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オタクな俺がポンコツ美少女JKを助けたら、お互いの家を行き来するような仲になりました  作者: 木嶋隆太


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第59話


 制服に袖を通した治はそれから鏡で確認する。

 突然髪を切りそろえた姿はまるで高校デビューでも狙っているかのようだった。

 だが、それにしたって時期は中途半端が過ぎた。

 高校二年、五月の半ばである。


 すでに治は、『オタク』というあだ名が定着している。クラスの男子二名にはいつもバカにされていて、他のクラスメートからは陰のような扱いを受けていた。

 それが突然髪を切れば、悪目立ちをするというものだった。


(せめて、変なことを言わなければいいが)


 何を言われようとも気にしないつもりではあった。このように髪を切ったのも、すべては咲にふさわしい男になるためであった。


 だから、それ以外の人の言葉は気にするつもりはなかった。

 小さく息を吐いてから、治はカバンを担ぎ部屋を出たときだった。

 ちょうど咲も同じくマンションを出ていた。


「島崎さん……おはようございます」

「おはよう、また会ったな」

「そうですね」


 咲はちらちらと治の全身を見ていた。


「どうした? ……なんか変か?」

「いえ、その……肖像権の侵害と言われればあれなのですが、真由美にたまたま島崎さんの写真を見せる機会がありまして」

「え!? ど、どうだったんだ?」

「……と、とても似合っていると言っていましたよ?」

「そ、そうか……それは良かった」

「よ、良かった? ま、真由美に言われて嬉しいということでしょうか?」


 咲の不安そうな顔に治は小さく頷いた。


「まあ、多少はな。飛野も褒めてくれたけど、飛野は優しいからわざとそう言っているんじゃないかとも思ってな。……とりあえず、学校で悪目立ちしなければと思っていたが、大丈夫か?」

「……大丈夫、どころか私はカツラをオススメしたいくらいです」

「……え? どういうことだ?」

「いえ……その、なんでもありません。……そういえば、いつもこの時間に家を出ているのですか?」

「だいたい、そうだな」

「……それでは、また明日も会えるかもしれませんね。私もこのくらいに家を出ていますから」

「……そっか」


 そこで咲と別れたあと、まっすぐに学校へと向かって歩いていく。

 朝から咲の笑顔を見られ、治としてはとても気分が高揚していた。


 風高が近づいてくにつれ、治に対しての視線が増えていく。

 近づけば近づくほどにその数はさらに増していった。

 

 教室へと入ると、クラスメートたちが驚いたように治をじっと見ていた。

 治はそれらに一瞥だけを返し、自分の席へと向かって歩いて行った。


「お、おい誰だあの人!?」

「え!? うちのクラスにあんな人いたか!?」


 男子二名――いつも治をバカにしていた二人だ。

 治はそんな彼らの横を過ぎ、席へと座った。


「お、おい……あいつオタクの席に座ったぞ!?」

「お、オタク……なのか?」


 周囲の驚いたような声が響いていた。

 噂され、今もちらちらと伺うような視線がたくさんあった。居心地はあまりよくなかった。


(……やっぱり、悪目立ちしているな)


 治は気にしないように努め、いつものように本を取り出した。

 それからぺらぺらとめくっていくと、近くの女子たちがこそこそと話をしていた。


「え……? あれがオタクなの?」

「……髪切ったら別人じゃん。ていうか、滅茶苦茶好みかも」

「……ね、ね!? でも、突然どうしたんだろ?」

「……最初からああしていればいいのに、どうしたんだろうね?」


 クラスメートたちがこそこそと話し始め、治は驚いていた。


(髪切っただけでこんなに変わるのか? まあ、飛野にも似合うとは言ってもらったけど、だからってな)


 治はとにかく意識しないようにしながら、さらに本を読んでいく。

 しばらく治は本に目を通していた時だった。一人の女子が治の前に立った。

 滅茶苦茶綺麗な女性だ。


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