王都へ続く街レディト
戦闘も終わり私は思わず座りそうになる。
「ふぅ~、疲れました~」
「こら、だらしなく座ろうとするんじゃない!」
「痛い」
座り込みたいところにジャネットさんからコツンと一発をもらう。しょうがないので頑張って立って現場処理に入る。まずは今回の戦利品だ。
「大分傷んでるけどこれなら売り物になるだろうね」
「そうですね。元々バトラーの素材は表面を削って加工されますからね」
「売値も結構します?」
「金貨一枚ぐらいだね」
「全部でですか?」
「何言ってんだい、一つでだよ。だから、これだけで金貨三枚だね」
ふわぁ~、強い敵だと思っていたけどここまで来たら、素材だけでもかなりの収入になるんだ。
「ですが、この危険度に対してですからね。美味しいかといえばパーティーによりけりなところが大きいですね」
「そうだねぇ。実際、フィアルかアスカがいなけりゃ、最初に弓で魔法使いが倒されてそのままってことにもなりかねないね」
「オーガバトラーは名称でいえば一種類ですが、それぞれ得意武器が違うのも難点ですね」
「まるで人間みたいですね」
そこまで特徴が分かれていたら、初見では対処しづらいだろう。
「中でも今回の弓は最悪だね。あいつらは力が強いから弓の射程も長いし、致命傷になりやすいんだ」
ジャネットさんたちは魔物の死体を埋めながら説明してくれる。やっぱり、アルバって平和なんだなって改めて思う。今までこっちの方に来なかったのは正解だったね。
「とはいえ、こっち側でバトラーを見るのも久しぶりだね。王都側やレディトの北西部にはいるんだけどねぇ」
「そうですね。私もこの辺りで見かけたという話はあまり聞きません。それこそ、半年に一度ぐらいでしょうか? それも誤報のこともありますからね」
「今の調子だとちょくちょく見かけるようになるかもね。難儀なことだねぇ」
「ここが街道から外れててよかったですね。これが街道付近だともっと大変でしたよ」
「今はそれが救いだね。さあ、先を急ごうか。長居してると他の奴が出てきそうだよ」
「怖いこと言わないでください」
そう言いながら足早に移動する。本当に昨日といい今日といい、当分はこりごりな相手だ。でも、レディトのかなり近くまで来ていたみたいで、それから一時間ぐらい歩くと町に到着した。
「ここがレディトなんですね。アルバと違って豪華な門ですね!」
「なに田舎ものみたいに言ってるんだい。って田舎もんだったね」
「いや、ちゃんとこういう豪華な建物も見たことありますよ! ただ、作りが違うんです」
修学旅行とかも行ってなくて、映像だけなら金閣寺とかは見たことがあるもんね。それにビルだって見たことあるし。だけど、こういう西洋チックな建物を間近で見る機会がなかったから、実物を見て圧倒されているんだけなんだから。
「はいはい。それじゃあ、十分堪能しただろうから入ろうか」
「はい!」
門番さんにパーティーカードを見せて入れてもらう。
「おや、ジャネットさんじゃないですか。新人の護衛ですか?」
「違うよ。うちのパーティーリーダーだよ」
「またまたぁ~、冗談ですよね?」
「ほら、きちんとカード見たかい? そんなんじゃ門番も務まらないよ」
「……確かに。ランクは下ですけどきちんとリーダーですね。もしや、貴族だったり?」
「あたしがそんな理由で入ると思うかい?」
「ですよね。でも、無茶はさせないでくださいよ。最近ここを通るパーティーも疲れた顔で通っていくんです。中には即、治療院に駆け込む人もいるんですから」
「ああ、気を付けるよ。今日もオーガバトラーに遭ったしね」
「バトラーに!? 詳しく聞かせてもらえますか?」
「詳細はギルドに行ってくれ。こっちも別の用事があるんでね」
「……仕方ありません。ただ、しっかりとした報告書をお願いします」
「ちゃんとしたのを渡しますよ」
「あれ? よく見たらフィアルさんでしたか。なら安心ですね、期待してますよ!」
「ああ、任せときなよ。それじゃ通るよ」
「はい。お嬢さんもレディトへようこそ!」
門番さんに通してもらい、私はアルトレインに来て初めてアルバ以外の町に足を踏み入れたのだった。
「道がひろ~い!」
「はぁ、先が思いやられるね」
「では、私は商談がありますから報告の件は一旦お任せします。報告書は後で持っていきますから。何なら明日の帰りの依頼を見繕ってきても構いませんよ。私も長居はしませんから」
「自信ありってことかい。じゃあ、商談の方は頑張ってきなよ。こっちはその間に報告をしておくから。宿はいつものところでいいね?」
「ええ、その方が間違いもありませんし」
私たちはフィアルさんと別れ、この町の冒険者ギルドへと入っていく。
「こんにちは~。ジャネットさん、お久しぶりです〜」
中に入ると、こっちのギルド職員さんはおっとりしているんだなというのが第一印象だ。人口が多い町ならではだろう。ギルド自体も広いし、受付の職員さんもずらりと並んでいる。これならそんな行列にならないんじゃないかな?
「ああ、久しぶりと言うほどでもないけどね」
「おや?隣の方は初めてですね。迷い子ですか?」
「ち、違います。一緒のパーティーです!」
迷い子というのはそのままの意味ではなく、戦闘で怪我をして動けない、パーティーと別れて単独行動をしているところを助けられた人という意味だ。
いわゆる身の程知らずの冒険者という意味で浸透している。見た目的に仕方がないとしてもさすがにそこは強く否定しておく。でも、他の冒険者の人からもちらちらと視線を感じる。
「アイダ。うちのリーダーに随分な物言いだね」
「えっ!? ジャネットさんがパーティーに入ったって本当だったんですか! てっきり適当に誰かがついた嘘かと……」
「その情報は何時のものだい? ここのギルドは情報収集もまともにしてないのかい」
「あっ、いえ、すみません~」
「謝るならアスカにだよ」
「ごめんね。アスカちゃん」
「いえ、こういうのには慣れてるんで……」
ノヴァとリュートと一緒に冒険へ行き始めた時も、色々言われたしね。ちゃんと討伐依頼もしてたのにどうしてもみんな子どもに見えるから。実際、私は十三歳の子どもなんだけど……。
「それで、今日はどんなご用件でしょう~?」
「ああ、この間からアルバの冒険者ギルドの要請で行っている調査があるだろ? あれの報告だよ」
「お二人でですか? 危なかったんじゃ」
「もう一人いて今は別の用事で抜けているから三人だよ」
「それでも危ないですよ~。この間もお一人……」
「思ったより、危なくなってるってことだろ? その件でね」
「では先に討伐種の一覧を頂けますか? ここの用紙に書いてください」
渡された紙にはオーク種の下に()が書いてあり、そこに亜種なら種類を書くようになっているんだろう。次のところまで空いていることを考えると、出会った魔物をすべて書くんだろうな。
「えっと、オーガとウォーオーガ、後はオーガバトラーと……」
「あっ、えっ!? ちょ、ちょっと待ってください。ジャネットさんこれ本当ですか~?」
「嘘を書いたら懲罰ものだってのは知ってるよ」
「マスターを呼んできます!」
さっきまでのおっとり感が抜けて素早い動きでアイダさんが奥に引っ込む。
「アイダ急にどうしたんだ? こっちも仕事があるんだが……」
「こ、これ!」
「新人登録か? ん、討伐種がオーガバトラー!? いや、これアルバからこっち側だろ。それに単独で動くことも多いオーガたちがこんなに……嘘じゃないだろうな?」
「信用がないねぇ。報告を切り上げるよ」
「ま、待て! ジャネットか。話を聞かせてくれ」
「変に広まっても嫌だし、奥でいいかい?」
「ああ、頼む」
「ジャネットさん、そんなに強気でいいんですか?仮にもこの町のギルドマスターなんじゃ」
「アルバのマスターは高ランク冒険者だけど、こっちはあたしと同じCランクだからね。実力主義の冒険者ギルドじゃ遠慮する必要はないよ。それにこっちは依頼の報告なんだから」
「そういうものなんですか?」
「そういうもんなの。ほら行くよ」
「はい」
三人で奥に進んで部屋に入る。
「それじゃあ、報告をお願いします」
私は地図を広げる。そして出会った順番と敵の戦力を話していく。
「なるほど、以前から強力な魔物の出現が増加しているとの報告があったが、アルバ側でもそこまで増えているのか。要請通り、今後は街道の防衛力を強化しないとな」
「冒険者の養成も考えないといけないね。これまでは放っておいても強くなっていたけど、ここまで実力違いの敵に出会う可能性があるなら、進入禁止区域や活動制限を設けるのも必要かもね」
「確かに。王都や他の町では行われているが、そうなると冒険者の数がな……」
「で、でも、もし出会っても勝てない相手ばっかりだったら?」
「それなんだが、最近はアルバ方面からの薬草の納入もギルドじゃ重要視されてきてな。これまでより王都の近くでいい薬草が取れるもんだから、FランクやEランクも中々馬鹿にできない要素になってきてる。ここで一気に制限をかけるというのもな」
「うぐっ」
いつか、宿の食堂で耳にしたけどそれって私の採り方が広まったやつだよね。こんなところで首を絞めることになるなんて。
「なら、ギルド主催で週に数日、低ランクを集めてやればいいだろう? もちろん、護衛料は必要だけど」
「……それしかないか。Eランク以下は町の人間が殆どだからな。死なれるとこっちも困る」
「じゃあ、それはそれとして報告の続きだね。年に姿を見るだけでも珍しい、オーガバトラーだけじゃなくウォーオーガもいたんだけどどう見る?」
「間違いなく危険度の上昇だろうな。王都の冒険者ギルドにも報告して、必要ならマップ更新も考えてもらおう」
「マップ更新?」
「ああ、アスカは知らないのか。その地図の場所ごとにDとかEとかあるだろう。それが目安のパーティーランクの記載だよ。もちろん安心して狩れるって訳じゃないけどね」
「サンドリザード地帯はDとC、森は今はDになってて、その手前はE。アルバの西側もEだ。最低がEになってるからその辺はちょっとあいまいだが、大体はこの通りだ」
「ちなみに変わるとどうなります?」
「最低でも町の東がD、森はサンドリザード地帯と同じDとCかもしくはCだな。サンドリザードは外皮は硬いが攻撃自体は単調だからな」
「アルバも冒険者入門の町とは言えなくなっちまうね」
「まあ、仕方ないことだ。それより、こっちの町も大変かもしれんな。町の東側はCランク以上、西側がDとCランクに成りたてだったのが、どっちもCランクからが適正となると、狩場の住み分けも難しくなる」
「商人たちも困るだろうね。そっちはうちらには関係ないけどね」
「単価は変わるだろうがな。王都側の単価は据え置きで、アルバ行きが上がるだろう」
「げっ、そうなったらアルバの物価が上がるじゃないか。頑張ってもらわないとねぇ」
ジャネットさんもギルドマスターさんも情報をもとに色々な方面の話をしている。地域のことという事もあるんだろうけど、二人とも色々なことを知っててすごいな。私ももっと勉強しなくちゃ。




