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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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080 焼きキノコ

 夢。


 これは夢なんだ。


 何処か分からない懐かしい場所で声だけが聞こえる。


「おぬしらしくないのう」


 声。


「その幼い竜を連れてどうするつもりなのですか? まさか、あなたが罪滅ぼしのつもりだとでも言うのですか」


 先ほどとは違う声。


「罪滅ぼし? それは罪を犯したものに対して使う言葉だろう?」


 何処か投げやりな自分の言葉。


 そうだ。


 ただ、面白いと思っただけだ。


 自分は、いつだって、戦えたら……それで良い。


 それだけだ。


 夢。


 何処か懐かしい場所での出来事。


 そう、これは夢だ。


 ……。


 ……。


 夢?


「冷たい……」

 頬を冷たいしずくが流れ落ちる。


 と、そこで目が覚めた。


 周囲は暗闇に包まれている。


 頬に伝わったしずくを拭い取る。


 冷たい。


 暗闇の中、ぴちょん、ぴちょん、と何かのしずくが落ちている音が聞こえる。


 少しでもよく見えるように、と目を凝らして天井を見る。ここは、天然の洞窟を加工した牢のようだ。天井から伸びた鍾乳石を伝い、水が流れ落ちている。先ほどの頬を伝ったしずくは、これだろう。


 と、そこで、今、自分が置かれている状況を思い出した。


 ここは牢の中だ。


『少し湿っているし、肌寒いかな』

『ふむ。ソラはのんびりし過ぎなのじゃ』

 いつものようにいつの間にか銀のイフリーダが寝転がっている自分の横に存在していた。銀のイフリーダは華麗なステップを駆使して、天井から落ちてくるしずくを避けている。


『ああ、そうか。この牢に連れてこられたところで疲れて眠ったんだったね。それにしても、そのままなんて酷いよね。体が冷えて、動かし辛いよ』

『ふむ。体の損傷は起きていないのじゃ』

 手を握りしめ拳を作り、そしてゆっくりと開けていく。

『損傷していたら困るよ』

 ゆっくりと肘を曲げ、膝を動かし、体の調子を確かめる。


 問題なさそうだ。


 と、そこで大きくお腹が鳴った。

『お腹が空いたね。何処かに食べる物はないかな』

 食料を入れていた背負い袋は豪華な胸当てさんに渡してしまった。このままでは餓死するしかない。

『ふむ。ここにはないようなのじゃ』

 ここは洞窟の中に作られた牢獄だ。


 囚人が逃げ出せないようにか鉄製と思われる格子が入り口を塞いでいる。格子の柱と柱の隙間は手を差し込むのがやっという感じだ。

『誰もいないみたいだね』

 周囲に人の気配はない。


 どうやら、自分は、ここに放置されている状況のようだ。


『このまま放置され続けるなら、逃げ出した方が良いかな』

 鉄の格子をどうにか出来ないか、触って調べてみる。

『硬いね。素手でこれをどうにかするのは無理かなぁ』

 もう一度、金属の格子を叩く。


 鉄だ。


 うっすらと錆が浮いている。


 加工された鉄の格子だ。


 ここには金属を、鉄を加工する技術がある。


 そのことに気付き楽しくなってくる。


『ふむ。何か動きがあるまで待った方が良いと思うのじゃ』

『そうだね。このまま放置されるってことはないだろうから、誰か来たら、その時に動こうかな』

 鉄の格子には人が出入りする用の小さな扉が取り付けられている。誰かが食事を持ってきたとしたら、この扉を開けて牢の中に入ってくるはずだ。


『それにしても、だよ』

 眠ったことで睡眠不足は解消したが、その分、お腹が空いてしまった。空腹に耐えるためにも、体力を温存するためにも牢の中で膝を抱え小さくなる。

『こうしているとシェルターの中で眠りにつく前と同じだね』


 そのまましばらく待っていると誰かが近づいてくる気配を感じた。


 鉄の格子を背にして身を潜める。こういう時に隠れやすいのは小柄な体格の利点だ。


「姿が見えなくなっているのです!」

 衛兵の一人であろう、誰かの大きな声が聞こえる。

「慌てないのです。ここは一本道なのです」


『三人かな』

『うむ。その通りなのじゃ』


「お前たちはここで待つのです」

 ガチャガチャと音が鳴り、扉が開かれる。


『です、です、って学ぶ赤さんの口癖なのかなって思ったけど、ここの人たちの訛りなのかな。それとも自分が、まだ上手く言葉を理解していないからなのかな』

『ふむ。今、それは、あまり重要ではないと思うのじゃ』


「隠れているのは分かっているのです」

 牢の中に入ってきたのは、豪華な胸当てさんだった。薄暗くて見えにくいが、手に何か持っているようだ。


 とても美味しそうな、とても良い匂いを奏でる何かを持っている。


「食事を持ってきたのです。うーむ、言葉が通じないのは不便なのです」


 良い匂いにつられた訳ではないが、隠れていた物陰から姿を現すことにした。

「そんなところに隠れているとは思わなかったのです」

 少し驚きながらも豪華な胸当てさんが手に持っていた器をこちらへと突き出す。器の上には何かの液体がかけられた焼きキノコがのっていた。

「食べ物なのです」

 と、そこで豪華な胸当てさんは器の上に手を伸ばし焼きキノコを持つ振りをする。そして、それを口に入れる真似を繰り返す。


『ご飯だって教えてくれているみたいだね』

『うむ。そのようなのじゃ』


 器を受け取る。


『あのまま隠れて襲いかかろうかと思ったけど、この人、悪い人ではなさそうだから止めておくね』

 脱出するのはもう少し後にしよう。


 まずは腹ごしらえだ。


 器の上に乗った焼きキノコを取り、口に入れる。


 ちょっぴり甘いソースがかかった焼きキノコはとても美味しかった。

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