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野宿は大変!?

 私の目の前にはテントと鍋に水と焚き火用の木がいっぱいある。


「これが夢にまで見たキャンプファイヤー!」


 ああ……あの頃は熱が出て行けなかったのに、こんなところで体験できるなんて素晴らしい。


「何をやる気になってるか知らないけど大変だからね……」


「大丈夫です。前からやってみたかったんです!」


「う~ん、それじゃアスカには火をつける仕事をやるよ。これが一番のメインだからな」


「本当ですか! やります!」


 私は木に飛びつく勢いで迫る。あれ、ここからどうすればいいんだっけ? かまどみたいなのを作るんだっけ。よし、一応石を集めてそれっぽいのを作ってと……。

 それから小枝を集めたところまではよかったんだけど、この後ってどうするんだろう? 火って摩擦で起きたっけ? でも、そんな道具はないよね?


「ジャネットさんあの……」


「火を起こしたいんだろ、これを使いな」


 まさか火打石とか木の棒なのかなと思ってびくびくしながら振り返る。そこにあったものはというと。


「これ金属製の棒ですか?」


「ああ、こいつをこすると火が出る仕組みになってるんだ。魔石よりコツがいるけど、安くて何度でも使えるところが良くてね」


 これってメタルマッチだっけ? キャンプで火も簡単に起こせるって聞いたことがある。


「これなら私でもできますよ」


 意気揚々と小さい枝を集めてマッチを擦る。


「あれ?おかしいな?」


「だからコツがいるって言ったろ? もっと、枝は薄く削るんだよ。ほら、ナイフ貸してやるから」


 受け取ったナイフを使って、乾いた小枝の皮を薄くむいていく。この作業だったら普段からやってるから負けないよ。削り節でも薄~く切ったようなものを何個も作っていく。


「……スカ。おいアスカ、そんな作業に夢中になるんじゃないよ」


「はっ! つい」


 大量の削った木を使って再びマッチを擦る。


「点いた!」


「分かったから、早く消えないようにしな」


「はい! 空気を通せるようにでしたよね~。確か、こう三角錐になるようにしてと」


 キャンプには行けなかったけど、栞は読んだからここはバッチリだ。


「ま、待ちな。それやると火力がきつすぎてすぐになくなるよ。ちょっとずつ置いていけばいいから」


「つまんないの……」


 せっかくのキャンプファイヤーが。


「アスカはちょっと火の扱いは苦手なようですね。厨房には入れないように伝えておきます」


「ええ~!?」


「自分で火を出せる余裕ってやつかね。ほら、折角火を起こしたんだから次に移るよ」


 私は汲んできた水を鍋に入れて火にかける。これも適当な枝を持ってきてちゃんと左右を固定して、ひっくり返らないようにする。中に入れるのは干し肉とかだ。それと、肉を焼くための串も木を削ってやるんだけど、これも途中で怒られてしまった。


「どう思うフィアル?」


「今日は野営の大変さを教えるはずだったんですが、確かにアスカのスキルや普段の仕事を考えればこうなりますね」


 野営で必要なものはフォークやナイフや串だ。フォークは串で代用という事だけど、その製造工程について怒られた。ジャネットさんがこうやって細長い木の枝を削ってだなって説明してくれていたんだけど、私はその間にこうですよねって早速真っすぐな串を作ってしまったのだ。

 案外、こういう串づくりに手間取る人も多いらしいけど、普段の細工に比べれば串なんて朝飯前なのだ。


「後何本ぐらい要りますかね?」


「大量に作って燃料が不足しないようにね」


「分かりました。十五本ぐらい作っときますね」


「はぁ、火が使えなくてもアスカがいれば大分楽だねぇ」


「普通の冒険者の苦しみが分からないままかもですね」


「新人なんだけどなぁ……」


 会話の端々が聞こえてくるけど、そっちには気を取られず鍋に食材を入れる。だし代わりのキノコと干し肉だ。


「ああ、粉のだしがあればなぁ~」


「粉のだし? 何だいそりゃ」


「作ったスープを乾燥させて粉状にするんです。そうすれば、こういう時も湯に溶かすだけでいい味になるんですよ。無理なら凝縮するだけでも助かると思います」


「そんなもんがあるなら、さっさと作ってくれよ。アスカは知らないかもしれないが、今日の食べるもんだってかなりましな方なんだよ」


「時間があれば試してみます。私も旅の前にはそういうものを作っておきたいですから」


「やれやれ、うちには困った問題ですね」


「フィアルのとこから出せばいいじゃないか? どうせ旅には出られないんだし、後方からのバックアップだよ」


「なるほど、中々いいことを言いますね」


 そんなことを言っている間に湯も沸き始めた。


「よし、後は横でやればいいから肉を焼いていこうか」


「解体処理したのを出すから、アスカは切っていってくれ」


「は、はい」


 とは言っても魔物の肉なんて切ったことはないんだけどね。おっかなびっくりナイフを借りて切る。ちなみにまな板の代わりは太めの木を切ったものだ。ワイルドだね~。

 ナイフの切れ味がいいから肉が簡単に切れていく。魔物の肉を切るので、気分が悪くなるかと思ったけど、切っているうちになんだか普通にお肉を切ってるだけのように感じてきた。これなら大丈夫だ。ただ、解体ができるかというとそれは別問題だろうけど。


「後は火が通りやすいように薄めに切ってから、くしに刺して……出来た」


「へぇ~、中々いい手さばきだね」


「そうですか? 普段の成果のたまものですかね」


「アスカの場合はそうだね。さあ、焼いていこうか」


 こうして火の回りに串を刺して焼いていく。スパイスに関してはフィアルさんが持ってきたものを使った。味見をしたけどマジックソルトのような味に近いかな? だけど塩味がちょっと強めだね。でも肉に合いそうで……じゅるりっといけない。まだ焼けてないんだった。


「アスカは本当に食べるのが好きだね」


「はい。自由に食べられるのは最高ですよ!」


 病院食をなめてはいけない。わずかな塩分が取れるごま塩にお祈りを捧げたくなるんだから。キャベツだって芯がなくなるほどくたくただし。


「もうそろそろ良さそうだよ」


「じゃあ、頑張ったアスカから食べな」


「良いんですか! いただきま~す」


 まずはオーク肉の串焼きから。ちょっとだけリラ草も使って疲労回復効果も見込んである。う~ん、塩味が強いけど、油と合わさっておいしい。さあ、もう一口だ。


「おやおや。さて、あたしたちも食うかい?」


「そうですね」


 三人で食事を取る。警戒はいいのかと問うと、簡単な罠を張っているからそうそうは襲撃されないとのことだ。


「そろそろ、スープの方もいいんじゃないか?」


「本当ですか? それじゃあこの器で……」


「アスカそんなの何時の間に」


「ちょっと時間があったんで作ってみました」


 そして食事が終わると片付けだ。ちなみにスープの方はだしもそれなりには出てたけど、塩味中心のスープで温かい飲み物以上の価値はなかった。やっぱり、持ち運べるスープを作らないと。片付けは、骨などの不要な部分を埋めるのが中心だ。後は焚火の火を消さないように守りつつ、交代で見張りを行う。


「じゃあ、最初はアスカからだな。最初は終わったらそのまま眠れるからかなり楽な方だぞ」


「でも、やり方が分かりませんけど……」


「あっ、そうか。ならどうするかな?」


「逆にすればどうでしょう? アスカ、朝は何時頃に起きていますか?」


「普段から七時前ぐらいには起きてます。早いと六時ぐらいの時もあります」


「なら、最後でも大丈夫でしょう」


「それじゃあ、任せた」


「はい、任されました」


 すぐに話し合いが終わり、見張り順はジャネットさん→フィアルさん→私になった。まだ、ちょっと話しもしたかったけど、明日もあることだし眠ることにする。それに、かなり空も暗い。なんだかんだいってもかなりの時間が経っているみたいだ。


「ほらね。あれだけ色々手早くやってもこの時間なんだよ。だから、野営場所はいい場所が見つかったら早めでも確保すること。いいね?」


「はい! それじゃあ、おやすみなさい」


 私はテントに入って眠る。フィアルさんはもう少しだけ外にいて、時間になったら寝るそうだ。お先におやすみなさい~。アラシェル様とミネルもお休みだね。



「すぅ~すぅ~」


「どうやら心配無いようだね。昼間のこともあったし、寝れないかと心配していたんだけどね」


「ぐっすり眠っているようで良かったです。しかし、あの地域であれだけの魔物が出るのは油断ならないですね。護衛に関しても、今いる者たちは分かっているでしょうが、新しく来る商人にはCランクパーティーの護衛ですか……」


「嫌がられそうだね。ただでさえこの辺は安全って話しが出てるってのに」


「体験してもらうということができないのが一番難しいところでしょう」


「くたばって証明してもらっても仕方ないよねぇ。あんたの店も物が入らなくなっちまうよ」


「それだけは勘弁して欲しいですね。にしても、危ういところもありますが、戦闘センスというか戦い方が豊富ですねアスカは」


「だろう? ただ今日使った魔法はあたしも知らないんだよね。見たろ?」


「ええ、ウォーオーガの皮膚を貫通して穴を空けるなんて、風の魔法でできるものかと感心しましたよ」


「あたしもあれを見てると、まだまだ修行しないとって思うね」


「それはよかったです。さて、私も寝ましょうかね」


「じゃあ、見張りのやり方は頼んだよ」


「ええ」



「アスカ起きてください」


「ふぇ?」


 ん~、まだ眠いのに何だろう……あっ! 見張りの交代だ!


「ご、ごめんなさ……」


「しーっ」


 フィアルさんが静かにというジェスチャーをする横でジャネットさんが寝ていた。いけないいけない、起こさないようにしないとね。そろりとテントから出て、簡単に説明を受ける。


「この辺りからここまでは、見えやすく罠もあるのでそこまで警戒は不要です。後ろ側の脇道も見えにくいですが、罠を置いてるから問題ないでしょう。見るのはそこを中心に。ただし、ずっと同じ場所を見ていても駄目ですから、他の場所にも注意して下さい。後は眠くならないように色々するのも手です。ただし、音が鳴った時に気づけるようにしてください」


「はい!」


 こうしてフィアルさんから見張りを替わった私だったけど、いざ一人になると何をして過ごそうか? 本は集中するし魔法もダメとなると、弓ぐらいかな? 矢を撃たなければ大丈夫だと思った私は弦を一回引いて後悔した。


「これだけでも音はなっちゃうよね。仕方ない、構えの練習だけにしておこう」


 こうして私は向きを変えながら構えを繰り返すという練習を行い続けたのだった。当然、一時間もすれば飽きてしまって残りの時間は座るだけになってしまう。


「いけない、いけない。ちゃんと立って見張りはしないとね。でも、立ってると疲れちゃうしな」


 ただでさえ私の体力は二人に比べて低いのだから、遅れることはないようにしないと。せめて高い位置で座れる椅子があれば……。


「それも、回転できれば簡単に見張れるんじゃないかな?」


 思い立ったが吉日、私は風の結界を張って、ターン機能付きの簡単な椅子を作成した。別にこれぐらいならそんなに集中しないしね。こうしてできた椅子に座りながら、ちょっとだけ本を読みつつ警戒することで、私は見張りの時間を過ごしたのだった。もちろん、軽く警戒の魔法を使うことも忘れない。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「本は集中するし魔法もダメとなると、弓ぐらいかな?矢を撃たなければ大丈夫だよね。と思った私だったけど、弦を一回引いて後悔。 「音、なっちゃうよね。仕方ない、構えの練習だけにしておこう」 風…
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