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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
竜の聖域

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079 リュウシュの地

「見えてきたのです」

 学ぶ赤が指を差しているようだが、洞窟の中は薄暗く、あまりよく見えない。


 目を凝らし暗闇の中を見続ける。

「よく見えません」

「港なのです」


 近づいてきたからか、暗闇の中にモヤモヤとした何かが見えてきた。それは船だった。二人乗り程度の大きさの船が何艘も桟橋に結びつけられている。

「うっすらと船が見えます」

 規模は小さいが、確かに、これは港だ。


「ふふふ、こちらに気付いたようなのです。この船を港に着けるのです」

 船ではなく、丸太だが――その丸太が桟橋の横へと動く。


 向こうから――洞窟の奥から、何かがこちらへと駆けてくる気配が生まれる。

『よく見えないけど、人がやって来ているのかな』

『うむ。そこの小物蜥蜴の同族のようなのじゃ』

 やって来ているのは学ぶ赤と同じリュウシュの方々のようだ。


「さあ、ソラ、こちらなのです」

 学ぶ赤が丸太の上から桟橋へと移る。そして、こちらへと手を伸ばす。暗闇で周囲がよく見えていないこちらに配慮してくれたのかもしれない。

 学ぶ赤の手を取り、桟橋へと移る。


 そして、そのすぐ後に――やって来た人たちに囲まれた。


 袖の短い衣に鉄製と思われる胸当てをつけ、長い棒を構えた二本足で立つ蜥蜴姿の人たち。彼ら? 彼女ら? は、学ぶ赤と同じく猫のような瞳と三角に尖った耳、鱗の生えた腕をしている。

 ここを守る衛兵みたいな感じなのだろうか。


「良く来たのです。まずは……」

 学ぶ赤が何かを指示するように手を伸ばし、そこに衛兵の長い棒が突きつけられた。

「な、何のつもりなのです!」

 学ぶ赤が叫ぶ。


「このようなことは困るのです」

 よく見えないが、代表だと思われる、少しだけ豪華な胸当てを身につけた衛兵の一人が、本当に困っている顔をしていた。

「どういうことなのです!」

 学ぶ赤は長い袖を振り回して怒っている。学ぶ赤と豪華な胸当ての人は、知り合いなのだろうか。


 あらぶっている学ぶ赤を見て、ため息でも吐きそうな顔で豪華な胸当ての衛兵が喋る。

「この地にヒトシュを連れてきてどうするつもりなのです」

「ソラは恩人なのです!」

 学ぶ赤は叫んでいる。それを見て、その豪華な胸当ての衛兵は頭を抱えていた。気苦労が多そうだ。


「ヒトシュの幼体に見えるのです。――様が見つけた奴隷だとしても、この地に連れてくるのは問題があるのです」

 多分、学ぶ赤のことを呼んだのだと思うが、何かヒュッとか、シュッとか、空気が抜けるような音にしか聞こえなかった。

「先ほども言いましたが、ソラは恩人なのです。私にこのようなことをしてどうなると思っているのです!」

 学ぶ赤は叫んでいる。それを聞いて豪華な胸当ての衛兵はさらに頭を抱えていた。


『イフリーダ、どうも雲行きが怪しいと思わない?』

『うむ。小物蜥蜴は人望がないようなのじゃ』

 いつでも動けるように折れた剣を持つ手に力を入れる。


「――様、状況が変わったのです。大人しく着いてきて欲しいのです」

 豪華な胸当ての衛兵が抱えていた頭を上げ、先ほどと変わらないため息でも吐きそうな疲れた顔で喋っていた。周囲の衛兵が学ぶ赤へとにじり寄る。

「何をするのです!」

 学ぶ赤が叫ぶ。しかし、長い棒を持った衛兵に囲まれ身動きが取れないようだ。


「そちらのヒトシュは、どうするのです? 困ったのです」

 困った様子で衛兵の一人が豪華な胸当てに話しかけていた。


『どうなるんだろうね』

『うむ』

 場合によっては、この囲いを抜ける必要が出てきそうだ。後ろは水、逃げ道はない。この衛兵を倒し、暗闇の中を進む? 難易度が高そうだ。

 思わずため息が出る。


「そこのヒトシュは……」

 豪華な胸当ての衛兵が指示を出そうと手を上げる。


「これは何の騒ぎなのです」

 そこへ新しい蜥蜴人が現れた。


 暗闇でも分かるくらいにキラキラと輝く帽子をかぶった袖の長い衣を纏った蜥蜴人だ。

『偉そうなのが登場したね』

『うむ。さらに小物感が増しているのじゃ』

 周りの衛兵たちが、キラキラが現れたのに合わせて敬礼を行っている。豪華な胸当ての衛兵を含め、多くの衛兵が嫌そうな顔で敬礼をしているのがこちらからでも見えた。


「お前は! お前が何故、その格好をしているのです!」

 押さえ込まれていた学ぶ赤が叫んでいる。

「おやおや、そこにいるのは――様、いえ、今はただの、なのです」

 キラキラの蜥蜴人は口に手を当て笑っている。


『学ぶ赤さんは、本当にお偉いさんだったみたいだね』

『ふむ。小物の中で偉いということは、上位小物なのじゃ』

『でも、この地を離れている間に、地位を奪われたとか、そんな感じかな』

 これは予想していた中でも、さらに不味いことになったかもしれない。


「これはどういうことなのです!」

 学ぶ赤がキラキラを睨み付け叫ぶ。

「状況が変わっただけなのです」

 口元を押さえ、笑いをこらえるような様子でキラキラが答える。ずいぶんと余裕がある態度だ。


『イフリーダ、大分、暗闇にも慣れてきたよ』

『うむ。視覚を奪われるのは厄介なのじゃ』

 うっすらと見えるようになってきた暗闇で考える。


『最悪、船を奪って逃げる……のも有りだよね』

『ふむ。それでも良いと思うのじゃ』

 でも、と考える。


「そやつを連れて行くのです」

「待つのです! 院は何を考えているのです!」

 学ぶ赤が衛兵に連行されていく。


 助けるなら、ここだ。しかし、状況が読めない段階で動くのは不味いかもしれない。それに学ぶ赤はこちらに助けを求めていない。


 まだ、早い。


「そこの、それは何なのです」

 キラキラが初めて気付いたようにこちらを見る。

「――様が連れてきたヒトシュなのです」

 豪華な胸当てが、少しだけ嫌そうに答える。

「あれに様付けは不要なのです。それにしてもヒトシュとは困ったものなのです」

 キラキラの猫のような目が細くなる。


 さあて、どうしよう。


 ここまで来た縁だ。


 学ぶ赤が助けを求めれば、それに答えよう。


 それに、どちらにしても、この地に眠る強大なマナには用がある。このまま進むしかない。それは確定だ。


 しかし、ここで、何も分からない土地で、下手に動くのは……。


「困ったものです」

 キラキラは考え込んでいる。そして、顔を上げた。

「とりあえず牢に入れておくのです」

 キラキラの言葉に衛兵が敬礼を返す。


『牢屋に連れて行かれるみたいだね』

『うむ。そのようなのじゃ』


「こっちなのです」

 衛兵の一人が長い棒をこちらに向ける。

「ヒトシュには我らの崇高な言葉が理解出来ないのです。無理矢理連れて行くのです」

 衛兵が進めという感じに長い棒で押さえつけてくる。


 それを躱す。

「こいつ!」

 囲んでいた衛兵が動く。次々と迫る長い棒を躱し、肩を竦める。今の自分なら暗闇でもこれくらいは出来る。


 さあ、どうしよう。

『ねえ、イフリーダ。このまま大人しく牢屋に捕まって何とかなると思う?』

『ふむ。我を誰だと思っているのじゃ』

 銀のイフリーダが片目を閉じ、ニヤリと笑う。


『仕方ないか。ずっと窮屈な丸太の上に居たし、ちょっと寝不足で疲れているから牢屋で休息を取るよ』

 豪華な胸当ての衛兵の前へと進み、折れた剣と石の短剣、木の弓、背負っていた蛇皮の袋、矢筒ごと木の矢を渡す。

「これは……?」

 そして両手を挙げる。


 さあ、豪華な胸当てさん、連行してくださいな。


 扱いが酷くなるようなら、すぐに逃げ出すけどね。

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