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予定外の調査

 森を進むこと数分、行った先には変化がなく薬草も取られていない。


「こっちには来てないみたいですね。薬草が採られてませんし、一部採られているものも比較的綺麗です。これだけ綺麗に採るには慣れが必要です」


「そうか。なら少し岩場方向にずれてみるか」


 来た道を少し引き返し、さらに南下していく。


「こっちは少し変ですね」


「変ってどう変なの?」


「何か不自然に抜かれてるような……上手く言えないんですけど、人が抜いたのとは違うんです」


「恐らくはトラップだね」


「ああ、トラップを使えるなら変異種だろうな。気をつけろ」


「トラップまで魔物は使えんのかよ……」


「どうしましょう。こっちの位置はバレますけど、風の魔法で一気にめくりあげてみます?」


 恐らく、草を採ったり採らなかったりして、誘い込んでいる形から地面に罠があるとみられる。


「いや、それなら私がやろう。土魔法でその罠の位置を動かしてやろうじゃないか」


「そんなこと出来るんですか!」


「まあ、伊達にCランクじゃないからね」


 ユスティウスさんが魔法を唱える。


「よし、これで罠の場所は変更した。場所はあそことあそこだ」


 罠の移動先をみんなに指さす。これで情報の共有ができて後は魔物を見つけ出すだけだ。


「近くにいるだろうが、ここまで。する相手だ最初の罠があった場所の近くで出てきて誘い込もうとするだろう。そこでこっちが移動させた罠にはめて、動揺したところを一気にやるんだ」


「じゃあ、アスカはここで元の位置に戻りな。あたしとファーガソンで誘い出すよ」


「はい、お願いします」


 今までは身をひそめながらの行軍だったけど、ここからは私たちと少し離れて、ジャネットさんたちが音を立てながら意気揚々と歩きだす。


「さあて、どうなるかね」


「後は相手の全容だな」


「あんまり多くないといいねぇ」


「そうか? 報酬は大事だろう」


「おいおい、まだ岩場についていないんだよ」


「そうだったな。……おっと、お出ましか」


 ジャネットさんたちが剣を抜いて歩きだす。奥から何かの気配がする。相手も気づかれているのは分かっているみたいだ。

 ヒュンとジャネットさんの横を矢が通り過ぎる。どうやら向こうには弓使いもいる様だ。


「みんな、風の加護をつけるね。ウィンドバリア」


 膜状の風を身にまとわせて、みんなの身を守る。これで一度ぐらいは矢を防げるだろう。


「よし、それじゃあこっちも動こうか……」


 気づかれないようにそっと動き出す。向こうではもう戦いが始まっている。ただし、相手は誘い込むつもりのためとても消極的だ。


「よし、元罠があった場所だ!」


「せーので踏むよ、せーの!」


 二人が罠を踏んだと思った魔物は少し離れたところから一気に出て来た。勝負を決めるつもりだったのだろう。しかし、そこへ罠が移動しており、出てきたばかりの魔物は罠にはまり転んだ。


「今だ、一気に仕掛けるぞ。アースニードル!」


「分かりました。ウィンドカッター!」


「私も行くわ。ファイアボール」


「俺たちも……」


「僕とノヴァは後ろ!」


 相手の姿を確認することなく私たちは魔物に魔法を放つ。ユスティウスさんが元々いた魔物の足止めに土の針を、私とファニーさんの魔法で転んだ魔物を攻撃する。出てきた魔物は四体ほどだろうか? 風の刃で切られ、その後は火の玉の爆発に巻き込まれて黒焦げになった。


「どうでしょう?」


「効いてるはずだけどね」


「ナイスだよ。こっちも行くよ!」


「ああ!」


 前衛の二人もこのチャンスを生かして、一気に畳みかける。魔物たちは後ろの状況を確認すればよいのか、前に対処してよいのか混乱して立ち止まっている。


「くらいなっ!」


 二人の剣で二体の魔物が倒れる。確認すると、どうやら前にいたのはオークの亜種だったみたいだ。だけど通常のオークよりも痩せ型で、ゴブリンに近い体型だった。後方の魔法を当てた魔物たちはまだ息があるものもいるようで、立ち上がろうとしている。


「させない、エアカッター!」


「アースランス!」


 私とユスティウスさんの魔法で起き上がろうとした二体にとどめを刺す。残りの二体はすでに息絶えていた。


「ふう、これだけの相手に簡単に勝てるなんてね。運がいいわね」


「ああ、どうやら率いていたのはオークメイジだな。魔法もさることながら知恵も高い厄介な魔物だ。きっと、アーチャーと一緒に罠にかかったところを一気に後方から攻撃して、葬る算段だったんだろう」


「まるで人間のパーティーみたいですね。怖い……」


「そうだな。各々に役割を持たせているから、たとえ戦力差があっても、怪我人が出ることがあるから何事もなくてよかった」


「だけど、これじゃ肉は食べられないよなぁ」


「ノヴァはこんな時まで……。僕らはほとんど見てただけなのに」


 こんな時まで食料のことなんてノヴァは余裕があるみたいだ。


「だってよ、リュート。俺たちまだオークメイジの肉は食べたことないだろ? きっとうまいんだぜ。アスカだって気になるよな?」


「まあ、ちょっとだけ……」


 ノヴァの言う通り、ちょっと興味はある。だけど、怪我をしてまで会おうとも思わないけど。


「そりゃ残念だね。オークメイジはあんまり動かないからか、オークの中でも脂身が多いんだよ。その割に臭いもきついから脂も使いづらいし、可食部も少ないからオーク以下の値段だよ」


「な~んだ、じゃいいや」


「軽いわね」


「金にもならないし、土産にもならないなら別にいいぜ」


「お土産って弟でもいるの?」


「ああ、孤児院の奴らにな」


「孤児院か……あんまり話を盛らないようにな。子供は直ぐにあこがれるから、夢だけを見させないように!」


「分かってるよ」


「一回院長様にも注意されたよね。みんなが冒険者を目指したらどうするんだって」


「そうだったのね。リュートや院長様がいてくれて良かったわね」


「まあな」


「さあ、それじゃあここも始末してしまおうか。特に今回は取るものもないし」


 みんなが後始末に動き始めた時、オークメイジの死体のところできらりと光るものを見つけた。ちょっと血が付いているので風の魔法で吹き飛ばして手に取ってみる。


「ユスティウスさん、なんでしょうこれ?」


「うん? これは魔石だね。落ちてたのかい?」


「はい。そこで光っていたので……」


 そう言ってオークメイジのところを指さす。


「へぇ~、薬草だけじゃなくこういうのも見つけるのがうまいんだねアスカは。これが魔石だよ。魔物の中でも魔力が高いものほど落としやすくなるんだ。確かメイジの魔石は……」


「熱を扱うものだな。汎用性があるから、強さに合わず中々いいものだ。まあ、戦闘には使えないが」


「流石は魔法使いだね」


「一応は自分の属性ではなくともな。珍しく熱を扱う魔石の中でも冷ますこともできたはずだ」


「冷ませるんですか!」


「あ、ああ。多分な……」


 よしよし、この魔石を使えば冷蔵庫に近いものができるかもしれない。私はギュッと魔石を握りしめマジックバッグにしまった。


「じゃあ、ここは私が埋めよう」


 ユスティウスさんが土の魔法でパッと穴をあけると、大地を凹っと抉り次々とオークの死体を埋めていく。最後に土を被せて終わりだ。


「へぇ~、土魔法ってすごいですね」


「本来、私のような者がするんですよ穴埋めは。なのでパーティーでも水と地の魔法使いは結構重宝されるんです」


「火だって便利だろ?」


「便利は便利だが、火を起こすぐらいなら使い捨ての魔石もあるし、付いたら後は薪次第だろう? それならまだ強い風を防いだりできる風の方が有用だ。特に森では火事になりかねんからな」


「それでも結局はコントロールよ。私は森を焼いたことはないわよ?」


 森は焼いたことはないんだねファニーさん。おそらく林とかはあるんだろうなぁ。あの手のごまかし方は前世で何回か見てきたからね。


「それより先を進むとしよう。大分岩場に着くのが遅くなった」


「だね。だけど、ここまでのことも報告対象だよ」


「そうですね。私が地図とメモに書いておきます」


 メモと地図を取り出し、ここまでの戦闘地点と状況を簡単に書き留める。こうしておくとギルドへ戻った時に報告を簡単に済ませられる。その後できちんとした報告書を提出すればいいよね。


「ジャネットのところのリーダーは働き者だな」


「まあね。でも、あんたもファニーに頼ってないで働きなよ?」


「善処する」


 こうして、再び私たちは岩場を目指して進んでいく。だけど、ほとんど岩場の近くに来ていたので数分歩くだけだった。そして、森が少しずつなくなり始め、とうとう私たちは町の南側にある岩場へ辿り着いたのだった。



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