お盆話 霊の邂逅 アスカと女神と子ども
「おねえちゃんおはよう~」
今日もエレンちゃんの声とともに食事が運ばれてくる。
「エレンちゃん、今日は何日だっけ?」
「今日?今日は八月の十三日だよ」
「そっか、今日はお盆なんだね……」
昔は死んだらそれまでなんだよって言ってた私だけど、家族のみんなはどうしてるかな? せめてお線香の一本ぐらいは欲しいかも。
「お盆? ちゃんと下に引いてるよ?」
「ううん、そうじゃないの」
ちょっとセンチメンタルになった私は今日の細工仕事を休んで、ごろんと横になる。
《チチッ》
「ミネル、ありがとう」
心配してくれるミネルを横に、私はしばし眠るのだった。
「起きなさいアスカ……」
どこからか声が聞こえる。誰だろう? 知っているような懐かしい声だ。だけど、私の目は開くことはない。そのまま私の意識は奪われ、また別のところで目覚める。
「どうやらうまく行ったようですね。さあ、あなたの記憶には残りませんが、ひとたびの出会いに往きなさい」
「ここは……」
目を開けると、前世の家族みんなが見える。だけど、みんな何だか大人びてるなぁ。
「明日香が死んでもう十年。早いわね」
「お前も、今や家を出て帰省だからな。向こうで頑張ってるんだろ?」
「もちろん! あの子に無様なところは見せられないもの、本当にね」
「そんなこと言って迷惑かけてないのあなた? どうかしら……さん」
「いえ、家事に育児にと頑張っています」
「母さん、そんなこと聞いてまた来る気ね。きちんと来る時は連絡してよ」
「だぁ~」
みんなの話を聞いていると退屈したのか、小さい子がこっちに来る。まだ、二歳くらいかな?
「どうしたのそんなとこに手を出して?」
「あ~」
私のこと聞きたい? 私の名前はね、明日香って言うの。
「あす~」
そうそう、もうちょっと。小さいのに賢い子だね。
「あす~きゃ」
ん~、まあこれくらいの子なら仕方ないよね。ところで君はどこの子かな? うちに小さい子は居なかったけど……。でも、さっき私が死んで十年経ったって言ってたし、ここは未来なのかな?
「あすきゃ」
そうだよ。ふふっ、じゃあ君はお姉ちゃんの子かな? 宜しくね。といっても、次会えるかわからないけど。
「この子ったらどうしたの? いつもはこんなこと無いのに」
「まるで猫みたいだな。なにかいるみたいに」
「だあ~だあ~」
君にだけは私が見えるみたいだね。一緒にいたお姉ちゃんたちには見えないのに。会ったことの無い君にだけ見えるなんて不思議。でも、みんなが幸せそうでよかった。
「あぅ~」
手を出してどうしたの? 握手かな?
ぎゅっ
わわっ!? 本当に手を握れた。君ってばすごいんだね。将来は霊能力者になれるよ。今時、流行るかは知らないけど……。
「あぃ~」
「本当にどうしたんだ。まるで手を握るみたいにしてるぞ」
「今日はお盆だし、本当に帰ってきてるのかも。何てね」
「あれだけ幽霊も何もいないって言ってたあいつがか?」
「向こうは幽霊だらけなんだから改心したのかも」
「嫌な改心ね。さあ、お父さんがそうめんを作ってくれたから、食べに行きましょうか」
「珍しいわね」
「夏場に火を使う大変さを教えてあげたら、妙に張り切っちゃって」
「なあにそれ、急にカッコつけちゃって。さあ、行きましょうね~」
あっ! 私の手を握っていた子がお姉ちゃんに抱っこされちゃった。……きっとこれでお別れかな? バイバイ。
「ばぁば~」
「本当に何かいたのかしら。ねえ、明日香……」
「うん?」
目が覚めて辺りを見回す。ここは?
《チチッ》
「あっ、ミネル。おはよう」
ミネルに挨拶をして身体を起こす。カーテンを開けるとまだお昼頃みたいだ。
「今日は良い天気だし、お昼を食べたら出掛けよう!」
何だか頭もスッキリしてるし、色々見て回ろうかな? せっかくだし、たまの休みを活用してエレンちゃんと一緒に買い物へ行こう!
「エレンちゃ~ん。お昼上がりに一緒に出掛けない?」
「おねえちゃん、いいの? お母さんに聞いてくるね!」
こうして私の八月十三日は過ぎていきました。よく分からないことがあった気がしますが、それさえも気にならない良い日でした。
「明日香……あなたの未練が少しは晴れたでしょうか? これが私に出来る最後の行いです。これであなたが心身ともにアスカとなれるよう願っています」