第62話
治が近づくと、、二人の会話が聞こえた。
「よくありません。あなたの今の行動は立派なストーカー行為ですよ」
「一緒の学校の生徒が仲良く帰ってるだけじゃねぇか。なあなあ、いいだろ? 今付き合っている人がいないのなら、試しに付き合ってみてもさ? オレ、絶対後悔させないぜ?」
「……ですから、いいですか。私、今のところそういうものに興味はありませんから」
「そんなもったいないこと言わないでよ。オレの何が不満なわけ? これでも、かなりモテるほうだけど?」
「……別にあなたに不満があるわけではありません。ただ、興味がないですから」
「それじゃあ、興味もってくれよぉー」
困り果てた様子の咲とその時治は目があった。
治はそのまま、近づいていく。
先ほどの二人の会話から友好的な関係はないと分かっている。
「どうしたんだ?」
「え? な、なんだ……おまえは?」
何かしらの理由でまとわりつかれているのか、と予想した治が近づくと男は明らかに気圧されていた。
咲をじっと観察し、二人の関係を見ていく。そして咲が男に絡まれていると判断し、咲と男の間に入った。
「……島崎さん」
咲がほっとしたような表情を浮かべ、治は確信する。
「俺は……咲の彼氏なんだが、何か用事でもあるのか?」
迷った治は、そう嘘をついた。男は驚いたように咲へと視線を向けた。咲は一瞬驚いたが、頭の回転はさすがに速かった。
「え? ひ、飛野さん? つ、付き合っている人いないって……」
「……風高には、いません。彼は島崎治といいまして、治さんは私の……彼氏、なんです」
咲はそういって、治の後ろに隠れた。治はほっと胸を撫でおろしていた。
出過ぎた真似をしたのではないかと思っていたが、治の嘘に素直に便乗してくれたことで、咲の置かれている状況をはっきりと認識できた。
「……」
「それで、何か用事か?」
治は彼との身長差を活かすように上からじっと睨みつける。
治の生まれ持っての体格があわさり、男は完全に怯んだ様子でぶるりと一度震え上がり、それから首を横へと振った。
「な、なんでも……ありません」
「そうか。それなら気を付けて帰れよ? もう暗いんだしな」
「あっ、は、はい……」
治がそういうと、男はぶるりと震えあがってからぺこぺこと頭をさげて去っていった。
まだちらと振り返るように見てくる男に見せつけるように、治は咲の手を握りそのままマンションへと歩き出した。
「……なんであそこまで怯えているんだ?」
「……もしかしたら、治さんの先ほどの言葉が脅しに聞こえたのかもしれません」
「気を付けて帰れよ、ああ……なるほどな。別にそんな気持ちは一切なかったんだが」
治はため息をついてから頬をかいた。
「もちろん、分かっていますよ。……助けていただいてありがとうございました。今日その、久しぶりに告白されまして……それからつきまとわれて、困っていたんです」
「こ、告白、か……さっきの人、かなり執念深いというかなんというか」
「そうですね……。付き合うつもりはない、今は興味がないと言っても聞いていただけなかったんです。あの場で咄嗟に、彼氏、と嘘をついてくださって助かりました」
ぺこりと、咲は腰を折り曲げた。
丁寧なお辞儀に、治も似たように頭をさげながら、咲の言った「興味がない、付き合うつもりはない」という言葉に落ち込んでもいた。
「でもあいつが学校で変な噂を流すかもしれないよな……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。その程度で私の生徒会長として築いた信頼が崩れることはありませんから」
「……そう、か。まあ、彼氏とか変な噂流されたら……本当にごめんな」
「か、彼氏……あっ! う、噂ってそっちですか!?」
「……え? 他になにが?」
「い、いえ……その、う、ううう嘘つきとかいわれるくらいだとおもっていました! か、彼氏ぃ……っ!」
咲は耳まで真っ赤にしていた。
 




