087 院
「学ぶ赤さんが元気そうで何よりです」
とりあえず学ぶ赤さんに声をかけると、疑問符を浮かべた表情のまま、うんうんと頷いていた。状況が飲み込めていないようだ。こちらだって状況はよく分からない。
「学ぶ赤さんは何をしているんですか?」
「ソラを助けに来たのです?」
「お気持ち、ありがとうございます」
聞きたいのはそこじゃない。
「そこにいるキラキラ帽子さんによって生け贄に捧げられたって聞いたんですが、なんで、ここにいるんですか? それと一緒にいる方たちは誰でしょうか?」
学ぶ赤さんが手をポンと叩く。
「おー、それなのです。彼らに助けて貰い、そのままここに来たのです」
学ぶ赤は、そう言った後、何がツボに入ったのか、キラキラ帽子なのです、と言いながら笑い転げていた。何だろう、とても凄い脱力感が……。
「飛竜を倒して戦士として認められたみたいなので、僕は大丈夫です」
「おー、さすがはソラなのです」
笑い転げていた学ぶ赤さんが起き上がる。とてもマイペースだ。
自分が飛竜を倒したことを伝えても、ここの衛兵さんたちのように驚いた様子がない。こちらの実力を知っているからなのかもしれない。
「それと、伝え忘れていましたが、学ぶ赤さんが探していた強大なマナを倒した存在は自分です」
「やはり、そうだと思ったのです」
これも驚かなかった。学ぶ赤さんは感づいてたようだ。
「何か理由があって隠していると思っていたのです」
学ぶ赤さんは得意気な表情でこちらを見ている。何のアピールだろうか。
「いえ、特に理由はありません」
そう返すと、えーっという感じで、少しだけ拗ねていた。
「それで、ここにいるであろう、邪なる竜の王を倒しに行きたいんですが、構わないですよね」
この人たちの神を倒す。その反発を考えていた。
でも、この様子なら……。
『うむ。構わないのじゃ』
銀のイフリーダが腕を組み、頷いている。いや、イフリーダに言った訳じゃないんだけど……。
「もちろんなのです。今の私たちに奪うだけの神など不要なのです」
学ぶ赤が真剣な表情でこちらを見る。
その視線に頷き返す。
この蜥蜴人たちと邪なる竜の王の元々の関係は分からない。だが、餌としか見られていない今の関係は耐えられないものだろう。
強大なマナを欲している自分との利害は一致しているはずだ。
後は自分が邪なる竜の王を倒せるか、どうかだ。
……。
「で、ですね、それで、お腹が空いたんですが……」
今、すぐにでも戦いに行くという雰囲気だったが、まずは腹ごしらえだ。今日は満足にご飯を食べていない。
「分かったのです。約束を果たすのです」
学ぶ赤さんが笑い、張り切っている。
「これも使ってください」
張り切っている学ぶ赤に背負い袋を渡す。
「全部使っても構わないです」
中身は乾燥肉だ。水に浸かってしまったので、もうあまり日持ちしないだろう。この機会に使ってしまうべきだ。
「ありがたいのです。では、すぐに里に出発するのです」
背負い袋を受け取った学ぶ赤が腕を振り上げる。凄く嬉しそうだ。背負い袋の中身が肉だと知っているので、それを喜んでいるのかもしれない。
「えーっと、他の人たちは?」
打ちひしがれた偉そうな蜥蜴人、呆然としているキラキラ帽子、呆れている豪華な胸当てさん、状況が飲み込めない衛兵の一団と生け贄反対派の皆さん……。
全て放置である。
「そうだったのです」
学ぶ赤さんが、今思い出したという感じで手を叩く。そして、そのまま豪華な胸当てさんの元へと歩いて行く。
そして、一言。
「任せたのです」
豪華な胸当てさんは呆れた表情のまま、大きくため息を吐いていた。
「さあ、ソラ、行くのです。それにしてもキラキラ帽子とは面白いのです」
学ぶ赤さんは浮き浮きとした様子で歩いて行く。これで全て問題ごとが片付いたと嬉しそうだ。
何処に向かうつもりか分からないが、その後を追いかける。
そんな自分たちの背後では、豪華な胸当てさんが衛兵に指示を出しながら、生け贄反対派の皆さんと会話を行っていた。生け贄反対派の皆さんは学ぶ赤さんが連れてきたはずなのに、完全放置という……本当に丸投げである。
『まぁ、自分もお腹が空いているから、そっちを優先してくれるのは助かるんだけどね』
学ぶ赤さんの後を追い、闘技場の外に出る。
『この先って牢屋に向かう一本道だったと思うけど、何処に向かうつもりなんだろう? そう言えば、逃げ出した蜥蜴人たちの姿が見えないけど……』
「ソラ、こちらなのです」
学ぶ赤が待っていた場所には、大きな葉っぱが浮いていた。
「それは?」
「これが、ここでの移動手段なのです」
学ぶ赤さんが大きな葉っぱに飛び乗る。結構、勢いよく飛び乗ったと思ったが、葉っぱが沈む様子はない。
恐る恐る葉っぱの上に乗る。
葉っぱが沈む様子はない。かなりの重量でも大丈夫そうだ。
「では進むのです」
学ぶ赤さんが水に手を伸ばす。
「水流と門の神ゲーディア、水門を開き水の流れを動かす力を授けて欲しいのです――ウォーターストリーム!」
いつもの呪文だ。
その力によって葉っぱが水の上を進んでいく。
「いつもこうやって移動しているんですか?」
「院の者が居る時はそうなのです。ただ、多くの者が面倒がって泳いでいるのです」
澄んだ水の上を葉っぱが進む。その途中には水面に一部だけが出ているような建物が見えた。水中を見れば、完全に水没している建物の姿もある。
まるで水に沈んだ都市のようだ。
「そういえば、その院って何のことですか?」
「私たちの里には戦士と院という二つがあるのです。戦う力を司る戦士と、今、私が使っているような力を司る院の二つなのです」
戦士と魔法使いって感じなのだろうか。
「では、学ぶ赤さんは院の一人なんですね」
「その頂点なのです」
学ぶ赤さんは得意気だ。
なるほど、トップだったのか。なんとなく偉そうだったのも納得である。
「そういえば、先ほど、自分は戦士の王と認められました」
「それは凄いのです。戦士として認められた者の中でも優れた者が王と呼ばれるのです。もちろん院にも同じ称号があるのです。院の女王なのです」
院の女王……?
学ぶ赤は院の頂点。
……。
それが意味することは……?
「学ぶ赤さんって、女性……?」
「あー、もちろん、女の戦士も、男の院もいるのです」
というか、この蜥蜴人さんたちに男女の違いってあったの?
皆、同じにしか見えない。
これが種族の違いってことなのだろうか。




