奈凪と始まりの日
今日は快晴。
窓から入る風が心地いい。
私の名前は、花澤 奈凪。
地味で、あまり目立たない今日から普通の女子高生です。
でも、ある事がなければ…ですが…。
自室の窓から、隣の家の玄関先を見た。
窓が閉まっていても、女子の黄色い声が大きく聞こえる。
「きゃあー!宮崎くぅん!」
「今日も、かっこいいー!!」
ちょうど、その「宮崎くん」が出てきたところだった。
宮崎 悠。それが彼の名前。私の隣に住んでいます。
彼は、宮崎財閥の跡取り息子。
しかも、頭脳明晰に運動万能。そして、品行方正。
この三拍子がそろっていて、それに加え、容姿端麗ときたものだから、ファンクラブも多数存在し、親衛隊も少なくはないと、噂で聞きました。
それに比べて私なんか、運動もダメ。顔も平凡です。
唯一の長所、勉学も宮崎くんには及びませんでした。
高校入学試験は、彼が一位で私が二位に当たるそうです。
実は、私たちは。中学を除いて、同じ学校に通っていました。
同級生で、家も近いこともに加えて、両親たちが仲が良かったことで昔、よく近所の公園か、宮崎くんの家で遊んでいました。
しかし、ある事が原因で私たちは合うのを止め気まずくなった私は、別の中学へ入ります。
そして時は巡り、半年前。
ある高校から成績の優秀さを評価され、奨学金で、今日から通う、秀凛学園に入学することに。
でも、その学校にはエスカレーター式の学園で、宮崎くんも通う学校だったことを、偶然、スーパーで買い物をしているときに出会って初めて知りました。
話しているときに「高校から三年間、よろしくお願いします。」と言われます。
その時は、私が秀凛学園に通うなど一言も言っていません。
なのに何故、分かったのかが疑問に残りますが。
おっと。
随分と時間が過ぎてしまいました。
奨学生たるもの、遅刻はしてはいけません!
「よっし…。」
無事、制服にも着替え終わり、母と父のところに行きます。
現在は、宮崎家との交流はありません。
なぜなら…。
「パパ。ママ。元気にしてる?二人が飛行機の事故で亡くなった日から、6年の月日が流れようとしています。」
そう、二人は6年前の明日。私の誕生日に、日本に帰ってくるはずだった飛行機が墜落して、死んでしまいました。
当時は、数日間、何も食べられなかったけど、誰かが励ましてくれたのを覚えています。
その、「誰か」は分かりませんが。
そのとき負った心の傷は、もうだいぶ癒えました。
生活費などは、芸能界にかかわるものと、現国の成績を活かしてある活動をしています。
それは秘密ですけど。
「さてと…。学校、行かなきゃ。」
多分、外には宮崎くんのファンの人たちが群がっているでしょう。
しかし、行くしかないのです。
遠回りすれば、遅刻してしまいます。
それだけは避けたいので。
私は、革靴を履いて玄関を開けた。
予想通りの光景に、ため息が出てしまう。
そして、家の鍵を閉めた。
あ!朝ごはんはきちんと、食べましたよ!
「えーあー。おほん。秀凛学園の新たなる生徒よ。よくぞ来てくれた。」
あれこれ、数十分ですね…。
皆さま、あと30分ほどお待ちを!
30分後。
「これにて、終わる。」
やっと…。終わりました…。
周りの皆さんは、少しぐったりしています。
「次は、成績トップでこの学園に入学した、宮崎悠さん。」
「はい。」
司会の先生の言葉を合図に、立ち上がる宮崎くん。
ゆっくりと、優雅に壇上へと上がった。
「お早う御座います。先ほども教頭先生からご紹介いただいたとおり、宮崎悠です。僕は、この学園に入学出来。大変喜ばしく思っています。」
宮崎くん…再見しましたが、顔立ちがあまり幼いころと変わっていませんねぇ。
すると、右隣の女子生徒が、小さな声で噂話をはじめた。
「ねぇねぇ…!あの人、かっこよくない?」
「だよね~!狙っちゃおっかな…。」
確かに、かっこいいかもしれませんが、私にはもう、免疫がついちゃいましたので、もう慣れました。
「これで終わります。」
そう、彼が締めくくると、盛大な拍手が巻き起こった。
やっぱり、すごい人気ですね…。
もちろん、私もしてますよ!
「最後に…。」
すると…。
「ねね!あの人かっこよくない!?」
急に、隣の女子に話しかけられる。
「えっと…。宮崎くんのこと?」
「他に誰がいるのよぅ!」
彼女は、なんだか、からかうように言ってくる。
別に、彼に対しての好意は尊敬以外にほか、ありません。
たまに、会いたいなぁ、と思って胸がざわつくことがありますが。
「あはは…。そう、だね…。」
彼女、大ファンみたいです。
「あ…。自己紹介、忘れてた!私、琥川 紫玖怜!よろしくね!」
その笑顔で、私の警戒心は一気にほどけた。
いい人そうです!仲良くなれるかも…。
「私は、奈凪です。花澤 奈凪。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
私たちは、こっそりと先生方にばれないように笑った。
ふと、視線を感じて壇上を見た。
宮崎くんと目が合う。
彼は、少しだけ口角を上げてほほえんだ。
途端、私の顔が赤くなるのが感じられた。
視線を横にずらしてしまう。
もう一度、彼のほうを見たが、悲しそうな顔が一瞬浮かんだ。
少し、胸が痛む。
そんな私の心境を知らずに、紫玖怜がからかうような口調で話しかけてきた。
「んん~?誰を見てたのかなぁ?」
私は、恥ずかしくなって、椅子から立ち上がった。
大きな音を立てて。式中だったことも忘れて。
「花澤さん…?」
怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見る、校長先生。
そのほかの先生方。
そして…、周りの生徒たち。
冷水を頭から浴びたよな感じになる。
体育館内は、静まり返った。
私は、小さな声で。誰にも気づかれずに、
「助けて…。誰か…!」
そんな私の心の声が通じたのか、宮崎くんがいきなり立ち上がった。
「えっと、もう、時間なので解散します。下駄箱のそばのクラス分け表を見て、自分のクラスに帰ってください。」
宮崎くんの言葉を合図に、皆が一斉に立ち上がった。
先生も、だ。
そして、楽しそうに帰って行った。
呆然と立ちすくむ、私。
すると…。
「なーにやってんの。ほら。いこっ!奈凪ちゃん。」
「は、はい!」
私は、紫玖怜の方へと走った。
そんな私を、宮崎くんは何も言わずに笑っていた。、