招集2
あれからもぽつぽつ質問は続いている。報酬の件に関してはもう納得したのか少ないけど、今の議題は万が一対応できない時の行動と救援についてだ。
私たちが出会ったパーティーもそうだったけど、パーティーと相手の相性が悪い時や、戦力に差がある時にどう行動するかだ。
普段ならすぐに逃げるんだけど、今回の依頼は町を守るという名目もあるためどうするのが正しいのかということで色々な意見が出ている。
「ギルドマスターの俺からすれば倒して欲しいというのはあるが、かといって死んでは何にもならん。町の方に逃げることは最悪構わんが、少しでも先行するものをつけてくれ。衛兵では対処できないだろうし、あいつらの身も危険になる」
「その場合そのパーティーはどうします? その後に、また同様のことに起きるとも限りませんし」
「そうだな……その次と次の二回ぐらいは調査のみで合同依頼にするぐらいか。あまり厳しくするのは本意ではないし、お前たちも困るだろう。こっちとしても戦力が大きく削がれるのは避けたい」
「あたしからもいいかい?」
スッとジャネットさんが手を上げる。これまでずっと話を聞いていたのに何だろう?
「ああ、構わんぞ」
「今はDランク以上のパーティーが東側に立ち入れるようになっているけど、ここ一か月の間はあたし達じゃなく、実力がギリギリの奴らが現場から逃げる可能性が高い訳だ。その時は問答無用で敵を倒してもいいのかい?」
「無論だ。後で何か言ってくるようならこちらで処理しよう」
「じゃあ、きちんと情報を漏らさないようにも配慮してくれよ。こっちだってタダで助けるわけじゃないんでね」
「ああ、そこは確実にする。報酬も別途払おう。だが、その場で交渉はなしだ。それは違反行為とする」
「まあ、うちはそういうのは出来そうにないんで別にいいよ」
ジャネットさんが座るとちょっとだけ席がざわつく。みんなこっちを見てるし、ギルドでも知名度が高いんだろうな。
「ジャネットの横に居るのって……」
「あの子が? まだ子供じゃないか?」
「でも、最近パーティーに入ったって」
「じゃあ、やっぱり」
「それにほら、ヴィルン鳥を連れているわ」
「あの、警戒心の強い鳥をか?」
なんだか話の内容がおかしいような気がするけど、気にしないでおこう。
「大体、今日はこんなところか。依頼は今日から出すからよろしく頼む。といっても調査依頼も護衛の依頼も、数は限られているからそこはよろしくやってくれ。解散!」
冒険者たちはジュールさんの言葉とともに動き出す。これからの行動を決めかねて相談しているパーティーもいるし、早速受けてみようというパーティーもいて様々だ。
「私たちはどうしますかジャネットさん?」
「元々、今日は様子見の日だしねぇ。まあ、残ってたら調査依頼でも受けようじゃないか」
「だけど、大丈夫でしょうか? ギルドマスターが話をしていた感じだと結構周辺も危険区域みたいですが……」
「何言ってんだよリュート。ここが踏ん張りどころだろ?」
「ノヴァの言うことにも一理あるけど、あんたらはまずその武器の扱い方をだねぇ……」
そう言いながらジャネットさんはリュートとノヴァの武器を指さす。そこへ、一人の女性が近づいてきた。背が高くてスラッとした人だ。
「ねえ、ジャネット。私たちさっき調査依頼取ってきたんだけど合同で受けない?」
「ファニー、こっちはE・D・Cの混成ランクのパーティーだよ。あんたらに迷惑かけるだけだよ」
「だが、その子たちは見込みがあるんだろう? 訓練ついでに他のパーティーの動きを見せてみないか?」
「あ~、まあそれもいいか。いいかいアスカ?」
「私は別にいいですけど……」
この場にいるなら恐らくみんなCランクの冒険者だ。まだまだ駆け出しの私たちからすれば願ってもないチャンスだと思う。
「あなたがアスカちゃんね。ジャネットもこういう時はみんなに確認するのね」
「確認も何もパーティーリーダーはアスカだからね」
「えっ!? でも、ジャネットのランクが一番高いでしょう?」
「まあ、ランクは高くてもこういうのは向き不向きだからね。向いてると思うよ。なぁ?」
《チッ》
ジャネットさんが私の方を向いて尋ねると、ミネルがそうだというように空を飛ぶ。
「わぁ~、本当にヴィルン鳥なのね。遠目に見たことはあったけど、こんなに近くで見たのは初めてだわ」
「俺もだな」
「そうなんですか? 割と普段から食事中に近づいて来てましたけど……」
「アスカちゃんには魔物使いの素質があるのかもね」
「前に言ってた、Cランク以上でなれる職業ですね。これだけ好かれてるならそれもいいかも!」
ミネルみたいな小鳥以外にもおっきなもふもふした魔物もいるかも知れないし。
「こらファニー! いばらの道を勧めるんじゃないよ。折角、他に才能があるのにさ」
「あら、やりたいことをやるのが冒険者でしょう?」
「うぐ、そう言われるとそうなんだけどさ」
「さっきからジャネット、その人と仲いいよな~」
私もそれは気になった。宿でも見たことないのにとても仲が良さそうだ。
「ああ、こいつはファニーって言って臨時パーティーを組む時に世話になってるんだ」
「護衛依頼で腕の立つ前衛って助かるのよ。それに同じ女性で気を使わなくていいしね。普段はパーティーに私しか女性がいないから心強いし」
「やっぱり冒険者は女性が少ないんですか?」
「まあね。特に数日かけてってなると日程組むのもちょっと大変だしね」
「あ~」
まあ、そうだよね。体調悪い日とかは進むのも結構つらいし、周りにフォローしてもらう必要があるもんね。それにしてもファニーさん、ミネルから目を離さないね。
「ミネル、触らせてあげてもいい?」
《チチッ》
ミネルは了解とばかりにファニーさんの肩に止まる。
「わぁ」
「ミネルは賢いから人の言葉も分かるみたいなんです。ちょっとだったら触ってもいいと思います」
「本当! 夢みたいだわ。じゃあ、ちょっと触らせてね」
《チチッ》
ファニーさんがミネルの頭を優しくなでる。ミネルも嫌がるそぶりはなさそうだし、大丈夫みたい。
「やわらかいし、ふさふさしてるのね。今は夏だけど暑くないの?」
《チッ》
ふわりとミネルが飛んで見せる。大丈夫と言っているみたい。
「本当に賢いんだな。俺たちも普段は姿が見れないわけだ」
「でも、本当にミネルって色々な人に会ってるけど逃げないね」
「まあ、俺たちも触れるしな」
「ノヴァは一応、アスカが認めてるからだろうね。ミーシャさんたちも同じ理由だろうね」
「俺とリュートは違うのかよ?」
「ノヴァだと暴れそうだからね」
ジャネットさんの言葉に不満げなノヴァ。さらに、気心がしれているからかリュートからのフォローもなかった。
「ちぇ~。でも、アスカってこういうのに懐かれるよな」
「そうなのかな? じゃあ、魔物使いもいいかもね」
「あたしゃ知らないよ。ついてきたいって奴を次々に連れて、エサ代でひーひー言っても」
「うっ、なんか本当になりそうな予感。確かにミネルの食べる物には気を付けてますし、あれが何種類もとなったら……」
ご飯専用のマジックバッグも必要になるかもしれない。ということはそれだけで金貨十枚か。ちょっと今は難しいかな?
「本人はやる気みたいね」
「全く、困ったもんだね」
「それより調査ってどこへ行くんだ?」
「俺達が取ってきた調査は町の東に出て南側の岩場へ行くルートだ」
「南かぁ。私たちはまだ行ったことがないね」
ノヴァやリュートがうんうんと頷くとファニーさんは意外だという表情を見せた。
「そうなの? アスカちゃんたちは冒険者になってどのくらい?」
「私は三か月半ぐらいです。後ろのノヴァとリュートは九か月ぐらいで……」
「ああ、でもアスカはDランクだから、まあ強いよ」
「知ってるわ。昇格試験の時はちらっと覗いたもの。鮮やかに試験官を倒していてびっくりしたわ」
「手を抜いていたとしても試験官は常にランクが上の奴だから、滅多に負けないのにねぇ」
「あの時は顔がよく見えなかったのが残念だったのよ。見えてたら即、勧誘してたわ」
「そりゃよかった。困ってしどろもどろになったろうね」
「そうだね。アスカは押しに弱いから」
「さあ、話はそこまでにして一旦現地に向かうか」
「そうね。長々とごめんなさい」
「いいえ。よろしくお願いします」
皆で部屋を出て合同で受けるということをホルンさんへ報告しに行く。ちなみにファニーさんのパーティーは三人で、前衛の剣士と後衛の魔法使いに中衛のファニーさんという形だ。
ファニーさんは火の魔法と解体やナイフが得意で、リーダーは剣士の人だけど実際の交渉事などはファニーさん任せなので肩書にあまり意味はないらしい。
「ホルンさん。合同依頼を受けたいんですけど」
「あら、アスカちゃん。もう出るの? 調査依頼の方ね……確認しました。頑張ってというより無茶はしないようにね」
「はい。ありがとうございます!」
ホルンさんに挨拶をしてギルドを出て行く。
「じゃあ、まずは現地に着く前に編成だな。俺とジャネットが前衛か?」
「そうだね。ちょっと心配だけど、二人が前衛でアスカとそっちの魔法使いが中衛、残りが後衛だね。ノヴァとリュートは左右についてファニーを守るんだよ」
「おう!」
「はい!」
「アスカはそれで大丈夫なのか? うちの魔法使いはCランクだぞ?」
「まあ、オーガを倒すぐらいには強いから問題ないよ。ああ、もちろん黙っといてくれよ」
「なるほどな。それなら大丈夫だろう。それじゃあ、そのまま進むか」
私たちの実力を心配して相手のリーダーの人が気にかけてくれたけれど、ジャネットさんは大丈夫だと切り返す。
「ああ、それと実はこの子たちが今日初めて武器を使うから、ちょっとだけ寄り道するよ。本来はその予定だったんだ」
「それは大丈夫なの、ジャネット?」
「初めてって言っても買い替えだよ。ただ、リュートはナイフから魔槍だからちょっとかかるかもね」
「魔槍! いやぁ良く選んだな。俺も昔はあこがれたが、どうしても価格と剣の使いやすさがな」
「やっぱり難しいんですか? 僕もそこが心配で」
「難しいというか剣が楽なんだよ。そこらへんで練習できるし、種類も扱う人も多くて気軽に相談できる。魔槍は効果を使うなら外に行かないといけないし、師匠を見つけるのも大変だろう?」
「たしかに、街中でも持っている人を見かけないですね」
「訓練有るのみだな。その先のところで練習しようか」
私たちは門を越えて、前に練習した広場に集合すると早速、二人の訓練を開始したのだった。