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オタクな俺がポンコツ美少女JKを助けたら、お互いの家を行き来するような仲になりました  作者: 木嶋隆太


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第58話


 呆気にとられた顔の治に、先ほどの写真を見せつける。


「島崎さん、良い表情ですね」

「こら、飛野。その写真は消してくれ!」

「駄目です、駄目ですよ」


 咲はスマホを守るようにポケットにしまってから、舌を出した。

 治は諦めるように肩を落とした。


「……悪かったよ、さっきはからかうようなことをしてさ」

「分かったのなら許しましょう」

「それで、飛野。さっきの写真をいくつか後で送ってくれないか? ……俺も、写真欲しいからさ」

「……わ、わかりました。それでは、いま送りますね」


 咲はスマホを操作し、先ほど撮った写真のすべてを選択して治に送り付けた。


「あっ! し、しまった! 私の先ほどの驚いた顔の画像だけは消しておいてください!」

「……ああ、了解だ」

「ほ、本当に消してくださいね! こっそり持っていたら怒りますからね!」

「わかったわかった」


 彼はくすくすと笑っていて、まるで消すようなそぶりを見せなかった。

 咲はむすっと頬を膨らまし、そんな治をじっと見ていると、


「……それじゃあ、飛野。今日は一日ありがとな……おやすみ」

「はい……こちらこそです。おやすみなさい」


 マンションへと歩きながら咲は手を振り返す。エレベーターへと乗りこみ、どこか落ち着かない足元を確かめるように何度か足を動かす。


 エレベーター特有の浮遊感だけではなく、未だにどこかふわふわとしたものを感じていた。


「おやすみ……おやすみなさい……ふふふ……」


 治と別れ際にかわした挨拶を思い返し、笑みが止まらなかった。

 ニヤニヤと笑っていると、エレベーターが目的の階層で止まった。

 そのままの顔でエレベーターから一歩出ると、ちょうど夫婦と思われる男女が乗りこもうとしてきた。


(わっ……!?)


 咲はだらしなかった顔を見られてしまい、激しい羞恥心に襲われながらも懸命に表情を繕って部屋へと向かった。

 自宅についた咲は、それから急いでスマホを取り出した。そして、散々待たせてしまった真由美へと電話をすると、すぐに通話はつながった。


『遅い! 心配したよ!』

「……すみません、島崎さんと出かけることが決まり、完全に忘れていました」

『ああ、そうなんだ。どうせ、私はその程度の女ですよー』

「すみません、すみません。……とりあえず、まずはありがとうございました」

『それで? どうだったの?』

「聞いてみましたら、どうやら島崎さんのお姉さんだったみたいです。島崎さんの部屋の掃除と髪を整えるために来ていたそうですよ」

『へぇ、そうなんだ。美容師さんとかなの?』

「まだ見習いだそうですけど、それで島崎さんが髪を切ったのですが、とても似合っていたんですよ」

『えー、写真とかないの? みたいんだけど』

「ありますよ」


 咲は先ほど撮ったツーショット写真を真由美へと送り付ける。真由美はじっとその画面を見て、


『へぇ、仲良く写真撮ったんだね』

「……そう、ですね。記念に、です」

『そっか、そっか。良かったね』

「……はい。そ、それにとても今日はお互いに近づくことができたんです」

『え? もしかしてとうとうキスしちゃった!?』

「違いますよ! 手を長時間握ってしまったんです!」

『……はぁ』

「なぜため息ですか!?」


 真由美の反応は咲の予想していたものとは大きく違った。声を荒らげて返すと、真由美からは嘆息を返された。


『長時間だからって何がって話なんだよね。そのくらいは普通だよ』

「な、なんですか! ちょ、長時間ですよ! 行きかえり合わせて30分ほどですよ!」

『まあ、そのくらいでわーわー騒がないでよ。それにしても……これ島崎くんだよね?』

「はい。とても髪型似合っていますよね」

『とても……どころか、ちょっと驚いている。もともと素材は良いと思ったけど、まさかここまで化けるとはね』

 

 息をのむのが聞こえた。あまり気にしていなかったが、真由美が言うのだから大きく外れているということはないだろう。


「まあ、髪型はなんでもいいんじゃないですかね? 本人の自由ですし」

『そりゃあ、咲っちはそうかもしれないけどね。これだと周りが放っておかないかもだよ?』

「ま、周りが放っておかない? ど、どういうことでしょうか?」

『つまり、島崎くんを狙う人が増えるかもしれないってこと! こんなにイケメンで、性格だって真面目で優しい、おまけにお金ももってる! これでなびかない人いないでしょ!?』

「……そ、そういうものなんですか?」

『当たり前でしょ! 咲っちはもっとよく考えてね! 一緒に出掛けたっていうのなら、周りの注目凄かったんじゃない!? 周りからは美男美女のカップルだと思われただろうし!』

「……そ、そういえば、今日はなんだか私だけではなく島崎さんも見られていたような気が――もしかして、そういうことだったのですか?」

『かもしれないよ? ……それこそ学校での咲っちみたいになっちゃうかもね』

「そ、それはいけません! 何か対策を! か、カツラをかぶせるのはどうでしょうか!?」

『うーん、出来ればいいけど……無理につけさせちゃうのもなぁ』

「で、ですが!」


 咲は思いつく限りの対策を提案したが、真由美からは楽しそうな声が返ってきた。


『まあ、これまで以上にアピール頑張るしかないんじゃないかな? 頑張れ!』

「こ、これまで以上って……すでに私、嘔吐寸前なくらい頑張っているんですけど」

『それ以上に頑張れってことだよ、ファイト!』


 無責任な友人の言葉に、咲は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


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