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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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088 キノコ料理

 葉っぱが進み、四角い建物の前で止まった。この建物は、綺麗な四角をしており、そして、上部分だけが水面から覗いている。他の建物と同じように水に沈んでしまったが、背が高かった為、全ての水没を免れたという感じだ。


 学ぶ赤の案内で、建物の壁に、無数に空いた四角い枠から、その中へと入る。その際に触れた壁の材質がよく分からなかった。最初は石を削り出したのかと思った。しかし、似ているが、微妙に感触が違う。粘土を固めたようにも見える不思議な材質だった。

 建物の中は薄暗く、自分の瞳では歩くのも困難だ。そんな中を学ぶ赤がすいすいと歩いて行く。蜥蜴人たちは暗闇に強い種族なのだろう。

「こちらなのです」

 学ぶ赤の声がする方へと慎重に歩いて行く。


 建物内は湿り気を帯びているが、浸水はしていないようだ。


 空気に水が混ざっているからか、至る所によく分からない、色々な種類のキノコが生えている。傘の大きいもの、小さいもの、暗闇でも分かるくらいに毒々しい色合いのもの――本当に様々だ。


「足元に気をつけるのです」

 しばらく進むと下へと降りる階段が見えてきた。階段は急な角度で折れ曲がっており、油断すると足を踏み外しそうだ。


 階段を降りた先は少しだけ明るくなっていた。どうやら、生えているキノコが発光しているらしい。

「少し明るくなったね」

「そこのキノコは光る粉を落とすのです。吸うと咳が止まらなくなるので気をつけるのです」

 学ぶ赤の言葉を聞いて、光るキノコに近寄ろうとしていた足を止める。なんで、そんな危険なキノコをそのままにしているのか、理解出来ない。これも種族の違いだろうか。


 湿り気を帯びた、ぼんやりとした明るさの長い通路を歩いていると、右手側に金属製の扉が見えてきた。扉は隙間がない形ですっぽりと壁に埋まっている。

「扉がありますね」

「はい、なのです。その扉は誰も開けたことがない扉なのです」


 誰も開けたことがない扉?


 学ぶ赤の言葉を聞いて、やはり、というか、この建物を作ったのが蜥蜴人たちではないと思い至った。


 蜥蜴人たちは、ここにやって来て、水に沈んでも残っている建物を利用した?


「この扉の向こうはどうなっているんでしょうね」

「水……だと思うのです」

 学ぶ赤は小さく笑っている。


 水?


 つまり、この扉を開けると、この建物が浸水してしまうってこと?


 よく分からない。


 扉のあった通路を抜けると大きな広間に出た。ここもほんのりと明るい。


 部屋の中にはいくつかのテーブルが見られ、そこで食事を行っている蜥蜴人たちがいた。袖が短い法衣のようなものを着ている。鎧は着けていない。

「食事の用意をお願いするのです」

 学ぶ赤の呼びかけに答えて、部屋の奥から蜥蜴人が現れる。

「豪勢な、美味しいものをお願いするのです。それと、これも一緒にお願いするのです」

 現れた蜥蜴人は、そのまま背負い袋を受け取り、中を見て、喜んでいた。


 学ぶ赤に連れられてテーブルの一つに座る。他の席の蜥蜴人たちは、チラチラとこちらを見ている。ヒトシュの自分が珍しいのかと思ったが、どうにも見ているのは学ぶ赤のようだ。その瞳は、また何かやらかすのだろうかと、心配しているような、不安がっているような、そんな感じのものだった。


「学ぶ赤さん、ここは?」

「院の食料庫なのです」

 その言葉から、戦士の食料庫もあるのだろうな、と思った。


「ちなみに料金は?」

「料金? ああ、肉を渡したので大丈夫なのです」

 学ぶ赤は上機嫌だ。


 しばらく待っていると、一人の蜥蜴人が料理を運んできた。両手だけではなく、器用に肩まで料理の皿を乗せて運んでいる。蜥蜴人がテーブルの上に料理をのせていく。結構な量だ。


 そして、料理を運んできた蜥蜴人が口を開いた。

「今度は何をやったのです」

 ため息を吐きそうな様子で、自分の方を見ている。

「な、何もやっていないのです」

 料理を運んできた蜥蜴人は、学ぶ赤の答えを聞くと、小さくため息を吐いて、部屋の奥へと帰っていた。


「それでは、食べるのです」

 学ぶ赤が自分の前に一つの皿を置く。牢屋でも食べた、焼きキノコのソースがけだ。まだ熱が残っている焼きキノコを掴み、囓る。ちょっぴり甘いソースがとても美味しい。

「この里の定番なのです。すりつぶしたキノコを焼いたキノコの上にかけているのです」

 上に乗っているソースは、すりつぶしたキノコだったようだ。焼きキノコと味が違うので、別の種類なのだろう。


「私はこっちなのです」

 学ぶ赤は焼いた乾燥肉に齧り付いていた。手づかみで食べている。周囲を見回しても、食べるための道具を使っている蜥蜴人たちはいない。ここは手で料理を食べる文化のようだった。


『手づかみだと、熱々の料理を食べる時に困るね。それとスープ類はなさそうだ』

 殆どが焼いただけの簡単な料理だ。


 そして、焼きキノコばかりで、自分が持ってきた以外の肉類や、あって欲しかった野菜類が見えない。魚料理も見えなかった。


『そういえば、水の中に魚の姿を見なかった。魚が住めないような水なんだろうか』

『うむ。生き物の姿は見えなかったのじゃ』

 いつの間にか背後に立っていた銀のイフリーダが答えてくれた。


 蜥蜴人以外の生き物が住んでいない水。危険な香りしかしない。


 お腹いっぱいになるまで焼きキノコ料理を食べた。

『これはこれで、すぐ飽きそうだよ』

『我はマナ結晶があれば良いのじゃ』


 とりあえず、約束通りキノコ料理はお腹いっぱい食べることが出来た。

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