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【御神楽町の巫女―出逢篇―】

作者: Autorメンバー

「……よし」


鏡の前で髪を整えながら、小さく呟く。小さい頃と比べれば、髪の毛が伸びたようにも思える。

気が付けば肩まで伸びていたが、この髪型は割と気に入っている。程良い長さでアレンジの仕方が様々だからである。


「……」


……って、のんびりしてる場合ではなかった。そろそろ家を出なければ、電車の時間に間に合わないかもしれない。


「行ってきます」


そう言って家から出て、キャスターの音を響かせながら街中を歩く。

私は今日、この中学までお世話になったこの街を離れる。けれど寂しくはない。

何故なら、私の大好きな人の事を知れるチャンスだからだ。そのチャンスに私は、胸を躍らせながら電車に乗って海を渡るのであった――。


秋月花澄――それが私の大好きな人であり、私が海を渡る理由となった人物。

祖母から貰った物はたくさんある。辛い事への抗い方、楽しい事への楽しみ方、そして思い出の作り方……様々なものを私に遺して逝った。

そしてその遺された物の中で、私が大切にしている物が祖母から貰った首飾りだ。


「……」


空へと翳せば、首飾りは透き通って見える。長い間使っているけれど、相変わらずその綺麗さは落ちる事は無い。

その首飾りには、〈御神楽〉という文字が刻まれている。だから私は、この町へ来たのだ。


……ちょっと遠かったけれど。


とはいえ、無事にここまで辿り着いたのだ。後は御神楽学院を探して、寮に入る手続きをしないと。

そう思っていたのだが、ここで問題が生じてしまった。

ここまでの経路は携帯のアプリでなんとかなったけれど、どうやらこの町の電波は弱いらしい。表示される地図も簡易的で、とてもじゃないが理解する事は出来ない。

その結果――


「……迷った」


 ――そう。この私、秋月花凛は極度の方向音痴なのである。


「(いやいやいや、何を誇らしげに言ってるんだか……迷子になるのが特技って、ちょっと洒落にならないなぁ)」


朝からこの町を目指して数十時間は経過し、もう空はオレンジ色に染まっている。暗くなる前には見つけたかったが、流石にこのままでは辿り着けそうにない。


「……人に聞くしかない、のかなぁ」


他人と話すのは楽しいと思う時もあるが、私はそうなるまでが長い人見知りなのだ。だから私は、ここまで自力で頑張ろうとしていたのだが……無理が祟ったようだ。


「ま、まさかね。このまま夜まで迷子になってるって事は無いだろうし?人にだってちゃんと会えると思うし、なんとか――」


さらに数時間後……。


「――ならなかったっ!!」


あれから何時間歩いただろうか?

それでも歩いてるだけなら、誰かに会えれば運が良かったのかもしれない。

だけど既に日は沈んでしまい、辺りはもう真っ暗だ。

街灯も少ないし、人通りも少ない。


「…………」


そんな事を思いながら周りを見渡すと、やはり自分の置かれてる状況を再認識した。


 ――カツ、カツ。


その結果、途端に私の身体は硬直した。


 ――カツ、カツ。


足がすくんで動けず、何か迫っているような感覚に陥る。

気のせいか、乾いた音が近付いて来てる気がする。


 ――カツ、カツ、カツ。


「……っ(気のせいじゃない。これ足音?やだ、こわい……たすけて、だれか)」

「あのー」

「あひゃっ!?ごめんなさいごめんなさい私なんか食べても美味しくないですし誘拐してもお金とか無いので何も役に立たないのでお引き取りくださいお願いしますそうして下さいぜひそうして下さいお願いしますったらお願いします!」


我ながら凄い早口だったが、近付いて来た誰かは困惑してるような声で言った。


「お、落ち着いて下さい。僕は別にあなたを誘拐しようとか考えてませんから。大丈夫ですよ、安心して下さい」

「……」


頭を下げていて表情は分からないが、凄く優しい声でそう言ってくれた。

ここに来て初めての対話。道を聞いて、早くこの場所から退散しなければいけない。


「あ、あの、きゃっ……」


勢い顔を上げた所為で、自分の勢いに負けて体重が前へと加算される。まるで躓いたように前へと倒れ、私は反射的に目を瞑った。だが……


「おっと、大丈夫ですか?ここは月の光があまり届かないので、足元には気を付けて下さい。それに夜道で一人で歩くのは危険です。良ければ僕が道案内しますよ」

「は……はい」


祖母の首飾りを元にやって来た町〈御神楽町〉。その場所で私は、優しい笑みを浮かべる彼に出会った。

これが私の運命の人だと錯覚してしまう程、私はその人に目を奪われてしまったのである。


「それじゃあ行きましょう。どちらへ行きたいのですか?」

「え、えっと、……御神楽学院の寮に入る手続きをしたいので、近くにあるはずの神社に行きたいんですけど……」

「なるほど、分かりました。では参りましょうか」


彼の言葉に従い、私は少し後ろからその背中を追う。この安心する感じを噛み締めながら、私はその寮へと辿り着いたのであった。


――Next みかみこ!――

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