イメージと現物
「さて、これで三枚目も完成! 続いて四枚目に移ろう」
描き始めると因果なもので、それまで全くアイデアが浮かばなかったのにどんどん描ける。
「後はどういうふうに像を作っていくかも考えないと!」
私は四枚目の絵を描く前に、これまでの流れからどのように像を作っていくかを紙に書いていく。絵があるものについては簡単に試作品を作ってみて、イメージが掴めるかどうかで判断する。
イメージが掴めればそのまま作り、無理なら絵を修正するという方向性だ。
「こうすれば今までよりもずっと作業が進むよね」
それが終わればまた絵を描く作業に戻り、この後も五枚目六枚目と描いていった。ただ、出来上がったものを見て私は絶句した。
「いや、最初の方はまだ分かるんだけど、五枚目六枚目とかもう願望だね」
四枚目までは色々な服、それも儀式用の服や洋風のデザインだったのが、五枚目や六枚目になるとアニメキャラのような服を着ている。この世界でもおかしいビキニアーマーとまではいかないけど、ミニスカの軽鎧とか。
「そもそも自分でこういう戦闘服系は似合わないし、イメージと違うって言ったのになぁ。描き続けて感覚がマヒしていったみたい。反省しよう」
六枚目はなんとエプロン姿だ。神様にそんな姿をさせるなんてと言いたくなる。実際に作ったのは私なんだけど……。
「後ろ二つは置いとくとして、次の作品候補だよね。やっぱりここは日本人として着物風かな? 着物というよりはちょっと派手な着物風デザインなんだけどね」
着物を見たことはあるけど着たことはない。それでも、帯のデザインもアラシェル様に似合うように、少し細くしてひも飾りをつける。
どうしても体型が日本人的ではないからこういったアレンジが必要になってくるのだ。
「でも、こうやって試行錯誤したら色も付けたいなぁ。だけど、イラストはまだしも細工に使う塗料となったら私も専門外だし、金属になると塗るの難しいよね。何より臭いが苦手だからパスなんだけど……」
でも、ここまで頑張って作ったアラシェル様の像に色がないのも寂しい。一体ぐらいはきちんと色を付けたものを作ってみたいなぁとも思うのだった。
《チチッ》
「うん? ミネルどうしたの?」
ミネルがバサッと羽を広げて部屋を飛ぶ。くるくると飛ぶ先を見ていると、ふと窓の外の景色が目に入った。
「あれ、もう夕日が沈みかけてる。そんな時間なんだね、ありがとうミネル」
最近はミネルが時間を教えてくれるからすごく助かっている。以前と違い一気に作業をやり続けることがなくなって、疲労や魔力消費が一定の水準で収まるようになった。正直、前まではふらふらしながら次の日働いてたことだってあったからなぁ。
「これからもよろしくね。ミネル~」
《チッ》
ミネルは分かったというようなそぶりを見せると、ご飯台の前に止まる。
「ふふっ、ちゃっかりしてるんだから。すぐにご飯出すからね」
マジックバッグから今日の分のご飯を出してあげる。今日はオークの肉だ。少し乾燥させて日持ちを良くしているんだけど硬くないかな?
「もし硬かったらちょっと置いておいてね。水で戻すから」
《チチッ》
ミネルにそう告げてから私も夕食に向かう。
「おねえちゃん、ご飯?」
「うん。お願い」
私の夕食は基本に宿が無料で出してくれるものだけだから、エレンちゃんも何も言わずに出してくれる。他のを頼もうかと思う時もあるんだけど、結構量があってわざわざ別の料理を頼むほどでもないんだよね。
「ん~、今日も美味しかったよ」
「ありがとうおねえちゃん。そういえば、明日はどうするの?」
「明日? う~ん、細工をしてるかな。どうして?」
「あの……できたらなんだけど、一緒にお買い物へ行きたいなって」
「エレンちゃん、明日は休みなんだ?」
「うん。今日はエステルさんとリュートさんがお休みでしょ? だから、明日は私が休みなんだ」
「なら、一緒にどこか行こっか。行きたいところはある?」
「う~ん、雑貨屋さんにも行ってみたいし、おねえちゃんが行ってる服屋さんにも行きたいな。あんまりああいう店には普段行かないから」
「分かったよ。明日楽しみにしてるからね」
こうして、エレンちゃんと別れた私は明日の準備を整えてから、眠りにつくのだった。
「アラシェル様、明日もいいことがありますように……」
《チチッ》
「う~ん。おはようミネル」
いつもと同じ時間にミネルが起こしてくれる。でも、ミネルはどうやって時間を把握してるんだろう? まあ、いいか。
「今日もよろしくね。ミネルも一緒に買い物についてくる?」
《チチッ》
嬉しそうに私の頭上を回るミネル。うんうん、運動不足になっても困るし、たまには羽根を伸ばさないとね。
「おはようございます」
「おはようアスカちゃん。今日はエレンと一緒に出かけるのよね。ありがとう」
「いいえ、私も出かける理由ができましたし、誰かと出かけるのは楽しいですから」
「ふふっ、じゃあ一日よろしくね」
「はいっ!」
朝ご飯を食べてゆっくりする。最近はリュートもかなり仕事に慣れてきて、ほとんど手伝うこともなくなってしまった。私の収入源が減ったのは悲しいけど、このまま孤児院出身の人に仕事を与えられるようになっていけばいいのかな?
「さてと、持って行くものの確認だけど、マジックバッグは必須として、杖は入れて弓は置いていこう。服はワンピースでネックレスをかけてと。だけど、マジックバックが目立つなぁ。そうだ! 最初にもらったカバンの中に入れとこう。それなら目立たないし」
せっかくエレンちゃんと出かけるんだし、少しぐらいはおしゃれしないとね。町行きでエレンちゃんに恥をかかせるわけにもいかないし。
「さて、今は九時ぐらいだし、もうちょっとゆっくりできるかな?」
《チチッ》
「あっ、そういえばミネル。ご飯はちゃんと食べられたの?」
ご飯台を見るときちんと干し肉はなくなっていた。よかった~、食べられないかと思ったよ。あれぐらいの硬さなら大丈夫だとメモに残す。こうしてちょっとずつミネルのことが分かるのも嬉しいなぁ。
コンコン
「は~い!」
用意を済ませ、待っているとドアがノックされたので、返事をするとドアが開く。
「おねえちゃん行こう!」
入ってきたのはエレンちゃんだった。だけどまだ九時ぐらいだし早くないかなぁ?
「まだ、九時ぐらいだからお店空いてないよ」
「昨日言ってた雑貨屋さんって、おねえちゃんも行ってるドルドなんだ。あそこは冒険者向けの商売だからこの時間からもやってるんだよ」
「そうなんだ、エレンちゃんって私より詳しいね」
「まあ、この町は庭みたいなものだからね。だから今すぐに行こう!」
「わっ、ちょっとだけ待って! まだ、準備が終わってないから」
「もう~、ちょっとだけだからね」
《チチッ》
「うん? ミネルだっけ、どうしたの?」
「エレンちゃんが待ってる間、遊んでくれるんだって」
「そうなんだ。よろしくね」
《チッ》
エレンちゃんがミネルと遊んでいる間に準備を終わらせちゃおう。まずは、ハンカチ。これは布の端切れを集めて縫い合わせたものだ。器用さのパラメータがそこそこあるせいか、こっちに来てから裁縫も得意になってとても助かっている。
多少のほつれも直せるし、今度刺繍にも挑戦してみようかな? 一枚ぐらいだったら作りたいかもしれない。
「おっと、そんなことより準備だ」
他にもちょっとしたものをバッグに詰めて準備完了。
「エレンちゃん、準備終わったよ」
「おっけ~。あっ、ミネルも連れてって良いおねえちゃん。この子とっても賢いんだよ」
「良いよ、元々そのつもりだったし。ミネル、エレンちゃんの肩につかまってね」
了解とばかりにミネルがエレンちゃんの肩につかまる。
「あははっ、すご~い。ミネルっておねえちゃんの言葉分かるんだね。それに軽い」
「まあ、小鳥だしね。賢いのは私にも理由がわからないけど。それじゃ行こっか?」
「うん!」
こうして私とエレンちゃんの休日が始まった。