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始まり

「お父さん、お母さん、おにいちゃん、おねえちゃん、今までありがとう」


 ベッドの上で横たわる私はもう動くこともできない。こんな私につきっきりでいてくれた家族に最期の挨拶をする。皆の顔はもう見えないけれど、笑顔で見送って欲しいと願いながら私はその生涯を閉じた。




「ようこそ転生の間へ……」


 強い光によって目が覚めた私が前を見ると絶世の美女が立っていた。


「こ、ここは? 私は死んだんじゃ……」


 うろ覚えだけれど自分が死んだという事だけはしっかり覚えている。一体それならここはどこなのだろう?


「ここは転生の間です。そしてあなたは上位転生者に選ばれました」


「えっと、上位転生者って何でしょうか?」


 きっと偉い人だと思いながら丁寧に聞き返す。転生ってあの転生?


「そうですね。まずは下を見てもらえますか?」


 目の前の人に言われた通りに私は下を眺める。すると長い列を作っている光の玉が見えた。その最前列にはテーブルのようなものがあり、一瞬で光の玉が消えていく。それでも光の玉は続いており、列が途切れることはない。


「あちらが通常の転生の間です。死者は一様に、あそこで前世の功罪を明らかにされ順次、転生が行われるのです。そして、こちらの転生の間にはあの中から功罪において問題のない者かつ、前世で悔いを残した魂がランダムに選ばれて来るのです」


「じゃあ、私は選ばれたってことでしょうか?」


「そうです。あなたの魂は選別されこちらに来ました。上位転生者として選ばれたものは、その悔いをなくすべく前世の魂を持ったまま転生することができます」


「本当ですか? じゃあ、もう一度日本人として生まれるんですか?」


 家族と離れ離れになってしまった私だが、みんなの将来も気になる。今から転生すればまた会えるのだろうか?


「残念ですが、同じ世界での転生はできません。我々神には……そういえば名乗っていませんでしたね。私は女神アラシェルです。全ての世界の転生を司る女神です」


「ど、どうもよろしくお願いします」


 私は頭を下げる。やっぱり女神様だったんだ!


「先程の話に戻りますが我々、神の時間の概念は人とは違います。例えばあなた達で言う十九世紀の人間の死と二十一世紀の人間の死は同じような時間感覚です。もしあなたを再びあの世界に転生させると、二十世紀に生まれることもあり得るのです。そのような細かい時間は管理しきれませんので、別の世界に転生する規則になっています。その代わり、いかなる世界にも転生が可能です」


 そっか、神様も万能じゃないんだね。すべての世界の死者の管理とか大変なんだろうなぁ。家族にもう一度会えないのは残念だけど、一度は死んだ身だし贅沢言っちゃだめだよね。それなら――。


「あのっ! 私、前から剣と魔法の世界に憧れていたんですけど、そんな世界ってありますか?」


 体が不自由になって以来、本を読むことと絵を描くことだけが私の楽しみだった。それに両親やおねえちゃんたちに手間をかけさせたくないということもあった。せっかく転生できるんだったら、本の中でも大好きだったファンタジー世界に行けるよう私は女神様に伝えた。


「ええ、可能ですよ。ですが、そのような世界自体も数多くありますので、どのような世界がお好みでしょう? 戦乱渦巻く世界でしょうか? 科学と魔法が入り混じる世界? 魔王たちが数多く存在し、人類との存亡をかけて戦う世界でしょうか?」


「…………」


 何だろう。この女神様って案外好戦的な性格なのだろうか? すごく身の危険を感じるものばかりなんだけど……。


「あ、あの私は魔法が使えるだけで嬉しいので、後は人並みで十分です。それにできるだけ穏やかに暮らしたいので、そういった脅威とは無縁の方向で……」


「そうですか。最近の転生者は皆さんアイテムボックスと強靭な肉体をとか、魔王を倒す勇者にとか結構言われますが?」


「危険なのはちょっと。冒険者には憧れますが、町とその周辺を行き来するぐらいで構いません」


「では、そうですね……。アルトレインという世界に送りましょう。この世界にも魔王はいますが、三百年に一度ぐらいの周期で現れるだけですし、魔王自体も好戦的とは限らない穏やかな世界です。冒険者ランクもCランクになれば世界中を回れるぐらい安全です」


「本当ですか? それならそこでお願いします」


「では、今から送りますね」


「え、もうですか? その……どんな感じになるのでしょうか?」


「そうですね。親御さんはいた方がいいですか?」


「……いいえ。きっと、前世の記憶が邪魔をすると思いますのでいらないです」


 私はそんなに器用じゃない。きっと記憶があれば前の両親と比べてしまうだろう。


「分かりました。では、新たに訪れる世界の血筋から問題のない体を作りましょう。それと、簡単な装備も付けておきます。後はあなたの生まれてからの設定を書いておきますので、目が覚めたら頭に入れてください」


「はい。どうもお世話になりました」


 礼をして女神様に感謝を伝える。


「いいえ、あなたの未来に幸多からんことを」


 女神様がそう言うと私に向かって光が放たれ、私の意識は途切れていく。さよならみんな、女神様……。


「そうそう、少しだけ魔力を多く設定しているので、目立ちたくなければ隠蔽スキルを使ってください」


 ……ありがとうございます女神様。だけど、フラグとかじゃないですよね? 私はまったりした生活が送りたいのですが。そんな思いとともに私は新天地アルトレインに降り立つことになった。


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