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おデブ王子とおデブ公爵令嬢の幸せな結婚

作者: 暇子

小説を開いてくださってありがとうございます。

楽しんでくださったら嬉しいです。


2019.5.20

誤字報告ありがとうございます。


「デブなんて嫌 (だ)!!」


「なんだと?!」


「なによ!」


青ざめる周囲の人を置き去りに、お互いがお互いの容姿を罵りあう。


時が止まっているのは、二人の両親、セルイト王国国王とミーティック公爵家の当主その人達である。


「なんで王子様なのにデブなのよ!信じらんない!せっかくの金髪も、その肉に埋もれた薄目でほぼ見えていない「た・ぶ・ん」青い目も残念すぎるわ!!」


「はっ!人のことを言う間にお前はどうなんだ!せっかくの銀髪も、横に一本線を引いたようなほっそい目すぎて、目の色なんか見えてないからな!というか、お前の方が残念すぎるからな!!」


「なんですってぇえええ?!」


「なんだよ!!!!」


「お前 (あなた)と婚約なんて絶対嫌だ (わ)!!!」


---------


あの衝撃的な出会いの日から1週間。信じられないことに、あのデブ王子と婚約が決まったとお父様からお話があった。


あの日は公爵家としての身分を忘れて、お互いの止まらない容姿の否定に、さすがの王様もお父様も婚約なんか諦めたと思っていたのに!!


公爵家として、レディとしてはあるまじき姿をさらしてしまったのは失敗…反省はしているけれど、次からは同じ轍は踏まないって思うけれど、目が線とか、私の綺麗なアメジストの目が見えないとか、そんなことを言われて黙ってられますかって感じよ!それについてはある意味、反省はしてるけれど、後悔はしていないわ。


…王子様って、普通レベルに痩せてて、金髪と青い目でキラキラ綺麗で、笑顔が素敵っていうものじゃないの…あんなの違うわよ。期待した時間を返してほしいわ…切実に。お父様、本当に私とあいつ (名前なんてこれで十分よ!)を結婚させる気なのかしら。


絶対、嫌よ。


----------


あの衝撃的な出会いの日から1週間。信じられないことに、あのデブ女と婚約が決まったと父から話があった。


あの日は王族としての身分を忘れてお互いの止まらぬ容姿の否定に、さすがに父も宰相も婚約なんて諦めたと思っていたのだが。


王子としてあるまじき姿をさらしてしまい、周囲に感情を見せてしまったのは猛省すべきところで、今後は同じ過ちを犯すつもりは毛頭ないが、肉で埋もれただの、多分青い目だのと言われて言い返さずにはいられなかった。それについてはある意味、反省はしているが後悔していない。


…公爵家の姫は可愛い、声は鈴のようで、笑顔が天使のようだなんて誰が言ったんだ…あんなの違うじゃないか。期待した時間を返してほしい…切実に。父様、本当に俺とあいつ (名前なんて覚えない)を結婚させる気なのだろうか。


-------


あの衝撃の出会いの日から3か月。


王様とお父様の迷惑な、非常に迷惑で迷惑な計らいで、また私とあいつ、2人で会うことになった。


「「・・・・・・・」」


顔を合わせてからかれこれ1時間、向き合っているものの一言も話さず、落ち着いた装飾が立ち並ぶ落ち着いたサロンにはただただ沈黙が流れるだけ。


目の前には専属パティシエが作った極上のお菓子と、非常に良い香りがする紅茶が素敵なティーカップに注がれていて、ほんの少し気持ちが和らぐ。


仕方ない、ここは「お姉さん」な私が折れて話しかけてあげてもいいわ。仕方なくね。仕方なく。大事なことだから2回言っちゃう。


「…先日は失礼致しました。改めて自己紹介をさせて頂いても宜しいでしょうか。」


「…好きにしろ。」


「…好きにしますわ。わたくしはミーティック公爵家長女、アリティア・ミーティックと申します。」


「…アリティア、な。名前は綺麗だな。私はセルイラ王国の長男、ミシェイルだ。」


「む…「名前は」、ですって…? (貴方こそミシェイルだなんてかっこいい名前なのに名前だけじゃない!!)…ふん、今日は「お姉さん」な私が大人になって差し上げますわ。」


「…は?お前、今いくつだ。」


「わたくしは7歳ですが来月8歳になるわ。」


「俺は今月で8歳だ。だから俺の方が年上だ!」


「は?!認めませんわ!」


「認める認めないじゃない、事実だ!」


「~~~~~~~!」


無性に悲しくなってきた。なんか負けた気がする。

デブの王子に。わたくしのことは棚上げだってわかっているわ。でも、でも嫌なものは嫌なの。


ほんのちょっと年上だっていうならもう少し、わたしより余裕があっていいものではなくて?貶めることしかしないんだから、認めたくないわ!最初に折れたのも私なのよ?!あぁもう、何が何だか分からなくなってきたわ…


「…もう帰りたい…」


小さくてもレディだから、お母様・お父様にお願いして家庭教師をつけてもらって、教養もマナーも7歳にしては学んでいるし、弱音を吐くものでもないってわかっているけれど、こんなのあんまりよ…


「…なら帰るといい。菓子はせっかくだから持ち帰るよう手配する。悪かったな。」


「…いえ…申し訳ありません。お菓子は…いえ、ありがとうございます。本日は御前失礼させて頂きますわ。」


もう二度とあいつと会いたくない。


お菓子も魅力的だけど、食べたらより太るじゃない。ある意味嫌がらせよ! (美味しかったけど!)


あいつと結婚とか絶対にいや。


-------------------------------------


「やっぱり…ミシェイル殿下のことは嫌かい?」


帰宅早々、ディナーを家族で食べていたらお父様から聞かれた。


「…嫌ですわ…。私にも見た目に非があるのかもしれませんが、それでも受け入れられません。」


「うーん…今のままでもティアは十分可愛いけどなぁ。」


「ティア、それでしたらダイエットをしてみてはどうかしら?私のティアはどんな姿でも可愛いけれど、痩せたらもっと綺麗になるわ。」


「お父様、お母様…「わかりました。やってみます。」なんて言いませんわ。あいつのために痩せるなんて嫌よ。」


「いや、そうじゃなくてね?ティア。殿下のためではなくティアの可愛さをもっと磨くために…」


「それでもなんか、なんとなくいやです。」


わかってる。痩せた方がいいってことは。理由なんてどうとでもつけられるっていうのもわかるし、お母様が私を思って言ってくださっているのも十分わかっているの。でも、でもあいつのためとは違うのもわかっているけど何か嫌なの。


「お母様、お父様、わかってはいるのです。痩せた方がいいというのも、このままではみっともないというのも。ただ…もう少しだけお時間をください。」


「みっともないなんてことはないよ。時間はまだまだあるから大丈夫だよ、ティア。こんなに可愛いティアにこんな思いをさせるくらいなら、殿下なんかと結婚せず、いい人を見つけよう。あんなガ…殿下になんか嫁がせたりしないからな!安心するんだよ、ティア。」


「第一印象がお互い悪すぎたわねぇ…陛下からの依頼とはいえ、無理矢理は私も望みませんわ、旦那様。万が一の時は…ふふ、ねぇ?」


「お父様…お母様…」


陛下からの依頼を、公爵家からお断りできるなんてできるはずがない…あとは私がどうにか変わるだけ…変わるだけね。大好きなお父様とお母様に迷惑なんてかけたくないし、できればいつも笑っていてほしい…今みたいななんとなーく悪そうな笑顔ではなくて。まだ7歳…年齢に甘えるわけにはいかないけれど、すぐには気持ちが割り切れはしないけれど、変わりたいとは思っているの。アイツは嫌いだけど、お父様とお母様は大好きだし、恥をかかせたくはないもの。…本当よ。

------------


「はぁ…」


「大きなため息ですねぇ、殿下。」


「あぁ…お前か、ヴィル」


「原因は例のご令嬢ですか。」


「…あぁ、なんとなく後味が悪くてな。」


「おデブ具合はお二人とも似たもの同士だと思っていましたが、「おい!!」」


「余計なことを言うな。」


全く、いつもこいつは一言も二言も余計なことを言うからな。気心の知れたこいつだからまだいいが、これって侮辱罪とか不敬罪になるんじゃないだろうか。


「言われたくないなら痩せたらいいだけの話じゃないですか。別に運動が嫌いなわけではないでしょう?そしてかっこ良くなって見返したらいいだけじゃないですか。」


「そんな簡単な話だったらいいのだがな。どうも彼女とは張り合ってしまう。王族として教育されているのにな。」


たかが8歳で俺が上だの下だのと、こんな下らないことで言い合いなんてするとは思わなかった。そう、下らないことなのだ。なぜこんなことくらい、普段のように聞き流してやることができないのか。デブのコンプレックスというものなのか、アイツが思い描いていた「王子様」のイメージに対しての苛立ちなのか。


別に好きでもなんでもない、ただ婚約者だといわれただけの女なのに。やっぱり、同じ体型なのに否定されたのがむかつくだけか。


運動も好きな方だし、剣術の稽古も非常に楽しんでいる。だが、運動量よりも食欲の方が旺盛かつ、まだ体が昼寝を必要としているため横になることも多く…いやこれ以上はただの言い訳だな…やはり食後の昼寝は悪だな…。


アイツのためではなく、健康のために眠くなる時間も別のことにあててみようと思う。


「…仮にも婚約者だからな…あんな涙をこらえるような顔は、とりあえず見たくはない。」


「あれ~。意外と気に入ってるんですねぇ。公爵令嬢の方は婚約自体嫌だってはっきり言っているみたいですよ。」


「なんだと?父上が決めたことに否があるのか?俺だって、しなくていいならアイツ以外でお願いしたいものだ。」


「ははは。またまた~。私には丸いご令嬢の良さなんてわかりませんけどね~。」


「は?俺もわかるわけないだろう。あの肉団子だそ?」


「殿下も肉…ゴホン。まぁ、そういうことにしておきましょうか。」


「お前今…!もういい、とりあえず今日はもう休め。」


「承知致しました。何かできることがあればお力になりますよ、殿下。くくく。」


…はぁ…色々と納得がいかない。


-------------------------


あのお茶会の日から3か月と少し。


本来なら大規模に開催する誕生日会を、身内+親しいお家の方をご招待してお祝いをしてもらったの。


お日様も暖かくて、とーっても大きなフルーツケーキと、おいしいオードブルと、カラフルなお花と優しい人に囲まれて幸せな時間を過ごしたわ。


え?王子?一応、お父様が陛下と殿下にはお伝えしてくださったようなのだけど、殿下が遠慮したとかなんとか。


お父様曰く、「私がアリティアの誕生日会に出たとしても、彼女は私に会いたくないだろうから贈り物だけさせて頂く。」と言ってたんですって。


ふーん、よくわかっているじゃない。…でもよかったのかしら?大丈夫よとお母様はおっしゃっていたけれど。


誕生日に参加できず申し訳ないとの手紙とともに届いたプレゼントは、クリスタルで出来た音色の優しいオルゴールだったわ。一目で気に入って、小さな箱から聞こえる透き通った音色を何度も何度も聞いたの。


お礼のお手紙は書いたけれど…あんな別れ方をしてしまって、ちょっとだけ後悔しているわ。


-------------------------------------


彼女から手紙が届いた。


といっても、先日の誕生日に送ったオルゴールのお礼だが。


どうやら気に入ってくれたらしい。


何を送ったらいいのか非常に悩んだ。何せまだ2回しか会っていないし、2回とも悲惨な結果となっていたから。


せっかく送るなら喜んでもらった方がいいだろうと、ヴィルに相談をした。笑われたが。


宰相から一応招待の話を頂いたが、2回とも悲惨な結果になっているため、彼女の誕生日を嫌な思い出にする必要もないだろうと、今回は理由をつけて―つい理由を話をしてしまったが―今回はやむを得ない事情として欠席をさせて頂いた。


別に好きとかではないし、鍛練の結果少し痩せたとはいえ、まだまだ太…あれなものだから、別にいいだろう。彼女も俺にいい感情は抱いていないし、その後進展があったわけでもない。


ただ、気晴らしにピアノを弾くようになった。幸い、音楽の講師もつけてもらっているので、少しだけ講義と講義の間にレッスンを入れてもらっている。


そういえば、宰相が自慢げに娘がヴァイオリンを本格的にやり始めて可愛すぎるとか言っていたな。


…ヴァイオリンを弾いている姿が全く想像できない。


------------


痩せる痩せないは別として、趣味を充実させてみたらどう?というお母様からのアドバイスを得て、少しずつ増えてきた王妃教育が本格化する前にと、大好きなヴァイオリンのレッスンを増やしてもらい、日々楽しく練習をしているの。


それにしてもヴァイオリンって結構体力を使うのね…少しでも長い曲を弾こうとすると、体力がない私は中盤にはもうへばっちゃう。


それから、微妙に二重あごと、腕のお肉が邪魔に感じてきちゃって…アイツ…殿下どうこうじゃなくて、良い姿勢でヴァイオリンをより上手に弾くためは、運動して適度に筋肉をつけて、正しい姿勢で臨まなくては!という前向きな気持ちになってきて。やっぱり、痩せるしかない!って思えるようになったわ。


それを両親に伝えると、二人とも「さっそく!」と、乗り気になって、マナーに厳しいけれど、淑女としては右に出る者はいないと言われているシャルドネ侯爵家の奥様(母の大親友)には淑女教育を、王宮騎士のアーサー様(父の悪友だとか?)が私ができる範囲での優しい運動の仕方を教えてくださったわ。


それのおかげで、まだほんのりではあるけれど、痩せて、体力もついて、長時間立ってヴァイオリンを弾いても3か月前よりは見れるようになったの。


楽しく痩せるっていいことね!


体も少し軽くなったから、お庭に出てのお母様との散歩も楽しくなってきたし、お父様にだっこされるときの罪悪感も少し減ったわ!


なんてね!


半年後にある、音楽祭に出る予定なので、それまでにもっと痩せて体力をつけて、猛練習して絶対優勝を狙うんだから!


それこそ、王妃教育と淑女教育の合間に練習だから、時間も少ないけれど、好きなんだもの!ヴァイオリンのために色々と頑張れるわ。


次の曲はオルゴールで流れていた「スターシャイニング」を弾く予定で練習しているの。大好きな曲だからこそ、きちんと弾きたいわ!


ヴァイオリンの筋は良いって先生に言ってもらっているから、慢心せずに取り組むの。


明日は殿下と会う予定となっているので、ヴァイオリンもそこそこに今日は早めに寝ないといけないのがちょっと残念。


3回目の顔合わせは…1回目と2回目と違って、穏やかに終わればいいな…。


-------------------


王城に着いて、迎えに来たのは殿下の側近のヴィル様という方でした。


殿下との待ち合わせのテラスに向かう途中、綺麗な音色が聞こえた。


なんて澄んだ音色なんでしょう…あれ、これって…


「スターシャイニング…」


「そうですよ。今日も弾いてらっしゃるみたいですね。この曲、ご存じでしたか。」


「えぇ、とても好きな曲なのです。この音色…とっても澄んでいて綺麗だわ…ずっと聴いていたいくらい。どなたが弾いているのでしょうか。」


「…殿下です。講義の合間の息抜きによく弾いているんですよ。」


「殿下が…この曲を…」


あのデブ王子がこんなに綺麗な音を奏でられるなんて…いえ、私も似たようなものですものね。人のことは言えませんわ。殿下がどういう人であれ、私はこの音色が好きだわ。今日はまともに会話出来たらいいなと、会話できるように頑張ろうと改めて思いますわ。


…弾いている姿が全く想像できないけれど。


「さ、着きましたよ。こちらでおかけになってお待ちください。すぐに殿下を呼んでまいりますので。」


はっ、ぼーっと考え事をしてしまったわ。


「えぇ、ご案内ありがとうございました。」


「…前回から約半年経ちましたけど、綺麗になられましたね。」


「少しだけですが痩せたもので、目の色は見えるようになりましたわ。ふふ。」


「失礼、そういうつもりで言ったのではないのですが。申し訳ありません。」


「いえ、実際私も未だに自分の顔が見慣れないのです。気になさらないでください。」


「ありがとうございます。では、少々お待ちください。失礼致します。」


ふぅ…少しは見えるようになったってことかしら。

悪意はなかったけれど、まぁ…驚くのも無理はないわよね。前回は丸いピンクのお団子みたいでしたからね。今回は明るいブルーのフリルが少しついたドレスを着て、満月から半月くらいまでには体型は変わったもの。これからもう少しずつ痩せて、いつかは三日月…夜空に輝く「ミーティア」になれるように頑張りたいわ。


「待たせてすまない。」


「いえ、大丈夫ですわ。お久しぶりでござい…ま…す。」


「「・・・・・・・」」


目の前の殿下を見て、驚いてしまって目が離せない…というか…声が出ないというか…え…?


というか殿下も固まってる…!?


「…アリティア嬢だろうか…いや、君だよね…変なことを言ってすまない。」


「え、えぇ…その…殿下は…殿下ですわよね…えぇ…」


「「・・・・・・」」


「お二人とも、まずはお座りください。温かい紅茶をお入れしますので。」


「あぁ…」 


「はい…」


しばしの沈黙があって、紅茶を一口含むとふわ~っと花の香りがして、変な緊張感から解放される。


「…殿下…その、わたくしが言うのはおこがましいのですが、お痩せになられて素敵だと…思います。その、サファイアみたいな目とか。」


会話としては微妙かもしれないけれど、とりあえず素直にここから始めてみよう。


「!!…あぁ、ありがとう。その…君も痩せて綺麗なアメジストの目が見えて綺麗だし、その…ドレスも君によく似合っていると思う…」


うぅ…なんか変に恥ずかしい…デブ殿下だったら何にも思わなかったのに、さっきのピアノ効果と今の容姿とで惹きつけられて変な気持ち。


侍女もヴィルにもなんか生暖かい目で見られている気がする…うぅ…淑女は感情を顔に出さない…はずなのに顔が熱いわ…!


「その、前回は悪かった、と思っている。学年的には結局私達は同じで、その、婚約者同士仲良くしていけたらと思っている。」


「わ、わたくしこそ、殿下に対して失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした。オルゴールの件もお手紙でお礼はお伝えさせて頂きましたが、とても素敵で、一目で好きになりましたの。今更ですが、素敵なプレゼントをありがとうございました。何度も何度も聞いて…。寝る前とかに今でも少しだけ回して聞いていますの。」


「そこまで気に入ってくれていたのか。その…ありがとう。気に入ってくれてよかった。」


「…あの、一つお伺いしてもいいでしょうか…?」


「なんだ?」


「先ほど、ピアノを弾いてらっしゃいましたよね。その、ヴィル様にお伺いして…」


「…あぁ…まぁ、その、たしなみというかだな…」


「え、えぇ、その、とても素敵な音色でつい聴き入ってしまいましたわ。あんなに綺麗な音色、聞いたことがなかったものですから…音楽の才能もございますのね。」


「…君もヴァイオリンを嗜んでいると聞いたが…宰相が言ってたからな。今も続けているのか…?」


「えぇ、ヴァイオリンを弾くと心も弾むのです。痩せようと思ったきっかけも、お恥ずかしながら、そこからなのです。」


「そうか…。私も君の弾くヴァイオリンの音色を聴いてみたいものだ。きっと美しいのだろう。」


「いえ、殿下には敵いませんわ。でも、そうですね。半年後の音楽祭に私も出るのです。その際にもしお時間があればぜひいらしてくださいませ。」


「そうか。日程の調整をしておこう。その…ティア…と呼んでもいいだろうか。」


「!え、えぇ…どうぞお好きに呼んでくださいませ、殿下。」


「ティアも…私をミカと呼んでくれ。その…一応婚約者だからな。」


「…ミカ…様。」


「ティア…」


「「・・・・・・・」」


は、恥ずかしい…うぅ、だめ、物語から抜け出してきた王子様に近づいている殿下に名前を呼ばれると恥ずかしい…。


でも、前回の2回に比べて今回はお互い穏やかな気持ちで会話ができていることに驚いてしまいましたわ。お互い少し大人になったのかしら。それとも、音楽という点でなんとなく距離感が縮まったのかしら。それとも体型がお互い変わって印象が変わったからかしら。うーん、原因としては全てな気がするわ…。うーん。こう考えられるのも、自分が変わったからかしら?


「ティア。」


は!またぼーっと考え事をしてしまっていたみたいですわ。


「はい。」


「王妃教育の方も少しずつ進んでおり、優秀だと聞いている。」


「もったいないお言葉、ありがとうございます。ですが、先生方の教え方がとても良いからですわ。」


「きっと辛く苦しい時もあると思うが、できる限り君を支えたいと、前の私はさておき、今の私はそう考えている。だから、一人で抱え込まずに、言いにくいかもしれないが…ともに乗り越えていけたらいいと思う。」


「…ありがとうございます。最初は殿下との婚約なんて嫌でしたが、今日お会いして私も意識が変わりましたわ。私も殿下を支えられるように今まで以上に王妃教育に取り組みますわ。今まで無礼な態度を取り、申し訳ございません。」


婚約なんて嫌だと言った瞬間、周りが息を飲んだのがわかったけれど、今の私は違う。将来はどうなるかわからないけれど、今この瞬間は殿下と共に頑張っていきたい。その思いを言わないと、何となく後悔する気がしたから、ちゃんと伝えたい。ちゃんと伝えられていたらいいな。


「ははっ。正直すぎるな、ティアは。まだ出会って1年も経っていないし、私はまだ太っている。君が以前言っていた「金髪・青目のスタイルが良い素敵な王子様」にはほど遠いと思うが、近づけていけたらと思うし、内面も知ってもらいたい。もちろん、私も君のことを色々と知っていきたい。これから、お願いできるだろうか。」


「私こそ綺麗で素敵な女性には程遠いですが、殿下の隣に並んでも恥ずかしくない女性になりますわ。外見も内面も。こんな私ですが、宜しくお願い致します。」


「殿下ではなくミカだよ、ティア。こちらこそ。今日は本当にティアに会えてよかった。君が婚約者でよかったよ。」


「…ミカ様。将来、大人になってもそういって頂けるように頑張りますわ。」


「私も頑張らなければね。君と一緒に。」


今回のお茶会の件は、その場にいたものから陛下とお父様に伝えられ、和やかに終わったことでお互いの両親も安心したようだった。


-------------------


報告を受けたお父様からは「まだ嫁には行かせないからな!」とか、「嫌になったらやめてもいいんだからな!むしろ家にずっといてくれていいんだから!」なんていわれましたけれど、お母様がなだめておられました。


お母様からは「これ以上、私の可愛いティアをいじめるようだったらと考えていたけれど、大丈夫みたいで安心したわ。」とにこやかに仰っていましたけれど、いじめるようだったら何だったのだろうと、いえ、考えてはだめですね。


あれから、殿下…ミカ様と文通を始めたり、王妃教育の後に時間があればサロンでお茶をしたりと二人での時間を設けたり、お忙しい中日程を調整してくださって、音楽祭に来てくださり、優勝はできなかったけれど、私のヴァイオリンをほめてくださいましたわ。


「いつか、私のピアノとティアのヴァイオリンでのデュエットをしよう。」


「はい。初めてのデュエットはスターシャイニングがいいですわ。」


一瞬驚いた顔をしたミカ様ですが、優しい笑顔で「楽しみだね。」と言ってくださったので、私も満開の笑顔で「約束ですわよ?」といたずらっぽく念を押して、それを聞いたミカ様が―




「あぁ、約束だ。」




笑った。


----------


あれから約10年。


音楽祭の後、私に弟が出来てお父様が号泣しながらお母様を労い、抱きしめ愛してると暴走し、テンションの高いまま、弟の名前やら服やら何やらをこれでもかーってくらい買い込んだりして、お母様がほんの少しうんざりしていたのが少し面白かったですわ。


私と殿下、ミカ様も最初の印象はなんだったのというくらい、仲睦まじくしております。


殿下はすらっと美青年に成長されて、内面も外見も完璧な王太子に。私も殿下ほどではありませんが、並び立っても遜色ない程度には成長致しました。外見を磨いて内面も磨いて、殿下との絆を深めながら歩んできた10年間。


たまに喧嘩もしましたし、王妃教育の厳しさに弱音を吐きそうになったり、学園に通っている時には男爵令嬢が殿下に付きまとって色々と大変だったり、殿下がかっこよくなりすぎて色々と不安だったりしましたけど、とうとう今日は私達の結婚式。


数えきれないほど多くの皆さんの笑顔と歓声に迎えられ、殿下と二人で笑顔で手を振る。


「今日もとても綺麗だ、ティア。」


「殿下もとても素敵です。見とれてしまいますわ。」


「「ミカ」でしょティア。はぁ、本当はみんなに見せたくないくらいなんだけど…。」


「またそんなことをおっしゃって…私はミカほどじゃないですわ。」


「君は本当に自分がいかに美しいか素敵か、どれほど周りの男どもの視線を集めているかわかっていない。」


「そんなことないですわ。そして誰がいようとも、私にはミカしか見えませんわ。」


「くっ。そんな顔でこちらを見ないでくれ、理性が…!」


「ふふ、落ち着いてくださいませ、ミカ。」


「はぁ…本当に好きだ、ティア。…君が婚約者で、君が妻でよかった。」


「私も、ミカが婚約者で、旦那様でよかったですわ。これからもミカと一緒に歩ませてくださいませ。」


「もちろんだ。共に歩んでいこう。君をずっと愛し、守り続けるよ。」


「ありがとうございます。私もミカを愛し続けますわ。私もあなたを守ります。」


そっと距離が縮まり、唇が重なる。


その瞬間、鳴り響く拍手と歓声とお祝いの言葉。


「では、姫。この後の準備のために一度下がるとしようか。」


「えぇ、王子様。結婚してから初めての共同作業ですわね?」


「あぁ、あの時の約束を果たそう。」


にっこりと微笑んで、ミカの手を取る。


「アリティア、君は私の輝く「ミーティア」だよ。君がそのまま輝き続けられるように、生涯をかけて幸せにするよ。」


真剣に、でも少し茶目っ気のある顔で甘いセリフをいう「理想の王子様」には、一生敵いそうにありませんわ。


「まんまるしていたティアも、思い返してみれば可愛かったよね。」


「もう!ミカもまんまるしていて、今思い返してみれば可愛かったんですからね。ふふ」


こんな平穏な日々が続くよう、これからも彼の「ミーティア」として頑張ろう。


「愛していますわ、ミカ。」


「愛しているよ、ティア。」


優しく微笑むあなたの隣で、これからも共に。


第一印象が最悪だった二人は苦難を乗り越え、こうして世界で一番幸せな夫婦になったのでした。


おしまい。



お読み頂きありがとうございます。


楽しんで頂けたら幸いです。

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2019.5.16

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