番外編4 サブキャラたちの毎日
ここでは日常をアスカと過ごしていないサブキャラたちの普段の生活を描きます。基本的に本編には絡まない設定ですので、安心して読み飛ばせます。ただ、思い付きで書いているので後日出てきた場合はごめんなさい。
バルドーの帰国後
「ふぅ~、船に揺られること一週間。ようやくの里帰りだな。前に帰ってきたのはいつだったか? 三年前ぐらいか?」
あの時は自分がまだ三十歳になったばかりのころだから、それぐらいか?
「何にせよ、ここに着いたところで意味はないんだがな。さて、地元までの移動馬車を探さねぇと」
残念ながら俺の地元はこんなでかい港町じゃなくて、まだまだ先の内陸部だ。
「ここに来るといつも思い出すぜ。最初のころは船酔いがひどかったんだよなぁ」
感慨に浸る間もなく俺は馬車を探す。なんせ、一日一馬車あればいい方だからな。早く見つけねぇと。
「おい! そこの馬車はどこ行きだ!」
「グラントリル行きです」
「本当か! いや~、運がいいな。荷物が多めだが乗せてくれ」
「その分、お高くなりますがいいですか?」
「ああ、どうせ次を待っても一緒だろう」
「そうですな。こっちも助かります。こっち方面は仕入れはいいのですが、行きの集まりが悪くて……」
「おう! おっさん、もう出発しないのか? 俺たちだって忙しいんだ」
奥から顔を出したのしたのは冒険者だ。見たところランクはDランクの四人組。恐らくはこの商人が雇った護衛だろう。さっきの話からするとこっちからグラントリル行きは儲からないから、護衛のランクも下げているんだろうな。こいつらは帰りの雇用のことを考えていないみたいだし、行きで終わりだな。
「あ~、わりぃ一名追加だ」
「早くしてくれよ!」
「すみませんお客様……」
「構わねぇよ。だが、帰りは面倒になる前に他の奴手を付けといたほうがいいぜ」
「ええ、向こうからはお得意様がいますので」
「そりゃ安心だな。こっちも大荷物なんでな。何かあったら格安で受けてやるよ」
なんせ今回の荷物はただの土産じゃない。アスカにねだって大量に作ってもらった神像もあるし、あいつへの土産もあるしな。
「それは助かります。それでは出発いたしましょう」
俺の他には二組だけの人を乗せて、馬車は目的地へ出発する。まあ、あんな冒険者がいて道中に何も起こらないわけがなく。
「今日はこの辺で休息にします。明日は夜明けとともに出発しますから、起こしても構わない方はこちらのテントで、そのままという方は馬車の中も空きがありますので、そのまま馬車でお眠りください」
「なんだよ。俺たちが見張りにつくのにいい身分だな」
「やめなよ」
「それより今日の見張りは誰にするんだ?」
「お前らやれよ。俺は日中警戒するから」
「ちょ、ちょっと、さすがにそれはないんじゃない? 交代でするのが普通でしょ」
「うるせぇな。こっちは昨日飲んで疲れてるんだよ」
リーダー格の男はさっさとテントに入っていく。いや、仮眠を取るなり交代にするのは勝手だが、そこは客用で護衛は最低限自分のテントかそのまま。何かあった時のために、他の奴の近くで寝るのが当たり前なんだが……。
「あれに常識を説いても無駄か。おい、商人のおっさん。別に外で寝てもいいんだよな?」
「は? テントの外ですか。まあ、構いはしませんが……」
「あんなのに俺の荷物は任せられんからな」
こうしてグラントリル行きの三日間は常に外で眠る羽目になった。途中には魔物の襲撃もあり、予防線を張っておいてよかったぜ。
「へぇ~。それじゃあ、バルドーさんはグリディア様の像を運んでいるんですね」
「ああ。だが、運んでいるみたいに言われると俺がまるで商人みたいだな。まあ、確かにアスカに作らせてこっちで売るんだから商人か」
「私もちょっと見せてもらってみてもいいですか?」
商人は俺の言葉に興味をそそられたのか、アスカ制作の像が気になるようだ。
「ほらよ。交換とかもできないから壊すなよ」
「分かっておりますとも! ほう、これは素晴らしい出来ですな。最近この手の神像はあまり人気がなくてですね」
「なんでだ? 俺は数年留守だったが、ずっと人気だったろ?」
「それが人気の為、冒険者たちが依頼しても順番待ちが発生していたんです。そこに粗悪品の業者が登場して私たちが買い付けて売ろうにも、有名な銘でもなければ売れなくなってしまって……」
「ひょっとしてこれもか?」
「いいえ、これほどいい出来なら銘がどうであれ売れますよ。私も結構色々な工房に依頼しましたけど、良い出来ですよ。もちろん、有名ではないので値はそこよりも下がりますけどね」
「安心したぜ。頼み込んで無理して作ってもらったからな。これで売れなかったら怒られるどころじゃすまないぜ」
「バルドーさんってお強いのに、そこまで言われるなんてどんな人なんです?」
「どんなって言っても、娘に近いか?」
「えっ!?」
「まだ、相手は子どもだからな」
「子どもに無理して作らせたんですか?」
「だ、大丈夫だよ。そいつだって冒険者なんだし、できる範囲だって!」
「でも、作りを見ると職人気質ですし、これ一体いくらなんです?」
「ここだけの話だぞ……」
俺は仕方なくアスカとの取引した一体の価格を出す。もちろん、今見せている分だけだ。
「……商売上手ですなぁ。うちならもっと高く買い取りますが」
「まあ、これでも一介の冒険者だしな。こっちでの生活もあるし無理もできないんだよ」
「確かに、即金という事を考えればギリギリですかな」
「それにきちんと差額の一部は追加で送るからな。さすがに相場も確認しない価格が適正とは思っちゃいねえよ」
「それは素晴らしいですね」
そんな話をしているとようやくグラントリルに着いた。この町は自然が豊富で、木材や石材などが主な資源だ。その為、この町で細工屋や林業を営めるのは一流の目利きだと言われている。まあ、俺は冒険者だからそこまでは知らないがな。
「商隊か。こっちで受付を……ん? お前何処かで」
「よう、ランディス! まだ門番なのか?」
「バルドーか! いや、俺はもう衛兵隊長だぞ。だが、最近は魔物の動きが活発でな。こうして順番に門を回っているんだ。巡回のパトロールもしてるぞ」
「おい、それより早く受付をしてくれよ!」
「失礼な護衛だな。きちんと奥で商人が別の者としているだろう? 喚いても早くはならんぞ。こっちも町の安全の為なんだ」
昔はもっと角が立たないようにしていたのに、えらく立派な態度になったなこいつ。
「俺たちを誰だと……」
「やめとけよ。この辺にはCランクの魔物もいるんだぞ。そこの門番に手を出して無事で済むと思ってるのか?」
「そうよ。最近あなたおかしいわよ」
「うるさい! さっさと、ランクを上げたいのにお前らが足を引っ張るからだろ!」
「やれやれ。とんだ帰省だな。そこのガキ、あとでギルドまで来な!」
「……いいだろう」
俺の言った意味が分かったのか、そいつが答える。
「すみません。うちのリーダーが」
「構わんさ。だが、お前たちもよくよく考えろ。この町で稼ごうと思ったら、あいつと一緒なら間違いなく命はないぞ。お前らウォーオーガの群れと戦ったことは?」
「オーガとなら三体とだけ……」
「話にならんな。その対応が頭に思い描けんなら駄目だ。通ってきた道は比較的安全だが、奥側はそれができて一人前だ」
「考えておきます……」
騒ぎとなった後も検問は続いていたようで、商人がこっちに来る。
「すみませんなうちの護衛が」
「いや、俺が手を出し過ぎたせいだろう」
「それより、道中見せてもらった神像に興味があるのですが、どこにお泊りで?」
「ロックビューという宿だ。俺の名前を出せば案内してくれるだろう」
「分かりました。それではまた後で……」
俺は客だから門をくぐったところで商人とはお別れだ。さて、ギルドで一杯やるか、なじみの顔とも会っておきたいしな。
「いらっしゃいませ!」
「ああ、奥の席を借りる」
どうやらまだ日中だから知った顔はいないようだ。とは言ってもこの年だからやめている奴も、死んでるやつも一定数いそうだが。
「あら、どこかで見た顔だと思ったら……」
「ん? ジェシーはまだ受付やってたのか?」
「まあね。給金もいいお仕事よ。そう簡単にはやめません!」
「後進に譲る気がないってか」
「鑑定持ちの子が来てくれればねぇ」
「それは難しそうだな。あいつらはどうしてるんだ」
「ご想像の通りかしら。でも、きちんとまだ活動している人も残ってるわ」
「そいつはよかった。この町もまだまだ安泰だな」
「だけど、木材は他の地方に押され気味でね。ちょっと冒険者は減っちゃったわね」
「あっちの方は食べてよし、売ってよしの魔物がいたはずだが需要が減ったのか? そりゃ残念だな」
「本当にね。オークアーチャーですらちょっと高くなってるもの。私も久しく食べていないわ」
「そりゃ、残念だな。俺は向こうで食ってきたばかりだ」
「……よかったわね。そういえば怪我とか大丈夫だったの?」
「ああ、途中で何度かはケガをしたがな。ここ数か月は大丈夫だ。きっとこいつのおかげだな」
俺はポケットからグリディア様の像を出す。
「あら、よくできてるわね。すごく高かったんじゃないの?」
「まあまあだな。だが、携帯できるし便利だぞ」
「確かにね。うちでも取り扱いたいぐらいだわ。だけど、そんなこと言っても一品物よね?」
「そう思うだろ? もちろんこの姿のグリディア様の像は一つだけだがな……」
俺はちょっと席を立ち、マジックバッグから他の像を出す。
「嘘! 出来の良い像がこんなに!? 最近は悪質な物が出回って忌避されているのが嘘みたいな出来よ」
「だろう? 土産にと思ってあいつらの分も用意してるし、他にも十数体持って帰ってきたんだ」
「随分お金がかかったんじゃない?」
「もちろんだ。だが、それに見合うものだろう?」
「当り前よ。すぐにでも店に行きましょう! これは、今すぐにでも並べられるわ!」
「お、おい、ちょっと待……」
俺はジェシーに引っ張られて、ギルドから店に連れていかれる。荷物を回収できたのは運が良かったのか?
「おお、ジェシーどうした? あん、そいつは誰だ」
「パパ、バルドーよ。それよりこれを見て!」
「バルドー? ああ、キュルスのところの……。これはグリディア様の像か? 後ろの銘を見る限り知らん銘だし、また不良品か?」
ジッと像を見るおやっさん。細工物店をしているだけあってその眼力は恐ろしい。鑑定持ちだが鑑定を使わずとも鑑定できるほどの目の持ち主だ。
「これは……魔力も感じるし、ここ最近では一番いい出来だな! どこで買ってきた?」
「いや、向こうの大陸の宿の奴に……」
「そいつを連れて来れんのか? いいものを作らせてやるというのに」
アスカのことを知らないからだろうが、相変わらず無茶なことを。
「まだ、そんなに旅慣れしてないから無理だ。代わりと言っちゃなんだがここにある分を出すから」
俺は勢いに負けて土産の分を除き、次々と出していく。元々、ここで売ってもらうつもりだったから話が早くて助かるが、もう少し落ち着いて欲しいぜ。
「ほうほう。何タイプかに分かれているんだな。いやぁ~、ここまで他の大陸の奴が情熱を持って作ってくれるとはな。向こうじゃ、まだまだ知名度が低いからな」
「そうなんだよ。こいつも絵は二枚程度しか見てないはずなんだ」
「ふ~む。この、銅製の物もそうだが銀製の物二体はまた格別だな。本当に加護があるように見える」
「そうなのか? 俺にはあまり分からんかったが。そういえば魔道具で加工していると言ってたがそのせいか?」
「いや、魔道具で加工してもそうそうは魔力を感じることはないぞ。どれ……」
おやっさんは眼鏡をかけ替え、仕事モードに入る。あの眼鏡をしている時はじっくり物を見るのと、スキルを使う時だ。
「ほう……ふむ、なんと! 本当に加護が付いておるな。微量だが、木製の物にも銅製の物にもきちんと付いておる。不思議だな、普通はここまで簡単に付かんというのに」
「どうパパ。いいものでしょ!」
「ああ、値段は後で話をするとして、今すぐ渡せ! 今日中に全て鑑定するわ!」
「あ、ああ、だけど費用は……」
「これだけのものに費用なぞいらん! さっさと寄越せ!」
言うが否や、おやっさんは大事に神像を集めていった。それ以降は奥に引きこもり鑑定を続けている。
「こうなったらもうだめね。店は閉めとくわ」
「そうした方がいいな」
店をcloseにして俺たちもギルドに戻る。そろそろあいつらも着いているだろう。