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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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081 小物

 焼きキノコを食べ終え、空いた器を豪華な胸当てさんに返却する。

「状況を理解していないかのような良い食べっぷりなのです」

 豪華な胸当てさんは、ちょっと引き気味になりながら、器を受け取っていた。


 とても美味しかった。


 でも、傘の小さな焼きキノコが一本ではお腹いっぱいにはほど遠いのです。おかわりを所望するのです。


 ……なんて感じで言い放ちたいところだが、今の自分の立場を考えて我慢する。


「言葉は分からないだろうが、大人しくしておくのだと忠告しておくのです。待てば、次も持ってきてやるのです」

 おかわりを待っている視線を理解してくれたのか、少し呆れ気味な表情で豪華な胸当てさんは、そんなことを言っていた。


『食事は期待できそうだよね。学ぶ赤さんが焼いただけの肉を美味しそうにパクパクと食べていたから不安だったけど、ちゃんと調味料を使うって文化があるみたいだしね』

『ソラが満足そうで良かったのじゃ』

 銀のイフリーダはのんきに欠伸をしていた。イフリーダが寝ているところを見たことがないので、欠伸をしているのは、演技だろう。


 こちらの反応が返ってこないことに気を悪くしたのか、豪華な胸当てさんは小さくため息を吐いて、牢を出ていった。


 鉄の小扉を閉め、そのまま連れてきた衛兵と一緒に帰って行く。


『あの人は悪い人じゃなさそうだね』

『うむ。所詮、小物蜥蜴たちの巣なのじゃ』


 ……。


 ん?


 先ほどの豪華な胸当てさんの行動に違和感を覚え、扉に触れてみる。

『開いている』

 確かに鍵がかかっていたはずだ。


 鍵をかけ忘れた?


 いや、違う。


 これはわざとだ。


『逃げろってことなんだろうね』

『ふむ。どうするのじゃ?』

『そうだね。とりあえず眠るよ。ご飯も食べたし、他にやることがある訳じゃないからね』


 少し肌寒い湿り気を帯びた牢屋の中で、膝を抱えて座り込む。体から熱を逃がさないように、頭を沈め、小さくなり目を閉じる。

『あー、毛布か何かを頼めば良かったね』

 そして、そのまま眠る。


 夢。


 その日の夢は、小さな竜と一緒に旅をする夢だった。


 自分の隣を小さな竜が、一生懸命に羽根をパタパタと動かしながら飛んでいる。


 そんな夢だった。


 目が覚める。


 目が覚めた場所は、薄暗い牢屋の中だった。

『牢屋だね』

『うむ。牢屋なのじゃ』


 眠っている間に奪われた体温を戻すように体を動かす。

『このままだと寒さで死んじゃいそうだよ』

『そうなる前には逃げ出すのじゃ』

 銀のイフリーダの言葉に笑って頷く。


 しばらく体を動かしていると足音が聞こえてきた。


『今日も三人だね』

『うむ。動いているのは三つなのじゃ』


 鉄の扉が開かれる。


 やって来たのは、今日も豪華な胸当てさんだ。


 しかし、その手には何も持っていない。


 持っていない!


 その仕打ちに、思わず豪華な胸当てさんを睨んでしまう。


「う……威圧を感じるのです。きょ、今回は様子を見に来ただけなのです」

 強く睨みすぎたのか、一歩、後ずさった豪華な胸当てさんが、そんなことを言っていた。もしかすると、とっくに逃げていると思って、その確認に来ただけなのかもしれない。


 豪華な胸当てさんは、自分が逃げて欲しいのだろうけど、正直、逃げるつもりはない。逃げない理由はいくつもある。状況も分からず、地理も分からず、ここまで来た道は湖という壁によって塞がれている。こんな状況で逃げるのは得策ではないと思っているのが一つだ。


 それに自分が逃げても、この地に混乱が生まれるだけだ。いや、もしかすると、この豪華な胸当てさんは、それを狙っているのだろうか。賊が逃げた混乱の隙に何かを起こす、そんな感じの隙を狙っているのだろうか。


 と、そこで牢屋の外が少しだけ騒がしくなった。

『追加で何者かが来たようなのじゃ』

 誰かが来て、外の衛兵と揉めている?


 そして、現れたのはキラキラと輝く帽子をかぶった偉そうな蜥蜴人だった。

『港にいた偉そうな人だよね。この人が直々にこんな場所まで来るなんて、暇なのかな? もしかすると姿だけで、あまり偉い人じゃないのかもしれないね』


「このような場所までどうしたのです?」

 豪華な胸当てさんの言葉に、キラキラはニヤリとした笑みを返す。

「あやつが、このヒトシュを一人前の戦士だと言ったのです」

 それを聞いた豪華な胸当てさんがこちらへと驚きの顔を向ける。

「ヒトシュの幼体にしか見えないのです。何かの間違いなのです」

「王が戦士の力を確かめることが決まったのです」

 キラキラがこちらへと歩いてくる。

「待って欲しいのです。王自らが確かめる必要はないのです」

 キラキラが豪華な胸当てへと振り返り、不快な、馬鹿にするような笑みを作る。

「それを決めるのはお前ではないのです」

 そして、こちらへと向き直る。

「さあ、来るのです」


 キラキラが余裕の表情でこちらを見る。とりあえず首を傾げておいた。

「こ、こいつ! こちらへ来るのです!」

 キラキラが自分を掴もうと手を伸ばしてきたので、それを回避する。

「な! 大人しくするのです」

 とりあえず、もう一度、首を傾げておく。


「我らの崇高な言葉を理解出来ない愚かなヒトシュは分をわきまえるのです」

 キラキラが怒ったように、再度、伸ばして来た手をするりと回避する。


『言葉が分からないと思っているのに、言っていることが滅茶苦茶だよね』

『うむ。小物なのじゃ』


「こ、こやつを連れて行くのです!」

 怒ったキラキラが外の衛兵に命令する。


 それに答えるように長い棒を持った二人の衛兵が牢の中に入ってきた。


 衛兵の二人が長い棒をこちらへと突きつける。


 従う意思を伝えるために、とりあえず両手を上げる。

『これ、向こうに伝わっているかな?』

『反抗しないという意思は伝わっていると思うのじゃ』


 キラキラが先導する中、衛兵にせき立てられて牢を出る。

『何処に連れて行かれるんだろうね』

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