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依頼達成とギルドカード

「さて、後はあんたたちの今後の身の振り方だね」


 商人さんと別れた私たちは助けた冒険者二人を伴ってギルドへ向かうことにした。


「いらっしゃい……あらアスカちゃん! 帰ってきたのね」


 私たちを出迎えてくれたのはホルンさんだった。


「良かったホルンさん、あんたがいて。マスターに会えるかい?」


「ええ、大丈夫だとは思うけど……」


「それならすぐに頼むよ。それとギルドカードの代理返却手続きを」


「分かったわ」


 代理返却って何だろう? そう思いながらもジュールさんのいる部屋へ通される。


「また、お前らか……で、今日は何の用だ?」


「用があるのはあたしらじゃないんだけどね。ほら」


 おずおずと前に出る冒険者二人。


「あん? 最近、Cランク申請が通ったパーティーの奴らじゃないか? 二パーティーに分かれて、揉め事でも起こしたのか?」


 そこで彼らから、オーガと出会うまでの経緯と今回東側に行くにあたって、AランクとBランクの引退希望者たちに協力してもらった旨を伝えた。


「はぁぁぁ……いいか! 冒険者ってのは己の力を知ってからが始まりなんだよ。簡単にランクだけ上げて戦えるわけないだろうが」


「申し訳ありません」


「まあ、なんだ。生きて帰ってきたのは褒めてやるがな。しかし、お前らはどうして付いて来てんだ?」


「それがその……」


 言い辛そうにしていた男の冒険者に代わって、女性の方が説明してくれた。


「まあ、冒険者として少し上の依頼をやりたいってのは否定しない。そこには危険も伴うのは当たり前だがな。しかしだ、よりにもよって商隊に助けを求めるとは何事だ! 間違いなく商人ギルドから苦情と賠償が来るだろう。本来、護衛依頼を頼む側に迷惑を掛けられたんだからな」


「ですが、わ、私たちもパーティーの半分が死亡して……」


「もうやめなよ。元はと言えば私たちが実力以上のことをしたのが原因でしょ」


「だ、だけど……」


「それに私はアスカさんが助けてくれなければ、腕の違和感程度では済まなかったわ。こうして、生きているだけでも奇跡よ」


「なんだアスカ。お前、治癒師の真似事までやったのか?」


「怪我人を放っておけなかっただけです」


「まあ事情がどうあれ冒険者は結果が全てだ。お前たちのお陰でしばらくはパーティー編成にも監査が必要になるだろうな。東側の危険度はそれぐらい上がっているんだ。未熟な冒険者のせいで、十分な戦力を持つ冒険者が死ぬことは避けなければならない。お前ら今はDランクだったか? 一旦、Fランクまで降格の上、後で賠償金の一部と規則違反の違反金は支払ってもらうから覚悟しておけよ!」


「待ってください……」


 なおも引き下がる気のない冒険者の男性に向かってジュールさんは立ちあがる。


「言っておくが! 俺がギルドマスターでなくて、現場で会っていたら間違いなく見殺しにしていただろう。お前らのような者をかばってパーティーや護衛目標が危険になることを普通は良しとしない。その場でアスカたちに『迷い子』として費用を請求されたか? それが答えだ。その幸運を無下にしたいなら今からでも護衛依頼中のパーティーが冒険者に危険行為を受けたとして相応の処分をしよう」


「申し訳ありません」


 それだけ言うと冒険者の男性はうなだれてしまった。私たちへの話しは終わりなので部屋を出た。二人はまだジュールさんと話しがあるようだ。



「ジャネットさん、さっき言ってた危険行為を受けたって何ですか?」


「冒険者が同じような依頼や別の依頼中にかち合う時があるだろう?」


「まあ、採取依頼とかがそうですよね」


「ああ、そういうのならいいんだけど、今回みたいに討伐依頼と護衛依頼のパーティーが出会った時に優先されるのは護衛依頼なんだよ。これは大半が商人ギルドからの依頼ってことも大きいけど、護衛ってことは守らないといけないものがいるってことだからね」


「なるほど、討伐依頼を受けている側は別に守る必要がないですもんね」


「そう。冒険者は戦えるから、討伐依頼側は故意に護衛依頼側に魔物を移してはいけないことになってるんだよ。護衛側の負担が増えるし、そもそも護衛依頼は街道を行くのが基本だから、討伐依頼側の戦い方がなっていないからそっちに持ってきたって扱いだ」


「確かにそうなりますよね……」


 実際にはなかったけど、初めてオーガと戦った時はそうなりかけた手前、あまり人ごとでもないな。


「この場合、どれだけ負担をかけたかによるけど、討伐依頼側に多額の賠償やランクポイントのマイナス処理なんかを課すことが出来るって訳。あいつらは今Fランクへ降格になったから、あたし達からできるのは金銭請求だけど……」


「さっき違反金がって話しもありましたし、それだけでもかなりの額が必要ですよね」


「その上、しばらくはろくな依頼も受けられないだろうから、このまま冒険者稼業は畳んでまず借金を返すか、諦めず頑張るかだね」


「厳しいんですね」


「冒険者の自由は自分に対してだけだからね。他人を巻き込んだ奴は最低さ」


 冒険者って乱暴で粗野ってイメージもあったけど、結構がっちりしたところもあるんだなと改めて感心した。


「ジャネットにアスカちゃん。話しは終わった?」


「ホルンさん。私たちは終わりました」


「そう。それでカードの方は?」


「これだよ」


 ジャネットさんが渡したのは見慣れないギルドカードだった。


「確かにお預かりしました。ギルドとして死者のカードを届けていただき感謝します。ギルドより報奨金として銀貨五枚かカードに保管されている金額のうち二割のどちらかをお渡しします」


 ジャネットさんが渡したカードは死んだ冒険者のものだったんだ。それに報奨金も出るんだね。なんだか、これでお金を貰うのは微妙な気分だな。


「アスカ、きちんと貰わないといけないんだ。こいつらの分まで冒険者としてやっていくための資金だからね」


「そうよ。それにこうして届けてもらわなければ、この人の家族にも事実を告げて残ったお金を渡すこともできないのよ」


 そっか、冒険者は色々なところを旅してるけど、独り身ってわけじゃないもんね。何も知らずにずっと待ってる人もいるかもしれないんだ。悲しいけど、知らせることができるならそれに越したことはないよね。


「アスカ、どっちにする?」


「私が決めていいなら銀貨五枚でお願いします。出来るだけ亡くなった方のお金はその人の大事な人に渡してあげたいです」


「やれやれ……」


「では、カードが二枚ですので金貨一枚をフロートにお渡しします。ご苦労様でした」


 ホルンさんはそう言うとカードを今まで見たことがない読み取り機に入れて情報を更新する。出てきたカードはこれまでと違う色で、ステータス数値も私たちに見えるみたいだ。


「こうして最後にその人がどんな人生を送ったかを少しでも分かるようにしているの。お金以外にも唯一、私たちが遺族に渡せるものね」


「そういえばアスカも最近カードの更新してないよねぇ。久しぶりに更新してみたらどうだい?」


「えっ、はい」


「それがいいわね。きちんと自分の力を知ることは大事よ。こういうことにならないためにもね」


「じゃあ、お願いします」


 そう言って私はホルンさんにカードを預ける。まあ、ステータスは何時でも確認できるし、今は魔力を抑えた状態だからあまり当てにならないんだけどね。


「はいどうぞ」


 受け取ったカードの内容を確認する。どうせ、何も変わってないと思うけど。そう思って一つずつ欄を確認していく。しかし、最後のスキル欄を見て固まった。


「本当に増えちゃってる……」


 スキル:魔力操作、火魔法LV3、風魔法LV4、薬学LV2、細工LV3、魔道具LV3、弓術LV3、空間魔法(巫女)


「増えてる。何が?」


「これ……」


 ジャネットさんにスキル欄を見せる。


「あん? 空間魔法? 何だいこれ、聞いたこともないね。しかも、巫女って」


「ジャネット、今何て?」


「えっ、だから空か……」


「ストップ! マスターのところへ行きましょう!」


 ホルンさんが大慌てでジュールさんのところへ行こうと言い出した。でも、まだお話し中だと思うんだけどな。


 ガチャ


「入ります!」


「ホルン。普段からノックをしろとあれだけ……」


「それより二人を退出させてください!」


「いやこっちも大事な話でな」


「良いから!!」


 ホルンさんの勢いに押されて、渋々二人を帰すジュールさん。


「で、また2人を連れて何の用だ? 二人とも疲れてるだろう?」


「そんなこと言ってる場合じゃありません! これ見て下さい! 一級機密です!」


 そう言って私のカードをジュールさんのところの読み取り機に入れて見せるホルンさん。


「いや、他人のカードをって空間魔法!! アスカいつ覚えたんだ!」


「あ、えっと、昨日ですかね?」


 あの空間がいつのことなのか、本当に昨日の夜のことなのか分からないのであいまいに答える。


「でも、使えないですよ私。元々使えたわけじゃないんです」


「ん?何を言って……()書きで巫女?」


「そうですよ。空間魔法までは私も知ってましたが、後ろに巫女ってあるんです。これはギルドの文献にも載ってないものですよ」


「確かに。空間魔法だけは司る神がいないとも言われていて巫女がいなかったな。単に使い手が少ないためだとも言われていたが……」


 う~ん、こうなってはアラシェル様のことを話さずにはいられないだろう。私は二人に空間を司る神様が私を巫女にしたことと、その時の神託で生まれたばかりのため、力そのものが非常に弱いという事を伝える。


「なるほど……魔法自体を使うことはできないわけね」


「巫女なので信仰心さえ集められたらできるみたいです」


「聞くところによるとシェルレーネ様の巫女も信者数によって力が変わるということだしな」


「だとしてもこれは一大事です。生まれたばかりの神とは言え、空間魔法の巫女なんて見つかったら何をされるか……」


「そうだな」


「アスカって相変わらずだねぇ」


「そんな、他人事みたいに。でも、力も使えないわけですし大したことないですよ」


 これがもし、市場に流れているマジックバッグの大サイズを作れるとかだったらまた違うと思うけどね。


「大ありよ! 要は信仰さえ集められれば、今みたいに血眼になって空間使いを探さなくても安定的に空間使いを得られるのよ! どこの国にも囲われるわよ! マジックバッグを作りたい放題よ!!」


「嘘ですよね?」


「囲われるならいい方だ。生きてればいい位だろ。きっと延々とそれ関係のものを作らされるだろうな」


「ど、どうしたら……」


 軽く考えていた私の前で騒ぐ二人を見て不安になってきた。


「仕方ない。王都のグランドマスターに申請を上げて、限定カードを作ってもらうしかないだろう」


「限定カード?」


「本来はAランク以上で功績の大きい冒険者にのみ作られる特殊なカードだ。自分の名前や能力などの表示を好きに変えられる。彼らはあまりにも貴重でその功績も大きいから特例だな。そのカードにしてもらえれば今後これも表示されなくなるかもしれん」


「そ、そんな申請通るんですか?」


「通すしかない。流石に話せば分かってくれるとは思う。こうしてはいられん。すぐに手紙を書こう。速達かつ緊急だ。ギルドの速達便を使おう」


「やむをえませんね。アスカもその神様が空間を司ることを誰かに教えていないでしょうね?」


「は、はい……」


「絶対に誤魔化しなさい!」


 何度も念押しされ、ようやく私たちは解放されたのだった。


「とんだ更新だったね」


「本当ですよ! でも、みんなが力に成ってくれて何とかなりそうです」


「全くだね。ここじゃなかったら突き出されてたかもね」


「怖いこと言わないでくださいよ」


「全くの冗談でもないけどね」


「……ジャネットさんもありがとうございます。いつも付き合ってもらって」


「今更だよ。ちゃんと次の冒険にも連れてくんだよ。もちろんその先もね」


「はい!」


 私は沈む夕日を背にジャネットさんと約束の指切りをした。




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― 新着の感想 ―
目立ちたくないって言っておきながら隠ぺいを活用出来てない場面が多いのが気になります…… 要らないスキルなのでは……と読み始めて思いました もっと初期スキル活用して欲しい……
アラシェル様から空間魔法の話をされた時、まだ魔法が使えないとわかって「な〜んだ」みたいな軽い反応だからもしやと思ってたけど、本当に危機感ゼロだったのか…。 連載途中で追い付いて暫く読んでなかったので…
やはり空間魔法はドブカス貴族とか王族に拉致幽閉されて一生マジックバッグ製造マシーンコースなのか… そう考えるとマジックバッグって、哀れな空間魔法持ちの人達の怨みや哀しみが詰まった業の深いアイテムなの…
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