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野宿再び

「それじゃ、気を取り直してサナイト草探索に戻ろう」


 次の予定も決まったことだし、今日の目的のために再び探索を始める。次のポイントはやっぱり予想通りというか他の冒険者に採取されていた。


「ここは難しいかな。これ以上採ったらなくなっちゃう」


「そうだね。それじゃあ、サナイト草だけを探してみようか」


「そうするか」


 三人でサナイト草を探していく。しかし、ここには生えていないみたいだ。まあ、生えていたとしても取られてしまっている可能性の方が高い。


「ここは×と。この先にいい採取場所もないし、外そうかな?」


 ここから奥に行っても街道についちゃうし、調査としてもあまりいい場所じゃない。そう思って地図には×印をつける。


「じゃあ、次はどうする?」


「ティタにも会ってみたいから、真南に行こうと思うんだけどいい?」


「そういや最近会ってなかったな。良いぜ」


 みんなの了解も得て、私たちは一路岩場へと向かう。その間にも薬草を探したけど、残念ながらこの見つけることができなかった。


「見えた。岩場だよ!」


「ほんとだな。前より早く来れたな」


「でも、アスカが頑張って探してたのに何も見つからなかったのは残念だね」


「しょうがないよ」


 こうして私たちはティタが住処としている岩場についた。


「さて、今日もティタはいるかな?」


《ゴゴゴ》


 岩の奥からゴーレムがこっちにやってくる。目印もあるし間違いなくティタだ。


「ティタ元気だった?」


《ゴゴ》


 元気だったよというように挨拶を返してくる。ここ最近、冒険者たちの話しを聞いていると、ティタはサンドリザードに襲われている人を何人か助けているらしい。思ってより早く動けて、かばったりもしているみたいだ。


「ティタは頑丈だから大丈夫だと思うけど無茶したら駄目だよ?」


《ゴゴゴ》


「アスカ、ティタは心配するなって言ってるのかな?」


「多分ね。でも、ここにはサンドリザードしかいないけど、一人だと心配だよ」


「まあ、こいつなら大丈夫さ」

 

 ジャネットさんがティタの肩をポンと叩いて言う。


「だったらいいんですけど……」


「それよりいい時間だし、昼にしようか」


「賛成!」


 ノヴァの勢いのある一言でお昼になった。いやまあ、私もそろそろかなって思ってたけど。シートを敷いてそれぞれのお弁当を広げる。


「うんうん、みんなバラエティに富んでるね」


「アスカ、そんなこと言っても俺のはやらないぞ」


「そ、そんなこと考えてないよ!」


「怪しいね。アスカは食のことになると一気に真面目になるからね」


「ジャネットさん、他にもきちんと真面目に取り組んでます!」


「まあまあ。ほら、僕のあげるから……」


 そう言ってリュートが自分で作った干し肉をくれる。


 「ん~、味がしみ込んでて噛めば噛むほどおいしい」


 リュートは今後パーティーの食事係だね。私が決めたんだからもう決定!


「本当に幸せそうだね」


「ふってりゅのは、味がはまりひないんでふ」


「何だって」


 とんとんと胸を叩いて干し肉を飲み込んだら、改めて口を開く。


「売ってるのはあんまり味がしないんですよ。それに、同じ袋の中身でもぱさぱさのもあって味が違うんですよね~」


 そう、普通袋に入れてあるのは同じぐらいの品質だと思うのだが、残念なことにこの世界では出来が異なるものが混ざっている。美味しいと思うものもあれば、なんだこれと思うのもあり、それでも値段は一緒なのがつらいところなのだ。


「そんなもんだろ? 特にこういう保存食は日持ちとお腹にたまるのが大事なんだから」


「それでもですね、極力美味しいものがいいんですよ。あのぱさぱさしたお腹が膨れるだけのやつは二度とごめんですね」


 思い出しただけで寒気がする。水分を奪うだけ奪うあの何とも言えない食品もどきだけは二度と口にするものか。


「そういえば、ゴーレムって食事するのかな?」


 食事から魔物の生態に話しが移る。そういえばティタはずっとここにいるみたいだけど、この前もサンドリザードの内臓しか食べることもなかったし、普段は他に何食べてるんだろ?


「ねぇティタ。あなたは普段何食べてるの?」


 私が聞くとティタは大きな手を私の前に置く。ここに手を置くってことかな?


「はい」


 ぽんっと手を置くと途端に少し魔力が吸われる。


「わわっ!?」


「どうしたんだいアスカ?」


「この子の食事って魔力みたいです。ちょっとだけですけど、吸われてびっくりしました。でも、あんまり大量に吸われる感じでもないので、普段も自然から取ったりしてるのかもしれませんね」


「そういや、古い石は魔石とまではいかないけど魔力を帯びてるって話しだね。その石を食料にしてるのかもね」


「ひょっとしてこれも食べられる?」


 私は捨て値の魔石をあげてみる。ティタがその石に触れると魔石は輝きを次第に失っていく。ふむ、ギルドのみんなも助けられるだけで悪いって話しをしてたし、どこかに小さい石置き場でも作ってそこにいらない魔石を置いていってもらおうかな。

 今の量でも足りてるとは思うけど、古い石なんていくらでも転がってるとも思えないし、ただ働きさせるのも良くないしね。


「そうと決まれば、ティタ。もうちょっと魔力吸っていいよ」


 私はティタに魔力を少し吸わせてすくっと立ち上がる。


「どこか行くのアスカ?」


「ううん。そこの石をちょっと削るだけ」


 野営時の暇な時間に細工をしようと今回は細工道具も持ってきていたのだ。私は細工道具を取りだすと、石を長方形に切り取って簡単に模様を作っていく。


「よし!ひとまずはこんなところだね。後はアルバ冒険者ギルド所属アスカと…」


 自分の名前を書いてこれが人の置いたものだと分かるようにする。後はここに魔石を置いてもらえばいいだろう。


「ティタ~、これからはこういう魔石をちょっとずつもらえるかもしれないから期待して待っててね」


 魔石はグリーンスライムのように特定属性が必要かつ出力の弱いものや、欠けて力をほとんど持たないものなどが結構ある。それらはほぼ値もつかないしきっと集まるだろう。


《ゴゴ》


 ティタもちょっと嬉しそうだ。ここはこれからもティタに守られるし、安心だね。お昼も食べたし私たちも次に向かうために片付けを始める。


「また来るからね、ティタ」


 ばいばいと手を振って別れようとする。


《ゴ》


「どうしたの?」


 いきなりティタが前に進む。


「これって……みんな、サンドリザードだよ!」


「なに!? ど、どこだ?」


「確かに音はするけど、見た目にはわからないね」


「気配も音でかき回されて僕じゃ無理です。アスカは?」


「駄目、風で気配を探っても場所が……どうして?」


 少しずつ音は大きくなってるのに。その時、ティタが地面を叩いた。


 ドオォと轟音を立て、拳より少し大きめの穴を作り出した真下にはサンドリザードがいた。


「地中か!」


「それなら! ウィンドブレイズ!」


 小さなこぶし大の風の弾を大量に作成して、魔力操作で形を矢にしたものを一気に地中へ向けて放つ。


 ガガガガガガ


 すると、自分たちの進行方向へ急に杭のように矢が刺さりびっくりしたサンドリザードが地中から這い出してきた。


「四体! 潜られないように一気に決めるよ!」


「「「はい!」」」


 まずはジャネットさんが一体に切りかかる。それを見て不味いと思った他の個体が潜りだす。


「させない! ストーム」


 以前と同じように地面から風を打ち上げ、空中に放り上げる。彼らはこうなると一度落ちるまでは自由は利かない。


「よし、これなら。魔槍よ、いけっ!」


 リュートが魔槍を投げやすい形に変形させサンドリザードの心臓部めがけて投げると、鈍い音とともに槍は見事突き刺さった。


「私も負けてられない」


 弓矢を取りだして落ちてくる一体に狙いを定める。


「貫け!」


 ヒュン


 私の放った矢は一直線にサンドリザードの体に刺さる。あの位置ならきっと倒したはず。


「最後は俺だ! はぁっ!」


 今まさに地面に落ちようとしたサンドリザードに下から剣を突き上げるノヴァ。首元にさして貫通させた後、くるりと回って首を落とし、自分に体が落ちてくるのを防ぐ。ノヴァも器用な戦い方をするんだなぁ。

 勢いよく落ちてきたサンドリザードたち。そのどれもが絶命していた。もちろん最初にティタが一撃を加えたサンドリザードも。ひょいとその個体を持ち上げてこちらに寄越してくれるティタ。


「ありがとう。それに助けてもらっちゃったねティタ」


 そう言ってサンドリザードを見るとふと気になった。


「あれ、これだけ背中の凸凹が平らだ」


 よくよく考えてみるとあれだけ硬いサンドリザードの外皮とはいえ、ゴーレムの強靭な体から繰り出される一撃をくらえばひとたまりもないだろう。だけど、これだけなめらかならひょっとして平らにもできるんじゃないかな?


「ああ、ティタだっけありがとな」


 みんなも口々にお礼を言う。ティタも嬉しそうだ。私もそこに加わりちょっとお願いしてみる。


「ねえティタ。解体した後でこの皮を叩いてくれない?」


《ゴゴ》


 わかったというようにその場に立ったままのティタ。私はジャネットさんたちにこの1体だけ解体をお願いして皮を剥ぐ。剥いだ皮にティタが拳を振り下ろしていく。凸凹がどんどん取れていって普通のなめした革のように平たくなった。

 コンコンと叩いてみるとそれでも丈夫さは失われていないようで、いらない部分が潰れて飛んだせいか軽くなった気もする。


「ジャネットさんこれどう思います?」


「どうって、完全に加工品だねぇ。しかも、人間の力より強い力だからある意味貴重かもね」


「でも、それだけで売れるのか?」


「どうだろう? レディトの解体師さんに使えるか聞くことになると思うけど……」


「まあ、儲けになるかどうかは置いといてサンドリザードの加工方法としては興味深いね」


 そっか、そういう取り方もできるんだ。だったら、鉄球を上から落とす仕組みにしたら同じように加工できるかな? まあ、それ以前にこの皮の買取価格が問題なんだけどね。


「さあ、今度こそ出発だね」


「そうですね。ティタ、本当にありがとうね。これ少ないけど」


 私はもう一度、魔力をティタに渡してその場を後にした。




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― 新着の感想 ―
以前の初遭遇時にはティタはサンドリザードの肉を食べていたけど、ゴーレムは捕食以外にも魔力吸収でも栄養を摂れるって解釈でいいのかな? まさに「甘いもの(魔力)は別腹」みたいな感じで
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