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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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095 湿地帯

『どんな魔獣?』

 暗くて見えない。まさか夜間も歩き続けると思っていなかったから、明かりを何も用意していない。


 困った。


『泥の塊が動いているような魔獣なのじゃ』


 ひゅんひゅんと矢が飛ぶ音が聞こえる。堅い拳さんが応戦しているのだろう。

「矢の効きが悪いのです。こんな場所にまで出没するなんて予想外なのです」


 見えない、暗い。


「神の目覚めによって活動範囲が広がったと思うのです」


 明かり、明かり、明かりは何処だ?


「言ってる場合ではないのです。手伝うのです」


 明かりがあれば……。


「分かったのです。ソラは、ここで待っているのです」


 学ぶ赤さんの手が離れる。


 そして、一人、暗闇に取り残される。


「水流と門の神ゲーディア、水門を開き遮る水の壁を作って欲しいのです――ウォーターシールド」


 学ぶ赤さんの呪文が聞こえる。


『戦いはどんな状況?』

『飛ばしてきている泥を水の壁で防いでいるのじゃ。矢が効かず、危険な状況なのじゃ』

 銀のイフリーダには、この暗闇の中でも、戦いが見えているようだ。


 いくら相手の攻撃を防げても、攻撃する手段が無ければ、いずれ負けてしまう。


 明かりがあれば……いや、待てよ。


 明かりがないなら、明かりを作れば!


 鞘紐を外し、鉄の剣を引き抜く。そして鉄の剣を法衣の長く伸びた袖に這わせ、その袖部分を引き裂く。今、自分が着ている、この法衣は、植物の繊維から作られているから、燃えるはず。


 学ぶ赤製の矢筒から鉄の矢を引き抜き、その矢に引き裂いた法衣の袖を巻き付ける。


 石の短剣を鞘から引き抜き、鉄の剣に叩きつける。


 小さな火花が飛ぶ。


『これなら!』


 何度も小さな火花を起こす。しかし、なかなか布に引火しない。

『油でも染みこませた布ならまだしも、ただの布だと』


 矢が飛ぶ音、何かが水の壁に当たって弾ける音――まだ戦いは続いているようだ。


 戦いの音に焦りを覚えながらも、何度も小さな火花を起こす。そして、何とか矢に巻いた布が燃え始める。

 最初は小さかった火が、布を燃やし、すぐに大きな火へと変わっていく。すぐにでも燃え尽きてしまいそうだ。


『でも、これで明かりは確保した』

 燃えている矢を松明代わりに持ち上げる。掲げた明かりに照らし出されたのは蠢く泥の塊だった。しかも、それが何匹も蠢いている。


 泥の塊たちには無数の矢が刺さったままになっている。泥に守られ、まったく効いていないようだ。


 どうやって倒したら良いか分からない魔獣だ。

『でも、それは湖で出会った魔獣と同じ』

 鉄の槍を持ち駆ける。


「ソラ、危ないのです!」

 こちらに気付いた堅い拳さんが叫ぶ。

「大丈夫です。見えているから!」

 泥の魔獣から、次々と泥の塊が飛んでくる。


 見えていれば、回避は出来る。


 飛んできた泥の塊を避け、泥の魔獣へと迫る。そして、そのまま泥の魔獣に鉄の槍を突き刺す。体内のマナ結晶を砕いた手応え。それとともに泥の形が崩れ、元の泥に戻った。


 どうやって戦えば良いか分からないような魔獣でも、体内のマナ結晶を砕けば、倒すことは出来る!

「次!」

 明かりがある内に残りを倒してしまうべきだ。


 鉄の槍を持ち、駆ける。


 何度も、何度も、鉄の槍を振るい、泥の魔獣を倒す。


 いつの間にか自分の周辺には、泥の魔獣は居なくなっていた。

『倒した?』

 しかし、遠くの水たまりから、新しい泥魔獣が生まれていた。

『キリがない!』

 松明代わりの矢も燃え尽きようとしている。


「ソラ、もう良いのです。逃げるのです」

「はい、今なら逃げられると思います」


 堅い拳さんが先頭を行き、その場から撤退する。


 暗闇を走り続ける。

「見えたのです!」

 やがて、暗闇の中に小さな丘が見えてきた。

「あそこが休憩所なのです」

 小さな丘の上まで慌てて駆け上がり、そのまま倒れ込む。息が、呼吸が……辛い。走り続けて、もう、動けない。暗闇を走り続けるというのは、普段の時よりも何倍も疲れるようだ。


「こ、ここまでくれば安全なのです」

 学ぶ赤さんも息が荒い。走り疲れているようだ。


「自分たちは野営の準備を行うのです」

 戦士の方々は、すぐに野営を行うための準備を始めた。戦士というだけあって、自分や学ぶ赤さんと違い、体力があるようだ。


『見えないって厄介だね』

『ふむ。ソラにしてはずいぶんと迂遠な戦い方だったのじゃ』

 なんとなく、そんなことを考えていると銀のイフリーダに先ほどの戦いのダメ出しをされた。


『もしかして、明かりを作って戦ったこと?』

『マナ結晶の位置を見れば、暗闇でも相手の位置は分かるのじゃ。それに明かりが必要なら、起きた火花の一瞬で確認すれば良かったのじゃ』

『うーん。イフリーダの言っていることは分かるけど、まだ、自分はそこまでの領域に達してないよ』

 一瞬の明かりで全てを把握して動くなんて、達人の世界だ。自分には、まだまだ遠い。


「野営の準備が終わったのです」

 簡単な野営の準備が終わり、お昼と同じ干しキノコを食べ、眠りにつく。


 そして、いつもの夢を、繰り返される夢を見る。


 幼い竜を連れて旅をする夢。


 そして、目が覚めた。

「また夢か……」


 まだ半分眠っている頭を振り起こし、起き上がる。そして周囲の状況を確認する。


 夜の闇で気付かなかったが小さな丘の下は湿地帯になっていた。多くの水たまり。そして、その水の上には房のある植物が生えていた。


「草ばかりだ」

 よく見れば、その水たまりの草に隠れて木の板が浮かんでいた。


「ここから、この湿地帯を進むのです」

 風景を眺めていると堅い拳さんがやって来た。

「もしかして、あの木の板を渡っていくんですか?」

「そうなのです」

「危険じゃないですか?」

 浮いているだけの木の板だ。あれを渡っていくなんて正気の沙汰じゃない。


「あまり深くないので落ちても大丈夫なのです。あの道は、早く行軍出来るようにしただけなのです」

 水に足を取られるよりは、という感じなのだろうか。それでも、と考えてしまう。


 湿地帯の水の上には小さな羽根を持った鳥のような生き物の姿も見えた。鳥もどきが植物の房をついばんでいる。

 羽根は退化して飛べないようで、細長い足を水面に伸ばしてのしのしと歩いている。

「あれは?」

「矢羽根の材料なのです」

 堅い拳さんが答えてくれる。ただの材料扱いだ。多分、危険がなく、非常に弱い魔獣なのだろう。


「今日、一日をかけて、この湿地帯を乗り越えるのです」


 まだ先は長そうだ。

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