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岩場の調査

 ノヴァとリュートは訓練を再開すると、それから一時間ほど精力的に打ち込んだ。


「はあはあ……」


「ぜいぜい……」


「もう終わりかい? だらしないねぇ」


「ジャネット。彼らのランクを考えればよくやった方だろう? 実質Dランクといっても問題ないと思うがな」


「あんまり甘やかさないでくれよ。アスカだってDランクだよ。一緒の実力だと思わないようにしないとねぇ」


「結構ジャネットって厳しいのね」


 ノヴァやリュートとは違ってファニーさんたちは涼しい顔をしながら話している。私も見ていたけどやっぱり動きに無駄がないのもあるんだろうな。


「俺たちからしたらスパルタだよな。前に稽古つけてもらった時もかなりボロボロになったしよ」


「そうだね。怪我もするし」


「実践的って言って欲しいねぇ。実際に魔物と戦ったら怪我なんて当たり前なんだから」


「そうだよ、二人とも。きちんと稽古つけてもらわなきゃ」


「じゃあ、アスカも受けてみるか?」


「えっ!? ほら、私は弓と魔法だし……」


 ノヴァにすぐ言い返されて言葉に詰まってしまう。いや〜、傍から見ていても大変だしできれば遠慮したい。


「でも、前衛に迫られるかもしれないよ?」


「リュートまで。だけど、その時は二人が守ってくれるでしょ?」


「うっ」


「くっ、アスカ涼しい顔して……」


「そこまで言われちゃ二人はもっと頑張らないとね」


「だが、いったん休憩だな。これ以上の訓練はこの後に差し支える」


「そうだねぇ。残念だけど今日はここまでだね」


「ふぅ。じゃあ、休憩しようぜ。アスカ、シート出してくれ!」


「は~い、ちょっと待ってね」


 マジックバッグからいつものシートを取り出す。広めの物を買っておいてよかったと思うひと幕だ。


「君たちは切り替えが早いのだな」


「まあ、今が伸び盛りだしそういうもんさ。あたしも入れてくれよ」


「いいけど食事は持ち込みだぜ」


「そんなこと言ってノヴァの食事は作ってもらってるものでしょ? アスカは自分で用意してるし、僕は自分で作ってるんだよ」


「いいじゃねえか、くれるって言うんだから。それにリュートは料理できるからいいだろ」


「解体できるんだから、せめて簡単な料理ぐらいは覚えて欲しいもんだねぇ」


「まあまあ、もしリュートが作れなかったら私が作りますよ」


 うちには料理上手が二人もいるんだから簡単な料理ぐらいすぐに覚えられるだろう。


「アスカちゃんはいい子ねぇ~」


「こういうのは甘いって言うんだよ。なあミネル」


《チィ~》


 珍しくミネルが肯定も否定もしない煮え切らない態度で飛ぶ。


「あはは、ミネルも迷ってるみたいだね。飼い主に本当のことを言いたくないのかも」


「むぅ~。それじゃあ、みんなにはこれ分けてあげないから」


 そう言って私は今日のために買い置きしていたドライフルーツを食べてみせる。これは色々な果物の詰め合わせで、ちょっと値が張る。

 今後は冒険の頻度も下がるから、ちょっとでも元気が出るようにと買っておいた物だ。


「うそうそ。機嫌直してよ、アスカ」


「仕方ないなぁ。ちょっとだけだよ」


 そう言いつつもみんなに配る。ファニーさんたちも加わったので、渡さないわけにもいかないしね。


「あら、私たちもいいの?」


「はい、一緒に冒険する仲間ですから!」


「……いい子だな」


「ああ」


「ん~、ちょっと酸っぱいけどうまいな~」


「ノヴァ、配る前から取らないでよ」


「どうせ後でくれるんだからいいじゃん」


「元の量が分からなくなるでしょ!」


「悪かったよ」


「子どもの喧嘩だねぇ」


「でも、あれだけの戦いをする子にもこういうところがあって安心するわ。見てた感じ魔力も200はあるわけじゃなさそうだし、あまり無理はしなさそうね」


「そう……だね」


 にぎやかなちょっと早い昼食会を終えて、私たちは装備を整える。


「では、これからは実際に森を抜けて岩場を進む。アスカたちは入ったことがないようだから、必ず俺たちの指示に従ってくれ」


「はい!」


「みんなもこの周辺に来るのは久しぶりだろう。生態の変化も考えられるから十分に注意してくれ! ジャネット、俺たちで先頭だ」


「ああ、あたしたちが先頭を進むから、みんなは必ず陣形を守るように! って言っても実際魔物が来たら難しいだろうけどね」


「そこは各自の判断で動いてくれ。ただし、ノヴァとリュートは万が一、退却をする時に来た道を維持する目的もあるから、必ず自分の位置を確認しながらファニーを守るように戦ってくれ。ファニーはレンジャーとしてのスキルもあるから、そういう時は頼りになる」


「私も戦えるけど、よろしくね」


「はい」


「ああ、よろしくな!」


「では、出発だ」


 陣形を確認したところで休憩場所から出発する。目指すは森を抜けた先の岩場だ。前はちらっと見ただけだったけど、果たしていかなる場所だろうか?

 私たちは広場を出て森の奥へと入っていく。


「何かいそうかい?」


「いたとしても大した反応じゃないな。ゴブリンかオーク程度だろう」


「魔物の反応みたいだね」


「じゃあ、警戒準備ね」


「警戒準備?」


「ああ、言ってなかったわね。警戒準備というのは基本的にギルド内での合図で、自分の得物の準備や普段の配置につくことよ」


「そうなんですね。じゃあ、ノヴァもリュートも武器を」


「そうだな」


「うん」


 私もバッグから弓矢を取り出して、辺りを警戒する。風の魔力を辺りに散らすと、確かに違和感がある。


「気を付けて、東の方角……」


「おや、アスカもですか。私の土魔法でもそちらですね」


「確定だな。一気に行くぞ!」


「あいよ!」


 一気に前衛の二人が駆けだす。私も追いつかないと!


「は、早い」


「ほら、追いつかれないようにいくわよ!」


「先に行きます、ウィンド!」


 風の魔法で加速して一気に駆け出す。後ろの三人にも補助魔法を使ったから少しは速く動けるだろう。弓はいったん邪魔になるからしまって、代わりに杖を構える。


「アスカも速いね……」


「置いていかれないように行くわよ」


「はい!」


 着いた先ではすでに戦闘が始まっていた。相手はゴブリンとオークの混成部隊のようで、ゴブリンが残り六匹、オークが四体だ。


「はあっ!」


「せいっ」


「私もウィンドカッター!」


 三つの風の刃を作り出し、ゴブリンを狙う。今は二人とも前線で戦っているから、まずは数を減らして相手の数的優位を崩すのだ。


《ギャギャ》


 二人から少し離れた位置にいた一匹の頭をはね、残り二匹は胴と肩口を切り裂く。ジャネットさんとファーガソンさんの倒したのを入れて、ゴブリンはあれから三匹、オークは一体減った。


「まだまだ、ウィンド!」


 後方から二人に接近しようとする魔物を吹き飛ばして距離を取らせる。これで囲まれる心配もなくなったし、私も遠距離から狙い撃ちできる。


「アスカ、大丈夫か?」


「早いわね、アスカちゃん」


 後ろからユスティウスさんやファニーさんたちも追いついてきた。


「みんな早いな。ジャネットと二人で倒そうかと思っていたんだが……」


「アスカちゃんの補助魔法のお陰よ。それより、一気に片をつけましょう」


「そうだな。私も少しは活躍しなくてはな。アースニードル!」


 ユスティウスさんが放った土の針はゴブリンの集団に命中して、戦闘不能に追い込む。


「じゃあ、こっちはあたしたちだね。アスカも行くよ!」


「はい、エアカッター!」


 距離があるうちに私は風の刃で後ろのオークを倒し、前の二体はそれぞれジャネットさんとファーガソンさんが倒す。


「おお、すげぇ」


「まあ、Cランクのパーティーならオークぐらいわけないわ。逆にここで手間取るなら、ランクよりも下の依頼を受けた方がいいわね」


「僕たちも追いつきましたけど、出番はありませんでしたね」


「あら、出番といってもあなたたちは私を守りながら退路を確保するのが仕事よ」


「そう言われると仕事した気になるな!」


「ノヴァはもう……」


《チチッ》


「あら、ミネルも呆れてるわよ。そういえばミネルはさっきの戦い時、どこにいたのかしら?」


「ファニーさんの後ろの木に止まってましたよ」


「相変わらず賢いなお前は」


《チッ》


 ジャネットさんに褒められ嬉しそうに飛び回るミネル。この調子なら今日のところは安心かな?


「よし、戦闘は終わったし、さっさと埋めて次に行こうか」


「そうだね。オークはどうする?」


「この先、何にも出会わない可能性もあるし、一応二体だけ取っておくか」


「了解。アスカ頼むよ」


「はい。任せてください!」


 マジックバッグにオークを収納して、残りの分については一か所にまとめて穴へ入れる。穴は風の魔法で一気に掘って、上から風圧で土を固めて終わりだ。


「風の魔法でこんな簡単に穴が掘れるとはな。こういうことは土魔法の私の独壇場かと思ったが……」


「まあ、使い方は色々あるってことさ。あんたも勉強になっただろ?」


「ああ。いいものを見せてもらったよ」


「じゃあ、行くぞ!」


 再び一行は森を抜けようと道を進む。道には荒れた形跡もあり、なんだか前までの森とはちょっと様相を異にしている感じだ。


「う〜ん?」


「どうしたアスカ?」


「ちょっと草が変で……」


「何かあったの?」


「この辺の薬草は誰も採りに来ていなかったんですけど、今は採られてるみたいなんです。でも、あまりに採り方が雑で……」


「雑ってどれぐらいだ?」


「初めてノヴァが採った時よりも雑ですね」


「それなら、警戒レベルを上げよう。魔物かもしれないね」


「魔物も薬草なんて採るんですか?」


 ひょっとして魔物も薬草で傷の手当てとかしてるのかな?


「薬草をって言うより、人の取ったものをだね。変異種は基本的に知能が高いから、人の取るものを見て自分にも使えないか試す奴がいるんだよ」


「なるほど! だったら、その魔物は人に会ったことがあるんですかね?」


「まずいな……依頼票では変異種の報告は受けていないとある。すぐに周囲を警戒だ!」


 ファーガソンさんの言葉ですぐに周囲の警戒をする。だけど、魔物がすぐ近くにいる感じはない。少し魔物の行動範囲から離れていると思われるので、移動することにした。


「すまないけどアスカ。君が先頭を行ってくれ」


「は、はい。別にいいですけど、どうしてですか?」


「俺たちはそこまで採取が得意じゃない。今の採取後の光景も言われなければ気づかなかっただろう。ここの魔物を確認するには君が一番向いているんだ」


 そういうことならと私が先頭に出て、すぐ後ろにジャネットさんが付く。


「心配しなくても守ってやるよ」


「はい!」


 こうして私たちは魔物の集団を捜索するために、当初の予定からずれて森を進むこととなった。


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