初めての合同調査報酬
「ようやく話が終わったのね。後はあなた達だけよ」
「すみません」
「まあ、今回は他の奴らが早く切り上げたからね。それよりホルンさんが昼の受付で最後まで残ってんのかい?」
「ええ、アスカちゃんが心配だったからね」
「ありがとうございます」
「まあ、時間も遅いしさっさと清算しようかね」
ほとんど人がいないギルドで私たちは報酬の確認を始めた。
「ギルドマスターからはあなたたちの合同調査依頼の報酬を上げるよう連絡が来ているので、今回の報酬は通常の銀貨二枚が各パーティーに、それにプラスして各パーティーに銀貨三枚が加えられます」
「結構なプラスなんだね。依頼料なんてのはおまけみたいなもんなのに」
「今回は上級ランクの方に町周辺の調査という効率の悪い仕事を頼んでますから。これもギルドからの協力金です」
「なるほどな。確かに俺たちは今日、そこそこ獲物と出会えたが、空振りのパーティーからすればゴブリンとオークしかいない町周辺の調査は割に合わないな」
「そういうことです。それでは素材はありますか?」
「素材といっても解体が必要なものばかりだしねぇ……」
サンドリザードなどは解体場行きなので、ここで出すようなものは……あった。
「私は持ってますよ、このオークメイジの魔石」
「確かにそれはそうだが……」
「あんな小さいものを見つけるのはアスカ以外無理だろうし、分けるものでもないだろう」
「私も同意だ。正直、薬草の見分けといい周辺の確認においては我等では敵わぬだろう。魔石もそのサイズでは一緒に埋めてしまっていただろうしな」
ユスティウスさんに続いてファーガソンさんも後押ししてくれ、オークメイジの魔石は私が貰えることとなった。
「よかったじゃん、アスカ!」
「よかったね」
「二人もいいの?」
「いつもお世話になってるからね。これぐらいなんでもないよ」
「俺には使い道がないしな」
「それじゃあ、今回は素材は無しで!」
「分かりました。後は討伐した魔物の報酬だけど、合同だからここは半分でいいのかしら?」
「ああ、あたしたちは構わないよ。なあ、アスカ?」
「はい!」
「俺たちも問題ない。それだけの結果ももらったしな」
双方の意思を確認すると、ホルンさんは計算を始めた。
「それじゃあ、合計は銀貨十八枚ね。各パーティーに銀貨九枚ずつということでさっきの依頼料に足しておくわ」
「結構いい金額になるんだな」
「そりゃあ、ちょっとかじった程度の冒険者が倒せる相手じゃないからね」
「はい。それじゃあ、いつも通りあなた達の分は個別に分けておくわね。そちらのパーティーさんは?」
「俺たちは後で分配するから全額くれ。通常はそうしているんだ」
「分かりました。ただ、高額になる時はお断りするかもしれませんので、よろしくお願いします」
「どのくらいからなの?」
「金貨二十枚ぐらいかしら?」
「分かったわ。気を付けるようにするわね」
清算を済まし、いよいよファニーさんたちとはお別れだ。
「皆さんそれじゃあ、今日はありがとうございました」
「ありがとな」
「ありがとうございます」
「縁があったらまたな」
「こっちこそ、期待のルーキーが想像以上だったわ。それにヴィルン鳥のミネルちゃんとも触れ合えたし」
《チッ》
「ファニー、お前は……。アスカ、こちらこそ要所で助けてもらった。それに新しい知識を得ることもでき有意義だった。ありがとう」
「久しぶりに良い魔法を見せてもらいました。また会うことがあればぜひ」
「はい!皆さんもお気をつけて」
こうして慌ただしく長~い一日が終わりを告げようとしたのだった。
「ようやく終わったね~」
「後は帰るだけってか?」
「何言ってんだい。素材はないけど解体待ちのはあるだろう?」
「そういえばファニーさんたちは?」
「あいつ等なら仮の住居を借りてるから、帰ってからさらにバラすだろうね。バッグへ入れる前に切り分けてたしね」
「そうだったんですね。それじゃあ行きましょうか……」
もう帰れると思っていた矢先の出来事だったので、ちょっとだけ意気消沈して私は解体場へ向かう。
「おお、こんな時間までご苦労だな。って、アスカたちか。珍しいなこんな時間に来るなんて」
「今日は岩場まで行っていたからね」
「岩場だと!? ジャネット、ちょっと無茶しすぎではないか?」
「言い出したのはあたしじゃないよ。ファニーが誘ってきて合同の依頼だよ。Cランク四人にDランク一人、Eランクが二人のパーティーさ」
「ふむ、それならちと安心かの。それにしてもまだ冒険者になって日が浅いのにもう岩場とはな。アスカは将来、もっと高ランクの冒険者になりそうだな」
「私はCランクになれればそれでいいんですけど……」
あんまり高いランクになっても、今度は色々な依頼を回されそうなので遠慮したい。別に難しい依頼をこなしたいわけじゃないし。
「そういうな。ランクが高いとそこそこ便利だぞ。ギルドからの扱いもいいし、行きつけの店でも作れば値引きもつく。宿もたまにただにしてくれるしの」
「おっさん、いっつもたかってたのか」
「失礼な小僧だ。これでもAランク間近まで行ったんだぞ。怪我してこのざまだが…」
「大変ですね。怪我で引退なんて……」
「怪我した場所がダンジョンの奥だったからな。治療をしようにも仲間もぎりぎりの状態でな。いや~生きて帰れただけでも儲けものだ。それより獲物を見せんか!」
「あっ、はい」
私はマジックバッグからオークとサンドリザードを取り出す。続いてジャネットさんも隣の台にサンドリザードを置く。
「ほほう? 岩場だからもしやと思っておったが、四体もか。さぞ苦戦しただろう?」
「残念だけどアスカのおかげで、あんたが思ってるより苦戦してないよ」
「そうそう。サンドリザードをバ~って空中に放り投げたんだぜ!」
「ほう……それはすごいのぅ」
押し黙ったクラウスさんだがすぐに表情を戻すと、台の上の素材を見る。
「オークはいつも通りだな。後はサンドリザードか、二体はかなり損傷が大きいな」
「あ~、それティタがやったやつだ」
「ティタ?」
「岩場で出会ったゴーレムさんです。あの子が拳で殴ったから」
「さしものサンドリザードと言えどゴーレムには敵わんか」
「ちなみにサンドリザードってどこが買い取れるんですか?」
「ふむ、基本的に捨てるのは内臓の一部だけだな。皮の内側は弾力があり、外側は凸凹しているものの硬い。肉はやや硬いが味はよく、そこそこするな。内臓は足が早いから特に高いぞ! わしが冒険者の時は定期的に狩ったものだ」
「ちなみにこの二体は?」
「内臓は切ってみないと分からんが微妙だな。他のものは大丈夫だろう。刃の跡があるものはともかく、もう一体は完璧だな。今すぐ刃を入れたいぐらいだ」
「そ、そうですか」
「何照れてるんだよ」
「いたっ! 叩かないでよノヴァ」
自分が仕留めたサンドリザードなので照れていると、後ろからノヴァに小突かれた。
「そうだよ。珍しくアスカが人前で照れてるのに……」
「リュートもひどい」
「倒したのはアスカだったのか! いやいやこれは中々できん事だ。ランクが高くてもできないやつには一生無理だろうな。これからもいい素材をくれ」
「は、はいっ、頑張ります!」
「じゃあ、買取価格だがこの傷物二体が銀貨八枚。こっちの刃の方は金貨一枚でこれは金貨一枚と銀貨五枚だ」
「ええっ、そんなに値段変わるのかよ」
「綺麗な物が少ないからな。特にこういう外皮が硬い魔物ほど顕著だ。二体は内臓の肉部分が、もう一体は逆に皮の部分に損傷があるからこの値段だ」
「まあ、今回のパーティーならってとこだね。ある程度安心して戦えたのが大きいだろう」
「そうですね。それじゃあ、いつものようにお肉タイムですっ!」
疲れて若干ハイ気味な私にノヴァとリュートもついてくる。
「よっしゃ~、俺も今回は親方たちのために多めに買うぜ!」
「僕もみんなへのお土産にしたいです」
「買うなら量に気を付けろよ。こいつはオークより高いから、今までの量だと銀貨二枚だ。それでも悪いところだ」
「なんで悪いところが出るんだ?」
「肉の筋や、皮が硬いからだ。切り分けるのが大変なんだよ」
「じゃあ、今日ぐらい高いところにするか……」
「そうだね。僕もそうするよ」
「たまにはいいよね」
「全くあんたたちときたら。まあ、たまにはいいかねぇ」
結局、私は初めての肉ということで良い部分を選んで銀貨四枚、ノヴァとリュートはそれぞれ量を減らして銀貨二枚だった。ジャネットさんもジェーンさんにお土産として渡すらしい。
「ジェーンの奴がまた最近籠るようになってね。これで、外に出るといいんだけど……」
そういうジャネットさんは高いと言われていた内臓を多めに買っていた。
「意外です。ジェーンさんって内臓好きなんですね」
「いいや。調合素材としてたまに使うって言ったからね。喜ぶとは思うけどねぇ……」
「ううっ、一体何と混ぜるんでしょうか」
「聞きたいかい?」
「こ、今度機会があったらお願いします」
「そうかい? じゃあ、あたしはジェーンのところに寄ってくからここで別れようか」
「そうですね。お疲れさまです、ジャネットさん」
「お疲れ~」
「お疲れ様です」
「ああ、お前らは寄り道せずさっさと帰りなよ」
「はい!」
ジャネットさんとは一足先に分かれて、解体場から少し離れるとノヴァたちとも別れる。
「それじゃあ、私も宿に戻るね」
「俺たちもだな」
「うん」
さよならといってみんなと別れ、久しぶりの宿へ戻ったのだった。