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最終話 そして

お待たせ致しました、最終話です。

―――ずっと、叶わない願いだと思ってた。


気持ちを自覚したのは中学生の時で、それからずっと。


私は海の傍に幼なじみとして居ることはできても、女として居ることはできないんだって。


だけど今。


私は、焦がれて止まなかったこいつの腕のなかにいる。


これで泣くなって言うほうが、無理な話だ―――。




ようやくひきつけがとまると、ゆっくり頭を撫でていた海が、不意に私を抱き上げた。


「わっ…、なにす」


「いーからいーから」


非難めいた声を上げても、随分と機嫌がよさそうな声で軽くかわされる。


いっ、一体何する気!!


心の中では大反抗していても、その実海に抱えられている私はおとなしいものだった。


だって、好きな人に触れられて拒絶できるわけがないでしょう!!


「よっと」


連れていかれた先は、ベッドの上で。


優しく降ろされるけど、何がどうしてこうなったのか事態がうまく飲み込めない私は、ただ呆然とするばかり。


体の上にまたがられ、上着のジャケットのボタンが外された時に、はっと覚醒した。


「う、海!?」


「んー?」


答える声もなんか機嫌いい!!


「いや、んー?じゃなくてね!?いきなり何をすんの!」


「既成事実を作ろうかと」


「は!?」


「既成事実作っちゃえば、オマエも逃げられないんじゃないかと思って」


「なっ…馬鹿言わないでよ!そんなことしなくたって私逃げないし!」


「あ、今のいい。なんかキた」


「―――っ!!」


だめだこいつ頭のネジ飛んでる!


自分の顔が熱くなるのが分かった。


しかも、いつの間にかワイシャツ一枚にされてるし!


「ちょちょ、ちょっと待ってよ!私まだアンタに聞きたいことが」


シャツのボタンまで外し始めた海の骨張った手を、上から握り締めて動きを止める。


「あ?なんだよ」


「昼間の女の人はいーのっ!?」


「は?昼間の女?」


一瞬眉をひそめた海は、それからあぁ、と呟いて呆れたふうに息をついた。


「だから、それが大きな勘違いしてるって言ってんだよ」


「えっ」


「あの人とはなんでもないっつの。一緒に会社抜け出そうとか言うから、めんどくさくてマジで一緒に外に出たところで、一緒に抜けたんでじゃあこれでって置いてきた」


「……は?」


な、なんだそれ。つまり―――海はその人とはほんとに何もなかったってこと?


「第一、俺が会社早くあがったのは花さん探しの為であって、あとは知らねー…って、あぁそうか。それでオマエあの時泣いてたんだな」


「…え?」


ぎくりと息を呑む。


ま、まさか…。


「エントランスで。俺と目が合ったとき、泣いてた」


やっぱりその時かーっ。


私自身が涙を流してたことに気づいた時には、もうあとが渇いてたものだから、ずっと不思議だったのだ。


いつ泣いたんだろう、って。…その時、だったんだな。


「う〜…」


それを聞くと、なんだかますます海を好きだと主張しているように思えて、無性に恥ずかしくなった。


思わず唸る。すると、海が吹き出して私のおでこにキスをする。


「納得した。俺の聞きたいことってそれだったから」


あんまり優しく微笑むものだから、私はなんにも言えなくなってしまう。


それを続行の許可が出たと解釈したのか、海はまたボタンを外し始めた。


「あ、ちょ…っ」


「いーから。黙って俺に抱かれなさい」


「!!!!」


「早く孫の顔見せてあげろって言ったの、オマエだろ」


たっ、確かに言ったけど、決してこういう意味じゃない!!!


焦る私をよそに、今度こそ海は止まらなかった。


―――頬に。瞼に。額に。唇に。


口づけされればされるほど、頭がぐるぐるして、意識が朦朧(もうろう)とした。


「うみ…」


「…ん?」


必死になって名前を呼ぶと、海は優しい声で答えてくれる。


「………ありがとう」


「―――え?」


私を翻弄する海の手が、一瞬だけ止まって目が合った。


擦れた声で、それでも私はいま、この目の前の愛しい幼なじみに伝えたいことがある。


「隣の家に生まれてきてくれて…ありがとう」


生まれてきてくれてありがとう。


傍にいてくれてありがとう。


気持ちをくれてありがとう。


そんな想いで言葉を洩らすと、


「―――その言葉、そっくりそのままオマエに返してやるよ」


海は、不敵な笑みでそう答えるのだった。




―――夜が明けて、上半身だけを起こした俺は、まだ隣に眠る空の寝顔をここぞとばかりに見つめる。


今は寝てるから咎められないけど、こいつ起きてたら絶対、見ないでよ!とか言って殴ってくるんだろうな。


だいぶ光景がリアルに浮かんで、苦笑する。


まぁ、そんなやりとりも幸せなんだけど。


…うわ。なんか今の自分、頭涌いてる。


つらつらと考えながら、空の髪を梳いた。


朝の静かな空気が、こうしていることを無条件で許してくれている気がして、思わず頬がゆるむ。


しばらくそうして撫でていると、今まで部屋の隅に静かに丸まっていた花さんが、ゆっくり立ち上がった。


「?」


何をするのかと注視していると、なんと彼女は俺たちのいるベッドに歩み寄ってきて、しかもその上に飛び乗ってきたのだ。


―――は、花さんが自ら俺の傍に!!


初めてデレデレになった!


感動に打ち震えて手を伸ばすと、これまたおとなしく撫でさせてくれる。いつものやられた、みたいな表情もしない。


…つ、ついに俺は花さんの心を手に入れたぞ!


じーん、と感じ入っていると、横から落ち着いた声が聞こえた。


「変態猫ヲタクなのは、変わらないんだね」


「……………変わらないって、いつと比べて?」


逆に聞き返してやると、空は黙り込んで顔を背けた。


「空さん?おーい」


「…うるさいっ、この、バカッ」




―――数日後。


「空ーっ!!あんたキングと結婚するんだってぇ!?一体どーゆうことよっ」


「あの、黙ってたけど実は幼なじみで…」


「最初っから聞いてないっっ!!!!」


……私が情報が早い杉浦先輩に質問攻めにされたのは、言うまでもない。




『なんで花さん然り、俺の彼女はツンデレばっかなんだろーか…』


『…それって私もツンデレだってこと?』


『ツンデレ以外の何者でもないだろ』




END


読了、ありがとうございました(^∀^)最後はすっきりまとめたくてこうなりました。ほんとはもっとラブラブ時間を描写する予定でしたが、それは番外に回すことにします♪数日中にこの続きの形になる番外編をいくつか載せたいと思いますので、よろしければそちらもどうぞ´∀⊂★Special Thanks★この物語を読んでくださったすべての方々へ。

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