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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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097 かに、蟹!?

『やった』

 自分の一撃がカニの堅い甲殻を切断した。


 本体に攻撃を加えることは出来なかったが、自分の攻撃は――技なら通用する。


 カニの次の攻撃に備え、後方へと大きく飛び退く。鉄の槍を捨て、鉄の剣を両手で持ち、構える。


 さあ、こいっ!


 大きなハサミを無くしたカニが、残った方のハサミをカチカチと鳴らす。


 そして、こちらに顔を向けたそのまま、恐ろしい勢いで横向きに走っていく。


 どう出るか見ていると、巨大カニは、その勢いのまま、湿地帯の草の中へと消えていった。


『もしかして、逃げた?』

『うむ。逃げたのじゃ』


 逃がしてしまった。


 残ったのは切り落とされたハサミと呆然とした様子でこちらを見ている蜥蜴人たちだけだった。


 残ったハサミに近づいてみる。


 甲殻の切断面からは、中身の筋繊維が見えていた。それは、腐ったような、そんな生臭い匂いを発している。鼻が曲がりそうな異臭だ。

『これは食べられそうにないね』

『ふむ。ソラは、すぐに食べられるかどうかを考えるのじゃ』

 いつの間にか姿を現していた銀のイフリーダがそんなことを言っている。

『いやいや、食べられるかどうかは重要だよ。だって、食べないと死んじゃうんだからね』


 鼻をつまみ、匂いに我慢しながら甲殻を叩いてみる。


 堅い。


『これ、加工して鎧とかに出来ないかな』

『ふむ。ソラの一撃で切断出来る程度のものをどうするのじゃ?』

 銀のイフリーダはニヤリと笑っている。

『いやまぁ、確かにそうなんだけど……』


 そんなやりとりを銀のイフリーダと行っていると呆然としていた学ぶ赤が復活し、こちらへと歩いてきた。

「さすがはソラなのです。それにとても美味しそうな匂いなのです」

 学ぶ赤さんはカニ肉をよだれでも垂らしそうな、そんな表情で美味しそうに眺めていた。


 自分には異臭としか感じられないカニ肉だが、学ぶ赤には違うようだ。これも種の違いなのだろうか。


「これで分かったと思うのです」

 堅い拳さんがこちらを指差す。

「こちらには強大な力の一つを打倒した、ソラがいるのです」


 呆然とした表情の生け贄反対派の蜥蜴人たちが、無言で何度も頷いている。


「さあ、ソラ、行くのです」

 堅い拳さんたちが、その蜥蜴人たちを掻き分け、道を作る。


『えーっと、これは』

『うむ。我とソラの力に恐れを成したのじゃ』

 落とした鉄の槍を拾い、あ、どうも、という感じで、その間を抜けていく。


 じーっとよだれを垂らしそうな勢いでカニ肉を眺めていた学ぶ赤も慌てて、その後を着いていく。


「予想外の出来事で遅れてしまったのです。ここからは、また湿地帯を進んでいくのです」

 堅い拳さんが先導して、湿地帯に浮いている木の板を渡っていく。

「お肉、お肉だったのです」

 学ぶ赤さんはちらちらと諦めきれない様子で後ろへと振り返っていた。

「急ぐ旅なのです。あれは諦めるのです」

 堅い拳さんはため息でも吐きそうな様子だ。


 あんな異臭を放つ肉を食べたら、お腹を壊しそうなので、食べなくて良いと思います。


「急ぐのです」

 堅い拳さんの、その言葉通り、昨日よりも歩く速度が上がっている。

「予定変更なのです。暗くなる前に次の休憩場に辿り着きたいのです」

 それを聞いて、学ぶ赤さんはやっとカニ肉を諦めたようだ。

「分かったのです。暗くなってしまうと、最大戦力のソラの動きに支障を来してしまうのです。仕方ないのです」


 駆け足に近い歩みで湿地帯を進んでいく。


 そのおかげか、暗くなってすぐの頃には、湿地帯を抜け、次の休憩場所に辿り着くことが出来た。

「ここで湿地帯は終わりなのです。野営の準備を行うのです」


 もうすでに山の麓に入っているらしく、時々、暗闇の静けさの中に飛竜の鳴き声が混ざっていた。

「里に向かっている飛竜が居ないといいのです」

 暗くてよく分からないが、堅い拳さんは、空を、山の方を見ているようだった。

「心配しても何も変わらないのです。今は出来ることをやるだけなのです」

 学ぶ赤さんの、その言葉は何処か不安に揺れていた。言葉とは裏腹に、里のことを思っているのかもしれない。


 野営の準備が終わり、今日も干しキノコを囓って眠りにつく。

『カニ肉を食べていたら、お腹を壊していたかもね』

『ふむ。戦いを前に変なものを食べるのは止めた方が良いのじゃ』

『そうだね』


 そして、夢を見る。


 竜の背に乗って戦場を駆け巡る夢。


 石の城を包囲した兵を殺すために戦う夢。


 いつもの、何処か見知らぬ懐かしい夢。


 全てが終わりに向かう夢。


 そして、目が覚めた。


「また……夢」

 竜の背に乗って空を飛んだ夢だった。あの竜は、今まで見ていた夢に登場していた幼い竜なのだろうか。幼く、小さかった竜が、人を乗せられるくらいに成長した?


 竜の成長って、そんなに早いの? それとも、それだけの時間が流れている?


 いや、今は、そんなことを考えている場合じゃない。


 頭を振り、夢の内容を振り払う。


 今は邪なる竜の王を倒すことに集中するべきだ。


 仮の寝床から起き上がり、小さく伸びをする。


 体を起こした後は、すぐに出発の準備を行う。

「ソラは早いのです。まだ寝ているものもいるのです」

 堅い拳さんも起きていたらしく、こちらの様子に気付いて声をかけてきた。多分、まだ寝ているのは学ぶ赤さんだろう。

「もうすぐですよね」

 すでに山の麓に到着している。


 この休憩場の近くには水が流れている場所があった。その水をたどっていけば、渓谷の洞窟に辿り着く。


 そこに邪なる竜の王が待っている。


 決戦の時は近い。


「予定はどうなっているんですか?」

 事前に聞いていたが、もう一度確認する。

「今日中に洞窟の前まで辿り着くのです。その後は、戦士の二人には、その場で待機して貰い、自分と――、いや、学ぶ赤なのです。と、それにソラの三人で突入するのです」

「洞窟の広さは……」

「それほど深くないはずなのです。ただ……」

 と、そこで堅い拳が言い淀んだ。


「どうしたんです?」

「不安なのです。ここまで来て、と思うのです。それでも三人で勝てるか不安なのです」

 堅い拳さんは、顔を伏せ、怯えたように体を震わせていた。


「勝ちますよ。そのために来たんですから」


 勝って、狩って、終わらせよう。

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