レディト観光
難しい話しが続く中、私は聞き手に徹していた。
「アスカはどう思う?」
「は、はい!?」
いきなり話しかけられて戸惑う。今は何の話をしてたっけ?
「今後の推奨パーティーだよ。森の中とかの」
「どうでしょう。私は自分の実力がどのくらいなのかよく分かりませんが、有効打を持っていないパーティーが、ランク表を当てにして入ることのないようにした方がいいと思います」
「出てくる魔物でってことか……魔物一覧を作って、その魔物を倒せるだけの力を持ったメンバーがいるかで判断かね。それならDランクパーティーにもチャンスはあるね」
「だが、それなら一部の属性を持つ魔法使いや剣士に報酬が偏るだろう?」
「でもねぇ。このままCランク制限にしたら確実に人員不足になるよ。特に向こうはそこまで今はいないからね」
確かに。アルバのギルドでよく見るのはDランク冒険者のパーティーだ。確かめたわけじゃないけど、話してる内容や見かける装備からも分かる。ジャネットさんたちの武器にいちいち反応してたりするし。私も偉そうにはできないけどね。
「仕方ないか。そういえばそこのリーダーの腕はどうなんだ?」
「そうだねぇ。あんまり広めたくないからおおざっぱだけど、その辺の天狗になってるCランクよりよっぽどいい仕事をするよ」
「まあ、ジャネットがいてもオーガバトラーと戦えば普通は無傷で帰れないからな」
「ま、まあ、これでも私が一応リーダーですし……」
私が倒したことは黙っておこう。
「ふむ。これ以上拘束しても疲れているだろうし、この辺にしておくか。報告書はまとめて、掲示板や他のギルド向けに上げよう」
「ああ、それと警備隊も欲しいと言っていたから、そっち向けにも頑張って作りなよ」
「待て! きちんとした書式のものは?」
「きちんと後でフィアルがまとめたのを渡すよ。それも報酬に乗せといてくれよ」
「……助かった。しかし、あいつが冒険者活動を再開していたとは」
「再開というより店の仕入れのために仕方なくだね。好き好んで危険に首を突っ込みたくはないだろ?」
「なるほどな。いやぁ助かった。警備隊は書式も文面もうるさいから、得意な人間がやってくれて助かる」
「それじゃあね」
「お邪魔しました」
ギルドマスターと別れて部屋を出る。そしてもう一度、アイダさんのところに並ぶ。
「報告は終わったのね~。じゃあ、こっちにカードをお願いします」
私は言われた通りカードを渡す。
「はい。じゃあ読み取り終わりました~。あれ? やけに報酬が多いですね」
「それだけ働いたってことさ」
「じゃあ、討伐の結果は金貨二枚で、調査の結果は銀貨八枚と、ん、書類代銀貨二枚? まあ、入れときますね~」
「後は素材だね。今回はフィアルの袋に入れるほどもなかったから、このまま売りに行くよ」
「は~い」
私はジャネットさんの後をついていき、レディトの解体場へ。
「よう」
「ジャネットか、久しぶりだな」
「そうかい? まあ、あたしはこの町の冒険者じゃないからね」
「今日は何だ?」
「順番に置いてくからちゃんと見てくれよ」
そう言ってジャネットさんがマジックバッグから順番に魔物を出していく。
「ふむ中々だな。おおっ! これはホワイトファングだな。あまり買取価格は高くないが見事だ。他の査定に色を付けてやろう」
「おいおい大丈夫なのかい」
「ああ、毛皮としても置物、敷物としても一級品だ。間違いなくさばけるわ!」
続いて私のマジックバッグの中身も出していく。
「おお、ウォーオーガにオーガバトラーまで。ジャネット、お前こんな小さい子を連れて王都まで二人で行ったのか?」
「あんたまで……きちんとアルバからここまでで仕留めたよ。後、三人だからそこまで無茶はしてないよ」
「そうか。危なくなったと言われていたが、オーガバトラーがな。それじゃあ、査定に入るからちょっと待っててくれ」
そのまま解体師の人は魔物の状態を確認している。他の人も一緒に状態を見ていた。
「どのくらいになるんでしょうね~」
「間違いなく今日は贅沢しようってぐらいにはなるね。そういや、アスカ。薬草を受付で出してないだろ?」
「あっ!? 帰りにもう一回行きますね」
「薬草ならここでも引き取れるぞ」
「ならここにしとこうか。あっちでまた変に騒がれても困るしね」
「はぁ」
よく分からないけど、ジャネットさんが言うんだし何か考えがあるんだろう。
「よし、素材の方は終わったぞ。金貨八枚と銀貨五枚に大銅貨七枚だ」
「すごい!」
「だから言っただろ? ほら、薬草も出しな」
「はい」
私はマジックバックに入れていた薬草を出す。今回はリラ草が十四本、ルーン草三十二本、ムーン草三十八本だ。リラ草は最初の方に見つけたものでそれ以降は見つからなかった。
「ふむ、中々物がよさそうだ。おい! 鑑定用の魔道具を持ってこい」
「はい」
おじさんが魔道具を持ってきて、鑑定が始まった。よかった、きちんと解体場でも見てもらえるみたいだ。
「ふむ……リラ草はAが十本でBが四本。ルーン草はAが二十一本でBが八本にCが三本。ムーン草はAが二十四本でBが十二本にCが二本。何だこりゃ!? 普通は逆の本数だろ?」
「な、アスカ。人気のないここでよかっただろ?」
「う、はい……」
そういえばアルバだともうあんまり驚く人はいなくなったけど、他の町では採取がそこまでうまいこといかないのを忘れてた。
「最近、アルバ方面の薬草が高品質になったのって……」
「余計な詮索はしないでくれよ」
「うむ。査定だな、合計金貨五枚に銀貨八枚だ。しかし、薬草だけでこれとは」
「ちゃんとギルドの基本料金通りだよ」
「品質が落ちんようにすぐ売りに行くとしよう」
こうして、買取がすべて終わった私たちは解体場を去って宿に向かった。
「でもこんなに大金、どうやって分けましょう?」
「そうだねぇ。戦いについては全員頑張った訳だし、大体金貨十二枚ぐらいだったからパーティーに金貨一枚。アスカは金貨三枚で私たちが残りを半々。その代わりアスカはさっきの薬草代を八割ってことで」
「それだと最終的に私が得しちゃいますよ?」
「まだまだ、新人なんだからそれでも少ない方だよ。もう少し増やしてやろうか?」
「良いです」
安全に採取ができる環境を作ってくれるだけでもありがたいのだ。これ以上、変なことを言う前に受け入れておこう。
「ほらここだよ。あたしたちが良く使ってた宿さ」
「いらっしゃいませ! あら、ジャネット。久しぶりね」
「ああ、三人だけど二部屋で」
「分かったわ。でも、珍しいわね。その子も一緒じゃないの?」
「後でフィアルが来るからね」
「あの人は冒険者をやめてレストランを開いたって聞いたわよ?」
「用事があって来てるんだよ。魔物が強くなってるから仕入れが心配みたいでね」
「なるほど。この町なら王都までの経由地だから色々仕入れてたってことね」
「そういうことさ。それじゃ、アスカ。一旦荷物を置いて観光に行こうか」
「最初はどこに連れて行ってくれるんですか?」
部屋に着くと荷物を置いて、私はジャネットさんに話しかける。
「何にしても食事だね。前に約束したところへ連れてってやるよ」
「は~い!」
そうと決まればローブを外して身軽になる。昨日の一撃で少し破れた部分もあるし、あとでリメイクしないとね。
「相変わらずの格好だね。それじゃ行こうか」
そうして言われるままに連れていってもらった先は、なんとカフェだった! 一般人も多い中、冒険者姿のジャネットさんは目立つ。だけど、そんなことも何のその。そのまま店へと入っていく。
「いらっしゃいませ。おや、久しぶりですね。奥へどうぞ」
顔を見るなりマスターさんが奥の席に通してくれる。目立たないようにだろうか? でも、運よく空いててよかった。
「ご注文は?」
「いつもので」
「お連れ様は?」
「い、一緒でいいです」
いつものだって! すごく大人っぽい!
「はぁ……子どもだねぇ」
「えっ!? 顔に出てました?」
「思いっきりね。ここはさっぱりとした料理が多いから、よく来るんだよ。他のとこじゃ量のあるものばっかりだからね」
意外や意外、この町は王都への中継点で栄えているけど、おしゃれな店より冒険者用の飲食店が多くて、味よりコストを考えたものが多いそうだ。
そんな中、この店はちょっと通りを外れたところにあり、一般人から冒険者までこうやってあっさりとしたものを食べたい人が来るのだそうだ。
「人気店じゃないところもいいんだよ。落ちつくしね」
「分かります。後ろで列を作ってると急いで食べなきゃって思いますよね」
たまのお出かけで有名店とかに行くと、結構そういうことがあった。ゆっくりしてもいいんだろうけど、粘るのも悪いからすぐに飲んで立っちゃうんだよね。
「お待たせしました」
運ばれてきたのはパエリアと魚介と野菜のサラダだ。お米を使った料理が普通に出てくるなんて珍しいかも。
「意外かい? これが普段飼料として使われているとは思えないくらいうまくてさ。騙されたと思って食べなよ」
「はい! 実は私の育ったところはこのお米が主食なんですよ」
「へぇ~、確かにこれなら腹持ちいいしねぇ」
「そうなんです。昔はこれを干して携帯食としてたって本に書いてありました」
「アスカのところは料理のレシピも本にしてあるんだね。ここら辺じゃ、わざわざ本にするのは高いから、みんな見て覚えるんだよ」
「そういえばおばあさんの店でも料理の本はほとんどありませんでしたね」
「あっても貴族相手の料理人向けに作られたものらしいからね」
「そうなんですね。それにしても美味しいです」
パエリアは普段食べなかったけど、お米が食べられたこと自体が嬉しい。サラダも味付けは薄目で素材そのままって感じがして、とっても美味しかった。私もこの店は好きになれそう。
「またお越しください」
「ああ、じゃあね」
「ごちそうさまでした」
食事に満足した私たちは次の目的地へと向かう。
「さあて、アスカは次にどこへ行きたいんだい?」
「そうですね……アクセサリーショップとか!」
「へぇ~、敵情視察ってやつ?」
「ち、違います! 普通に自分が身につけるためですよ」
「何だい。じゃあこっちだね」
からかわれながら数分歩いて目的地に。おじさんの店もおしゃれだったけど、こっちは一段上だ。品揃えはどうかな?
「う~ん」
「どうしたんだいアスカ。そんなに唸って」
「いえ、これとこれどっちが似合うかなぁって」
「もうちょっと、勢いがあった方がいいんじゃないかい?」
「そうですか。じゃあ、今度にしましょうか。あっ、こっちは良さそう。これお土産にします」
「何だい自分のじゃなかったのかい」
「はい。せっかく来たんだからお土産をと思いまして。自分の分はもう決めてるので大丈夫です」
「そりゃよかった。じゃあ買ってきなよ」
「はい」
「会計は銀貨二枚と大銅貨三枚です」
「じゃあこれで」
会計を済ませ店から出る。他にも欲しいと思うものはあったけど買うのはどうかなという感じだった。