第73話
「お、治さんはすぐそうやって人をからかうんですから」
「か、からかっているわけじゃないんだけどな……」
「……か、かからかっているわけじゃない、ですか?」
「……」
治はどんどん墓穴を掘っていってしまう。
いつもならば、途中で切り上げるだろう。
しかし、咲は頬を赤くしたまま、こちらを見てくる。
「……それって、本当に可愛いと思ってくれているんですか?」
「……そう、だな」
「そ、そうですか……嬉しいです、ありがとうございます」
煙が出そうなほどに赤くなった咲が、嬉しそうに微笑んだ。彼女のそんな様子に、治は苦笑を漏らした。
「……嬉しい、のか?」
やられたままではいられないと、治が問いかけた。
「……う、嬉しいですよ? 治さんにそう言ってもらえて」
「……そ、そうなんだな。……気持ち悪い、とかは思わないのか?」
「も、もちろんですよ! ど、どうしてそんなことになるんですか!」
「い、いやだって……その、咲はこれまでもたくさんの男に言い寄られているし、そういうのはもうこりごりだと思ってな」
「こ、こりごり……ではありますよ。……でも、治さんは……ちがいますから」
どうしてそのように言うのだろうか。
治はぐっと唇を噛んでいた。咲の控えめに微笑んでいる姿、どこか嬉しそうに笑う彼女に、治の中にあった想いがこらえきれなくなる。
じっとカレーを食べていく咲を見ていた治は――気づけば、問いかけていた。
「咲、ちょっといいか?」
「え? なんでしょうか?」
伝えるか迷った気持ち。これから先のことを考えれば、ここで伝えるのは明らかに悪手だった。
だが、治は大きく膨れ上がった気持ちを押さえることはできなかった。
「……咲、俺はおまえのことが好きだ」
そう伝えた治は、遅れてやってしまった、と思った。咲の驚いたように見開かれた瞳を見て、治は前言撤回をしたくなったが、それだけは決してしなかった。
治の言葉を聞いた咲が目を見開いた。口にくわえていたスプーンがぽろりと落ち、静かな部屋に響きわたる。
「……お、治さん……その好き、というのは……本当に好きということですか?」
「……あ、ああ。俺はおまえのことが好きだ。……人として、異性として」
「……」
かああ、と咲の頬がまた染まっていく。
そして、彼女は視線をちらと横に向けた。
「……治さん、ずるいですよ。なんでこんなところでいきなり言うんですか」
「……わ、悪い。その、今の咲が……とても可愛くて、我慢できずになって――」
「も、もうそれ以上言わなくていいですから……っ。……治さん、その、返事をしてもいいですか?」
「……あ、ああ」
緊張し、治は咲を改めて見る。
「私も、好きです」
「……え?」
「え、とはなんですか……っ。私は……治さんのことが好きだから、こうして家に誘ったり、一緒に出掛けたりしているんです」
「そ、そうだったのか?」
「……も、もう。私の気持ちに気づかれたから告白されたのかと思ったじゃないですか。ち、違ったんですか?」
「……あ、ああ。俺も本当に出会ってからずっと一緒にいて、惹かれていったというか」
「……そ、そうだったんですね」
お互いに一度視線を外しあった。それから、お互いに見つめあう。
それから、治は咲に、改めて伝えた。
「好きだ、咲」
「……私も好きです、治さん」
顔を見合わせる。
照れ臭く、それからはにかむように笑いあった。




