九話 勇気を出して
「…飴、終わっちゃった……やっぱり…だめだ…」
メモルから貰ったドロップを舐め終わったと同時に身体に疲労と眠気が襲いかかる。
もう少し話を聞きたかったが瞼はだんだんと落ちてきてしまう。
「おやすみ、愛華」
「…お…や…す……」
言い終える前に意識は飛んだ。真っ暗な闇に落ちていく。最後にメモルが何か言っていたように聞こえたが意識はそこまで記憶できなかった。
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「愛華!起きなさない!」
「…もう朝…?」
あくびを一つして鬼の形相をした母と目が合う。本当に朝の母は鬼のように怖い。急いで飛び起き、支度をする。毎日繰り返しのように母は怒鳴る。変わらない朝だった。
「愛華ちゃん…おはよう…!」
「癒亜おはよ!」
いつもの待ち合わせ場所に癒亜が立っていた。愛華の姿を見つけると控えめに手を振ってくれる。それに答えるように愛華は大きく手を振り返す。これも二人にとって変わらない日常だった。
「今日の体育、長距離走だよね〜。私自信ないなぁ」
何気ない話題を振って、その話を癒亜がいつも広げてくれて気づいたら学校に着いているのもいつもの日常だ。だったのだが、癒亜はその場に立ち止まったまま歩こうとしなかった。
「癒亜?どうしたの?忘れ物?」
下を向き、キュッとスカートを掴む姿を見て、これはまた何か気を遣わせてしまったのではないかと勘ぐる。
「そうじゃないよ。あのね…今日学校が終わったら私の家に遊びに…こ、来ない…かな?」
「へ…?」
いきなりの発言に拍子抜けして構えていた緊張が解けた。癒亜の家に遊びに行くのは高校に上がってから初めてになる。中学の頃はよくテスト勉強を教えてもらいに行ってたなぁ、なんて。
「もちろん大丈夫だよ!でも、急にどうしたの?」
「えっと…渡したいものがあって…」
「渡したいもの?何だろう〜」
首を傾げ考えるフリをすると癒亜は少し照れ笑いしながら自分の唇に人差し指を当てた。
「放課後のお楽しみ…だよ…?」
その姿があまりに可愛かったもので、ついつい癒亜を抱き締める。柔軟剤の良い香りが愛華を包んだ。道端で女子同士が抱き合っているなんて異様な光景だが可愛いものは可愛いのだ。
「あ、愛華ちゃん…恥ずかしい…から…!」
「このこの〜癒亜ってば本当に可愛い奴なんだからぁ〜!」
癒亜から私へ渡したいものかぁ…。
何だろうな?
私もそろそろ癒亜にきちんと話さなくちゃいけないよね。本当のこと。だって私たちは親友だもん。愛華は癒亜をからかいつつも、少しだけ唇を結んだ。そして決意した。
(今日、癒亜に打ち明けよう。全部隠さずに)
こんばんは。
いよいよ打ち明けることを決意した愛華。
二人の関係が今後どうなっていくか見守っていて下さいね。