表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/491

大量生産

 やや遅い昼食を食べる私の前に、いつもの食事時になったエレンちゃんが自分の食事を運んでくる。


「エレンちゃんも一緒なのって、なんだか久しぶりだね」


「そうかも。だけど、最近はずっとお野菜中心だったからわたしの分はお肉だけどね」


 二人で仲良くお食事タイムだ。メニューはエレンちゃんが肉中心で私は野菜中心。さすがにお土産のサンドリザードの肉はもうないみたいで、エレンちゃんのお皿の肉はオーク肉だった。


「へぇ~、今日はオーク肉なんだね。前はオーク肉もそこまで出なかったのに」


「半分はおねえちゃんのおかげだよ。お土産のサンドリザードとオーク肉の仕入れタイミングが被ったおかげで、ちょっとオーク肉があまり気味なんだ。急いでお父さんが干し肉に回してるんだけど、間に合わないのをちょっと多く出してるの」


「そうだったんだ。確かに、昨日もいっぱい出てたみたいだしね」


 昨日は私が早くにお客さんを一杯入れたんだけど、そのお客さんがサンドリザードの入ったちょっと高めの料理を次々と頼んでくれた。それで売り上げ自体はよかったんだけど、そこに注文が集中して当初の予想よりもオーク肉が余ったらしい。

 あの行動さえなければ普段と違う料理があると思われなかったんだろうな。まさかこんなところにまで影響が出ていたとは。


「まあ、わたしは助かるけどね。お肉の方が洗うのは大変だけど、作る時間とか切ったりする手間は少ないから待ち時間も少なくて楽なんだ」


 そういえば最後の洗い物はミーシャさんとライギルさんが二人でやってるから、エレンちゃんやエステルさんからすると楽になるんだ。私はお昼のお料理を運ぶところまでだから、そういうのは分からなかったよ。


「でも、あんまり値段って変えられないんでしょ?」


「そうなの。だから同じ価格でちょっとだけ一人前の量を増やし続けてるんだよ。こうすれば数日後にはさばけるみたい」


「よかった。変に宿の仕入れのお肉が残ったら悪いしね」


「いいよ~。おねえちゃんの持ってくるもののおかげで結構宿も儲かってるし。それにこのオーク肉も前にもらったものの残りが入ってるから」


「結構、オークの肉って日持ちするんだね」


「お父さんに聞いたら保存にもコツがあるみたいで干し肉にしなくても持たせられるんだって」


「へぇ~、さすがはライギルさんだね」


「でしょ」


 エレンちゃんと私は和やかに昼食を取り、エレンちゃんが店番に入る時間まで一緒に過ごした。


「まだ、ミネルたちは帰ってきてないみたいだね。じゃあ、細工の続きをしようかな?」


 私は午前の作業の続きに入る。まずは木の箱だ。一個作ってみてわかったけど、透かし彫りとか結構箱にもバリエーションを持たせられることが分かった。この勢いのまま、まずは板状の木材を使って箱を作っていこう。


「出来上がった箱は横幅も五センチぐらいしかないし、これぐらいなら銅貨八枚ぐらいで売れそうかな?」


 一食分と考えたら高いかもしれないけど、小さいものを入れておけて最低限の彩色もあるから、買ってもらえる自信はある。


「後はどうしようかな……透かし彫りの柄ってどんなのがいいだろう。やっぱり定番の鳥とかかな?」


 鳥といっても白鳥みたいなイメージだ。不死鳥だっけ? そんな感じのイメージで作ってみよう。こっちの鳥とはイメージが違うと思うけど、もしかしたら違う地域にはいるかもしれないし。

 こうして私は箱を作り、底の部分を除いた正面・後ろ・側面・ふた部分と柄を入れていく。最初はとりあえず同じ模様を四面+蓋に入れる。そして、お次は……。


「そうだ! ふたの部分はともかくこれなら出来るかも!」


 私は勢いよく正面・後ろ・側面と彫っていく。ただし、今回は四面とも柄が違う。私が彫った柄というのは四聖獣。玄武に白虎に朱雀に青龍と各場所に彫り進めていく。やっぱり自分で彫って見ても思うけど、迫力があってかっこいいよね。古今東西を問わず好まれるデザインだと思う。


 その後も私は色々な柄を使って箱を作っていく。そして、気づいたら後ろには箱が七つも並んでいた。最初のやつを合わせれば八個だ。ここらへんでひと休憩かな?


「ん?」


 なんだか気配がする。


《チチッ》


 気配がしたと思ったら、ミネルが帰ってきたみたいだ。お友達は……一緒にはいないみたいだ。遊び疲れちゃったのかな?


「ミネル、お友達と遊んでたんでしょ。もういいの?」


《チッ》


 ここからは私と一緒だよと私の肩につかまるミネル。


「そう。でも、今日はびっくりしたよ。朝起きたらまさかミネルがお友達を連れてくるなんてね。これからも仲良くね」


《チィ》


 そういえばミネルはいつも私と一緒にいるけど、旅に出る時はどうするのかな? 一緒にいて欲しい気もするけど、戦えないしあの子たちともお別れすることになっちゃうから、それまでにはちゃんとお話ししないとね。


「私は何してたかって? 見ての通り細工だよ。いっぱい作ったんだよ、ミネルも見る?」


《チチッ》


 私は出来たものを机に並べていく。こうして並べてみると、今日だけでも結構作ったんだなぁと思う。


《チィ》


「どうしたのミネル?」


 ミネルが一つの指輪の前で足を止めてじっと見ている。そういえば人が飼っている鳥の中には目印として足環をしているのもいるんだっけ。


「これを付けたいの? でも、これはそういうために作ってないしなぁ。怪我しても大変だし、もっと軽い金属でもあれば作ってあげるんだけどね」


 軽い金属って言ったらアルミだけど、材料はなんだろう? でも、簡単に出来ないって聞いたことがある。とりあえず高熱でやれないかは試してみよう。


「ミネルの頼みだしね。そうだ! 他にも宿の従業員向けに社員証みたいなのを作ろう。一目で分かるようなものがいいけど、大きかったら邪魔だしここはネックレスかな?」


 柄はどうしようかな? とりあえず作ったものは仕舞ってと……ん? ここにも羽が落ちてる。これを使ってみようかな。チェーンは切れたら手間だから丈夫なひもを使って、デザインはミネルの羽根と今日来たお友達、二羽の羽根を使ってと。

 もちろん、ミネルの羽根も先に作ったのとは別のデザインだ。従業員証の偽造防止だね。


「ちょうどライギルさんとミーシャさんとエレンちゃんみたいでぴったりだしね」


 これを3つともひもに通して完成!宿屋〝鳥の巣〟の従業員用アクセサリーだ。早速、みんなの分を作っちゃおう。ルンルン気分で作っていた私だったけど、その時はあることに気づかなかった。



「できた~! これでライギルさんとミーシャさんとエレンちゃん。それに、エステルさんとリュートの分も完成。今日はリュートがお休みだから、渡すのは明日になるけど、他のみんなには先に渡しておこう!」


 気分よく階下へ下りてみんなに説明したけど、そこでちょっとしたことが起こった。


「へえ~、綺麗ね。従業員証なのに普通につけられるアクセサリーなのね」


「はい! やっぱりかわいくないとって思って」


「確かに店員だって見せれば分かりやすいし、旅人や冒険者にも説明が簡単だが……」


「どうかしましたかライギルさん?」


「アスカ、お前何も考えずに銀で作っただろこれ」


「えっ!?」


 よく見るとネックレスの羽根部分は銀製だった。余っていた部分だとは言え、銀自体は汚れもくすみもなく、再利用できそうな品質だ。


「流石にこれを貰うわけにはいかんなぁ」


「そうね。これだけ立派な細工物を作ってもらって、ただで済ませる訳にはいけないわね」


「それに私たちが店でつけてたら噂になって、同じ物とは言わないけど注文が来ると思うわよ。これかわいいし」


「でも、これは私が勝手に作ったものですし……」


 勝手に作ってお金を貰うのは気が引ける。


「勝手にでもきちんと使い道のあるものだし、こういうところはきっちりしないと駄目だぞ」


「そうね。アスカはもう少し、この宿との関係をきっちりしなさいよ。個人なのか細工師なのかってね。ここは細工師の部分だと思うわ。前も部屋の改装にはお金貰ってたでしょう?」


「そうでした……」


「まあ、今回のことを次に生かしてくれればいいさ。じゃあ、今月の宿泊費は無料でいいな」


「えっ!? それだと結構な額になりますよ?」


「この細工物だって売ればそれなりにするだろう? 俺だってアクセサリーの値段が分からないわけじゃないぞ」


 意外だと一瞬思ったのが顔に出たようで、ライギルさんがなんだよと反応する。


「じゃあ、このネックレスが今後は従業員証ということだな。そう言えばリュートの分は?」


「きちんとありますよ。明日来たら渡そうと思ってます」


「あら、アスカの分はないの?」


「最近は軽いお手伝いの範囲ですし、自分で作ったのを身につけるのって何だか恥ずかしくて」


「きちんとアスカも身につけないと駄目よ。そ・れ・に! 今後も従業員が増えた時のためにもう少し作っておきなさい」


「ええっ!? そしたら今度こそ発注が……」


「構わないぞ。アスカのお陰でパンも美味しくなったし、売り上げも去年から上がり調子だからな。従業員についてもエステルやリュートとも相談して、孤児院の方から回せないかと話も今はしてるからな。来年からはもう少し人を増やすかもしれん」


「そうなの。もしかしたら私も厨房に入ったり、接客から離れたりするかもしれないの。今は色々な考え方をしているのよ」


 みんなおんなじ生活をしているようでも少しずつ変わっていってるんだな。そんな風に思いながらもそれならと私も、四つほど追加でネックレスを作ることにしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そう、自覚もなく作ってるけど、銀はそれなりの値段がするんですww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ