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清算と在庫確保

 じーっと私が渡したネックレスをエステルさんが見つめる。


「せっかくだから、このヴィルン鳥の羽のアクセサリーを売らないの?」


「実はちょっと違うデザインでもうすでに作ってあるんです。今日ミーシャさんと話をしたんですけど、今度細工屋のおじさんのところかどこか場所を借りて、お手頃価格の商品をたくさん並べようかなって」


「そんなことして大丈夫なの? ああいうのは一個一個作ってるから手間暇かかるんでしょう?」


「今回のは今まで作ったものの失敗作や余った木を使って作っているので、材料費はそこまでかかっていないんです。それに加工の時間もそんなにかからないものにしてます。だから細部の作りとかは甘いものもありますし、ある意味ご奉仕品ってことで」


「なるほどな。うちだって今はオーク肉がちょっと余ってて出す量を調整してるみたいなことか。それをアスカは提供する大きさじゃなくて、配る量で考えたんだな」


「そういうことですかね。これからまた部屋に戻って、後十個ぐらいは作りたいです。大体、一個当たり銅貨六~八枚ぐらいになればと思ってるんですけど……」


「はぁ~、アスカったら本当に商売っ気がないわね。ちゃんと開く日が決まったら教えてね。私も見てみたいし、年長の子と一緒に行くから」


「はい、決まったらお知らせします」


 こうして話は進み、みんなには開催日が決まったら知らせるということで解散となった。私もお部屋に戻っていっぱい作らなきゃね。


「ミネル~、今日は遊んであげられなくてごめんね」


 細工にやる気一杯の私はミネルにそう断ってから作業を再開する。羽根のデザインの飾りはもう少し作っておいてもよさそうだね。これは色味がちょっと悪くても銀を使おうかな。ミネルって結構貴重な鳥みたいだし。


 後はヴィルン鳥とバーナン鳥の羽のセットだ。これをくっつけたデザインにして、幸運と家内安全のお守りみたいな感じにできないだろうか? この世界だと神様がいるって分かってるし、もっと浸透しそうだけどなぁ。


「今度ムルムルさんに相談してみようかな?」


 彼女からは二週間に一度、手紙が届くようになっていた。それも、最初は司祭様が巫女様からと直接持ってきてたんだけど、騒ぎになりそうなので今はシスターさんがこそっと持ってきてくれる。

 手紙自体も色々な土地を回っているせいか、きっかり二週間というわけじゃなくて、各地からの距離が届くまでに如実に表れている。ぺらりと、前に届いた手紙をめくる。


「こうやって昔は届いてたんだなぁ。今はメールですぐに届いちゃうし、私もお手紙なんてほとんど書かなかったなぁ。それじゃ、手紙を書こう」


 向こうからの手紙は二週間ぐらい毎だけど、私からの手紙は結構早くに届くみたい。まあ、内容も各地を回っているから、滞在先の町のことが書いてあるし、まとめるのが大変なんだろうな。

 私は紙を取り出すとさらさらと書いていく。最近あったことも書いて……一応、教会の人とかも知ってるだろうけど道中お気をつけてと。後はミネルのこととかも書こうかな?


「なんだか今回はいっぱいありすぎてまとまらないなぁ。まあいっか! 全部書いちゃおう」


 こうやって書いていくとムルムルさんはすごいと思う。いつもお手紙は二枚にまとめられていて読みやすいし、簡単な地図を裏に書き添えてくれてるしね。


「こういう人のことを考えられるってところが、いかにも巫女様ってところだよね。私もアラシェル様の巫女じゃないけど、信仰を広めるものとして見習わないとね!」


 それはさておき手紙を書き終えた私は、教会に行きささっと手紙を渡してくる。出来るだけ見られないのもコツだ。教会に頼まれて像を作ったことは広まっているけど、さらに出入りしているなんて話しまで広まったら大変だよ。

 バルドーさんが教えてくれたけど、地方都市には教会認定の細工師なんてほとんどいないらしくて、巡業とかで来た時に、熱心な信者さんが神像を作ってくれと依頼するらしい。


「噂が広まったらひっきりなしに依頼が舞い込むぞなんて言われたしね」


 作ること自体は良いんだけど、ずっと同じものを作るのも飽きちゃうし、その人なりのイメージもあるから制作時間も取られちゃう。他のも作りたい私からすれば、あんまりありがたい話じゃないんだよね。そんなこんなで裏口から入って、お願いしますだけ言って手紙を渡してきた、私は直ぐに部屋へ戻ってきた。


「ミッションクリア! 後は残りの製作だね。何にしようかな? もう板状のは少ないし、大きな塊もないから必然的に小さい物になるんだけど……花とかは立たなくなるし、動物だと小鳥とかになっちゃうなぁ」


 どうしても材料が少なくなるとデザインも似たり寄ったりになる。何か良い案が欲しいな。そう思い題材に使えそうなものを探す。ふと、ミーシャさんにもらったジュースが目に入る。


「う~ん、せっかく冷えてたのにちょっとぬるいや。それにちょっと水も垂れてきたし……そうだ! この木片を使ってコースターを作ってみよう! これなら色々な絵も描けるし」


 そうと決まればまずは小さく切り刻む。次に切り刻んだものに圧力をかけて接着剤を落とし、さらに上から圧力と熱を加える。


「どうだ!」


 見た目はおかしくないけれど、どうだろう? 風魔法でちょっと冷まして、コップを置いてみる。吸水はきちんとしてるようだ。後は耐久性だね。木片自体は燃料行きで捨ててたし、これからも結構使えるかも。


「ただ、接着剤がちょっと高いんだよね。まあ、これは今後の課題としていったん枚数を作っちゃおう」


 作り方が分かれば後は簡単。てきぱきと一枚、二枚と製作していく。柄もと思ったけど、塗料は水を弾きそうなので、ここは熱を入れて焦がすことで柄にする。こういう時も魔法は便利だ。ちょっと熱を加えすぎるとボロボロになるみたいだから、加減は間違えないようにしてと。とりあえず十枚ぐらい作って、店で耐久実験してもらおうかな?


《チッ》


「ミネルも一緒に来るの? ちゃんと肩につかまっててね」


 階下に下りた私たちは再びミーシャさんを呼んで、ことのあらましを説明する。


「実際に効果があるならうちでも導入したいわね。ちょっと置くのは手間かもしれないけど、最初の分は先に置いておけばいいわけだし」


「そうだね。次のお客さんが来る時に拭くんだけど、結構濡れてるんだよね」


「じゃあ、とりあえず十枚作ったのでサンプルとして使ってみてください。効果があったら一緒に販売することにしますから」


「頑張ってね」


 これで一週間後には結果も分かるだろうし、効果があるなら追加もできる。時間がかからないものだし、結果次第で数も増やせて一石二鳥だ。


《チチッ》


「どうしたのミネル? ミーシャさんたちの手伝いをする? 邪魔にならないようにね」


 ミネルは部屋で何もしないのが退屈なのか、宿のお手伝いをするようだ。でも、受付をするぐらいしかできないけどね。それもすごいことだけど。この宿の名前が元々、鳥の巣だったことが功を奏して、より受け入れやすくなっているみたいだ。


「偶然とはいえこんなこともあるもんだね」


 部屋に戻った私はそう呟いてから作業を再開する。結局、その後も頑張って六枚ほどコースターを製作し、後の材料について考えてみる。


「残りは銅が少しと銀にシェルオークだね。なんていうか使いづらい組み合わせだな。銀とシェルオークの組み合わせ自体は良いんだけど、銅貨六枚の中に銀貨五枚の価値がある物を入れるわけにもいかないし……かといって銅とだとちょっとね。目玉品として大銅貨二、三枚ぐらいのを格安で一つぐらいだったら構わないんだけどなぁ」


 う〜んとうなっているばかりで先に進まない。実際に作ったものを見ると分かるけど、シェルオークとオーク材の違いは顕著だ。同じものを並べれば素人でも分かるぐらいに存在感が違う。

 だけど、残ったもので作るとなると銀との組み合わせ以外には考えられない。これで作りたいものもあるしね。


「うまくいくか分からないけど物は試しだね」


 私は持っているスキルを活用することに決めた。魔道具に関する本を見せてもらった時に見えたのだけど、シェルオークは自分のスキルをわずかながら付与することができるらしいんだって。というわけで、スキルを解放しないとね。


「隠蔽スキルの隠蔽を解放!」


 このままでは隠蔽が認識されないと考えて、私はこの世界に来て初めて隠蔽スキルを解放する。この状態でシェルオークを縦長に切って女神像を彫る。

 ただし、デザインは以前作った神々しくない方だ。こういうモデルならシェルオークって思われにくいと思ったのだ。


「このシェルオークをオーク材といって販売することにしよう! チェーンの銀を売りにして安価に販売すれば、まさか買う人もそれが高額品だなんて思わないだろう」


 後は当日、シェルオーク製の物を他の物と同じ場所に置かなければ完璧だ。


「銀をチェーン状にして女神像の背中のところに通すんだけど、金属と擦れて折れても嫌だし、ここの繋ぎにはひもを使ってと。そしてここからが本番だ!」


 私はすぅ~っと息を吸い込んで呼吸を整えると、改めて魔法を込める準備をする。


「女神アラシェル様。女神グリディア様。女神シェルレーネ様。守りの加護と祝福を与えたまえ。また、心清きものに行き渡るよう、我がスキルを付与したまえ……」


 輝きとともに光がネックレスに吸い込まれていく。女神像の中心部には青い色が杖には赤い色が帽子には白とも銀とも取れる不思議な色が付いた。


「成功、なのかな?」


 魔道具は個人で作り方が違うので、どうやれば出来が良くなるのかは千差万別だ。以前エレンちゃん用のを作った時と同じようにしてみたんだけどどうだろうか? 効果は保証できないけど、お守り程度の力はあると思いたい。


「ホルンさんに鑑定を頼みたいけど、さすがに売値が大銅貨二、三枚の商品に鑑定をするのはあまりにもマイナスだから仕方ないよね」


 その時ドアをノックする音が聞こえた。でも、かなり小さい音だ。


「は~い」


 なんと、ドアを開けた先にはミネルがいた。


「さっきの音はミネルだったの? どうやってノックしたの? あたっ!」


 私が聞くとミネルは私のおでこに風圧を当ててきた。ちょっと痛い、というかミネルぐらいの小さい鳥が羽ばたいて出せる風圧じゃないよね。


「ひょっとしてミネル、魔法が使えるの?」


 シーっといわんばかりに羽根を片方立てて、もう一度、ドアに二度コンコンと風圧を当てる。明らかに魔法だね。


「ヴィルン鳥って魔法も使えるんだね。だけど、あんまり無茶はしないでよ」


《チチッ》


 ちょっと魔法が使えるからとまた冒険についてくる気じゃないかなと心配になりつつも、ミネルが迎えに来たので、私は夕食を食べるため食堂へ下りた。



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