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無詠唱魔法が廃れた理由

よく無詠唱魔法>詠唱魔法なんてあるけど、本当にそうかな?

「先生、無詠唱魔法ってどうして廃れたんですか?」


 王国にある魔法学校の一室。そこで行われていた授業も終盤になろうというところで、一人の生徒が挙手をしてそんな質問をしてきた。


「なんだ、突然に。というか、それは授業に関係あるのか?」


 教壇に立つ彼…この授業を受け持つ男性教師は呆れた顔をしながらそう聞き返した。質問をした生徒の周囲にいる生徒たちも、呆れた顔ではないがなんで突然? と言いたそうな表情をしていた。


「いや、今読んでる本に出てくる主人公がポンポン無詠唱使うんで、それを見てそういやどうしてかなーって」


 そう言う生徒の手には一冊の書物がある。明らかに授業とは無関係のものだ。背表紙には『魔法世界で劣等生と蔑まれた俺、無詠唱魔法を習得して世界最強』とある。見ただけで頭と胃が痛くなりそうなタイトルだった。


「お前というやつは…また授業に関係のないものをっ…」


 それに対して教師は思わず眉間に皺を寄せた。教師からしてみれば授業中に授業と関係ないものを読むのは正直感心できないのだ。ましてや、そんな頭と胃が痛くなりそうなタイトルの物を、だ。


「すいませーん。ヒロインの主人公に媚びる挿絵がエロ過ぎてつい読んじゃいましたー」


 あははー、と笑いながらそう言い訳をする生徒に対して、教師は思わず額に青筋を浮かべた。


「そうか。よし。ではフェブリー、どうして無詠唱魔法が廃れたのかを明日の授業までレポートとしてまとめておくように。その時に発表してもらうからな」

「うぇ!? ちょ、先生それは勘弁ですよ! 俺の優雅な放課後がそんなので潰れるなんて!」


 のんびりした表情から一変。フェブリーと呼ばれた生徒はギョッとなり思わず抗議する。


「自業自得だバカモノっ。それと、今回の授業でやった『ゴーレムの核の生成技術の進歩』についての諸君らの感想、考察を原稿用紙最低でも5枚分書いて明日、提出するように。当然ながら代筆は認めん。そして原稿用紙は400字詰めのを使用すること。間違ってもどこかのバカモノのように適当な紙に書いて提出などはしないように。した場合は倍の枚数を書いてもらう」


 それとほぼ同時に、授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。


「よし、では今日はここまで。それとフェブリー、先ほど言ったことは冗談ではないからな。ちゃんと課題と一緒にやってくるのだぞ」

「うぇえ~……」


 項垂れるフェブリーに周囲の生徒は笑う。それを聞きながら教師は教室を後にした。


「まったく…フェブリーめ。思いついたように授業の内容と関係ないことを…」


 カツカツ、と廊下を彼は歩く。周囲の教室からも授業を終えた教師や生徒が廊下に出てきていた。

 彼らを避けながら彼はまっすぐ職員室に向かい、そのまま自分のデスクの前に立つ。

 デスクに先ほどの授業の教材類を置き、引き出しから葉巻とマッチを取り出してそのまま職員室内に作られた喫煙室へと向かう。学園でも分煙化が進んでいる。ほんの数年前まで職員室内であれば自分のデスクでスパスパ吸えたのに。

 内心そのことに愚痴りながら、喫煙室に入り葉巻を吸い始める。

 吸って、ふぅ、と紫煙を吐き出す。そうして彼は先ほどのこと…無詠唱の件について考える。


「…無詠唱が廃れたのは簡単だ。単に、人はそんなに器用でも万能でも無いというだけだ」


 無詠唱魔法。

 それは読んで字の如く魔法を詠唱せずに使うことを言う。しかし現在の社会ではよほどの物好きでもない限り無詠唱魔法を使おうとは思わない。これは無詠唱魔法の基本が人間のイメージによるものだからだ。

 魔法を使うとき、無詠唱ならばより高度なイメージが必要だ。それこそざっくりとしたイメージではダメだ。目の前に花があったとして、その花を脳内でイメージする際、目に見えている部分だけでなく、目に見えていない部分もより正確にイメージしなければならない。花の裏側、土に埋もれている根、雄蕊やら雌蕊やら…。

 つまり、無詠唱魔法を使うにはこれだけ正確なイメージが求められる。

 そうしなければ、何が起こるかわからないのだ。

 実際過去の文献に、無詠唱で爆裂魔法を使おうとした結果半径5キロが焦土と化しただの、火の龍のイメージで魔法を使ったら龍の気性の荒さが前面に出て一国を滅ぼしかけただの、瞬間移動をしようとしたら頭だけ瞬間移動しただの、空を飛ぼうとしたら制御不能になり空の彼方へ消えただの…そんな内容ばかり、いや、そんな内容しかないのだ。しかも、とある国では無詠唱魔法が原因で国の王族——寄りにも寄って継承権第一位——が死亡したことが原因で無詠唱魔法そのものを嫌っている、なんてこともある。

 それに比べれば詠唱魔法は実に簡単だ。詠唱して、必要な魔力を注げばいい。詠唱は覚えやすくなっているからだれでも覚えようと思えば覚えられる。魔力も注ぎ過ぎ、もしくは注ぎ足りなければ失敗して発動しないだけだ。

 分かりやすく言えば鍵の開錠だ。錠前を使いたい魔法。鍵を魔力。鍵を回して開錠することを魔法の発動と考えればいい。

 使う度にいちいち錠前とそこにハマる鍵を作ることから始めなければならない無詠唱魔法。

 使う度にすでに用意されている錠前に決まっている鍵を指して回すだけの詠唱魔法。

 どっちがやり易いかなんて、考えるまでもない。


「さて、フェブリーはどんな回答をするのやら、だ」


 ふぅ、と再び紫煙を吐き出しながら、彼はそんなことを考える。その眼には呆れと同時に期待もあった。

『魔法世界で劣等生と蔑まれた俺、無詠唱魔法を習得して世界最強』

あらすじ

詠唱が下手でなかなか魔法が思うように使えない主人公シュ・ジンコウ。その結果彼は周りから劣等生として蔑まれてきた。そんなある日、彼は課外授業中にたまたま謎のダンジョンを発見してその中に入る。その奥にいたのは謎の微少女ビ・ショウジョ。彼女はやってきたシュに告げる「お前に無詠唱を教える!!」そして始まるシュの最強伝説!!


登場人物

シュ・ジンコウ

主人公。詠唱がなかなかできず劣等生と呼ばれてきたが無詠唱を覚えて最強になる。なお、彼が詠唱ができないのはただ単に詠唱分を覚えようと努力してないだけである。無詠唱を使うようになり、気に入らなければ誰であろうとぶっ飛ばす非常識人になっていく。なのになぜかヒロインたちは彼に惚れまくる。

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― 新着の感想 ―
[一言] カンニングペーパー持てば良いのに(^_^;) 思いつかないのか、カッコ悪いと思ってるのか、覚えれないのと同じでそれすらやる気が無いのか…
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