八話 仲間
「愛華、魔法少女は一人ではないんだ」
メモルの口から衝撃の発言が飛び出した。
魔法少女が一人ではない?
それは一体…他にも魔法少女が居るということだろうか?
「それって…どういうこと?」
「前に言ったよね、ガーネット・フェアリーの力は女王様の愛の命だって。女王様は命を分裂して魔法少女に自身の魔力を与えるんだ。もう分かるね?」
「分裂…。じゃあ他にも力を持つ魔法少女が!?」
メモルは強く頷いた。
そして、ポシェットから何か小瓶のようなものを取り出し、愛華の前に差し出した。
小瓶の中にはいっぱいの紫色をした砂のような物が入っていた。キラキラと眩しい光を放っていた。
「これが女王様の命の一つだ。この瓶が割れる時、それが魔法少女の覚醒なんだ。ガーネット・フェアリーが一番に目覚めたんだよ?」
メモルは大事そうに小瓶を眺めた。その小瓶ももう割れてしまいそうな感じだが意外とそうでもないようだ。
「じゃあ、それが割れたら仲間が増えるってこと?」
「そうなるね。でも…上手くいくとは限らないかな」
「どういう意味?」
メモルは困ったように耳を下げた。重そうに口を開いて言葉を紡ぐ。
「愛華だって戸惑っただろう?でも流石、一番に目覚めただけのことあってとても優しい心の持ち主の君はこうして魔法少女になってくれた。でも、この瓶を見て分かる通りもう覚醒してもいいはずなのに、なかなか覚醒しない。これがどういうことを示すか分かるかな?」
ゆっくりと首を横に振る。メモルも苦笑いを溢しながら瓶を少しだけ揺らした。中に入っているキラキラがその反動で左へ右へとゆっくり移動する。
「無意識の中で魔力を拒否しているんだ。もちろん、この魔力を授かることになる人間は無意識の中で、だから気づいていない。仮に覚醒したとしても果たして魔法少女になってくれるだろうか…」
「で、でも。もし断ったらどうなるの…?」
恐る恐る訊ねる。メモルは最初に言っただろう?と言わんばかりに目を瞑った。
確かにいきなり魔法少女になってほしいなんて言われたら戸惑うし、怪物を倒すなんて足が竦んでしまう。愛華だって初めは戸惑った。今だって問い詰められたら戸惑ってしまうだろう。先の見えない不安や恐怖だって取り払えない。
「あのさ、その魔力はどんな力なの?」
「これは『アメジスト・フェアリー』だ。女王様の癒やしの命。国民たちへ安らぎをもたらしていた力だ」
アメジスト・フェアリー…。
確かにアメジストは紫色をしていたと昔、図書館にあった宝石図鑑を見たことを思い出した。
「私はガーネット・フェアリー…。アメジストもそうだけど宝石が関係してるの?」
「あぁ、言ってなかったね。人間界でもよくパワーストーンだとか言うだろう?僕たちの世界ではそれが魔法の源になっているんだ。女王様はその魔法の源を自身に取り込み、命を分裂したんだ…もしかしたら、命を落とす可能性だってあるのに…無茶なことを」
話している次元が違いすぎて、内容が全然頭に入らなかった。授業内容で白旗を振っているレベルの人間には話が難しすぎる。
でも、そんな愛華でも一つ矛盾点を見出した。
「女王様って命を分裂したんじゃないの?それなのに、命を落とす可能性って矛盾してない?」
「何を言っているんだ?女王様は命を分裂して眠りについただけでまた魔力を戻せば目を覚ますことができるんだ」
「え…えぇ!?そうだったの!?私てっきり…」
てっきり、女王様は命を落としたのかと思っていたなんてあまりに不謹慎すぎて愛華は飛び出しそうになった言葉を飲み込んだ。
「言っただろう?僕たちの世界には魔法が存在しているって」
メモルは小瓶を見つめながら、少しだけ得意気に笑った。ほんの少しいつもより生意気そうに見える顔に愛華も安心した。
「この時空の歪みを完全に食い止められたら、女王様へ魔力が戻っていくはずだ」
「そっか、なんかそれ聞いたら安心した。早く仲間が増えるといいな」
愛華がメモルの手から小瓶を抜き取り、小さく揺らした。本物の宝石は見たことないが紫色に煌めく砂は今まで見てきたどんな絶景や写真より綺麗だった。
「アメジスト・フェアリー…か」
癒やしの命を授かる魔法少女。
同じ魔法少女が増えることに愛華は少しだけ胸を弾ませた。たった一人、時空の歪みと戦うより仲間が居たほうが心強い。
「早く会ってみたいな」
こんばんは。
衝撃発言とは、新たな仲間の存在でした。
ここから先は加速していく展開になりますので目を離さずご覧いただけたら嬉しく思います!