2 下された最終通告
スミマセン急用が入ってしまい昨日のうちにUPできませんでした(ノд<。)゜。遅ればせながら2話目をご堪能いただければ幸いです。
「…もしもし」
『海?』
「海でーす…」
『なに気の抜けた声出してんの。あんた、そろそろ約束の三ヶ月よ?相手は見つかったの』
そらきた。やっぱりこの話だ。
「まだだけど」
『まぁあああぁぁ!!どーせまた花さんにかまうので忙しいとか言うんでしょ!?あんたねぇ、知ってる?一人暮らしでペット飼うのは結婚遅れる一つの大きな要因なのよ!?』
「花さんはペットじゃねーよ!俺の彼女だ!!」
うわ、いま絶対後ろの空がブリザードのような冷たい目で俺のこと見てるよ。
『まだそんなこと言ってるの!?二十六にもなって人間の彼女一人もいないなんて!前に、あと三ヶ月だけって言ったのはあんただからね。約束破ったら承知しないよ。いつになったら孫の顔が見れるのやら…嫁き送れもいいとこだよ、まったく』
「まだ三十まえだ!それに俺は女じゃねぇ、嫁き送れって失礼だろ」
『本当のことでしょうに。そうそう、空ちゃんにあんまり迷惑かけるんじゃないよ』
「…かけてねぇよ」
『あんたの言うことは信じられないからねぇ。お嫁さん探しだって真面目にしてるんだか』
母親が、電話の向こうでふうっとため息をついたのが分かった。
相変わらずマシンガントークだな。しかも声でかいし。…早く電話切ってくんないかな。
『まぁ、いーわ。約束の二週間後。もう一回、電話かけるからね。その時にまだ相手が見つかってないようだったら…』
「だったら?」
『実家強制連行、即お見合いだからね』
はぁ!?ちょっと待てよ。…そう反論の声をあげるまえに、電話はブツッと切れた。
無機質なプーッ、プーッ、プーッという音だけが、繰り返し受話器から耳に届く。
どこまで横暴なんだうちの雅子は!!父さんよくあれと結婚する気になったな…。尊敬だよ。たかしリスペクトだ。
憔悴しきった感ばりばりで、花さんと戯れている空に振り返った。
俺が見ていることに気づくと、空はふと真顔になって花さんから視線を俺によこす。
肩に触れるか触れないかくらいの長さの髪が、さらりと揺れた。
何とはなしに、この髪の長さ、好きだなぁと思う。
首筋が見えるか見えないかっていうぎりぎりの境界線に、燃える。噛みつきたくなる。
いや、個人的見解なんだけどさ?
「海?なにボーッとしてんの。電話そんなに疲れた?」
「あ?あぁまぁ…それもあるかな」
大半はおまえの首見てたなんて、言えたもんじゃない。
どーせ「変態!!」ってはったおされるに決まってる。
「お母さんはなんて?」
「ああ…いつもどおり。早く結婚しろって、ただそれだけ」
「…………………」
「空?」
いきなり黙ってどうしたんだろう。
俺は空の隣に腰を降ろして、彼女をのぞき見た。
「空ー」
「うるっさい。そんなことより海、今からでも早く嫁見つけたら。お母さん可哀想じゃん。孫の顔見せてあげなよ?」
最初のうるっさい、は剣呑な声と表情で。
後半は、意地くそ悪い感じのにやっとした笑顔で。
空は、そう言った。
「だよなぁ。実家強制連行なんて避けてぇし」
「え!?」
空が驚いたように声をあげて、はじかれたように顔をこちらに向けた。
あぁそっか、俺が電話で聞いただけで空には言ってなかったんだっけ。
「約束の期限までに結婚相手見つけなかったら、実家強制連行即お見合い、だとよ」
約十秒くらいだろうか。
空はあんぐりと口を開けたまま固まっていた。
…写メっときゃよかった。
「じゃ、じゃあ花さんはどーすんの」
「おまえに預ける」
「仕事は?」
「有休残ってるからそれ使う、かな?」
「なんでそんな焦ってないの!?」
空が少しだけ声を荒げた。…珍しい。
「なんでって…」
言葉を切って、俺はじっと空を見つめた。
数秒間、沈黙が続く。
「…なによ」
「焦らない理由があるから。…それだけだ」
「焦らない理由?…なにそれ」
「おまえには教えねぇ」
「―――あっそう」
途端、目が据わった空は、膝から優しく花さんを降ろし、立ち上がって玄関へと足を向けた。
「帰んのか?」
「うん」
ドアノブを回して、俺に背を向ける。
「メシは」
いつも食べていってるくせに。
「自分で作る!」
バタン!
そう言い捨てて、空は姿を消した。
あの野郎、近所からクレームつくだろうが!
「…料理、ド下手なくせに」
どうする気だよ。
誰に向けるでもなく、俺はぽつりと呟いた。
「なぁ花さん?」
―――あたりまえだけど、花さんが答えることはなかった。
次回は必ずや木曜日に!




