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二重調査

 森を抜けると一気に小さい岩と土の景色が広がる。その景色の移り変わりに私は圧倒されてしまった。


「うわぁ~、すごい!」


「本当、一気に変わるんだな」


「そうだね。ちょっと木が少なくなったと思ったら、一気に出てきた感じだね」


 私たちは初めての岩場に見とれているとジャネットさんが話しかけてきた。


「だろ? だけど気を抜くんじゃないよ。ここで一番気を付けないといけないのは、保護色だよ」


「保護色?」


「土なら土の色を自分の体の色にしている奴のことさ。ここにいるサンドリザードが有名だね。特に森とは景色が違うから注意しないとね。木の影ってのがない分安全に思えるけど、目の前の岩が魔物だったってことにならないように」


「はい。ところでこの先って他には何があるんですか?」


「この先は海になってる。この周辺は魔物も多いから町も作れないんだよ」


「そうなのよ。この辺にも町を作って王都への海上輸送も考えたことがあるらしいんだけど、どうしても安全が確保できなかったみたいよ。海の魔物は戦いにくいし」


 ジャネットさんの言葉に補足を入れてくれるファニーさん。みんな色々なことを知ってるんだなぁ。


「やっぱり船だと揺れですか?」


「揺れるのもそうだが、俺たち前衛の人間は飛び込めないから、どうしても船上からの攻撃に限定されるし、魔法も有効なものを持ってるとは限らない。最悪、酔うやつだっているしな」


「うげっ! 俺、酔わないかなぁ」


「乗ってみるまでは分からないからきちんとどこかで試すのよ。いざ乗って戦えないじゃ周りに迷惑よ。最初から分かっているなら覚悟できるしね」


「色々考えないといけないんですね」


「まあ、今はそれより調査だな。君たちにはまだ先の話だ」


 ファーガソンさんの言葉で私たちは岩場に向かって歩き出す。


「ここの辺は砂地に岩が転がっている感じですね」


「この辺りはな。だが、もう少しレディト側に行くと岩の密度が多くなる。そっち側が本命だな」


「そうだね。この辺はサンドリザード以外の魔物は少ないから、他の魔物とは出会わない可能性の方が多いね」


「まあ、私が警戒しているから大丈夫さ。相手も土属性だから、私の攻撃魔法の威力こそ落ちるものの、探知の範囲は広がるからね」


「へぇ~、すごいですね。属性の特長が生かせるなんて。僕も魔槍で使う以外でも魔法の使い方を覚えないと!」


「向上心があることはいいことだ。という訳である程度は安心して進んで構わないよ」


「それじゃ、お言葉に甘えて進もうか」


 私たちは少しずつ奥の方へと進んでいく。すると最初は小さかった岩が少しずつ大きくごつごつしたものになっていく。私でも持てそうなものだったのが、次第に私の身長ほどもある岩も出てきた。


「こんなにいきなり大きくなるものなんですか?」


「どうなんだろうね? 意識してまで見たことなかったからねぇ。ここはそういう場所だって考えだからさ」


 なんだか、不思議な場所だ。この先は海で逆側は森。それなのに岩だけ大きさが変わっていくなんて……。


「みんな、一旦止まれ!」


 ユスティウスさんの突然の呼びかけにピタッと足を止める私達。


「どうした?」


「そこの奥、恐らくゴーレムだ」


「その奥? 岩しか見えないけどな」


「その岩自体がゴーレムという魔物なんだ」


「お、襲ってくるんですか?」


「いや、ゴーレムはあまり攻撃的ではないから、どうかは分からん。だが、気は抜くな」


「お話ができればいいんですけどね」


「アスカは全く……」


《チチッ》


「ミネル!?」


 私の言葉に答えるようにミネルがゴーレムの方へ飛んで行く。


「お話しできるのミネル?」


《チチチッ》


《チチッ チチッ》


 何度かミネルが鳴くとゴーレムはこっちに首を向けてきた。というか頭があそこだったんだ。身長は150センチぐらいかな? 私よりちょっと高い位だけど、あの頭の大きさから考えると横幅は私よりもありそうだ。そんなことを考えながら見ていると、ゴーレムはゆっくりと立ち上がった。


「ど、どうしましょうか?」


「まあ、ミネルが襲われていないみたいだし、ちょっとだけ様子を見よう」


「そうですね」


 少ししてミネルがこっちに戻って来た。そして、私の肩に掴まるとゴーレムの方へ飛んで肩に戻るを繰り返す。


「大丈夫ってことかな? ちょっと行ってきます」


「気を付けなよ!」


「はい」


 ミネルを肩に置いたまま私はゴーレムに近づいていく。ゴーレムは特に威嚇行動を取ることもなく堂々と立ったままだ。


「こんにちは、ゴーレムさん?」


《ギギギ》


 ゴーレムさんが音を発しながら体をこっちに向ける。う~ん、敵意を感じないしもうちょっと近づいてみようかな?


「私はアスカって言うの。よろしくね!」


 手を差し出すと、ゴーレムさんはスッというよりギィーと言う感じで腕を動かしてくる。ゴーレムさんの手と握手したけど、とてもごつごつして冷たかった。実際に岩なんだけどね。だけど、敵意もないしこのままここにいてもらってもいい気がする。


「そうだ、パーティーのみんなを呼んでくるね!」


 私はみんなの元に戻ると状況を説明する。


「みんな、あのゴーレムさんいい人みたいです。みんなで行きましょう」


「人じゃないけどねぇ……まあ、アスカが言うなら行こうかね」


「あれがゴーレム。硬そうだね」


「もちろんよ。魔法使いのいないパーティーの天敵だもの」


「動きが遅いからまだましだが、オーガとは別の意味で厄介な相手だ」


「さあ、みんな行こう」


 私はジャネットさんの手を掴んで、ゴーレムに近づいていく。それにしてもファニーさんたちはこんな時まで魔物の特徴について話すなんて、さすが冒険者っていう意見だなぁ。


「ジャネットさんもどうぞ。きっといい人ですよ」


「はいはい」


 まずは私とジャネットさんの二人が近づく。やっぱりおとなしい子なのか特に何もしてこない。


「こっちの人がジャネットさん。とってもいい人なんだよ」


「別にそういうのじゃないけどね。まあ、よろしく」


《ギギッ》


 ゴーレムさんも手を出してジャネットさんと握手をする。他のみんなとも自己紹介を終えるとゴーレムさんが急にぐるりと向きを変えた。


「みんな、敵だ!」


「えっ!?」


 ユスティウスさんの声にどこだと目を周囲に向ける。だけど、周囲に変わったところはない。でも、ゴーレムさんはさっきから一点を見つめている。同じ岩場の魔物だから場所が分かるんだろうか?


「みんな、あっち!」


 すかさず私はゴーレムさんの目線の方を指さす。しかし、それと同時に岩だと思っていたところから魔物が飛び出してくる。


「危ない!」


 魔物が飛び出したと思ったらその勢いのまま、ファニーさんに向かっていく。


《ギギギ》


 跳びかかろうとした魔物をゴーレムさんがバンッと拳で吹き飛ばす。


「助かったわ」


「今だ、魔槍よ!」


 リュートの呼びかけに答え、魔槍は伸びて長い槍に変化すると、魔物に突き刺さった。魔物には致命傷だったようで動きが止まる。


「よし、周囲を警戒だ。ユスティウス、残りは?」


「待ってくれ。一、二、三……全部で五体だ。いずれもそっちの奥だ!」


 ユスティウスさんはさっき魔物が飛び出してきた先を指さす。


「よし、見えてるのが岩じゃないなら風を利用して……ストーム!」


 風を地面から勢いよく舞い上げる。すると、近くまで来ていた三体が砂と一緒に空へと舞い上がった。


「ナイス、アスカ! 右と中央はあたしたちでやる。左は頼んだよ!」


「はい! ユスティウスさんは警戒を続けてください!」


「ああ、ここの敵は君の魔法の方が効きそうだ。攻撃は任せるよ」


「行くよ、ウィンドカッター!」


 宙に舞った左の魔物に照準を合わて、三つの刃を放つ。しかし、二つ目からの刃は後続の魔物に弾かれてしまう。


「くっ、もう一度! ウィンドカッター!」


 私は再びウィンドカッターを空中に飛ばし、再度魔法を唱える。


「六つの刃ならそう簡単には防げないよね。いけっ!」


 ヒュンヒュンと一度目と二度目に出した刃が一気に敵へ向かって疾走する。魔物の姿を改めて確認してみると、トカゲのような形をしている。きっとあれがサンドリザードなんだろう。

 こちらの手数に今度はお互いをフォローし合うことができず、各々が魔法を防ごうとする。


「甘いよっ! ウィンドアロー」


 私はすかさず弓矢を出して魔法の対処に夢中になっているサンドリザードを狙い撃つ。風の魔法を込めた矢が一体の頭を撃ち抜いた。


「残りの二体は? 一体は直撃みたいだけど、もう一体は防いだみたいだね。あっ!?」


 攻撃を防いで反撃に出ようとしたサンドリザードにゴーレムさんが向かっていく。


《ギギギ》


 岩の体と思えぬ速さで振りかぶって拳をサンドリザードの腹に打ち込むゴーレムさん。攻撃をかわせなかったサンドリザードは地面に叩きつけられた。ピクリとも動かないところを見ると死んだようだ。


「こっちも片付いたよ」


 よっと剣を掲げて合図してくれるジャネットさん。


「やれやれ、まさかサンドリザードの群れとはね。つくづく君たちはついていないね。俺たちと一緒だという事がツキといえばそうかもしれないが」


「かもしれないねぇ。単独で速さ硬さを持ち合わせてるあいつら相手はあたしたちだけじゃ、つらかったかもね」


「まともに姿がよく見えなかったぜ。特に、最初はどこにいるのかわからなかったな」


「だね。アスカが浮かせてくれなきゃ、どこにいたのかも僕は分からなかったよ」


「私もゴーレムさんの視線を追っていただけだから」


 後は地面から感じた僅かな魔力の流れだけど、これは魔力操作のスキルの影響が大きいし、リュートには難しいかも。


「だけど、案はよかったわよ? いるのが分かっても見つける方法がないと結局は不意打ちをくらっちゃうわけだしね」


「ゴーレムさんもありがとう。あなたのおかげでみんなにもけががなかったよ」


《ギギギ》


 ゴーレムさんは何でもないというようにスッと体を地面に付けて休む。戦って疲れちゃったのかな?


《チチッ》


 ミネルもお疲れさまというようにゴーレムさんの肩へ止まる。


「うん。このゴーレムさんはいい人だし、きちんと報告書に書いとかないとね。ゴーレムさん、この周辺にいても人間が襲ってこないように伝えておくからね。だけど、それを知らない人間もいるから気を付けてね」


《ギギ》


 分かったというようにゴーレムさんが返事をする。


「いやしかし、確かにゴーレムには助けられたな。私の土属性魔法でもサンドリザードは探知しにくいからな」


「どうしてですか?」


「あいつ自体が土属性の魔法を使えるからな。こっちの探知を相殺されるんだ。もちろん、相手は魔法が得意ではないからある程度近づいたら分かるがな」


「さすがですね。でも、そうやって聞くとサンドリザードってすごいんですね」


 改めて今まで岩場へこなかったことを私は安堵した。




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