第四話 Happy♡Girl´s
【登場人物紹介】
・十乃 美恋
「妖しい、僕のまち」から登場。
主人公である巡の妹で降神高校に通う女子高生。
文武両道の完璧超人で、無類のブラコン。
巡に(貞操的な意味で)危機が及ぶと、人間離れした身体能力を発揮する。
・鮫島 神楽
【短編集】人妖抄録 ~「妖しい、僕のまち」異聞~より登場。
正体は“七本鮫”の一人で、美恋とはクラスの違う同級生。
鮫島七兄妹の次女で、密かにブラコン。
水中では手品めいた水術を駆使する。
・カサンドラ
「妖しい、僕のまち」より登場
正体は“七人ミサキ”の一人。
旧ドイツ第三帝国の精鋭部隊「第339部隊」所属のツンデレGL娘。
大鋏に変形する二振りの曲刀を使い、素早い身のこなしを得意とする。
美恋「ふああ…つまんない…せっかくのハロウィンなのに、お兄ちゃんは急な休日出勤とかでいなくなっちゃうし…」
神楽「あら」
美恋「あ、鮫島さん。おはよう」
神楽「おはようございます、十乃さん。お出かけですか?」
美恋「そんなところ。鮫島さんも?」
神楽「ええ。不意に予定が空きまして」
美恋「…」
神楽「…」
美恋・神楽「…はあぁぁ…(溜息)」
美恋「…」
神楽「…」
美恋「あ、あはは…どうしたの?元気ないみたいだけど」
神楽「そ、そういう十乃さんこそ。らしくありませんね」
美恋「うん…ちょっと、ヒマでね」
神楽「奇遇ですね…実は私も行く宛てもなく暇を持て余しておりました」
美恋「そうなんだ。あっ、そうだ!だったら、二人でどっか行かない?」
神楽「え?」
美恋「お互い時間もあるみたいだし、全く知らない顔でもないし、ね」
神楽「ええ…そうですね。文武両道で学年ナンバーワンと名高い十乃さんと一緒にお出掛けなんて、滅多にない機会ですもの」
美恋「あはは、そんなんじゃないけどね。じゃあ、どこに行こっか?」
神楽「そうですね…では、お勧めの場所がありますわ」
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美恋「へぇ…いいお店ね!路地裏にこんなシックでお洒落な喫茶店があったなんて!」
神楽「うふふ…ここは特別住民の間ではちょっと知られた喫茶店で、女妖達の間では人気のあるお店なんですよ。お気に召しまして?」
美恋「うん、断然いい!でも、意外ね。鮫島さんって、雅な感じだからてっきり和風派かと思ってた」
神楽「私も意外でした。十乃さんって、こんなにもフランクな方だとは」
美恋「だから言ったでしょ?周りは何かと優等生のレッテル貼ってくるけど、そんなんじゃないんだって」
神楽「うふふ…本当、噂なんて当てにならないものですね…あら?」
美恋「どしたの?…って、うわ、何アレ」
神楽「カウンターでうつ伏せになって咽び泣いていらっしゃいますね(汗)」
美恋「まるで、酔ってくだをまいてるおっさんみたい…あら?」
神楽「どうかしました?」
美恋「うん…ちょっと…どこかで見たような…」
カサンドラ「マスター、おかわりー…んあ?もう止めとけ?いいじゃないの!?たかがウインナーコーヒーくらい!いいから、ピッチャーで持ってきてよ、ピッチャーで!」
美恋「や、やっぱり!カサンドラさんじゃないですか!」
カサンドラ「あーん?あら?十乃の妹じゃないの」
美恋「な、何してるんですか、こんな所で!?…って、コーヒーくさっ!?一体何杯飲んでるんです!?」
カサンドラ「フッ…何杯なんて忘れたわ…忌まわしい記憶と共にね」
美恋「…男に捨てられて、飲んだくれてる場末のバーカウンターの女みたいに言わないでください」
カサンドラ「言いたくもなるわよ!あんたも今日は何の日か知ってるでしょ!?」
美恋「何の日って…」
神楽「十乃さん、今日は10月31日でハロウィンですけど…」
美恋「忘れてた…そうだったわね」
カサンドラ「ハロウィン!そう、ハロウィンよ!忌々しい!」
美恋「って、うわ!まだ飲むつもりですか!?もう止めてくださいよ!死んじゃいますよ!?」
神楽「落ち着いてください、十乃さん。この方は“七人ミサキ”もうこの世の方ではありません」
カサンドラ「あによ!?人のことをフツーじゃないみたいに…って、あら?あんたは水球勝負の時の“七本鮫”じゃないの」
美恋「へ?鮫島さん、知り合いなの?」
神楽「ええ、以前ちょっと…といいますか、十乃さんもカサンドラさんを知ってるのですか?」
美恋「あ、あはは…私も実は以前にちょっとね」
カサンドラ「なあに?珍しいペアね?デキてんの?あんたら」
美恋・神楽「「そんな訳ないでしょう!」」
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カサンドラ「…ってワケ」
美恋「それはまた何という羞恥プレイ…確かにくだの一つもまきたくなるわ」
神楽「ええ。カサンドラさんがハロウィンを忌避する理由が分かりました」
※詳細は「∞∞† Halloween Night †∞∞2018及び2019」の「オペレーション「Halloween」を参照。
カサンドラ「毎年毎年ロクな目にも合わず…この時期になると、飲まなきゃやってらんないっての!」
美恋「…それで何故にウインナーコーヒー?(汗)」
神楽「しかし、ハロウィンが憂鬱とは…私と似た方が、こんな身近にいらっしゃったのですね…」
美恋「…ずっと気になってたんだけどさ」
神楽「?」
美恋「鮫島さんは、何でさっき溜息なんか吐いていたの?何か憂鬱そうだったけど」
神楽「それは…その…」
美恋「…まあ、言いたくなければ言わなくてもいいけどね」
神楽「…実は」
美恋「?」
神楽「今日は芳士お兄様の誕生日でして…その、お祝いの準備をしていたのです」
美恋「へえ、アットホームな家庭ねぇ」
神楽「い、いえあの…私個人で、ということでして」
カサンドラ(顔が真っ赤っかだわ…水球勝負の時は気付かなかったけど、この娘結構可愛いじゃない)
美恋「…もしかして鮫島さんって、ブラコン?」
神楽「そ、そそそそんなことはありません!」
カサンドラ「ドンピシャね」
美恋「分かりやすいわー。めっちゃ分かりやすいわー」
神楽「あ、あう…」
美恋「…で?それからどうしたの?」
神楽「はい…お兄様の誕生日をお祝いするために、密かに料亭を予約していたのですが…」
カサンドラ「『リョウテイ』って、確か日本料理を出すレストランよね」
美恋「料亭って…もしかして『古都里』!?スゴイ!奮発したわね!」
神楽「はい。そこでお兄様の誕生日を二人きりでお祝いするつもりでした。でも…」
美恋「まさか…ドタキャン?」
神楽「はい…何でも、女性の方と先約があるとかで…」
美恋「…行くわよ、鮫島さん」
神楽「え?」
美恋「今から!お兄さんを!奪取しに行くわよ!」
神楽「ええっ!?ほ、本気ですか!?」
美恋「本気と書いてマジよ!いい!?このまま泣き寝入りしたら、絶対にダメ!他所の女との先約なんざクソくらえよ!妹の好意を無碍にするなんて、神をも恐れぬ行為だと思い知らせてやらなきゃ…!」
神楽「と、十乃さん…でも、お兄様はその女性のことが好きなのかも知れませんし…ましてや、妹である私のことなんか、特段何とも思ってないでしょうし…」
カサンドラ「それでいいの?“七本鮫”」
神楽「カサンドラさん…」
カサンドラ「いい?確かに恋や愛は崇高にして侵してはならないものよ…でも、だからこそ簡単に手放してはいけないものなの!」
神楽「は、はあ…(何だか、目の色が違う…)」
カサンドラ「肉親だからって何!?同性だからって何!?そんな障害、木っ端微塵にしてやればいいじゃない!いい?この胸の内に燃えたぎる想いは、唯一絶対無二なの!生半可な気持ちで燃え盛っている訳では無いのよ!あんただってそうでしょ!?」
美恋「カサンドラさん、さっすが!よく分かってる!」
カサンドラ「あんたこそ、良い根性してるわ!あの男の妹にするのは勿体ないくらいよ!」
神楽(あ、熱い!この二人からほとばしるこの熱気は一体なに…!?)
美恋「というわけで、早速行動開始よ!」
カサンドラ「善は急げね。その兄貴が行きそうな場所を教えなさい。バックアップしてあげるから!」
神楽「は、はい…でしたら、早速お兄様のにおいを…」
美恋「においって…?」
神楽「ああ、私達は鮫の妖怪なので、嗅覚が鋭いのです。肉親のにおいなら、すぐに嗅ぎ分けられます…って、あら?このにおいは…」
カランカラン…
芳士「あ、いたいた。ここにいたのか、神楽ちゃん」
神楽「芳士お兄様!?どうしてここに?」
芳士「近くを通りかかったら、神楽ちゃんのにおいがしてね」
巡「芳士さん、本当にここに妹さんがいるんですか?」
美恋「お兄ちゃん!…じゃなかった、兄さん!?」
巡「わ、本当にいた!しかも美恋とカサンドラさんまで!?」
芳士「ほら、言ったっしょ?神楽ちゃんのにおいに間違いないって」
美恋「一体どういう事ですか、兄さん!?何で、兄さんが鮫島さんのお兄さんと一緒にいるんです!?」
巡「いやあ、実は今日、役場でばったり会ったんだよ。で、セミナーから逃亡した特別住民を探すって言ったら、少しの間なら手伝ってくれるっていうから…」
芳士「あの猫又ちゃんのにおいなら、何とか追えそうだったからね」
神楽「お、お兄様、今日は女性との約束があると…」
芳士「ん?ああ、あったよ。特別住民支援課の二口女さんに提出する書類があったんだ。いやあ、今日が期限だっていうのをすっかり忘れててさ」
神楽「え?ま、まさか…女性との約束って…役場への提出物のことでしたの!?」
芳士「そ。あとは巡ちゃんがいま言った通り。で、人探しの途中、この店から神楽ちゃんのにおいがしたんで、覗いてみたってワケ」
神楽「…」
巡「…あの、芳士さん?何だか妹さん、ぐったりしてますけど…(汗)」
美恋「ホントにもう…」
カサンドラ「男って…(溜息)」
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美恋「じゃね、鮫島さん。いい休日を!」
神楽「ええ、ありがとう十乃さん」
美恋「…ね、最後に一つだけいい?」
神楽「?」
美恋「これからは『十乃さん』じゃなくて『美恋』って呼んでよ。私も『神楽』って呼ばせてもらうから」
神楽「…いいんですか?」
美恋「勿論。だって…私達同類だもんね!」
神楽「えっ…?じゃあ、とお…じゃなかった、美恋さんもお兄様のことを…」
美恋「しーっ!まぁ、そういうこと♡」
芳士「内緒話は済んだかい、神楽ちゃん?そろそろ行かなきゃ、予約の時間に間に合わなくなっちゃうよ?」
神楽「あ、はい!」
巡「芳士さん、ご協力ありがとうございました」
芳士「いいってこと。そうそう、あの猫又ちゃんなら、この先の大通りの方からにおいがするから追ってみて」
巡「分かりました」
芳士「…一人で大丈夫?」
巡「いえ、頼りになる妹がついて来てくれるそうですから」
美恋「…!」
芳士「ふふ…じゃあね。いい週末を!」
巡「はい。芳士さんも!」
美恋「さぁて…それじゃあ私達も行きましょうか、兄さん!」
巡「なぁ、やっぱり本気でついてくるのか?」
美恋「勿論です。その逃亡した特別住民を見つければ、今日の仕事はもう上がりなんでしょ?」
巡「あ、ああ。まあね」
美恋「なら、とっとと片付けちゃいましょう。その後は、頼りになる妹と約束してたショッピング、宜しくお願いしますね!」
巡「ハイハイ」
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カサンドラ「…どいつもこいつも、いいご身分ね、まったく」
ひゅううううううう…
カサンドラ「うう…木枯らしが霊体に染みるわ…」
エルフリーデ「ん?そこにいるのはカサンドラではないか。こんな所で何をしている?」
カサンドラ「コ、司令官!」
エルフリーデ「何だ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
カサンドラ「は、はい!ええと…その、拠点周囲の巡回をしておりました!」
エルフリーデ「それは殊勝なことだ。ちょうど私も帰投するところだが、お前も来るか?」
カサンドラ「は、はい!喜んで!」
エルフリーデ「うむ、では行こう。アルベルタ達も待っている」
カサンドラ「はい!」
フラッ…
エルフリーデ「おっと、大丈夫か?どうした?足元がおぼつかないようだが」
カサンドラ(うひょおおおおおおおおお!!司令官が抱きとめてくれた!!しししししかも、お顔がすぐ近くにッッッ!!らっきーーーーーーーーーぃ♡無駄に飲んでみるもんだわ、ウインナーコーヒー!!!)
エルフリーデ「どうした?顔が赤いぞ?」
カサンドラ「その…じ、実は…先の水球勝負以来、いささか消耗しておりまして…」
エルフリーデ「ふむ…ディードリントから聞いている。よし…」
カサンドラ「へ?ひゃっ!?」
エルフリーデ「今日は特別だぞ?」
カサンドラ(おおおおおおおおおひいいいいいいいいいめええええええさああああああまああああああだっこぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉ!!♡)
エルフリーデ「さて、では行くか」
カサンドラ「はい♡どこまでもついて参ります、お姉さま♡」
エルフリーデ「お姉さま?」
カサンドラ「あ…いえ、何でもありません!」
エルフリーデ「おかしな奴だなw」
愛の形…それは千差万別。
しかし、そのどれもが尊く、そして美しい。
【END】
※次話は24時更新予定です。