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訓練と実践

 以前にも訓練に使った広場へ来た私たちは早速、ノヴァとリュートの訓練のために準備を始める。


「じゃ、ノヴァはあたしと得物の重量なんかも似ているから一緒だね。ファーガソンはリュートの相手を頼む」


「俺が魔槍の相手をか?」


「あんたの鎧の方が魔法耐性が高いからね。魔物と戦う前に怪我したら大変だろう?」


「分かった。ファニーとユスティウスはどうする?」


「私は火の魔法とナイフだし、アスカちゃんには向かないわね」


「では、私が行こう。見たところ同じ魔法使いの様だし大丈夫だろう。構わないかねアスカさん?」


「は、はい。大丈夫ですけど名前は呼び捨てでいいですよ」


「分かった、アスカ」


「おや、アスカも訓練かい? おっと、アスカこっちへ」


 訓練を始めようと思ったらジャネットさんに呼ばれた。


「今はちゃんと魔力を抑えてるんだろうね?」


「はい。今の魔力は140で固定してます」


「それなら良かったよ。一応は合同といっても別パーティーだ。手札はあまり見せないようにね」


「了解しました」


「どうしたんだ、アスカ?」


「戦い方のアドバイスをちょっと……」


「そうか。では、少しみんなと離れよう」



 私とユスティウスさんはみんなから少し距離を取る。どうしても魔法は周りを巻き込む可能性が高いので、ここは仕方のないところだ。


「それじゃあ、私もこっちに参加するわね」


「えっと……二対一ですか?」


「違う違う。どちらかが危なくなったら私が仲裁に入るってことよ。こういうのは分かってても熱くなっちゃうからね」


「そういうことなんですね。よろしくお願いします。ミネルもちょっと離れててね」


《チチッ》


 ミネルも危険だということが分かったのか、ファニーさんの肩へ飛んで行った。


「それじゃあ、始めよう」


 ユスティウスさんがそういうと周りに土の槍が形成される。しかも、瞬時に三つもだ。


「詠唱もなかったのにすごい!」


「ははは、これぐらいで驚いてもらって嬉しいよ。だけどきちんと防がないとね」


「はい」


 私は飛んで来る槍を一つ二つとかわす。三つ目の槍は避けられそうだったけれど、万が一のために粉砕しておこう。


「ウィンド!」


 風をやや斜めから叩きつける。そうすると槍は一気に砕けて土が飛び散った。


「ほう、全部無理やりにでも避けるかと思ったが……ならこれはどうだ、アースウォール!」


 ユスティウスさんが魔法を唱えると、大地がぬりかべのようにせり上がってくる。しかも、その壁が私に向かって迫ってくる上に、方向を変えて逃げても向きが変えられるようだ。

 さらに、この状態でもユスティウスさんは自由に動けるようで早急にこの壁を何とかしないといけない。


「エアカッター!」


 エアカッターが土の壁を切り裂くけど、貫通することはできず壁の傷は直ぐに修復される。


「さあ、どうした。そんなことじゃ、オーガは倒せないよ」


「もちろんです」


 相手の動きと壁を同時に相手をするのは大変だ。ここは上手く動いて……。


「あら? ひょっとして」


「今だ、ウィンドブレイズ!」


 こぶし大ぐらいの風の塊を周辺に展開させ、連続して壁にぶつける。この魔法なら壁を貫通できるはずだ。


「なるほど、一撃でなければ連撃というわけか……って!」


「ユスティウス、しっかり戦いなさい! 様子見していると怪我するわよ」


「その様だな」


 私の魔法がさっきまでユスティウスさんのいたところに命中する。ただし、直前で新しく壁を作られたので防がれてしまった。手前の壁を貫通させるのに塊を幾つも使ってしまったので、二つ目の壁は貫通出来なかったようだ。


「今度はこっちから行きます。ウィンドカッター!」


「いまさらその程度の魔法で!」


 同じように壁を形成され防がれる。


「ウィンドカッター!」


 私は狙いを荒くしたウィンドカッターを連続して放つ。中には壁に当たらないものも出るけど、そんなことは関係ない。今はこの戦法を試してみるんだから。


「そんなに無駄打ちしてて大丈夫か? アースニードル!」


 手すきになったユスティウスさんが魔法を放ち、針状の土の矢がこっちへ迫る。


「ウィンド」


 土槍と同じように前面へと風を叩きつけて、針の軌道を変える。


「再び、ウィンドカッター!」


「甘い、アースバインド!」


 私の放った風の刃の後に土で出来たツタが私の身体に絡みつく。これで私は動けなくなったのだけど……。


「これで決まりかな?」


「どうでしょうね? 刃よ!」


「なんだって! どこで発動を!?」


 ユスティウスさんは私が動揺して魔法を使えなくなると思っていたようだ。でも、私はさっきから魔法を唱える必要がない状態を作っていたのだ。

 放ち続けていたウィンドカッターは当てるためだけのものじゃない。むしろ、外れた方にこそ価値があった。外れて飛び去り消えたはずの風の刃は上空で舞い、この時を待っていたのだ。


「ユスティウス、空よ!」


「なんだって!? くっ!」


 突然頭上に降って湧いたいくつもの風の刃に、さしものユスティウスさんも即対応はできないようだ。私の拘束を解き、一瞬で頭上めがけて強力な土の大盾を作り出す。


「ふう、助かった」


「チェックメイトですよ」


 ユスティウスさんが大盾を作っている間に私は即座にマジックバッグから、弓矢を取り出し矢をつがえて放つ。ユスティウスさんが助かったという時には、矢はすでに後ろの木に刺さっていた。


「そ、そんな。子どもに……」


「あらら、ユスティウス。あなた、手を抜き過ぎたんじゃないの? だから、様子見しないようにって言ったのに……」


「そうは言うがファニー。こんな戦い方をされるとは思っても見なかっただろう? 相手はまだDランクだぞ?」


 ファニーさんの言葉にすぐさま言い返すユスティウスさん。別に加減してもらえたことは私も分かってるし、そこまでがっかりしなくてもいいと思うんだけどな。


「あら? 私たちも前まではDランクだったわ。そ・れ・に・私が前に見どころのある子がいるって話をしてたわよね?」


「見どころがあるというか、これなら確かにジュールさんもあの場に入れるわけだ。下手をしたらCランクの奴にも勝ってしまうだろう」


「実際、私の目の前で起きたことだけどね」


《チッ》


「場所的に地の魔法も使いづらいですし、手加減してもらえたからですよ。ミネルもそんな態度とっちゃだめだよ!」


《チチッ》


 勝ったと舞い踊っていたミネルも少し態度を改めてくれたようだ。私が勝って喜んでくれるのは嬉しいけど、あくまで手を抜いてもらってだしね。


「まあ、確かに私も有利な場所ではなかったが、経験と魔力からすれば圧倒してしかるべきだった。私がまだまだ修行不足だということだ。それにしてもあの戦い方はどこで覚えたんだい?」


「ゴブリンとかオークですかね? やっぱり正面からだと避けられちゃいますし、ひとりで行動する時は危ないのでなるべく離れて戦うようにしていたので……」


「その歳で一人で冒険者やってたのアスカちゃん!?」


「私、村から出てきたばかりで町のこととかもよく分からなかったので、パーティーも最初は組まなかったんです」


「その経験がこの実力につながったのか、生き残れたから強くなったのかしら……」


 半ば呆れたように呟くファニーさん。単独で依頼を受ける冒険者ってそんなに少ないのかな? 機会があったら今度誰かに聞いてみよう。


「まあ、どっちでもいいじゃないか。どうだいうちのリーダーは?」


「ジャネット。稽古はもういいの?」


「いいというか、あんたらが張り切ったせいでこっちは身が入らなくて即休憩だよ。途中からずっと見てたからねぇ」


「ああ、俺も見ていたがユスティウスが力を抜いていたとはいえ、こうも見事な戦い方をするとは。弓を構える動きも中々堂に入っていたな。しかし、矢が弓にしては早かったようだが……」


「おっとそれは……ってこれぐらいならどうせ真似する奴もいないだろう。教えてやりなアスカ」


「はい。あれは矢に風の魔法をかけて真っ直ぐ、早く飛ぶようにしてるんです。そのために矢はウルフ種の牙を使ってるのでちょっとだけ高いんですけどね。効果は薄いですが、普通の矢でも出来ますよ」


 ジャネットさんに言われて簡単なコツをファニーさんたちに話す。難しいことではないから、ファニーさんたちならすぐにできそうだ。


「矢を飛ばすのにわざわざ風の魔法をか。なるほど! 言われてみればそれも可能か。自分もあまり魔法が得意でないから思いもよらなかったな」


「なるほど。私だったら火の矢の効果を得られるってわけね」


「そうなんだけど問題もあってね。そのためにわざわざ魔法を使うってことと、そもそも弓の心得がある程度必要ってことさ」


「それは大変そうね。今から弓を習うのは難しいわ」


「でも、ナイフならファニーさんもできるかもしれませんよ。 魔石とか埋め込んだりして!」


「良い案ね。誰か加工できる人いないかしら」


 じーっとファニーさんが私の方を見てくる。やって欲しいのかなぁ。私としてはフォローのつもりだったんだけど……。


「一本だけ試しになら」


「本当? 催促したみたいで悪いわね」


「思いっきりしてただろ。今のは」


「でも、了解は取れたんだからいいのよ」


「しかし、アスカは相変わらずすげぇなぁ! 俺なんてこの短時間でジャネットにコテンパンにされたんだぜ」


 これを見てくれよとノヴァが身体を見せてくる。確かにそこら中に軽い傷が見て取れる。


「僕も同じだよ。リーチの差があるのに、ファーガソンさんに近寄らせてもらえなかったよ」


「リュートは力が無さすぎるな。速さを殺さないことは重要だが、今の力では一撃が軽すぎてこちらも思い切って切り込めてしまう。それに、こちらに一撃入れて致命傷になるのが、魔槍の魔力を乗せた一撃だけだから見切りやすい。まだまだ修行が必要だな」


「はい」


 二人ともどことなくしゅんとする。今から調査なのにこんな気分じゃいけないよね。ここはひとつ気分を入れ替えよう!


「二人ともまだまだ伸び盛りなんだから、頑張って、エリアヒール!」


 私が魔法を唱えると二人の傷が治っていく。意味があるのかは分からないけど、ちゃっかりミネルもその中に加わっていた。


「傷が癒えていく……」


「ほら、これで二人ともまた元気に戦えるでしょ?」


「そうだな。ありがとうアスカ!」


「なら、もう一回やらないとねぇ、ノヴァ?」


「げっ、せっかく治ったのにまたやるのかよ」


「じゃあ、今度は俺が相手をしてやろう。なに、怪我はしないようにしてやるよ」


 やる気が出たファーガソンさんは剣を握るとノヴァの方を向いて立ち上がった。


「それはそれでやだな」


「ノヴァ、贅沢言っちゃだめだよ。僕らのためなんだから」


「リュートはおりこうさんだよな」


「勝てないって半分諦めてるからね。それにスキルアップにはいい機会だし。僕自身が魔槍にまだ慣れてないからさ」


「……しょうがない、やってやるか!」


「その意気だ!」


 再び四人は各々の武器を手に取って戦い始める。こういうのも青春って言うのかなぁ。


「みんな怪我だけはしないようにね」


《チィ》



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