女神さまの巫女はじめました
私はアスカ。アルバという町の鳥の巣を拠点とするDランク冒険者です。あれから、一か月が経ちました。最初はビクビクしていた空間魔法の件だけど、この国を統括する冒険者ギルドのグランドマスターさんという人が直々にギルドに来てくれ、何とかカードを作り直し、現在はギルドのカードで表示されることはなくなったの。
問題は高位鑑定者が見えることだけど、それに関してもそれとなく所在を伝えることで出会わなくしてくれるとのこと。なんでも、とってもギルドでも貴重なので、いつでも連絡を付けられるようにしていることを逆手に取るのだとか。
「憂いもなくなったし、そうと決まれば布教だよ!」
残念ながら即売会には来る事が叶わなかったムルムルさんからも手紙が来ていて、他の巫女からもシェルレーネ様とアラシェル様の像が欲しいとのこと。そして、あれから祭壇も作ったんだよね。
「なぁに、おねえちゃんそんなににやけて。また祭壇を思い出してたの?」
「えっ、分かる?」
「だって完成したときに部屋から大声が聞こえてきたからね」
「あの時はゴメン。みんなに心配かけて……」
そう、祭壇作りはちょっとした騒ぎになった。台座の部分からそこに飾る神像まで新規に作ったのだけど、台座で集中すること二日。像を作ること三日とほぼ部屋から出なかった私は、呪いにでもかかってるんじゃないかと囁かれていた。出てきた時はすごくすっきりしていたのでその疑惑は解消されたけどね。
「でも、あれだけのサイズなのに時間かかっちゃったよね」
出来た祭壇は横一メートル縦五十センチぐらいのサイズだ。そこに四十センチぐらいの高さのアラシェル様の像が乗っている。もちろん、純銀製の製造から細工中まで魔力と信仰心を注ぎ込んだ逸品だよ。
でも今は銀色のままだから、ここから彩色をしていこうと思っている。その為の道具も揃えてるんだけど、如何せん時間が足りない。細工の仕事が商会とおじさんのところから入ってるから、中々時間がないんだよね。
「休日だって欲しいからね。なんて、今日も休日なんだけど」
私の最近のサイクルはこうだ。冒険・予備日・休日・細工・細工・細工・休日、この中の細工の日も疲れたり途中で気分転換もするから、一日中ではないけどね。それに最近は型から作ることも多いから、何かとアイデアを探している。おじさんの言っていた、人が作ったいい作品を見たいってことが少し分かってきた。
「そういえば、また明日は依頼の日だけど泊まりになるの?」
「どうだろう。私たちはパーティーランクもぎりぎりのDランクだから、護衛依頼もないし分からないなぁ」
あれから、冒険者ギルドは東側の依頼に制限をかけた。Cランク以上は無条件、Dランクは魔物の一覧と照らし合わせて対応できるパーティーのみ。それ以下のランクは採取依頼だけ特定の日に護衛費を払えば可能という事になった。
「ちょっと前まで採取で生活していた身としては複雑だよね。まぁ、西側で採れってことなんだろうけどさ」
だけど、前回のみなしランク上げの一件で、パーティーの現状を再確認することが義務付けられたため、ランクが下がったパーティーが多くあり、実際より依頼を受けられるパーティー数が減ってしまった。
その為、商人たちもこぞってCランクパーティーを確保しにかかった。指名依頼扱いになったり、専属契約の形になったパーティーは大喜びだけど、私達のようなDランクパーティーは逆に護衛依頼を滅多に受けられないようになったのだ。
「商人さんの気持ちも分かるけど、Dランクの私たちが調査に行く方が危険なんだよね……」
「そうだねぇ」
「あっ、ジャネットさん! 今日はこの時間ですか?」
「ああ、何も予定はないからね。アスカは考え事かい?」
「はい。この一か月は結構色々ありましたから……」
「まあね。だけど、調査依頼はもう飾り同然だね。実質討伐依頼になってるしねぇ。この前行った時もウォーオーガが二体も出ただろう? ありゃ参ったね」
「そうですね。オーガが街道近くでも見受けられることもあって、ゴブリンなんてほとんど見ませんし」
「準備運動もなしに本番だもんねぇ」
「そんなこと言って二人は鮮やかだったじゃないですか。僕らは必死でしたよ」
はいと言ってリュートが私たちに飲み物を出してくれる。
「おっ、済まないねぇ。だけど、逃げずに立ち向かえたじゃないか」
「アスカを放ってはおけませんから」
「あたしはいいのかい?」
「違いますよ。ジャネットさんなら相手にできそるから」
「実際はアスカの方が得意なんだけどね。オーガは物理系が効きにくいから、できれば遠慮したいぐらいなんだけど」
「それは私もですよ。ウィンドカッターも効きにくいですし」
なんて言ってるけど、ウォーオーガと戦ってるジャネットさんはかっこよかった。何せ一人で戦ってたんだから。私たちは三人がかりだったのにね。動きが早くて魔法で狙うのが難しいから、どうしても前衛の足止めが必要なんだよね~。
「そうそう、リュートもその服似合ってるよ」
「アスカはまたからかって。それにしてもどうしてこんな服を導入しようと思ったの?」
「昔見た本でそんな制服の店が出てて人気だったんだよ」
私はミーシャさんたちに制服を作ってはどうかと持ち掛け、採用されたのだ。メイドカフェとまではいかないが、そこそこシックに仕上げ、男性にはシャツにベストという形のデザインを採用している。こちらもネクタイなどは使用していないが、ちょっとフォーマルな感じだ。
なぜこんな感じにしたかというと、この店は結構掃除にも力を入れていて、テーブルも床も綺麗だ。それに清掃や洗濯もかなり上位に属していて、それを服装でも感じて欲しかったんだ。
「にしても、なんだか僕ら自身を見られることが多くなったんだけど……」
「それはそれでいいんじゃない? 売り上げにつながるんだったらね」
「アスカもとうとう商人の精神が目覚めたのかい?」
「いえ、だけどこのまま店が発展するのはいいですね。投資した甲斐があります!」
「それなら、新しい投資案はないかしら?」
「ミ、ミーシャさん何時の間に……」
冗談っぽく言ったら私の後ろにはミーシャさんが立っていた。まさか、ここで聞かれているなんてうかつだった。エレンちゃんが掃除に行って安心してたのがいけなかった。
「あはは……何とか近いうちに。だけど、これはエレンちゃんの協力も必要だと思いますから」
「エレンの? 何か考えがあるのね。聞きたいところだけど、折角の発表を楽しみにしておくわ」
「それで、厨房の一角を借りるかもしれないので、スペースが欲しいんです」
「分かったわ。どのくらい必要なの?」
私はミーシャさんにこのぐらいと説明する。幅は二メートル、高さは一メートル五十センチぐらいだ。その為の木材も金属も少しは用意している。後はギミックだけなんだけど、そこはちょっと分からないし、結構適当なのが心配だ。
「へぇ、また何か作るのかい。アスカは働き者だねぇ」
「わ、私って働き者ですか? 自分ではゆったりしているつもりなんですけど……」
「冒険者なんて週に三日も働けばまあ、真面目だよ。アスカは大体働いてるだろう? かなり真面目だね」
「そんなぁ。のんびり過ごしてるはずなのに」
これから細工の依頼を受ける頻度減らそうかな? でも、よくよく考えたら仕事が週四日確定で泊まりがけでプラス一日の働き方って前世でも普通だったし、結構働いてるのかも。ま、まあ、農家の人たちは毎日お仕事なわけだし、まだまだ大丈夫だよね。そうと決まれば!
「じゃあ、ちょっと出かけてきます」
「まだ、十時だけどこんな時間からどこに行くんだい?」
「ちょっと細工の材料が欲しくて。ムルムルさんから依頼みたいなのが来てまして……」
「ムルムルってあのシェルレーネ様の巫女の?」
「はい。ジャネットさんもお知合いですか?」
「まさか、あそこの巫女はたった三人しかいないんだから、この国じゃ誰でも知ってるよ」
「そうなんですね。その人たちに渡したい物があるんですよ」
「本当に働き者だね。私は休んでるから、頑張ってきなよ」
「は~い!」
私はジャネットさんに見送られながら、食堂から部屋へ戻る。着替えをパパっと済ませて向かうは西側の林だ。何とかあそこでシェルオークを入手できないかもう一度行ってみることにしたのだ。