091 堅いのは?
武具が完成しないと狩りにも行けないので、どうしたものかと学ぶ赤さんに相談してみた。
「それならば、――に、頼むのです」
「えーっと、誰のことでしょうか?」
学ぶ赤が首を傾げる。
学ぶ赤が言っているのは自分が知っている蜥蜴人なのだろう。ただ、名前が分からない。彼らの言葉では、ただ、空気が抜けているような音にしか聞こえない。
「すいません。学ぶ赤さんたちの言葉では名前が分かりません」
「そうだったのです。彼女は、ソラもすでに出会っている戦士の長なのです」
彼女? ますます分からなくなった。誰のことだろうか。
「戦士の長というのは戦士の王とは違うのですか?」
「戦士の頂点が王なら、それを束ねて指揮するのが長なのです」
ん?
一人だけ、心当たりがある。
でも、彼女?
え、彼女?
彼女?
「すいません、学ぶ赤さん。学ぶ赤さんが言っている戦士の長というのは、この地に着いた時に出会った豪華な胸当てをしていた人ですか?」
「そうなのです。それにしても豪華な胸当てとは面白い呼び方なのです。それでは、今日から堅い胸と呼ぶのです」
……。
「すいません、その呼び方は変えましょう」
変えられるなら、だけど。
「む、分かったのです。それならば、堅い拳にするのです」
簡単に変えられるようだ。
「それなら、まぁ、良いと思います」
……。
「堅い胸……いえ、堅い拳に会いに行くのです」
この独特な名前――呼び方は学ぶ赤さんが決めていたようだ。何か、名前を、自分でも分かる言葉に翻訳したものだと思っていたが、どうやら、ただのあだ名だったようだ。
『それって、どうなの?』
『うむ。どうなるのじゃ?』
どうにもならないと思います。
「分かりました。会いに行きましょう」
「案内するのです」
学ぶ赤の案内で牢があった通路を抜け、闘技場へと向かう。
『こう、何処に向かうのでも、そのたびに水浸しになるのは、どうかと思うよ。蜥蜴人さんたちは不便だと思わないのかな』
『ふむ。この生活に慣れて当たり前だと思っているだけだと思うのじゃ』
闘技場の中では豪華な胸当てさん――学ぶ赤さん命名、堅い拳さんが指揮をして飛竜襲撃の後片付けを行っていた。
昨日からずっと行っているのだろうか。
「ヒトシュの戦士の王、どうしたのです?」
豪華な胸当てさんが、こちらに気付き、話しかけてくる。
「――は、今日から堅い拳なのです」
そこに学ぶ赤さんが割り込んできた。豪華な胸当てさんは学ぶ赤の言葉を聞いて、お前は何を言っているんだという表情をしている。
「すいません。ヒトシュである僕には、あなたたちの名前が発音出来ないんです。それを学ぶ赤さんに伝えたら、あなたの名前を作ってくれたみたいで……」
「それで、『これは』私を堅い拳と……理解したのです」
豪華な胸当てさんは『これは』の部分を強調して学ぶ赤さんを指差し、大きくため息を吐いていた。
「えーっと、良かったんでしょうか」
「良いのです。どちらにせよ、名前は必要なのです。――様、いえ、学ぶ赤に従うのです」
豪華な胸当てさんは、何処か、色々と諦めたような表情だ。
『それでいいんだ……』
『うむ。いいみたいなのじゃ』
「と、ところで堅い拳さんたちは、何をやっているんですか?」
「ヒトシュの戦士の王、これは、飛竜の襲撃で壊れた部分を直しているのです。戦士の鍛錬にもなっているのです」
思っていたよりも飛竜の襲撃による被害は大きかったようだ。
「堅い拳、この者はヒトシュの戦士の王ではないのです。ソラ、なのです。重要なのです」
学ぶ赤さんが堅い拳さんに訳の分からない哲学のようなことを言いながら詰め寄っていた。
『重要かなぁ』
『む?』
銀のイフリーダは自分の言葉に意外そうな顔をしていた。
「えーっと、話を戻しますね。武具の作成を依頼したんですが、その武具が完成するまで暇なので、どうしたのものかと思ったんです。それを学ぶ赤さんに相談したら、あなたに話すと良いと言われたので会いに来たんです」
「なるほど、なのです」
堅い拳さんが頷く。
「こちらで弓を用意して貸し出すことは出来るのです」
「本当ですか」
しかし、そこで堅い拳さんは首を横に振った。
「しかし、なのです。ちょうど良い時に来たのです。今は、それよりも、今後の予定を話し合うべきだと思うのです」
「今後の予定ですか?」
堅い拳さんが頷く。
「そうなのです。ヒトシュの戦士の……」
「ソラなのです」
「ああ、ヒトシュの……」
「ソラなのです」
「あ、ああ、ソラと学ぶ赤の活躍によって生け贄賛成派の勢力は弱まっているのです」
堅い拳さんは学ぶ赤さんの勢いに、少し引いている。
「そう言えば、キラキラ帽子さんやここで弓を持っていた偉そうな戦士さんは、どうなったんですか?」
「――と戦士の王のことなら、――は拘束して大人しくしてもらっているのです。戦士の王は――に騙されていただけなのです。今は説得中なのです」
キラキラ帽子さんは拘束中。それと、あの偉そうな蜥蜴人が戦士の王だったんだ。自分の前任者……という訳じゃなくて、普通に戦士の頂点だったというだけで、王が何人も居るのが普通なんだろうね。
「それで、今後のことなのです。ファア・アズナバール様の元へ行くのならば、今が好機なのです。長く生け贄を捧げ続けてきた我らの悪しき慣習に終わりを告げるのです」
「そうなのです。竜の神が目覚めてしまえば、犠牲の数は今までよりも、もっともっと増えてしまうのです。リュウシュの歴史が終わりの時を迎えてしまうのです」
どうやら、邪なる竜の王は、眠っていた? 間も生け贄を喰らい続けていたようだ。それが目覚めれば、さらに加速する。そんな生活は――ただの餌として生かされているような生活は、リュウシュからすれば、たまったものじゃないだろう。
「そのファアさんのところまで辿り着けば、後は何とかします」
「リュウシュの未来をソラに託しているのです」
学ぶ赤さんが頷く。
「こちらも協力するのです」
堅い拳さんも頷いている。
『自分で何処まで出来るか分からないけど、やるしかないよね』
『うむ。我もついているのじゃ』




