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目指すは隣町レディト

《チチッ チチッ》


 小鳥たちのさえずりが聞こえる。もうすぐ八時ごろだ。はぁ、一人ってやっぱりつらいなぁ。話すこともないし、その上で見張りとか結構きつい。というか、この小鳥の鳴き声には聞き覚えがあるような……。


《チチッ》


 やっぱりヴィルン鳥だ! ミネルより大きい子だから雄なのかな? おはようって知らせてくれてありがとう。


「さあ、朝ご飯の時間だね」


 いつもの癖で持っていた、肉と野菜をブレンドしたご飯を木のお皿に盛ってあげる。


「どうぞ!」


《チチッ》


 二羽いるヴィルン鳥が一緒にご飯を食べに来る。ふふっ、兄妹かな? それとも夫婦? 元気付けてね。一気に周りがにぎやかになって私も元気になる。ヴィルン鳥たちはお礼のつもりなのか、食事が終わると私と私たちのテントを数回回って飛んで行ってしまった。


「ふふっ、もしかしたらミネルのお友達だったのかもしれないね」


「おや、どうしたんだい、アスカ?」


「ジャネットさん、起きたんですね」


「ああ、普段でもこのぐらいには起きてるからねぇ」


「さっきまでヴィルン鳥が二羽来てたんですよ。ひょっとしたらミネルのお友達かもって思って」


「そりゃあ幸先がいいね」


「さて、私達も食事にしましょうか」


「私たちもって、フィアルさんは起きてたんですか?」


「邪魔してはいけないと思いましたので」


 こうして始まった朝ご飯は時間をかけても仕方ないので、簡単に私が火を起こしてスープを温めるのと、保存食を食べて終わりだ。


「う~、やっぱり味気ないなぁ。せめてパンぐらい欲しい……」


「本当に贅沢な子だね。あたしたちが初めて野宿したころなんて、ほぼ食べずじまいだったのに」


「そんなんで持つんですか?」


「持つも何も食料を確保するのが難しかったですから。保存食は高いもので」


「私ってひょっとして贅沢ですか?」


「まあ、冒険者として何に重きを置くかって話だね。そういう意味では自費なら贅沢じゃないよ。パーティー費用で出すならリーダー権限ってことかね」


「じゃあ、大丈夫ですね」


 食事を終えて、う~んと伸びをして冒険に備える。今日は朝から構えの練習もしたし、杖はしまい弓矢を構えて歩き出した。


「今日は弓を持っていくんだね」


「はい! 朝ちょっと使っていたので、その流れで」


「そういえば、前使った時はまだ初心者でしたが、昨日見た感じだと中々様になっていますね」


「本当ですか? フィアルさんに褒められるなんて嬉しいです」


 話しながらも私たちは昨日と同じく警戒と止まれを繰り返し進んでいく。それに、今日の行程はそこまで長くないので余裕がある。でも、午前中には町へ着きたいって言われてるから、ゆっくりとまでは出来ないんだけどね。


「こっち側が静かなのは気になるね」


「確かにそうですね。普通なら入ってすぐに来てもよさそうなのですが……」


 さらっと怖いことを話し合っている二人。でも、確かにレディト側の方が危険なんだから、本来は魔物が出てきてる頃なんだよね。


「でもほら、昨日のところも二日に一回襲われるってありましたし、きっと今日は襲われない日なんですよ!」


「アスカは前向きだねぇ」


 そうそう、何事も前向きが一番だよ……ああ、いらないフラグだったか。


「どうしたんだいアスカ?」


「いらないことを言うべきではなかったというかですね」


「ジャネット、敵はおそらく前衛が多いでしょうから、そちらは任せますよ。私は上から戦いますから、アスカもあまり木の上に攻撃はしないで貰えると助かります」


「分かりました」


「そういうことかい。しょうがないねぇ、まったく」


 私の探知だと大きい形だったから、オークかオーガというところまでだったんだけど、フィアルさんは音でも知覚していて、どうやら鎧を着ているのがいるらしい。


「アスカ、ボスには昨日の魔法使えるかい? もちろんきちんとコントロールしてだよ」


「今回は出来ます!」


「よしっ! 最悪最後は任せるからね」


 この言葉を皮切りに私たちはすぐに散らばる。ジャネットさんは木の陰に、私が魔物から見えるところに。そしてフィアルさんは木の上に隠れた。


「さあ、こっちは準備万端だよ」


 相手がまだ私たちに気づいていないことを確認すると私がジャネットさんに合図する。

 合図が伝わったところで、ちょっとだけ緊張するけど私から攻撃を開始する。弓をぎゅっと弾き絞り、魔法を矢に込めて一気に放つ。まっすぐに飛んだ矢は魔物に命中した。ただ、倒れないところを見ると致命傷ではないみたいだ。


「どんどん行くよ!」


 言葉通り矢をつがえては放っていく。出来れば近づいてくる前に一体でも数を減らしたいところだ。だけど、向こうもこっちの位置を把握して向かって来た。数は左側に二体、正面から三体。奥までは正確な数が分からないけど、ひとまず左のが回ってきたら厄介だからそっちに矢を放つ。


 「くらえっ!」


 音がして魔物が倒れる。どうやらいいところに当てられたらしい。残りはジャネットさんが倒してくれるだろうと判断して、私は正面から来る三体の魔物に注意を向ける。


「一体はオーガで、もう二体が何だろう? 白いウルフ?」


 ウルフはあまり相手にしたことがないから注意しないと。


「ウィンドカッター!」


 魔法を二度唱え、六本の刃を正面の魔物に向かって放つ。しかし、オーガは刃を拳で破壊した。その時に多少の傷は付いたものの、無視して迫る。ウルフの方も巧みに爪を使って無効化した。


「なら、これはどう? 魔物たちを巻き込むように……風よ、嵐となりて敵を切り刻め、ストーム!」


 樹上には攻撃しないよう正面に向かって嵐を放つ。しかし、オーガは大きいから嵐で動きを止められたけど、ウルフたちは巧みにかわして、こちらへと向かって来る。


「くっ、オーガをこのまま切り刻みたいけど、私の身が危ない……」


 そう思った時、ウルフの脳天に矢が突き刺さった。さしものウルフも風の流れが乱れていて気づけなかったようだ。


「次はあなたですよ!」


 フィアルさんが木から一気に飛んで、もう一体のウルフの喉元にナイフを突き立てようとする。しかし、ウルフも必死の抵抗を見せ爪で何とか攻撃を防ぎ、一回転して上になろうとする。


「甘い!」


 フィアルさんがすかさず反対の手でナイフを投げる。決まったかと思われたが、なおもウルフは体をひねりそのナイフをかわした。


「そんな!」


「大丈夫です」


 ウルフがかわした先へとさらにもう一本のナイフが迫っていた。これは避けきれず、首筋にナイフが刺さる。


「私はウルフにとどめを刺します! オーガはお任せしますよ」


「はい!」


 身動きできないオーガに対して魔法を強める。ストームは魔法で作った嵐だけど、その属性は物理だ。オーガのような外皮の硬い魔物には、外側の刃は有効ではない。内側まで吸い込んでしまわないと。


《グオォォォ》


「あきら、めなさい!」


 魔力を高めどんどん魔法を強くする。そのせいでMPも消費していくけど、この際そんなことは言ってられない。このまま押し切ってやるんだから。


「うん?」


 その時なんだか変な気分になった。何がということでもないんだけど何か忘れているような……。


「奥にいた魔物!」


 私は一度ストームの照準をオーガから離して、奥の木へと向ける。


《ガァッ》


 正面のオーガは吹き飛ばされ、そのまま後ろの木へとぶつかった。そして奥の木へと向けた嵐を受け、木の横から鎧を着たオーガのような魔物が見えた。


「何なの!?」


「オーガバトラーですか! アスカは一旦下がって下さい。ジャネット!」


「はいよ!」


 ジャネットさんがオーガを切り伏せてこっちに合流する。


「やれやれ、そうかと思っていたけど、今日は厄日だね。あいつはオーガバトラーって言って、複数の武器を操るオーガの上位種さ。あいつは今持ってる弓以外も使えるから気を付けな!」


「はい!」


 結局、さっきのストームもかわされたし、オーガバトラーには何か他の手を考えないと。


「ケノンブレスでも捉えきれないかも」


「アスカ、足を止めさせるか、誘導できれば当てられそうですか?」


「誘導……フィアルさん、あそこに水の魔法をかけられますか?」


「掛けられますが何を?」


 私はフィアルさんの耳元で作戦を話す。


「なるほど。囮は任せることになりますが、大丈夫ですか?」


「はい。距離さえ取れば負けません、多分。」


「安心しな。そん時は駆けつけてやるよ」


「お願いします」


 再び私たちはオーガとオーガバトラーに向き合う。魔物たちも私たちがどう動くかを見極めようとしている様だ。さあ、知恵比べだね!


「行きます、ウィンドカッター!」


「前は任せな!」


「では、私は後方から援護します」


 一気に私たちは動き出す。しかし、魔物たちも慌てることなくそれぞれに対応する。さすがは上位種というところだろう。私のウインドカッターは魔物にかわされ何度も地面を抉る。


「ウィンドバリア!」


 相手の弓の攻撃には風の守りでなんとか対抗し矢を弾く。こうなれば、オーガバトラーも前に出ざるを得ないだろう。元々魔力の低い種族ゆえに、遠距離は物理しかないのが救いだ。


《グオォォォォ》


 遠距離戦を諦め、向かってくる魔物たち。こうなると私との身長差が八十センチ以上だから本当に恐怖を感じる。足がすくみそうなのをこらえて立ち向かう。


「さ、さあ、こっちだよ!」


 オーガバトラーを先頭にして、複数のオーガがこちらへ向かってくる。そんな中、オーガの前にナイフと矢が降ってきた。注意をそらされたオーガは遅れだしている。もう少し……今だ!


「フィアルさん!」


「アクアスプラッシュ!」


 勢いを持った水がオーガバトラーに向かっていく。だけど、相手はすんでのところで避け、変わらずこちらへとに向かってくる。


《グオオォォ?》


 しかし、私の方へ向かおうと地面を強く踏んだ瞬間、オーガバトラーの足が地面に埋没する。


「残念、液状化現象だよ。これで終わりだね。竜巻よ、わが敵を討て。トルネード!」


 動けないオーガバトラーの足元から強力な風が舞い上がり、上空から一気に風の刃が無数に降り注ぐ。巨大な鎧も強靭な皮膚もこうなっては役に立たない。次第にオーガバトラー本体にも傷が増えていき、ついに内部に刃が達する。


「これで終わりだね、刃よ!」


 一気に心臓の位置めがけて刃を集中させる。


《グオオオオォォォォ》


 大きな咆哮とともにオーガバトラーが倒れた。他のオーガたちは?


「ほらほら、大将はいなくなっちまったよ!」


 統率者がいなくなったことで一気に敵の強さが変わる。一頭のライオンに率いられたってやつだね。その後は各個撃破に努めて、難なく倒すことができた。



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