収獲&報告
「それじゃあ、サンドリザードの回収をするか。この大きさなら平均的なマジックバッグに四体は入るから全部回収だな」
「なら、それぞれのパーティーでとどめを刺したやつを持ち帰りでいくとするかい?」
「そうするか。この場合なら私たちと合同とはいえ、本来だと実力差が大きいはずだからな。得てしてそういう場合はとどめを刺したパーティーが獲物を取ることが多い」
「それだと、弱い方は全然取れないってことじゃん」
「でも、普通は勝てない相手にも勝てるって言うメリットもあるわ。流石に全部総取りなんて人もまずいないしね」
「それに残念ながら今回は俺たちが一体でそっちが四体、それとゴーレムが一体だがな」
「そういえばゴーレムさんの分はどうしましょう? サンドリザードを食べるんですか?」
「う~ん、生態についてはそこまで詳しく知られていないからなぁ」
「じゃあ、ミネル聞いてくれる?」
《ピィ》
ミネルが私の言葉を聞いてゴーレムさんと会話する。ミネルの言いたいことなら私もちょっとは分かるから、これで大丈夫だよね。
《チチチッ》
なんだかちょっと複雑な動きをしている。
「えっと、肉は食べるけど少なくていいし皮もいらないって。分かった伝えるね」
「どうだった?」
「あんまり食べないらしいです。肉を四分の一ぐらいで皮はいらないみたいですね」
「あれだけ大きいのに少食なのね」
「それじゃあ、解体は任せるよ。ファニー」
「はい、任されました。みんなはちょっと休憩しておいてね」
「僕、見させてもらっていいですか?」
「ええいいわ。じゃあ、行きましょうか」
ゴーレムさんの分を解体をしにファニーさんとリュートが向かう。ファニーさんがガキンガキンとサンドリザードの硬そうな皮にナイフを入れていく。一度入ればすぐに切れるようで最初こそどうかなと思っていたけど、一気に作業が進んでいった。
そして、数分後には綺麗に部位ごとで切り分けられたサンドリザードが出来上がっていた。
「私は次の個体に向かうからよろしくね」
「じゃあ、僕もついていきます」
「ありがとうございました。ミネル、ゴーレムさんを呼んできて」
《チッ》
ミネルがゴーレムさんのところへ行き話しかける。すると、再び立ち上がりゴーレムさんがこっちに歩いてくる。
「どこでもいいから好きなだけ取ってね。そうだ! 手が汚れないようにするね」
風の魔法でゴーレムさんの手を覆い、汚れないようにする。ゴーレムさんはどちらかというと内蔵に近い部分を取っていき、外の方の肉はあまり食べなかった。でも、一口一口が大きくて食べ方には迫力があった。
「ふわぁ~、すごい。食べ方が豪快だね。もういいの?」
《ギギ》
大丈夫だとゴーレムさんは元いた岩場へ戻っていく。ゴーレムさんだと呼びにくいし、名前を付けてもいいかな?
「ねえ、ゴーレムさん。名前つけてもいいかな?」
《チチチッ》
ミネルが私の代わりに通訳をしに行ってくれる。
「どうミネル?」
ミネルはゴーレムさんの肩から、私の頭上に来てクルクル回っている。
「良いのかな? それじゃあ……」
ゴーレムっぽい名前か、ゴーレムさんってこれ以上大きくなるのかなぁ? なったら巨人ってことだよね。巨人、巨人……ティタにしよう!
「ゴーレムさん! あなたの名前はティタでどうかな?」
《ギギ》
ゴーレムさんがこっちに顔を向けてくれる。大丈夫そうだね。
「それじゃあ、あなたは今日からティタね。ギルドにも言っておくから、あなたをティタと呼ぶ人はあなたを知っているからよろしくね!」
腕を上げてそれに応えてくれるティタ。これでこの周辺で冒険者が危険になっても助けてくれるかもしれない。それにティタを無理に倒そうとする人も減るだろうし。
「そうだ! よくわかるように目印をつけてあげる」
私はマジックバッグからストールを取り出すと、ティタの左腕に巻き付ける。
「これで君も私たちのパーティーの一員だよ。そうだ! 今度パーティーのメダルも作ってきてあげる。ちょっと時間がかかるけど待ってて」
「さて、それじゃあ残りのサンドリザードはギルドで解体しましょう。今日はここまでにしておいた方がよさそうだし」
「そうだな。各自荷物をまとめて撤収だ」
「はい! またね、ティタ」
私たちは荷物とサンドリザードをマジックバッグへしまい込んで帰路につく。元来た道を引き返すので、森に行くまでは全く魔物と出会わなかった。
「ちっ、ゴブリンなんぞにかまってる暇もないんだがね」
「ならさっさとやってしまおうか」
「はい!」
帰り道の森の中ではゴブリン六体と出くわした。だけど、相手より先手を取って私とユスティウスさんが魔法で牽制し、一気に前衛の二人が決めにかかる。
「遅いっ!」
瞬く間に二体を切り伏せ、次のゴブリンの元へと向かう二人。私は弓でユスティウスさんが魔法で追撃し、後ろのゴブリンを倒す。そしてすぐに残りの二体も倒された。
「はい終わりっと。全くさっさと帰して欲しいもんだね」
「そうだな。処理をして帰るとしよう」
私はユスティウスさんと協力してゴブリンを埋める。これで、今日は何度戦闘をしただろう。さすがにちょっと疲れてきた。
「アスカ、大丈夫?」
「リュート、心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
「しんどかったらおぶってやるぜ?」
「良いよ。本当に大丈夫だから」
それからしばらく歩いてようやく門前に着いた。もう辺りは暗くなり始めている。
「よう、アスカたちじゃないか! 珍しいな。いつもはもっと早いのによ」
「うん。今日は調査でちょっと岩場まで行ってたの」
「あそこまで行ったのか。危なかっただろ? 大丈夫だったのか」
「あたしらが付いてるんだよ。大丈夫に決まってるさ」
「ジャネットさん。後ろは?」
「こんばんはかな? 最近ちょくちょくこっちには来てたんだけどね」
「ファニーさんでしたっけ? アスカたちと一緒に行ってたんですか?」
「そうよ。おかげで私たちも助かったわ。それじゃあね」
「はい。アスカたちも気を付けてな」
「ありがとう門番さん」
門番さんと別れて町へ入る。そのままギルドに向かってひとまずテーブルで休憩。
「おう、アスカたちはようやくか? 今日のところは様子見の奴が多かったから、一番遅い帰りだぞ」
「ジュールさん、こんばんは~」
「どうだった成果は?」
「成果はあるけど、朝に聞いた話とは違うかもねぇ」
「まあ、ここで話というのもあれだし上で話そうか」
「では行こうか」
私たちはジュールさんの部屋へと案内される。八人いるから若干狭いけどしょうがない。
「それで、成果の程は?」
「まずは森にゴブリンとオークの混成部隊がいたという事と、変異種がいたという事と、後は……」
「まて、まずは一つずつ言ってくれ。こっちも他の奴らが調査してきた情報と照らし合わせないといけないんでな」
「分かった。まずは森の入口から少し進んだところでゴブリンとオークの混成部隊が出てきた」
「ふむ、まあゴブリンとオークの混成部隊自体は他の地域じゃ珍しくもないな。この地域はほぼその二種類の魔物で構成されているから、今後は多くなるかもな。じゃあ、次にいってくれ」
「ああ、次は森を進んだところで、罠を発見したので周囲に隠れていたオークメイジとその他オークの変異種を討伐した」
「メイジが罠を仕掛けていたのか?」
「確実とはいえないが、配置も考えると間違いないと思う」
そう言ってファーガソンさんは敵の配置を話す。相手が飛び出したのは一瞬で、自分たちは戦闘中だったのに覚えているなんてすごい。
「なるほど。確かにこの場合、放置した時の被害は大きいな。助かった。出現場所は?」
「ここです」
私は持っていた地図を広げて、敵と出会ったところを指し示す。
「なるほど、割と岩場に近いから初心者は近づかないだろうが、Eランク程度のパーティーにはつらいかもしれん。規制解除後も南側は警戒するように情報を出そう」
「他のパーティーの報告はどうなんだい? あたしたち以外にも出かけてるんだろう」
「確かにそうなんだが、説明会の後で時間も中途半端だったからな。多くのパーティーが隣町との中間地点まで行って戻るに留めてるんだ。今のところ一番遠い戦闘地域に行ったのはお前たちだ」
「やれやれ、ここが一番層が薄いってのに……」
「そう言ってやるな。パーティーも人数が増えれば準備にも時間がかかる。明日から挽回してくれるさ」
「そうね。続きに移りましょう。続きなんだけど岩場のことだし……」
「どうかしたのか?」
ファニーさんは意味ありげにこちらへ顔を向けると、ジャネットさんと合図をする。
「そうだね。ここは当事者のアスカに言ってもらおうか」
「ええっ!? 私からですか、まあいいですけど」
「何だ、また何かしたのか?」
「何もしてません。あのここなんですけど……」
そう言って私は岩場のところの一点を指す。
「ここか。特に魔物が多くはない地域だな。岩場でも簡単な休憩ぐらいはできるだろう」
「そこにゴーレムさんが住んでたんです」
「ゴーレムさん? アスカお前とうとう魔物の言葉が分かるように……」
「分かりません! ミネルが私の代わりに話してくれただけです。そのゴーレムさんは人と敵対する意思はないみたいなんです」
「そうなの。私なんて襲われてたところを助けてもらったのよ。こうガツンってね」
ファニーさんがティタの動きを真似する。結構似てるのが面白い。
「ほう? 確かにゴーレムとは何度か戦ったが、襲ってこないやつもいたな。そういうのは面倒だから無視してたが、無害という事か?」
「少なくともミネルとアスカには友好的だったね」
「それで、今後も冒険者には手を出させないようにお願いして欲しいんです。ゴーレムさん……ティタもそうしてくれますし、もしかしたら助けてくれるかも」
「それはまあ、冒険者もゴーレムは基本的に手を出さなければ安全だと知っているからな。だが、なにか目印があるのか? 荒っぽい他の個体もいるかもしれんしな」
「大丈夫です。目立つように赤い布を左腕に巻いてますから」
「それなら大丈夫だな。ギルドの方で個体登録をしておこう。今回の調査はそれで終わりか?」
「いや、もう一つだけ。その奥でサンドリザードの群れに会った。最初は一体だったが、後から五体出てきた」
「サンドリザードがこの辺りにか……あまり目撃情報のない地点だからここは危険度を上げるか」
「報告は以上だ」
私たちが報告を終えると、ジュールさんの表情は強張っていた。他の報告もあまり良いものじゃなかったのかな?
「知らせとしてはいいものではないが、大変有益な情報をありがとう。これで、調査は一歩進んだ。明日からの調査依頼にも役立てる」
「頼むよ。こっちも中々面倒だったんだから」
「ああ。じゃあ、報酬を下で受け取ってくれ」
こうして私たちは報告を済ませカウンターに向かった。この日はみんな早めに切り上げたのか、待ち時間はなかった。