわざつぶすのは割に合わないね」


「だけど、アスカが作れるわけだし、僕もエステルかライギルさんにでも頼もうかな?」


「おっ、それいいなリュート!」


「うちだとたま~にだけど出てるよノヴァ。ジャネットさんの言う通り、手間がかかるから本当にたまにだけど」


「ほんとか? じゃあ、今度出る日が分かったら教えてくれ!」


「はいはい」


 こうして和やかに食事の時間は過ぎていった。


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