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即売会当日!

「本当にみんな来てくれますかね?」


「さっきから何度もうるさい」


「でもですよ! みんな気遣ってくれてたかもしれないですし……」


「いい加減覚悟を決めんか」


 今日は即売会当日。開始は九時からで今は八時五十分ごろ。私は店の中で待ってるんだけど、この店は外が見えるような気の利いた窓もないから、本当にお客さんが来てくれるか私の心臓は心配でばくばくだ。


「ちょっと、奥にいてもいいですか?」


「お前が直接売りたいと言ったんだろうが!」


「で、でも~」


「良いから座ってろ」


 おじさんに頭を押さえつけられ、そのまま座らされる。仕方ない、このまま大人しく待とう。そう思うと少しだけ落ち着いてきた。


「そろそろ時間だな……」


 そして、とうとうおじさんが店のドアに手をかける。


 そして開かれた扉から光が漏れて……。


「ここが会場で合ってますか?」


「は、はい。ようこそ!」


 見ただけでも十四,五歳ぐらいの歳の子が六人は並んでいる。


「ほら見て! これ今まで見たことのないやつだよ!」


「ほんとだ!でも、買えるかなぁ。この前、旅の商人さんから買った時は大銅貨三枚もしたんだよ」


「見て、銅貨八枚だって! これなら私たちでも買えるよ」


「本当? あの、これ見せてもらってもいいですか?」


「はい、どうぞ」


 私はひとりの少女が指差した物を取りだす。それとは別にその二つ横の物も出してみる。こっちも似合いそうだったからね。


「これは?」


「こっちも似合いそうだなって思って。よかったら付けてみてね」


「良いんですか?」


「うん、別にいいよ」


「これ作った人のお孫さんか何かなの?」


 「がくっ」


 私そんなに年取ってないよ。


「作ったの私ですから。手に取ってもらって大丈夫ですよ」


「えっ!?」


 手に取っていた人が驚いておじさんの方に向き直る。


「本当だぞ。アスカは細工師として中々の腕前だ」


「じゃ、じゃあこれも?」


 そう言って付けている花の髪飾りを見せてくれる。あれは確かに私が作ったものだ。それもちょっと高い二つの花の方を買ってくれるなんて。


「一輪の方でなくそちらを買ってくれたんですね。ありがとうございます」


「これを作ったのがこんな小さい子だったなんて……」


「これでも十三歳ですよ」


 でも、お姉さんたちは私より二十センチは高い。百六十以上はあるだろう。そう考えるとしょうがないのかな?


「だけど、それでも若いわよ。その歳でこんなに素敵な細工物を作るなんて苦労してるのね……」


 なんだか今度は苦労人認定されちゃった。まあ、私の作った物を気に入ってくれてるのは嬉しいけどね。


「でも、私たちもあんまりお金がないからそんなに買ってあげられないの」


「良いですよ。気に入った物があればで」


「じゃあ……こっちの花のチャームをもらえる? 前からこういうが欲しかったの」


「はい、ありがとうございます」


「でも、安いわね。どうして?」


「えっと、例えばこれだと本来はもっと真っ青な石なんですけど、色々な青が混ざってしまってます。こういうちょっと品質の悪いのを使ったりしているので。後は作る時に出る余りとかを使ってるんですよ」


「そうなんだ。私たちはおかげで助かってるけど、無理しちゃだめよ」


 頭を撫でられながらお姉ちゃんズの買い物は終わり出て行った。早速、木箱も売れたんだけど、なんだか買った人の目が輝いてたな。あれに何を入れるのか気になるなぁ。


「アスカ来たわよ。結局、小さい子まで連れてきちゃったわ」


 続いて入ってきたのはエステルさん率いる孤児院組だ。私ぐらいの子から七、八歳ぐらいまで結構幅広い年代でこちらは十人ぐらいだ。


「ほら、みんなあいさつしなさい。この人がいつもお肉とかを差し入れてくれてるアスカさんよ」


「ええ~、エステル姉ちゃん嘘だろ? だって、俺より小さいぜ!」


「こら! そんな失礼なこと言わないの。本人だって気にしてるんだから」


 あっ、小さいの気にしてるのばれてたんだ。こっちの人はみんな背が高いから結構面と向かって言われると傷つくんだよね。


「……ごめんなさい」


「べ、別に背のことは気にしてないから! それよりゆっくり見て行ってね」


「うん」


 こうしてガヤガヤと子ども達がアクセサリーを見ていく。子どもたちは基本的に左側のスペースで商品を見ている。一方、年頃のエステルさんは右側のコーナーでしげしげと見つめている。


「興味があったら取りますからね?」


「ありがとうアスカ。でも、従業員証の時も綺麗だと思ったけど、本当にあなたって腕がいいわよね」


「本当ですか? そう言ってもらえると嬉しいです」


 デザインに関して褒めてもらえると素直に嬉しい。市場で通用するって分かるしね。


「へぇ~、この形面白いわね。丸に十字なんて……」


 アンクの事かな? シンプルだけど飽きの来ないものだよね。元は宗教道具らしいけど。


「じゃあ、出しますね。ちょっと金属の質が悪いから二つほど出してみますね。色味がちょっと違うんですよ」


「本当だわ。逆にこういう方が珍しくていいかもね。じゃあ、こっちで」


「はい。じゃあ、子どもたちの分と一緒に渡しますね」


「ええ、お願いね」


 エステルさんの分も終わったし、子どもたちはどうかなと思っていると一人だけ中央で止まっている子がいた。


「あら、ラーナどうしたの? そんなとこ見て」


「……」


 ジッと見ている先にはアラシェル様の像を小さくしたネックレスがある。そっか、この子には見えるんだね。


「……これ欲しい」


「えっ、でも何もないわよ?」


「こちらですね。お取りします」


 私は迷うことなくネックレスを取り、彼女の首にかけてあげる。


「わっ!? 急に出てきた。アスカどうなってるの?」


「特殊な魔法で特定の人にしか見えない魔法がかかってるんです。魔除けみたいなものですね」


「これ高いの?」


「材料はただのオーク材ですから大銅貨一枚と銅貨四枚ですよ」


「ちょっと高いけど、ラーナは普段我慢してるしいいか。じゃあ、先にこれは払っちゃうわね。この子ってばもう放す気なさそうだし」


「ありがとう、おねえちゃん」


「大事にしてね」


「でも、その像のモデルって誰なの? ちょっとだけアスカに似てるけど」


「これがアラシェル様です。私の信仰する神様ですよ。こっちにも木像を置いてます」


「へぇ~、これがそうなのね。素敵な神様ね。ラーナもきちんとお祈りしないといけないわよ?」


「おねえちゃんの神様……」


 ラーナちゃんは手でアラシェル様の像を触っている。気に入ってくれたようで良かった。他にも欲しいものが決まった子もいるので、順番に渡していく。

 女の子にはネックレスが、男の子には木箱が人気だった。ちょっと意外かも。だけど、箱のデザインはどっちも男の子用っぽいかな? 不死鳥と四聖獣だしね。


「ありがとうございます」


 孤児院の子たちは早速買ってきたものをつけたり、持ち帰りたいので足早に出て行く。エステルさんも大変だなぁ。それからもぽつぽつと人が来てくれている。宣伝の効果のおかげかな? でも、さっき来た身なりの良い人はこんな即売会みたいなところに何の用だろうか?


「こちらとこちらを頂けますか?」


 その人が手に取って持ってきたのは花の置物とアラシェル様の像だ。像について説明を求められたけど、今まで通り運命に関する女神と伝えておいた。

 他の人たちも、それを見てか花細工にも目が行ったみたいだ。こうして、さらに商品が減っていく。嬉しいんだけど、やっぱり売り切るのは簡単じゃなさそう。


「どうした?」


「いえ、この調子で売れたらなぁって思ってました」


「心配はいらねぇよ。ちゃんと売れてるし、値段もあるからな。ただ、年に二回ぐらいにしてくれよ。あんまり開催されてもこの値段相手じゃ、こっちが売れなくなるからな」


「そうですね。ご迷惑かけます」


「なんの! アスカが来てから売り上げ自体は伸びてるからどうってことない」


「そう言ってもらえると嬉しいです」


 開店後、しばらくはお客さんの入りも良かったけど、ちょっと客足も減り十一時ごろになると、宿から即売会を見にエレンちゃんとミーシャさんが来てくれた。


「おねえちゃん来たよ~」


「来てくれてありがとうございます、ミーシャさん。エレンちゃんもね」


「ふふっ、当然よ。娘の晴れ舞台ですから」


 まずはエレンちゃんの物を見るみたいで、二人は左側のコーナーへと向かう。そこへもう一人、お客さんがやって来た。


「いらっしゃ……ってリュートも来てくれたの!?」


「あ、うん」


「へぇ~、リュートさんも来たんだね」


「エレンちゃん。それにミーシャさんも、こんにちは」


「一緒になっちゃったわね」


 リュートは商品を決めるのも早く、四聖獣の木箱を買っていった。何もそんなに慌てなくてもって思ったけど、男の子だしこういう飾りつけの店はちょっと恥ずかしいのかもね。


「リュートさん買うの早かったね」


「そうだね。エレンちゃんはもう決まったの?」


「うん! 部屋に置けるこの花の置物にするんだ〜」


「私はこの女神像かしら。せっかく、アスカが信仰してるんだから私達もね。きっといい神様でしょうし」


「ありがとうございます。コースターもですね」


「ええ、ちょっと足りないのと宣伝にね」


 そう言って軽くウィンクするミーシャさん。う~ん、確実にこの人のおかげで宿は回ってるんだな。

 エレンちゃんたちが帰る時にまた四人ぐらいの団体が入ってきた。だけど、先頭の男の人は見たことあるような……。


「やあ、昨日ぶりですね。貼り紙を見て来てしまいました」


「商人さん! でも、どうして私のことだと?」


 店に訪れたのは昨日、護衛依頼をしていた商人さんだった。


「ははは、アスカさんの細工物は人気ですから、うちの従業員も持ってるんです。いい機会だと思いましてね」


 そういえば商人さんの後ろの人はみんな女性だ。同じ商会で働いてる人なんだろう。


「本当に小さい女の子だったんだ~」


「会長の言う通りでしたね」


「見て! これだと向こうじゃ大銅貨三枚はするわよ」


「えっ、本当!」


 女性陣はすでに商品の方へ意識がいっているみたいだ。


「はは……すみませんね」


「いいえ、今回は私も端材とかをうまく使ってるので、安いだけですよ」


「ですが、その割に出来はいいですよ。あの子たちが言うようにこれでもレディトでは大銅貨三枚はするでしょう」


「それなんですが、レディトは何でそこまで高いんですか? 私の以外でもここはそこまでしないのに……」


「単純に物価が少し高いということもありますが、王都の北西に細工物を作る街がありまして。大体はそこから仕入れているのです。街の人には王都にも納入されている工房の物が買えるということで、輸送費も込みであの値段になるんですよ」


 はぁ~、一種のブランド効果だね。新宿モデルとか言うのだろうか? 都市で人気の物が地方に来るにあたってちょっと強めの金額設定なんだな。だとすれば輸送費ゼロでブランド効果なしのこの街の細工はかなり安いだろう。


「普段はもうちょっと高いですけど、よかったらまた来てくださいね」


「うん、こんなかわいい子が作ったものなら喜んで。商会長も仕入れとかしないんですか?」


「そうですね……こっち側からの収入も上がりますし、場所も取りませんから今度お願いしてもいいですか?」


「大丈夫ですけど、私は冒険者でここにも卸してるのであんまり作れないと思いますけど……」


「構いませんよ。月に一回の仕入れ位ならそれはそれで興味を引けますし」


 とりあえず商人さんとはある程度物が出来たら会うことになり、その時にサンプルを渡すことになった。まさか、即売会で販路が開けてしまうなんて……。


「アスカ良かったじゃないか」


「どうでしょうね。私、冒険者なんですけどこれだとまるで職人みたいです」


「おっと、そうだったな」


 もう、おじさんってば。それからも人が来てくれてなんと! 午後二時ごろにはすべて売り切れたのだった。そして片付けなんだけど……。


「これ外すのちょっと面倒。今度からはもっと簡単に外せるようにしないと」


 使い回せるように飾り付けたのだけど、かなり面倒な片付けとなりこういうところも慣れていかないとなと思った。


「売り上げは……っと銀貨四枚と大銅貨四枚と銅貨二枚ですね。原価が銀貨三枚だから飾りを入れてかなりギリギリですね」


「普通ならもっと行くんだがな」


「まあ、最初ですし。おじさんもありがとうございます」


「ああ、こっちも色々参考になった。というわけで奥に引っ込むからな」


 あらら、早速次のアイデアが浮かんだみたいだ。これ以上迷惑かけても悪いし、おじさんと別れて宿へ戻る。



「おねえちゃん、もう終わったの?」


「うん。終わったのは十四時ぐらいだけど、片付けがちょっと大変で……」


「それは大変だったわね。はい」


 殆どお客さんが帰った食堂でエステルさんにジュースを出してもらう。


「ありがとうございます。はぁ~、美味しい」


「ふふっ、アスカったらおじさんみたいね」


「ええ~、そうですか?」


「そうそう。もっと、かわいくしないと。せっかくのかわいい細工師さんなのに」


「また、エレンちゃんったら。そんなんで売れたりしないよ」


 こうして初めての即売会は完売という最高の結果で終了した。




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巫女ムルムル「即売会間に合わなかった…(泣)」
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