即売会前日
空間魔法の件はとっても気になるけど、ひとまずこれ以上急いでも仕方がないということなので、目下の即売会について考えを巡らす。三日後には開催だからそれまでに準備も終わらせてしまわないといけないんだけど。
《チチッ》
「ミネル……ごめんね。今日は色々あってもう眠たいんだ。お友達もゆっくり休んでね」
《チュンチュン》
みんなが私を慰めてくれる。それに甘えるように私はいったん考えることをやめて、そのまま眠りについた。
《チチッ》
「うん……」
何時ものようにミネルの目覚ましで私は目覚める。そういえば、レディトに向かう途中でヴィルン鳥と出会ったんだった。
「ミネル、おはよう。実はね、移動中にミネルと同じのヴィルン鳥に会ったんだよ。あなたの知り合いかも?」
《チチチッ》
本当? というようにミネルも飛び跳ねる。やっぱりここだと自分だけだから寂しいんだろうな。
《チュンチュン》
「お友達もおはよう。留守中もご飯は大丈夫だった?」
昨日は聞くことができなかったから改めて尋ねる。ミーシャさんのことだからきちんとしてくれてるだろうけど、苦手な物があったかもしれないしね。
《チッ》
問題ないというようにみんな反応を返してくれる。これなら、私が旅に出ても大丈夫そうだね。旅といえば来れるかは分からないけど、念のためムルムルさんにも即売会のこと伝えておこうかな?
すぐにムルムルさんへの手紙を書いて朝ごはんを食べると、手紙を渡しに教会へ。そういえば巫女の仕事や祭壇についても聞いておきたいな。さすがに巫女の仕事はムルムルさんに聞くしかないけど。
「シスターレティ、聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうアスカ様」
シスターレティは私が巫女の知り合いだというので何度言っても様付けで呼んでくる。むずがゆいからやめて欲しいんだけどね。
「その……祭壇を見せていただけないでしょうか?」
「祭壇を? 構いませんが……」
いぶかしむシスターレティに軽く説明してみる。
「知り合いに新しく神を信仰する人ができたのですが、祭壇というものが分からないみたいで……」
「それなら、存分に見て行ってくださいませ。シェルレーネ様の祭壇となりますが、きっとお力になることができるでしょう」
ほっ、この宗教が寛大でよかった。異教徒めっ! とか言われる可能性もあるもんね。そして見せてもらった祭壇だけど、確かに神像は豪華だった。きれいな彩色と細かい彫りだけど……。
「なんだか普通」
「ええ、神は私達を見ておられます。どんなに着飾って祭るより我らの信心こそが重要なのですよ」
「なるほど! さすがはシスターレティ。私も……知り合いも参考になると思います」
「頑張ってくださいませ」
「はい!」
元気よく返事をして私は教会を後にした。朝早くの訪問だったのに本当にいい人だ。
「じゃあ、忘れないうちに早速祭壇作りだねって違う違う。まずは即売会の作品を作り終えないと。それに飾り付けのイメージもだ」
祭壇は絵にしておけば覚えておけるだろう。シャッシャッと絵を描いて即売会の作業に戻る。もちろん手は抜かずに描いたけどね。
「確かあのデザインは……これをもう少しとんがった感じで……」
即売会用の追加分は、先にデザインを完成させておく。そして、残りの分を作っていった。売り物が合計五十個ぐらいになるのが理想だ。
「ふわぁ~、頑張った~」
ちょっとだけ休憩。光の入り具合から見るともうお昼を過ぎたところかな?
《チッ》
顔を上げた私の肩へミネルたちが乗ってくる。ちょっとだけ重たいけど、それを感じるってことは疲れてるんだなって思う。
「はいはい、休めばいいんでしょ。ミネルたちはお昼だね」
私はお昼ご飯を用意しようと思ったけど、ここ二日は依頼を受けていて、ご飯を持っていないことに気づく。
「食堂でご飯貰ってくるね」
私は先にご飯を持ってこようとしたけど、みんなそのまま肩に乗ってついてきてしまった。昨日もそのまま寝ちゃったし、寂しいのかな? かく言う私もついてきてくれて嬉しい。でも、嫌がる人もいるかもしれないし、なるべく奥に行こう。
「あっ、お姉ちゃんお昼?」
「うん、ミネルたちのご飯を貰おうと思ったんだけど、ついてきちゃって」
「なら奥が開いてるから案内するよ」
「本当? ありがとう」
「い~え」
こうして通された席に座ってご飯を待つ。その間も飛び跳ねるミネルたちと遊んでいた。
「お待たせしました~」
エレンちゃんが持ってきてくれたお昼ご飯をみんなで一緒に食べる。あれ? ちょっとだけ焦げたのが入ってる?
「気づいちゃった? それはお料理を練習中のリュートさん作だよ」
「リュートが……きっと、一昨日も頑張ったんだね」
感動しながら口に含む。だけど、ちょっと焦げ臭い。料理はまだまだだね。まあ、冒険者なんだから今日のところは及第点にしておこうかな?
そんな昼食を済ませ再び私は部屋に戻って細工を再開する。明後日の本番までに作れるのは明日の午前中ぐらいまでだろうから、後は気合で何とかしないとね! こうして午後も頑張った私は合計八つの細工物を作りあげた。明日は色々頑張ろう! 見ていてくださいね、アラシェル様。
「う、ん……」
目が覚めた。窓の外を見てもまだ割と暗い。どうしてこんなに早く起きたんだろう?
「とりあえず、時間だけでも見ようかな?」
太陽の位置からいつものように時間を割り出す。まだ、五時半ぐらいかな? よし、寝なおそう。そう思ったが運のツキだった。
《チチッ》
「ミネル? おはよう」
むくりと身体を起こす。何だか、すごくさっぱりした気分だ。さて今は何時かなっと……。
「明るい! ええっ!?」
この明るさは八時なんてもんじゃない……食堂へ下りよう。
「あれ、アスカ。どうしたのこんな時間に珍しいね?」
「リュ、リュート。今って何時?」
「大体、十一時ぐらいかな?」
「そ、そんなぁ……」
「何をそんなに落ち込んでるの?」
「私の予定が……最後のチャンスが……」
確かに昨日は調子に乗って頑張りすぎたかなって思ったけど、寝すぎでしょ私。仕方ない、もうすぐおじさんと約束した飾りつけの時間だ。
明日は朝から売り出すつもりだから、今日の午後から飾りつけをする予定になっている。おじさんには感謝してもしきれないよ。午後から店を閉めてまでやってくれるんだからね。
「朝ご飯はどうするの?」
「できたら出してもらえると嬉しいかな? 後、おじさんの店に行くからお土産も」
「はい。畏まりました」
そう言うとリュートは奥に引っ込んでライギルさんと話しをする。しばらくして出てきたのはエレンちゃんだった。手には朝食を持ってきてくれているみたいだ。追加でミネルたちの分もご飯をもらう。今日はお留守番だからちょっと多めにあげとこう。
「エレンちゃんありがとう」
「ううん。それより無理しちゃだめだよ。こんな時間に起きるぐらいだし」
「分かってます」
出された食事は温め直したものだったけど、流石はライギルさん作だ。中々美味しかった。
「アスカ、はいお土産。それとこっちの青い入れ物はアスカがつまめるように作ったからね」
「本当! ありがとうリュート」
「じゃあ、頑張って来てね」
「うん! そういえばリュートたちの試験はどうだったの?」
「そういえば言ってなかったね。二人とも合格だったよ。アスカとまではいかないけど、見どころあるって言ってもらえたよ」
「そっか、よかったね!」
「ほっとしたかな。ジャネットさんにもお世話になったし」
「リュートは気にしてると思ってたけど、やっぱりそうだったんだ」
「アスカったら。一応ノヴァも緊張してたんだよ?」
「ふふっ、そうだよね。それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
リュートとエレンちゃんに見送られながら私はおじさんの店に向かった。
「おじさん! アスカ来ました」
「お、おう、元気だな」
「はい! なんてったって初めてのことですし」
「とはいえ、普段から自分の作品を売りに出してるだろ?」
「でも、直接お客さんと会うことはないですから、楽しみなんです」
「なら相応の飾り付けをしないとな。準備はできてるのか?」
「はい。アルバだけでなくレディトへ行ったついでに向こうでも買ってきました」
「おいおい。余計な支出をして大丈夫なのか? ただでさえ実入りが少ないんだろ」
「きちんと使い回せそうなものを選んでますから大丈夫ですよ。今回だけだとマイナスになるかもですけど」
「それじゃあ、まずは今回できっちり売り切らなきゃな」
「はい!」
そう言って早速マジックバッグから飾りを取り出していく。
「まず、子どもたちでも付けられるのはこの辺で。ここはある程度人が固まってもいいようにします。逆にちょっと大人びたのはそこから遠いところで。間に目玉品とかアラシェル様の像を置いたりして、中央でデザインを分ける感じでお願いします。棚の中央上は花の飾りを少し置いて、棚の物以外にも目が行くようにしたいですね」
「ならこの飾りとこれはこっちだな。おい、この派手なのはどうするんだ? 流石にこっちには使えないぞ」
「それは店の外で使おうと思って。普段はこういうところに来ない人もいるかもしれませんから目立つようにって」
「終わったらすぐに片づけてくれよ。俺がこんなかわいい飾りつけの店にしたなんて噂が広まっちまう」
「それは大変ですね」
笑いながら私も答える。おじさんの店は細工物を売ってるのにまるで武器屋か何かというぐらい飾りっ気がないことで有名なのだ。それが、一夜にしてこんなかわいい飾りつけになってしまっては、何があったと街の人も心配するだろう。
「う~ん。こんな感じですかね?」
初めてなのでいまいち自信が持てない。
「まあ、いいんじゃねえか? 後は当日にも意見をもらうなりしていくしかないだろう」
「仕方ないか。じゃあ、飾り付けはこの辺で商品を並べていきますね」
こうして飾り付けが終わると商品を実際に並べていき、とうとう即売会準備が整ったのだった。明日は決戦の日だ!