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ソライフ  作者: 無為無策の雪ノ葉
禁忌の森
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008 石ころ

 シェルターの中にも落ち葉を広げ、絨毯のように敷き詰める。敷き詰めた葉っぱの柔らかさがほどよいクッションとなっている。


 日が落ちてきたので先ほど作成したシェルターの中に入り、両膝を抱え込んで座る。

『ソラよ、今日は火を作らないのじゃな』

「うん。今日はね。せっかく作ったこの家を活用したいんだ」

 シェルターの中は、最初、ひんやりと肌寒かったが、その場でじっと座り込んでいると暖かくなってきた。中の熱が外へと逃げにくいからか、徐々に温まってきているのかもしれない。


『日が落ちたようじゃ。ソラよ、ゆっくりと休むのじゃ。外の見張りは我が行うのじゃ』

「うん、いつもありがとう」

 両膝を抱え込んだ姿のまま頭を沈め、ゆっくりと目を閉じる。


 今日も疲れたけど、シェルターを作れたのは大きな一歩だったよね。


「ふぁぁぁ」

 大きな欠伸を一つ、そのまま眠りにつく。


 そして夜が明けた。


「あれ? 暗い?」

 体を起こそうとして頭をぶつける。

「あ、不味い」

 自分がやってしまったことに気付き、すぐにしゃがみ込む。そして頭をぶつけたシェルターの上部を確認する。

「良かった、壊れてない」

『ソラ、どうしたのじゃ』

 自分が騒いだからかシェルターの入り口で見張りをしてくれていたであろう猫姿のイフリーダが中に入ってきた。

「この家を作ったことを忘れていてね。少し寝ぼけて壊しかけたんだよ」

『ふむ。ソラは目覚めが悪いのじゃな!』

「そうかも。でも、今みたいな状況だと、すぐに覚醒出来ないのは不味いよね。意識して気をつけるよ」

『ふむ。ソラは勤勉なのじゃ』

「とりあえず顔を洗って、食事の準備を始めるね」

『ソラよ、体をほぐすのも忘れないようにするのじゃ』

「うん」

 シェルターの外に出る。


 シェルターを外側から眺める。外壁に使った土は乾燥し固くなっている。さらに何日か天日で乾かせばカチカチになって完成するだろう。


 湖の水で顔を洗い、森に入って落ち葉と枝を集める。そして、そのまま火を起こす。ここまではもうなれたものだ。

『次は魚を捕るのじゃな!』

 頷き、一部が黒く焦げた木の槍を取る。


 湖のふちに立ち、木の槍を構える。そして魚の影を目掛けて放つ。確かな手応え。木の槍の先にはしっかりと魚が刺さっていた。

『ほう。もう体の動きが、それらしくなっているのじゃ。これなら、昨日の魔獣に通用する可能性もあるのじゃ』

「ありがとう。あー、でも、可能性どまりなんだね」

 魚を串代わりの木の枝に刺し、次の魚を捕らえる為に木の槍を構える。


 そして湖面に木の槍を突き入れると、その木の槍が黒く焦げた部分から折れた。

『折れたのじゃ』

「折れたね」

『ふむ。あまり困っていないのじゃな』

「こうなることは予想できていたからね」

『ふむ。どうするのじゃ?』

「今日は、この一匹で我慢するよ。後で残しておいた木の棒を加工するかな」

『なるほど、あの1本はそのためだったのじゃな!』


 魚の下ごしらえを行い、火で炙る。頭と内臓は今日も森の中に捨てた。

『さて、ソラよ。今日はどうするのじゃ?』

「急いで作りたかった拠点は作ったから、森の探索を行う予定だよ」

『また木を探すのじゃな』

 そこで首を横に振る。

「ううん。今日は広く浅く、行動範囲を広げる予定」


 現在位置の確認をしよう。


 太陽の動きから、現在の位置は湖の南東側になる。さらに東側には骨や金属鎧があった森の入り口部分があり、大蛇に襲われたのもそちら側だ。

 探索するとなると湖にそって北上するか、回り込むように西側へと進むか、という感じになるだろう。向こう岸が見えないほどの大きな湖だ。どちらのルートで回り込むにしても向こう岸まで行こうと思ったら日が暮れそうだ。

 北上ルートは切り立った崖のような場所や、まるでこちらの行く手を阻むような入り組んで生えている木々の姿が見え、探索の難易度は高そうだ。

 西側ルートも途中から湖を覆い隠すように森が広がっており、こちらもなかなか難易度が高そうだ。それでも北上ルートよりは探索しやすそうだ。

 北と西、それに東の森――そう考えると、今、自分がいる平地は、わざわざ自分のために用意してくれていたかのように過ごしやすい場所だ。


 うん、他と比べれば――森の中よりは、って、感じだけどね。


「西側を少し探索するよ」

『うむ。了解なのじゃ』


 手には折れた剣だけを持ち西側の森に入る。


 西側の森に入って、しばらく歩くとすぐに雰囲気が変わった。大きく、両腕を広げても抱えきれない、空高くまで伸びた木々が目立つようになる。一昨日に探索した東側の森よりも大きなサイズの木ばかりだ。


 こちらの方が向こうよりもお爺ちゃんの森なのかもしれない。

「このサイズの木を切り倒すのは無理かな。ここの木、1本でも家が建ちそうだよ」

『ふむ。しかしなのじゃ、竜を倒すよりはたやすいと思うのじゃ』


 足元は微妙に湿っており空気もジメジメとしている。落ちた枯れ葉が腐り土と混じっているようだ。

「こちらの落ち葉や枯れ枝は薪などの燃料には使えそうにないね」

『ふむ。こう、ぐちゃぐちゃだとそうじゃな』


 不思議なことにこちら側の森では東の森で感じられたような動物の気配がない。ちょこちょこと不気味な昆虫の姿は見るんだけどね。

「こっちには生き物がいないのかな? 虫ばっかりだよ」

『おらぬはずがないのじゃ。もっと奥に凶悪なのがおるのじゃろうな』

「あの大蛇みたいな?」

『もっとなのじゃ』

「うーん。それは出会いたくないなぁ」


 しばらく森の中を歩いているとチロチロと何かが流れる音が聞こえてきた。

「もしかして」

 音の方に歩いて行くと、そこに小川があった。

「もしかして、あの湖の源流かな」

 小川の近くには大小無数の苔むした石が転がっており、油断すると足を取られて転けてしまいそうだ。

「イフリーダ、たくさんの石だよ!」

『うむ、石なのじゃ』

「うん。やったよ! 石が、石がこんなにも!」

『うむ? 石なんて珍しくないと思うのじゃ』

「そうだね。でも、湖の近くでは、こんなしっかりとした石はなかったじゃないか。大きな石もなかったよね。宝の山だよ!」

『うーむ。でも石なのじゃ。石が宝……うーむ、なのじゃ』

「あー、出来ればたくさん持って帰りたい。でも持って帰るのは難しいか。こんなことなら何か籠で作っておくんだった!」

 と、そこで、銀の猫姿の彼女を――イフリーダの方を見る。

「イフリーダの力で何とか出来ないかな?」

『ふむ。ソラが頼ってくれるのは嬉しいのう、しかしなのじゃ。まだマナが足りないのじゃ』

「あー、うん。ちょっと目の前のお宝に目がくらんで、安易に頼るようなことを言ってごめん。何往復もして地道に持って帰るよ」

 と、そこで右手に持った折れた剣を思い出す。

「持ってこなければ良かった」

 片手が塞がっているから持ち運べる量が限られてしまう。何かあった時の用心にと持ってきたのが失敗だった。何か紐でも作って腰にでも結びつけておくべきだったのだろうか? いや、でも、そんな結びつけたような状態ではいざという時に使うことが出来ない。それに刃が剥き出しなのも危ない。

「鞘があればまた別なのに」

『どうしたのじゃ?』

「いや、石を持って帰るよ」

 履いていた布靴のまま小川の中へと入る。


 小川の底に広がっている手頃な石を拾い、拾った石と石を叩く。

「うん、いい感じ」


 そんな感じで出来るだけ石を選別し、片手で抱えられるだけ拾い拠点へと持ち帰る。

「今日は、後、何往復出来るかな」

朝のやりとりが繰り返されるのだった。

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