009 ものづくり
拾ってきた石をシェルター近くに積み上げる。
『ソラが楽しそうなのじゃ』
「うん、思っていた以上に良い石も見つかったしね。これなんて硬いし、鋭いから使い勝手が良さそうだよ」
『ソラが石を前ににまにましているのじゃ』
「っと、石の回収に時間を取られすぎたね。今日のやることはまだあるんだった」
森から落ち葉と枯れ枝を集め、とりあえず火を起こす。
拾ってきた枯れ枝の一部は先を尖らせ串を作る。さらに放置していた2メートルクラスの木の棒を取り、その途中を折れた剣で叩き折る。そして先端を折れた剣で削り、鋭く尖らせていく。
「こまめに研いでいたからか、結構、綺麗に削れるようになったね」
後で紐として利用したいので途中でちぎれないように木の皮を剥いでいく。触っても痛くないように握り部分を削って完成だ。
「簡単だけど、これで新しい槍の完成だね」
出来たのは自分の背丈よりも少しだけ長いシンプルな木の槍。
そのまま湖のふちまで歩き、いつものように魚を捕る。今回は4匹ほど捕ったところで切り上げた。
『ソラ、大量なのじゃ』
「うん、朝が一匹だけだったからね」
そのまま下ごしらえをし、火で炙る。今回も頭と内臓は森に捨てた。
『ソラよ』
するとイフリーダが、こちらの様子をうかがうような、そんな微妙な表情で話しかけてきた。
「どうしたの?」
『先ほど、魚を捕っていた時の技をもう一度見せて欲しいのじゃ』
「あれ? 分かったよ」
木の槍を構え、静かに鋭く貫くように、突きを放つ。
『うむ』
「どう?」
『ものにしたのじゃな! ソラよ、それが神技スラストなのじゃ』
「最初の時に言ってたよね。この突きがそうなんだ」
もう一度、木の槍を構え、突く。音が後から聞こえてくるような、空間を突き破るような、そんな突き。
「えーっと、神の力を借りた技だったよね。確かに、見本は、この体で行って、文字通り体で理解していたけど、こんな風に使えるようになるんだね」
『うむ。普通は違うのじゃ。普通は神の力によって、その技をなぞるだけなのじゃ』
「普通は、あの体が勝手に動く時のようにしか使えない?」
『そうなのじゃ。しかし、ソラはそれを自分の力で自分のものにしたのじゃ』
「そうなんだ」
『そうなのじゃ! まだまだ基礎の神技、ソラにはどんどん新しい技を習得して貰うのじゃ』
「了解。でも、とりあえずは食事にするね」
焼き魚を食べる。
そして、その日は、そのまま眠りについた。
翌朝、いつもの火起こし、魚釣り、餌やりを終え、行動を開始する。
『今日はどうするのじゃ』
「今日は家を焼くのと枝を取りに行くって感じかな」
『ふむ。せっかく作った、これを焼くとはもったいない気がするのじゃ』
銀の猫が粘土で固められたシェルターを前足でぽんぽんと叩く。
「いやいや、焼いて壊すんじゃなくて、焼いたら頑丈にならないかなって、そう思ったから試してみようかなって」
『ふむ。そうなのじゃな。ソラはソラのやりたいようにやってみるのじゃ』
「うん」
家の中側は木の枝や落ち葉の敷物など燃えるものがいっぱいなので、その入り口部分も粘土で蓋をし、中に火が入らないようにする。そして森の中から拾ってきた枯れ枝と落ち葉を使い、粘土で固めて作った家を囲むように並べていく。そして火を点ける。
「なかなか一気には燃えないね」
『そのうち全て火に包まれると思うのじゃ』
「壊れないといいなぁ」
『そうじゃな』
火が強くなりつつあるシェルターを横目に東の森の中へと入る。今日も持って行くのは折れた剣だ。それと昨日剥ぎ取った木の繊維も持って行く。
『ふむ。今日は東の森なのじゃな。石ではなく、木を取りに行くのじゃな!』
イフリーダの言葉に首を横に振る。
「今日は奥の方まで行かないよ。この周辺の枝を折るつもりなんだ」
落ち葉と枯れ枝が転がった地面を踏みしめながら手頃な木を探す。あまり長くは無いが細くよくしなりそうな枝を見つけ、折れた剣で根元から叩き折る。
『ふむ。そのような細い枝ではすぐに折れると思うのじゃ』
「いや、意外としなりが良くて、これ、思いっきり曲げないと折れそうにはないよ」
手頃な枝を見つけては折っていく。折った木の枝は木の繊維に結びつけ重ねる。抱えきれないくらいの数を――無数の枝を折ったところで、自分の頬にしずくが落ちてきた。
空を見る。
森の中で見えるのは大きく手を伸ばした木々と葉っぱくらいだ。その葉っぱに何かがあたっている音がする。
「不味い!」
『ソラよ、どうしたのじゃ?』
「多分、雨だ! ああ、しばらく降っていなかったから油断したよ!」
急ぎ駆け足で拠点へと戻る。
森を抜け、シェルターが見える拠点まで戻ってくると、いよいよもって雨脚が強くなってきた。
シェルターの周りを覆っていた火は雨によって消えようとしている。火が消えるのを待ち、急いで入り口部分の粘土を壊し中に入る。
「うーん、焼き入れが中途半端になってしまったけどひび割れとか起きてないといいけどなぁ」
シェルターの中で持って帰ってきた木の枝とともに座り込む。中からシェルターの壁を確認するが、特にひび割れて壊れたり、水が漏れたりしている様子はない。
『ふむ。我もお邪魔させて貰うのじゃ』
シェルターの中を確認しているとイフリーダが中に入ってきた。そのままぶるりと体を震わせ水を飛ばす。シェルターの中は狭いため、こちらに飛沫が飛んでくる。
『ソラ、迷惑をかけるのじゃ』
「狭いからね、仕方ないね」
外の雨は止みそうにない。
「仕方ない。イフリーダ、ちょっと除けて貰ってもいい?」
『ふむ。では端っこで丸くなっているのじゃ』
イフリーダは狭いシェルターの中でギリギリまで端っこに寄り、そのまま丸くなる。
「今日は、このままちょっとした作業をするよ」
『そうじゃな、この天候では文字の練習も鍛錬も行えないのじゃ』
「うん、仕方ないね」
狭いシェルターの中で持って帰ってきた木の枝を広げる。折ってすぐだからなのか、水分を含んでいるからなのか、木の枝は充分なしなりを持っていた。
木の枝を横向きに並べていく。横向きに並べた木の枝と木の枝を交差させるように縦向きの木の枝を差し込む。横向き一本目の上を、横向き二本目の下を、三本目の上を――繰り返し編んでいく。
ある程度、何本もの木の枝を差し込み、交差し終わったら、その端っこをゆっくりと内側に曲げていく。
『ふむ、もしや籠を、そうなのじゃ。籠を作っておるのじゃな!』
「うん。手作業だし、加工も中途半端な、長さも揃っていないような、もとはそんな木の枝だから、ちょっと不格好になりそうだけどね」
雨の中、作業を続ける。
そして、籠と言うには浅い、ざるにしか見えないものが出来上がった。
「う、うーん、凄い微妙」
『いやいや、ものを作るというのは凄いものじゃ』
「そう? 昨日、石を持ち運ぶのに不便だったから作ってみようと思ったんだけど……うん、まぁ、最初だもんね。何個か作っていくうちに、しっかりとしたものが作れたらいいかな」
その日は、その後、折れた剣を研ぎ、拾ってきた石を叩き、それを削って過ごすことにした。
雨は夜の間も降り続け、止みそうになかった。
これから毎日家を焼こうぜ?