招集
エレンちゃんと遊んでから早二日が経った。私はあれから頑張ってアラシェル様の銅像をせっせと作っている。現在在庫にある三種類の神像に加え、私は新たに和風Verと二種類目のラフとちょっと眠い時になぜか作ってしまった、ボディスーツスタイルの三種類を追加した。
それぞれ二体作ったところで、一度量産は止めた。今日は冒険に行く日だしね。
「ミーシャさん、それじゃあ行ってきます」
「最近危なくなってるから、アスカちゃんも気を付けてね」
「こらアスカ。今日はあたしも行くって言っただろ?」
「あっ、ジャネットさん」
そうだった。今日はジャネットさんも一緒に行くことになったんだった。
「ほら、一緒に行くよ」
「はい!」
二人で一緒にギルドへ入る。うん、なんだかいつもと様子が違うような……。
《チチッ》
「ミネルもちょっと違うって分かるの? って、付いてきちゃったの!?」
「まあ、元々野生の生き物だし大丈夫だろ?」
軽く言うジャネットさんだけど心配だなぁ。
「私のそばから離れないようにね」
《チッ》
「あら、アスカちゃんも呼ばれてたの?」
「私もってどういうことですかホルンさん?」
ギルドへ入るとホルンさんに声を掛けられたけど、わけが分からない。それにギルドの奥にはあまり見たことのない冒険者たちが、テーブルについていた。見た感じみんな強そうだし、Cランク以上の人たちだろうか?
「あんたたちは護衛がメインだろ? ここのギルドにこの時間に来るなんて珍しいね」
「あら、ジャネットじゃない。かわいい子連れてるのね。あなたも呼ばれたの? Cランクが三人以上のパーティーだけって聞いてたけど」
「いんや、普通に依頼を受けに来ただけだよ。それにアスカを甘く見ない方がいいよ。ヴェレスみたいな感じだから」
「へぇ~、意外。だったら、後で呼ばれるかもね。バルドーも帰っちゃったんでしょ? この町は治安がいいからあまり強い冒険者もいないし、今聞いとけば?」
「その方が手間が省けるかもね」
「おうお前ら。今日は集まってもらって済まないな。他の町を拠点にしているパーティーには特に申し訳なく思う。ん? アスカにジャネットもいるのか。呼んだ覚えはないが……」
私たちが話しているとジュールさんが奥から出て来てみんなに話し始めた。
「私たちは普通に依頼を受けに来ただけです」
「そうか……いいや! この際、一緒に受けてもらった方がいいだろう。奥に入ってくれ」
「でも、ノヴァとリュートが……」
「あいつらは別にいなくて良いんだが。まあ、資料を配るのに時間もかかるし先に入ってくれ。ホルン、二人が来たら案内してくれ」
「はい」
ジュールさんの計らいで私たちとこの場にいる冒険者たちは奥の大部屋へ入っていった。
「おはようございます」
「おはよ~う」
「おはよう。ノヴァにリュート。今日はギルドマスターから話があるから、奥の部屋に行ってね。もう、アスカとジャネットは入ってるから。後、必ず静かに話もまじめに聞きなさい」
「はい」
「分かったよ。だけど、ギルマスから話ってなんだろな?」
「あなたたちだけでなく他のパーティーもいっぱいいるから、くれぐれも静かにね」
「はい。行こうノヴァ」
部屋に入ると、ライラさんが資料を配っているところだった。資料は一人四枚程度で結構文字もあるみたいだ。一人ずつ配るあたり結構重要な資料なんだろう。
「あら、アスカちゃんやジャネットさんも呼ばれてたのね」
「ああ、今し方な」
「それはご愁傷様です。さあ、これをどうぞ」
「あの、後でノヴァとリュートも来るから余るんだったら二人の分もお願いできますか?」
「そうなの? あの二人には厳しいと思うんだけど。まあ、ギルドマスターが呼んだ訳だし渡しておくわね」
こうして資料を四部貰った私は軽く目を通す。
「何が書いてあるのかな? タイトルは……アルバ周辺地区の危険度上昇における調査、及び積極的受諾依頼について」
「どれあたしにも見せなよ……って、これは厄介になりそうだね」
「何か知ってるんですか?」
「ああ、これはだね……」
「アスカ、おはよう」
「おはよう、リュート。ノヴァも」
「おう」
私たちは予定外ということもあり、元々後ろの席に座っていたのでそのまま二人も並んで座る。
「これが資料ね。後、静かにね」
「分かった」
「分かってるよ」
みんなが資料を読み進めていると、壇上というか中央にジュールさんが出てくる。
「冒険者のみんなには急に集まってもらって申し訳ない。俺はこの町のギルドマスターのジュールだ。パーティーによってはここが拠点でもないのに迷惑をかける。今回呼び出した理由だが、配っている資料に目を通してもらいたい。それと、質問がある場合は自由に発言してくれ。大体は俺が答えることになるだろう」
そこで一旦、ジュールさんが言葉を区切るとライラさんが横に出てきた。
「では、ここからは私がご説明します。まず、タイトルの『アルバ周辺地区の危険度上昇における調査、及び積極的受諾依頼について』ですが、この町の冒険者ならすでに知っているかと思われますが、最近になって町の近くにオーガやオークの変異種が確認されました。これはこの町始まって以来のことです。このため現在、冒険者ギルドとしての判断は魔物の分布変更が考えられると予測しています」
「なんだって……」
「アルバでか?」
「低ランクはどうなるんだ?」
ライラさんの言葉で場が騒がしくなる。特に見かけない冒険者からの声が大きい。それだけこのアルバが安全だという形で認知されているんだろう。
「待ってくれ。アルバはこれまでかなり安全な都市だった。オーガというのもどの辺りで出たんだ?」
「残念だが町の東側の森に入ってすぐだ。そこは地図上では生息域ではなかった。そこにいた冒険者が出遭った時点で急を要する案件だ。それも、オーガじゃなくてウォーオーガだ。完全にはなっていないが、オーガバトラーになりかけのものもいた。どちらも俺が確認したから間違いない」
「ウォーオーガにオーガバトラー……隣町でもあまり見かけない種だ。パーティーによればかなりの被害が出ていたかもな」
「そうだ。この町のギルドとしては、町にいる現在の標準的な冒険者では荷が重いと感じている。そこで、近隣のギルドにも協力を要請し、少数でも売り出し中の者や実績のある者を紹介してもらったというわけだ」
ここでジュールさんは言葉を区切ると冒険者たちを見渡す。どうやらここにいるのはギルドから選別を受けた人だけみたいだ。私たちが場違いのように思える。
「先ほどギルドマスターの言われた通り、この町の安全はすでに脅かされています。そこで、皆さんには今回から出される調査依頼や隣町までの護衛・指定した討伐依頼を積極的に受けていただきたいのです。依頼の詳細は二ページ目に書かれています」
2ページ目を見ると、調査依頼の詳細と護衛・討伐依頼の詳細がある。調査依頼は実施報酬が銀貨二枚で出会った魔物のランクにより別途討伐報酬が入る。普段のオーク討伐よりもおいしい依頼だ。討伐後の採取部位の持ち帰りも問題ない。
護衛・討伐依頼はしばらく銀貨五枚からで、通常は二日の行程をかけ、隣町まで商隊や旅人、馬車の護衛をする。こっちは依頼料が高いけど、向こうでも依頼を受けないといけないし、往復で四日もかかっちゃうのか……。
「この場にいる冒険者には今後、このどちらかの依頼を優先して受けてもらいたいというのが、このギルドからのお願いです」
「俺たちのパーティーは王都までの護衛依頼を普段受けるんだが、それは構わないのか?」
「無論そこまでは俺も求めてはいない。だが、出来ればこの町から王都まで、王都からこの町までは往復をしてくれるとありがたい」
「そういうことなら俺たちに異論はない。報酬自体も普段より高めになっているし、魔物の部位収入もある上に商人たちからの護衛料もあるなら協力しよう」
「ありがたい。他に何か意見のある者はいるか?」
ジュールさんが辺りを見回すと一人の冒険者が手を挙げた。
「意見という訳ではないんだが、この周辺にはオーガと戦えない冒険者も多い。これからどうするんだ?」
「そうだな……一か月を目途に立ち入り禁止の措置は解除する方針だ。あくまで依頼を受けるのは冒険者の自由意志だからな。ただし、実際に魔物の生息域が変更になれば、ギルドとして運営方針を変えていくしかないだろう」
「私からも一つ。調査などの依頼は各パーティー単位で行うのか、それとも合同依頼となるのかどちらでしょう?」
「依頼形態についてはこちらも考えている。まずはパーティーとして十分な達成能力があるかやオーガなど特定の攻撃が強い相手に対して戦えるか。また、明らかにパーティーが少数で危険な場合は合同での依頼にするつもりだ」
「合同依頼はあまり好まれないことに対しては?」
「それについては承知しているが、危険と隣り合わせだ。それを無視してまで選ぶなら無理強いはしない。ただし、変異種が出たということについては覚悟しておいてくれ。自分たちの思わぬ弱点を突かれる場合もあり得るからな」
会議では色々な質問が飛び交っている様だ。冒険者にしてみれば、これからの活動に制約がつくのは嫌というわけじゃないみたいだけど、やっぱり命懸けだからか慎重な意見も多い。私たちも聞いていて身が引きしまる思いだった。