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初めての調合

 宿に帰ってきた私は早速本を開く。


《チチッ》


「ん、何読んでるのかって? 今日手に入れたシェルオークの葉っぱの使い方が書いてある本だよ」


《チュンチュン》


「ページが少ない? まあ、そうだけどこれでも本は本だからね。中身で勝負だよ」


 そう言いながら机に向かう私。最初は葉っぱの特性について色々書いてある。


「何々、効果を上げるというよりも元々、十分な治癒・解毒作用がある。その為、組み合わせる物はその辺の薬草ではなく、効果を上げるような物がふさわしいか……なんだか思ったよりお金がかかりそうな感じだなぁ」


 そこで私は木の葉に合うものを探し始める。使うのは今まで大変お世話になったジュールさん作の冒険者手帳ではなく、新しく買った薬草の本だ。こちらは一年を通して採れるものやこの周辺以外の薬草も載っている。その中から相性がよさそうな物を見る。


「へぇ~、サナイト草っていうのがいいかも。ちょうど季節だし」


 サナイト草は秋口から冬の間に採れる薬草だ。万能薬の材料として有名であり、ムーン草より希少な上に季節性の薬草だ。万能薬の価格が高止まりするのも、この季節性の為で在庫を大量に確保することが難しいためだ。

 なんでもここに書いてあるところによると、ムーン草が明るさではなく時間で夜を理解するように、気温や環境などを整えても秋口から冬にしか咲かないらしい。作地面積を広げることは可能だけど、採れる期間を増やせない難儀な薬草だ。


「まあ、物は試しだしちょっと探してみようかな。この辺の分布を見ると町の東側でも採れた報告はあるみたいだから明日は張り切って探そう」


 新しい目標を見つけた私は今日は早めに寝ようと決心したのだった。夕食は最近町周辺にオークが増えたので、やや安くなったオーク肉の薄切り炒めだ。申し訳なさげに野菜も入っている。


「うん。食べやすいしこういう料理もいいよね」


「そうだね~。お父さんにこういう料理を増やしてもらうようにお願いしようかな~」


「お願いエレンちゃん」


 お肉は好きだけど、もう少しあっさり目の料理を食べたい私はエレンちゃんを援護する。お肉に慣れたおじさんたちには悪いけど、女性冒険者とか少食な人たちは続くと結構つらいんだよね。そういう人たちもパーティーでの注文が殆どだから、そのままにしてるけど、適量食べたいって思ってるだろうし。


「それじゃあ、私はお風呂沸かしてくるから」


「うん。そういえばお母さんに聞いたよ。何かまた作ってるんだって?」


「まあね。うまく行くかは分からないけど楽しみにしててね。エレンちゃんも多分活躍するから」


「私が? なんだろう」


「それは出来てからのお楽しみだよ。それじゃ!」


 エレンちゃんと別れてお風呂を沸かした後は順番を待ってお風呂に入る。一番初めに入らないのかって? だって熱いの苦手なんだもん。かといって温度を下げると何度も調整しに行かないといけない。

 きちんと貼り紙にも最初は熱いですと書いてあるから、大体は同じ人が最初に入っているみたい。あの温度で入れるなんてすごいの一言だよ。


「さて、お風呂も入ったし後は寝るだけだね。ミネルもレダもラネーもお休み」


 レダとラネーとはバーナン鳥の二羽だ。あれからほぼ毎日泊まりに来るので名前をつけてあげた。大きかった方が男の子で小さい方は女の子だ。どちらもミネルとずっと仲良くしている。よかったね、ミネル。



《チチッ》


「ん、ミネル……おはよう」


 今日はいい朝だ。昨日いっぱい寝たからかな? さて、早速食堂に行かなくちゃ。


「ミーシャさん、おはようございます!」


「あら、アスカちゃん。今日は一段と元気ね」


「はい。今日のために昨日は早く寝ましたから!」


「いつもはそんなに元気いっぱいで出発しないのにどうしたの?」


「えへへ、実は欲しい薬草がありまして。それを今日採りに行けると思うと嬉しくて」


「そんなのがあるなんて聞いたことあったかしら?」


「一応この辺にもそれが少数ですけど生えてるらしいですよ。きっと持ち帰って見せます!」


「そ、そう。でも、最近本当に危険だから無茶だけはしないでね」


「はい。きっと無事に帰ってきます」


 この一か月の間に四度も依頼を受けたんだし大丈夫だ。内容も調査依頼が二回と護衛依頼が二回だ。あれから、フィアルさんの取引相手の商会からたまに護衛依頼が入るようになった。もっとも、レディトからの帰りの依頼だけだけどね。

 怪我をしていた人も傷が治って復帰したから、商人さんもパーティー選びにあんまり口を出すこともできないんだって。


「でも、帰りの依頼が埋まるのはいいよね。向こうで依頼を探すとなると、知り合いもいないから大変だし」


 ただ、アルバ方面からもアルバからレディト間を一気に抜けたい依頼なら最近はちょっと枠が空いているみたいなんだ。これも魔物が強くなったせいだね。嬉しいやら悲しいやらだ。


「さてと、それじゃあ私は部屋に戻って準備してきます」


「ええ」


 ミーシャさんと別れて部屋へ戻ったら、準備を整えいざギルドへ。


「さて、依頼は何があるかな?」


 張り出された依頼票を見てみる。こっち側の護衛はほぼ埋まってるなぁ。しかも、残りは依頼料が低くて出発を急がないものだ。週に一度の活動をする私たちには向かない依頼だな。ノヴァやリュートだって今は兼業だし、あんまり長く拘束はできないからね。


「調査か……そういえば最近は南側には行ってないや。薬草の生息地は森全体になってるし、久しぶりに行こうかな?」


 いったん、依頼票を握って私はジャネットさんたちが来るのを待つ。ちなみにギルドに来る順番はほぼ固定で、私・ジャネットさん・リュート・ノヴァの順だ。ノヴァの名誉のために言っておくと遅刻の回数はとても少ない。私の来るのが早いだけだ。宿にいても短い時間でできることは限られてるし、それならここでいい依頼を確保するために早く来ている。一応はパーティーリーダーだしね。


「おはようアスカ」


「リュート、おはよう。今日は早いんだね」


「うん、目が覚めちゃってね。アスカは相変わらずだね」


「それもあるけど、今日は目的があるからね。昨日もちゃんと早くに寝たんだよ!」


「へぇ~、ちょっと珍しいかも。アスカがそんなにはしゃいでるなんて」


「そ、そう?」


「うん。だけど、やる気があるのは良いことだと思うよ」


「だよね」


 そんな話をしつつリュートと二人を待つ。それから四分後にジャネットさんが、さらにその七分後にノヴァが来た。ノヴァったら時間ぴったりに来るとはやるな。


「で、今日の依頼はどうしたんだい?」


「久しぶりに南側へ行こうかなって」


「なるほどね。確かに前は北側だったし、もうオーガとの戦いは慣れたからねぇ」


 あれからオーガは森でも珍しい魔物でなくなり、リュートたちも対応に慣れたので今では楽に倒せる。それならサンドリザードと戦った方が有益だとジャネットさんも納得してくれた。


「それにしても今日はやる気だね。何かあったのかい?」


「はい、ちょっと今日は採りたい薬草があるので寄り道とかしても大丈夫ですか?」


「構わないよ。あたしたちも勉強になるしね」


「それじゃ、行こうぜ!」


「うん。っと依頼受けてくるね」


「まだ受けてなかったの?」


「一応みんなの了解を取ってからと思って。それじゃ!」


「律儀だねぇ」


 何時ものようにホルンさんに依頼票を渡し、受注完了。さて、いざ目的地に向かいますか。


「門を出たわけだし、そろそろ今日の目的の薬草を話してくれよアスカ」


「そうですね。私が今日探すのはサナイト草です」


「サナイト草? なんだそれ」


「万能薬の材料になる薬草だって。ほらここ」


 私はマジックバッグから本を取りだして説明する。


「なるほど。今の時期ぐらいから冬の間までしか取れない薬草なんだね」


「そうなの。しかも、生息地も割と少ないみたいだけど、この辺なら採れるんだって。それでも多くないみたいだけどね」


「へぇ~、道理で万能薬が高いはずだよ。必要な分だけ卸して後は残せば、時期をずらしたのは儲けが出るね。ムーン草でも一部代用できるし、市場価格も季節でかなり変わってくるしね」


「そうなんですか?」


「万能薬は銀貨四枚から、ムーン草の麻痺治しなんかは銀貨一枚からあるからね。調合スキルをアスカが取ればどっちかは作ってもらえそうだし」


 いたずらっぽい顔でジャネットさんがそう続ける。私が調合を覚えるようになるのは確定なのだろうか。ま、まあ、だめだったらそういえばいいよね。リラ草を採取して練習とか言われないよね?


「それじゃ、探すとするか」


 私たちは森に向かって進み始める。前方の警戒は私で後方はリュートだ。


「あっ、ありました。ルーン草ですけど……」


「この辺はやっぱり人も少なくなってるから取りやすいみたいだね」


「うん。早速、採ろうよ」


「じゃあ、頑張んなよ」


「ジャネットさんは?」


「この間、一人で何度か試してみたけど、やっぱり向かないもんは向かないね。代わりに頼むよ」


「何だよ。俺には諦めんなって言っておいてさ」


「あたしはこうやって警戒したり、魔物を倒すだけでも稼げるんだよ。無駄口叩いてないでさっさと取りな」


「ちぇ」


 そう言いながらもノヴァも採り始める。だけど、ここも以前は人の手が入っていたことを思うと、かなり薬草の供給にも影響が出ていそうだ。もう少し奥の方から採った方がいいかもしれない。きっとこの辺ならギルドの護衛付きでも来れるだろうし。


「ノヴァ、そろそろ次に行こう。この辺ならいつでも来れるし」


「ん? ああそうだな」


 ちょっとだけ急かして、多めに残るようにしたら次のポイントへ。ただし、サナイト草がどこにあるか分からないので最初はしらみつぶしだ。頑張って探さないとね。




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