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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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089 職人

 夢。


 これは眠りに落ちた自分が見ている夢。


 夢のはずだ。


 何処か分からない思い出の場所。


 何処かの渓谷。


 そして、深く、深い、隠された洞窟。


 自分が対峙しているのは……竜ッ!


 自身の何倍もの大きさの巨大な竜が口を開ける。


「ブレスが来る! 大盾!」


 手に持っていた全身を覆い隠すほどの、巨大な、まるで塔のような盾に身を隠す。


 竜の口からほとばしる風と熱――そして、炎。


 大盾が炎を受け止める。


「想像以上だ!」


 金属製の大盾が熱を帯びていく。持っているだけでも火傷しそうだ。


 そして、炎の洗礼が終わる。


 肌を焼く大盾を投げ捨てる。そして、額から流れ落ちた汗を拭う。

「次は無理だ。ここで決める」


 両手で剣を持ち、構える。


 そして……。


 夢。


 竜と対峙していた時の夢。


 そこで、目が覚めた。


「ここは……?」


 そこは少し肌寒い部屋だった。


 夢の中で感じていた暑さが一気に消えてしまう。


 自分は用意された冷たく硬い台の上で横になっている。


 蜥蜴人たちが気を利かせてくれたのか、彼らが着ている服と同じ材質の布を、その台の上に敷いてくれているが、台の硬さと肌寒さを防ぐ役には――あまり立っていない。


 寒さで固まってしまった筋肉をほぐすように、大きく伸びをする。


 室内は薄暗く、時間が分からない。


 自分はどれくらい眠っていたのだろうか。


 あれから――食事を終えた後、疲れたので休みたいと言ったら、ここを案内された。ここは牢のあった洞窟にある一室だ。

 どうやら、蜥蜴人たちは、この洞窟の方を主として暮らしているようだ。水に沈んだ建物を利用しているのは院と職人だけらしい。


 そうだ、職人だ。


 自分が寝ていた台の上から飛び降り、部屋の外に出る。


 そこでは蜥蜴人たちが忙しそうに動いていた。


 何をしているのだろう?


「すいません、学ぶ赤さんを知りませんか?」

 座り込み、何かの作業を行っていた蜥蜴人の一人に声をかける。

「ヒトシュの戦士、話は聞いているのです」

 話しかけた蜥蜴人は、自分の姿を見ても驚かないようだ。作業の手を止め、こちらを見る。

「学ぶ赤? ああ、なるほどなのです。知っている人に頼んでくるのです」

 蜥蜴人が立ち上がる。誰か知っている人に頼みに行ってくれるようだ。


 蜥蜴人が作業を行っていた場所を見る。そこには何か小さく楕円形の白い物体があった。どうやら、その白い物体をほぐしていたようだ。

「人を呼んだので、すぐに来ると思うのです」

 作業を行っていた蜥蜴人は、すぐに戻ってきた。

「ありがとうございます。ちなみに、それは何をやっているんですか?」

 気になったので聞いてみた。


「狼食い草の繊維を糸にしているところなのです。これを職人のところに持っていくと服などに作り替えて貰えるのです」

 蜥蜴人は隠す様子もなく、気軽に答えてくれる。


 彼らが着ている服は、この草の繊維から作られているようだ。自分は、ここに来るまでに狼食い草というものを見かけなかったが、何処か近くに生えているか、隠して育てているのだろう。


 蜥蜴人たちの作業を見ていると、学ぶ赤がやって来た。

「職人のように早い目覚めなのです」

 どうやら、まだ早い時間だったようだ。


「学ぶ赤さん、今日は職人のところへ案内して貰っても良いですか?」

「任せて欲しいのです。荷物はすでに載せてあるのです」

 この地に初めて来た時に取り上げられた荷物は、すでにすべて回収済みだ。


 学ぶ赤さんの案内で昨日と同じ葉っぱに乗り込む。葉っぱの上には、見覚えのある壺が二つ見えた。一つは空っぽだ。水に濡れた時点で木の矢は使い物にならなくなったので、全て破棄している。もう一つには小ぶりのマナ結晶が詰まっている。

 石の短剣は腰紐に、折れた剣は自分の手で持っている。一応、歪んでしまった木の弓も肩から下げている。


 さあ、出発だ。


 学ぶ赤さんの、いつもの呪文とともに葉っぱが水の上を進んでいく。


 見えてきたのは、食事を行った場所と同じような四角い建物だ。ただ、上部分、屋根の一部が壊れて吹きさらしになっている。

「あそこが職人の住んでいるところですか?」

「そうなのです。私たちの里では、物作りは職人だけが出来るのです」

 材料――素材は作ることが出来ても、加工するのは職人のみ。そんな取り決めのようだ。


 建物の中に入ると、つるつるの頭に金属の輪っかを巻いた蜥蜴人たちが居た。彼らが職人なのだろう。


「何のようなのです」

 輪っか蜥蜴人の一人が面倒そうに話しかけてきた。

「欲しい物があります」

「ヒトシュとは珍しいのです。しかも我らの言葉を使っているのです」

 面倒そうにしていた蜥蜴人の様子が変わる。自分がヒトシュだったからか、興味を惹かれたようだ。


「欲しいのは、槍と弓に矢、それと炎を防ぐような大きな盾です」

 まずは戦うための道具だ。

「弓と矢なら何個か作り置きがあったと思うのです。槍と盾は時間がかかるのです」

 何とかなりそうだ。


 そして、自分は、職人蜥蜴人の前に折れた剣をおく。


「この折れた剣を何とか出来ないでしょうか?」

 蜥蜴人が折れた剣を取り、持ち上げ、丁寧に調べていく。

「これを打ち直すのは無理なのです」

 無理なようだった。

「何故でしょうか?」

「使われている金属が分からないのです。我らで扱えるのは鉄までなのです」

 がっかりである。


「何とかならないでしょうか?」

「我らに鍛冶を教えてくれたヒトシュなら……そうなのです。鉄を使って補強するくらいなら可能なのです」

「分かりました。とりあえず、それもお願いします」

「承ったのです。費用は……」

 その言葉を聞き、学ぶ赤さんの方へと振り返る。学ぶ赤さんが頷き、葉っぱの上に乗っていた壺を持ってくる。

「これで足りますか?」

 全部だ。持ってきたマナ結晶を全部渡すことにする。これで足りないと言われたら、他の手段を考える必要がある。


 職人蜥蜴人が壺の中のマナ結晶を確認する。

「皆、最優先の仕事なのです。炉に火を入れるのです」

 どうやら、マナ結晶は足りたようだ。


 職人蜥蜴人がこちらへと向き直る。

「最優先で行うのです。それでも、二日、欲しいのです」

「分かりました。その折れた剣と一緒にお願いします」

「それなら、その弓も預かって直しておくのです」

 職人蜥蜴人が肩から下げていた弓を指差す。見ただけで歪んでいると分かるようだ。


 この歪んだ木の弓も渡しておく。


 これで最低限、戦う準備は出来そうだ。

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