六話 言えない秘密
「…やっぱ……怪物を倒したあとは…身体が…」
身体がやはり鉛のように重たい。どっと疲れが増し眠気が襲う。メモルはそんな愛華を穏やかな瞳で見つめ、おやすみ。と頭を撫でる。
「少しずつだけど、魔力を取り込んできている。もう少し力を取り込めばこの空間に居られる時間も長くなる。そしたらまた少し君に話をしようと思うよ…」
メモルのその言葉を最後に目の前が真っ暗になり意識を手放した。
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「ん…もう朝…?」
暖かい春の日差しが顔を照らした。ぼんやりと寝返りを打ち天井を見上げる。天井には電気がぶら下がっている。ここは自分の部屋だ。朝が来るとまるであの空間での出来事は夢だったかのように感じてしまう。
「…今日は少し気分転換に行こうかな!」
明日からはまた学校が始まる。今のままでは癒亜にまた心配させてしまうのではないかと思い外出することにした。
新しく買ったワンピースに袖を通し、肩より少し長い髪を丁寧に梳かす。自慢ではないが髪質は人より優れているのではないかと思っている。櫛がサラサラと絡まることなく通る。
「よし!」
身支度を終え、玄関の扉を開く。春の日差しが愛華を照らす。ぽかぽかと程よく気持ち良い風がワンピースを揺らす。春はとても好きな季節だった。
「良ければどうですかぁ〜!ご帰宅お待ちしていますよぉ〜!」
人通りが多い所に出た。色々なお店の店員さんが各自のお店の宣伝をしていた。その中でも目を引いたのがメイド喫茶だった。
メイドさんはフリフリのメイド服に見を包み、手には沢山のチラシを抱え、満面の笑みで通りすがる人に配っていた。
「あのぉ~、良ければどうですか?」
眺めていたら愛華の元へ可愛らしい足取りでメイドさんが寄ってきた。くりっとした丸い目にふわふわのツインテールがよく似合う優しそうなメイドさんだった。
「えっと…今は急いでいて…あはは」
急いでなどいないが、メイド喫茶は一人で入るのには愛華はまだハードルが高いと感じていた。
「…どうぞー。良ければどうですかー」
なんとかメイドさんから逃れ道を進もうとしたら、先ほどのメイドさんと同じメイド服を着た一人の女の子に目がいった。短めの赤い綺麗な髪を癒亜のように下でおさげにしている背がかなり低めの女の子。小学生…ではないだろうが顔もかなり童顔でとても可愛い。
だが、チラシを配る様子には全く覇気を感じられない。先ほどのメイドさんのように誰かに駆け寄ることもなければ無愛想に声を上げながらチラシを差し出していた。あれでは誰も受け取ってはくれないだろう。でも、何故かあの子のことが少し気になった。
「そうじゃなくて!そうだ!今日はケーキでも買って帰ろうかな!なんか甘い物食べたくなっちゃったし!」
この辺には様々なお店が並んでおり、ウィンドウショッピングだけでも十分楽しいがスイーツに関しては頬が落ちそうなくらい美味な物が多かった。中でも愛華はケーキが美味しいお店が一番のお気に入りだった。
愛華はケーキ屋さんへと歩き出した。
元気が無い時こそ、甘い物だと言い聞かせるように。
「癒亜にもいつか話せるといいな…だって親友だもんね」
癒亜は結構鋭いから内面では愛華が何かを秘めていることは勘付いているだろう。でも、もう少しだけ秘密でいさせてほしい。
だっていきなり、魔法少女になって怪物を倒しているの。なんて言えないでしょう?

本日は少し短めのお話です。
親しいからこそ言えないことって意外と多いのではないかと思います。